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“生産者のストーリーを届ける滞在体験”を仕掛けるホテル「カラリト五島列島」が示す、地域副業のヒント

“生産者のストーリーを届ける滞在体験”を仕掛けるホテル「カラリト五島列島」が示す、地域副業のヒント

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東京の羽田空港から福岡空港、もしくは長崎空港で飛行機を乗り継ぎ、およそ3時間。長崎県五島市は、近年、若年層を中心とした移住者が増加し、地域活性化の成功例として注目を集めています。離島という地理的条件にも関わらず、2019年、2020年、2023年には転出より転入が上回る「社会増」を達成しており、移住者が6年連続で200人を超え、そのうち約7割が30代以下の若い世代が占めています(※)。これは、副業や複業を通じて地域と関わりたい都市部の人材にとって、大きな可能性を示しています。 そんな五島列島の福江島で2022年に誕生した「カラリト五島列島」は、全室オーシャンビューで、透き通る青い海と白い砂浜が目の前に広がるホテルです。カラリト五島列島は、単なるリゾートホテルとは一線を画し、宿泊客が地域を体感できる仕掛けが豊富にそろっています。 今回は、「カラリト五島列島」の運営を通し、五島の地域活性化を担うプレイヤーの一人である新規事業創造部マネージャーの貞包 喬さんと、レストラン担当の森 遥さんに、カラリト五島列島のユニークな取り組みや目指す姿、五島の魅力などについて話を聞きました。 (※)第1章 人口ビジョン(五島市 まるごとう)https://www.city.goto.nagasaki.jp/

貞包 喬

カラリト五島列島 貞包 喬 氏

カラリト五島列島、新規事業創造部マネージャー。佐賀県出身。関東の大学を卒業後、旅行会社でツアー企画やタヒチ支店でのガイド、外資系ホテルでセールス担当を経て、カラリト五島列島に立ち上げから関わる。

森 遥

カラリト五島列島 森 遥 氏

カラリト五島列島、レストラン担当で朝食のメニューを開発。愛知県名古屋市出身。調理師学校を卒業後、関東のイタリアンレストランや社員食堂などで約8年働いた後、2023年に夫婦で五島へ移住。

ビーチを眼前に望む全室オーシャンビューのリゾートホテル「カラリト五島列島」。(写真提供:カラリト五島列島)

宿泊は手段。五島の魅力を体感できる場をつくる

カラリト五島列島の誕生に至る経緯について教えてください。

貞包さん:カラリトの誕生を紐解くと、当社代表の平﨑が五島に来た際、ふるさとのような温かさを感じたことが原点にあります。熊本出身の平﨑は、東京の不動産ディベロッパーではたらいていたとき、元保養所だったこの物件を見るため島を訪問しました。そこで美しい自然やゆったりとした空気感、そして何より島の人の温かさに触れ、まるでふるさとに帰って来たような感覚に感動したそうです。

その後、自ら会社を設立して2022年にカラリト五島列島を開業しました。今後は、カラリト五島列島で展開している取り組みを、九州全域に広げていく構想を描いています。

新規事業創造部マネージャーの貞包さん。

カラリト五島列島の魅力は、宿泊だけではなく、さまざまな体験にあるそうですね。

貞包さん:はい、私たちにとってホテルは手段であり、訪れる人がふるさとに帰ってきたようにホッとしたり、晴れやかな気持ちになったりしてもらえればと思っています。満員電車で通勤し、オフィスでも緊張した日々を送っている都市部の方が多いと思います。ここでは波音や鳥のさえずりに耳を傾けながら、心と身体が解けていくような時間を過ごして欲しいとの想いで、部屋にテレビや時計を置いていません。

また、五島の魅力を体感していただくことも、大きなテーマです。SUPやカヤック、サイクリング、釣り、焚き火、サウナなどの各種アクティビティを用意しており、五島の風土に触れながら過ごす時間を設計しています。提供する料理では、食材やお酒の背景にある、生産者のストーリーや思いまでお伝えしたいと考えています。

貞包さんは「宿泊は手段であり、滞在する中で五島列島ならではの魅力に触れてもらうことが重要」と話します。(写真提供:カラリト五島列島)

食を通して伝える、五島の豊かさと人の温かみ

地域の魅力を“食”という形で伝えていると伺いました。レストランのこだわりを教えてください。

森さん:五島の食文化と風土を五感で味わっていただけるよう、地元の新鮮な自然の恵みをふんだんに使っています。五島には新鮮な魚介類をはじめ、五島牛や豚、鶏、島野菜、お米に至るまで、地元産の食材が豊富にそろっています。レストランでのディナーは、ローカル・ガストロノミー(地域の風土や歴史、文化を料理で表現すること)を意識したモダンメキシカンで、新しい感覚や驚きを感じていただきたいと思っています。

朝食は和定食のスタイルで、どこか懐かしくて温かみのある料理を目指しています。私自身が五島に移住してきて感じた、人の温かさや田舎のおばあちゃんの家にいるような感覚を、朝食で表現し伝えられたらと考えています。

レストラン担当の森さん。

レストランで料理をされていて、五島ならではの魅力を感じることはありますか?

森さん:最大の魅力は、生産者との距離が圧倒的に近い点です。関東には全国や海外から食材が集まっていますが、生産者の顔はなかなか見えません。でも、五島では、日常に通る道の脇に牛舎や田んぼ、畑があり、農家さんと直接話しながら仕入れができるのです。産直市場で売られている野菜一つをとっても、驚くほど元気でみずみずしく、形が不揃いであることすら自然の営みを感じます。

魚は100%地元産で、星付きレストランに卸している目利きの鮮魚店さんから、魚を仕入れることで質の高い料理をご提供することができています。

質の高い五島の食材を使った料理を楽しめるレストラン。(写真提供:カラリト五島列島)

メニュー表に生産者のお名前が載っているのが印象的でした。どのような意図があるのでしょうか?

森さん:生産者さんと直接やり取りしていると、「人柄や食材に込められた想いを伝えたい」という気持ちが湧いてくるんです。食材のストーリーを伝えることで、宿泊者が五島の暮らしや文化に想いを馳せ、ふるさとのように感じてもらうきっかけになればと思っています。そこで、生産者さんを訪ねて話を伺い、食材の特徴や思いをブログで発信し、SNSでも積極的に紹介しています。

レストランで使う野菜たち。生産者との距離の近いからこそ、食を通じて五島の魅力を届けられると言います。

地域の人たちと一緒に、地域還元モデルを作りたい

地域の方たちには、カラリト五島列島の取り組みはどのように受け止められているのでしょうか?

貞包さん:地元の方がカラリト五島列島に来られると、ここ大浜の海がこんなにきれいだったのかとよく驚かれます。週3日ほど、ウォーキングの途中にビールを飲みに立ち寄られるおじいさんもいます。そうやって少しずつ地域に溶け込めていることがうれしいです。

地元の方にとっては「当たり前」になっている五島列島の魅力を改めて伝えることで、地域の活性化につなげています。(写真提供:カラリト五島列島)

地域とのつながりを重視されていると感じましたが、どのような取り組みをされていますか?

貞包さん:私たちは地域内外の人をつなぎ、経済や価値が循環する「地域還元のモデル」を目指しています。五島を盛り上げる活動としてたとえば、島の蒸留所とコラボしたツアーを開催しました。参加者はホテルから車に乗り、地元の人が語ってくれる地域の歴史や文化の話を聞きながら蒸留所へと向かいます。蒸留所の見学で生産者の想いに触れ、試飲を楽しみ、ホテルに戻ったらスペシャルコースディナーを味わっていただきます。

このような取り組みによって単なる観光ではなく、地域のストーリーに深く関わっていただく機会になるのです。

森さん:レストランで提供している味噌汁に使用しているのは、島の味噌屋さんのものです。もともとはご高齢のおばあさんが営んでおり、一度は製造をやめる予定だったところを、お孫さんが想いを受け継ぎ、事業を継承されました。当初はごく限られた販路のみでしたが、カラリト五島列島で使用するようになってから生産量を増やし、地元の産直市場でも取り扱いが始まりました。私たちが少しでも地域に貢献できていると実感できて、大きなやりがいを感じています。

カラリトでの滞在が五島の魅力を知るきっかけになっているのですね。

貞包さん:そうですね。朝食でお出ししている地元産のひじきや天然塩を気に入られ、館内ショップでお土産として購入されるお客様もいらっしゃいます。私たち自身が好きなものを並べているので、自然とご紹介にも熱が入ります。

森さん:リピーターとして何度も足を運んでくださるおひとり様や、スタッフの名前を覚えて会いに来てくれる方、料理を気に入って足を運んでくださる方もいます。おなじみの方が連泊されるときは、「あの方はこんな料理がお好きだろう」とその方に合わせてメニューを考えることもあります。お客様とコミュニケーションを取りながらお料理を提供できるのが、当レストランの魅力でもあります。

カラリト五島列島を起点とした地域循環を起こそうと、さまざまな取り組みを行っている。(画像提供:カラリト五島列島)

五島に息づく「健やかさ」が移住者を惹きつける

五島市にはこの5年で1200人以上が移住してきたと伺いました。その背景には、どのような魅力があると思われますか?

貞包さん:移住を検討していた当時、家族で五島を訪れた際の出来事が今も心に残っています。見知らぬ高校生たちがすれ違いざまに、あちらから目を合わせて「こんにちは」と挨拶してくれたんです。いままでそんな経験がなかったので、すごいなと感動しました。2日の滞在でもう一度同じことがあり、五島がすごく好きになった瞬間でした。

五島の魅力を言語化することは難しいのですが、代表の平﨑と話していて気づいたのは、五島には「心・体・知・意」の4つの健やかさがあるということです。空気や自然の美しさ、地元の人とのつながりによって、「心」と「体」が健やかになる。加えて、異業種の方々との出会いで「知」的刺激を受け、何かやりたいという「意」志があれば応援してもらえて、失敗も許容される雰囲気がある。まさに今でいう「ウェルビーイング」を自然体で実現している地域です。

森さん:その通りですね。都会では「やりたい」と言い出すだけでもハードルが高いと感じていました。しかし、五島では周囲の人たちが温かく背中を押してくれるような土壌があるんです。

オーシャンビューの客室の窓の外には、ハッと息をのむほどの絶景が広がっています。

カラリトが描く未来像を聞かせてください。

貞包さん:先ほどお話したツアーのような企画は、私たちだけでやるのには限界があります。ですから、私たちがハブとなり、地域の方や移住者、行政と共に手を取り合って、持続可能な循環のプラットフォームを構築したいと思っています。五島には、私たちと同じように、熱い想いを持つ人たちがたくさんいます。ろうそくのような小さな一つひとつの想いをまとめていくことが、私たちの役割であり、地域の持続可能性を高める道だと信じています。

森さん:食に関しては、将来的に自分たちの畑を持ち、食材をお客様と一緒に育て、収穫し、味わうような体験型の仕組みをつくれたらと思っています。生産の現場と食の体験を同時に提供できる環境があれば、さらなる価値を生み出せると思います。

最後に、都市部のビジネスパーソンが副業で五島に関わるとしたら、どんな可能性が考えられるか教えてください。

貞包さん:五島発の商品のブランド構築やマーケティング、地域資源のPR、地域企業のコンサルティングといった分野では、都市部のプロフェッショナルによる伴走支援が、地域に新たな視点と価値をもたらしてくれると感じています。

森さん:レストランでSNSの運用をしていますが、ホテルや地域の魅力を届ける広報戦略を練るのが難しいと感じています。ホテルをはじめ、五島の仕事は季節や観光需要に大きく左右され、繁忙期と閑散期の波が顕著です。そのため、年間を通して安定した集客を実現させるために、柔軟に伴走してくださる方がいると心強いです。オンラインで支援できる分野も多いので、五島とつながる最初の一歩として、副業は非常に相性がいいと感じています。

五島の魅力、価値をさらに引き出す副業人材の挑戦を待っています。(写真提供:カラリト五島列島)

※ 所属・肩書および仕事内容は、取材当時のものです。

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