
東北地域発ディープテックスタートアップのCXO候補募集プロジェクト
2025年8月6日、東北から急成長を目指すスタートアップと、首都圏を中心とした副業CXOのマッチングイベント「TOHOKU STARTUP CXO CONNECT」が開催されました。 仙台市主催、HiProの運営による同イベントには、東北各地から8社のスタートアップが参加。自社技術の独自性や事業の将来性について、熱意を込めてプレゼンテーションしました。会場となった東京・麻布台ヒルズには約70名のCXO候補者が来場し、各社の発表に真剣な眼差しを向けます。 また、東北を代表するスタートアップ同士による特別対談も行われ、約4時間に及んだプログラムは終始熱気に包まれました。東北スタートアップの新たなフェーズへの期待を強く感じさせる1DAY イベントとなりました。
0登壇者
稲舟 基久さん(仙台市経済局 イノベーション推進部スタートアップ支援課 主査)
MC
土井 裕希(パーソルキャリア株式会社 タレントシェアリング事業部 HiPro新規サービス開発部 ゼネラルマネジャー)
オープニングは、仙台市経済局イノベーション推進部スタートアップ支援課の稲舟 基久さんが登壇し、東北発スタートアップの現在地を語っていただきました。聞き手はパーソルキャリア土井 裕希です。
東北で起業の動きが本格的に盛り上がったきっかけは、2011年の東日本大震災だったと稲舟さんは話します。
「震災後、東北各地でさまざまな地域課題が浮き彫りになり、それを解決したいという強い想いを持つ人々が集まりました。行政としても、その動きを後押ししていこうというのがスタートでした。」
さらに2023年には、政府が創設した10兆円規模の大学ファンドの支援対象に東北大学が選ばれ、スタートアップ支援への注目が一層高まります。東北大学を中心に豊富な研究シーズは揃っているものの、ビジネス面でサポートできる人材不足が大きな課題となっています。今回のマッチングイベントには、東北の可能性を広げ、課題解決へとつなげる強い想いが込められていると、稲舟さんは希望を込めて語りました。
PITCH 01では、東北発の未来を切り拓く4社のスタートアップが登壇しました。それぞれが描くビジョンや解決したい社会課題、求める仲間像について、熱意を込めてプレゼンしました。
2025年3月に設立した医療・ヘルスケア系スタートアップです。独自の生体イオントロニクス技術を応用することで、美容や更年期の女性のQOLを向上させるウェルネス課題から、将来的には医療課題まで解決を目指しています。事業開発、商品開発を進行中のため、専門人材のチームを率いて事業成長に向けたアクションを進められるCOOを募集しています。
AIによる放射線治療計画支援サービスを展開する、東北大学発のスタートアップです。現在、がんの標準的な治療法となっているIMRTですが、治療計画の作成に高度な技術と労力が必要という課題があります。これをAIによって支援することで、大幅な精度の向上、労務時間削減を目指します。国内外を視野に入れた戦略と実行をリードできるCOOを募集しています。
AI+クラウド型胎児心電計を開発・提供する東北大学発スタートアップです。妊婦から測定する信号から、数学的アルゴリズムを使って胎児の心電図を正確に分離し、従来のドップラー式心拍計に比べて高精度な測定を可能にします。さらにクラウド型とすることで在宅使用が可能に。超早産など出産障害のない社会を目指します。マーケティングと営業における戦略と推進をリードできるCMOを募集しています。
未利用資源の徹底活用で、循環型の未来社会の実現を目指す東北大学発スタートアップです。独自のイオン交換樹脂法で、米油を製造する際に発生する未利用バイオマスから、スーパービタミンEなどの機能性素材を高純度で回収。燃料、食品、衣料品、化粧品など他方面に展開が可能です。2018年に起業し、現在は量産化の開発を目指すアーリーステージ。経営者とともに意思決定しながら業務遂行を担えるCOOを募集しています。
登壇者
永田 翔さん(株式会社ヘラルボニー 人事責任者)
権藤 裕樹さん(株式会社雨風太陽 代表取締役副社長 兼 事業統括部門長)
MC
安藤 輝人(パーソルキャリア株式会社 タレントシェアリング事業部 プロダクトマネジメント部 マネジャー)
特別対談には、東北のスタートアップシーンを牽引する株式会社ヘラルボニーの永田 翔さんと株式会社雨風太陽の権藤 裕樹さんにご登壇いただきました。パーソルキャリアの安藤がお話を伺います。
ヘラルボニーは、「異彩を、放て。」をミッションに、障害のイメージ変容と福祉を起点に新たな文化の創出を目指すクリエイティブカンパニーです。世界的なクリエイティブの祭典・カンヌライオンズにて「Glass: The Lion for Change」ゴールドを受賞するなど、その活動は世界に認められ、岩手本社の他、東京とパリに拠点を展開しています。
雨風太陽も岩手県に本店を置き、「都市と地方をかきまぜる。」をミッションとして、全国の農家や漁師から直接食材を購入できるプラットフォームの運営や、小学生のお子さんと親御さんが生産者のもとで自然に触れて命の大切さを学ぶ地方留学プログラムなど、複数の事業を展開して地方創生に貢献しています。
ヘラルボニー、雨風太陽ともに、活動の規模が拡大しても、岩手県に本社を構え続けています。東北に拠点を置くことにこだわる理由について、永田さんは「常にアイデンティティは東北・岩手にあり“地域から世界を変えていく”という覚悟の象徴である」と語り、権藤さんは「東日本大震災をきっかけに実感した“地方ならではの社会課題に向き合いたい”という強い想いから岩手で活動し続けている」と話しました。
次に、社会課題の解決に取り組む両社がなぜ株式会社という形を選び、スタートアップとして成長を目指したのかを伺いました。永田さんは「社会を根本から変えるには、資本主義に接続し、社会性と経済性を両立する必要がある」と話します。権藤さんも「最初はNPOとして活動を始めました。そこから活動が広げましたが、本当にこのスピードで社会課題を解決できるのか?と問いが生まれました。やはり事業を広げるには開発、広告宣伝費などの大規模な資金が必要であり、多様な手段を用いて資金調達ができる株式会社へと変わっていきました。」と語ります。
社会課題を解決するためには経済性が重要ですが、どちらかに寄るのではなく、バランスを取ることが必要です。この課題に、両者がともに向き合い試行錯誤されているようでした。
ソーシャルスタートアップならではの課題の一つが人材確保です。「社会的によいことをしたい、と理念に賛同して入社しても、営利事業としての厳しさに直面し、離れていくケースも少なくない」と権藤さんは話します。そんな中、中途採用はもちろん、副業を含む外部人材活用も当たり前として組織を運営しているそうで「外部の視点や経験が、新たな成長の起点になっていると感じる」と外部人材活用の重要性を語りました。
人事を担当する永田さんは、地域発のスタートアップに参画するメリットについて、外部人材目線で以下の3つを挙げています。
1.地域では、構造全体を動かすパートナーとして、中長期的な会社の意思決定に関与できる機会がある
2.地方特有の課題や価値に触れ、“誰のために事業をやるのか”という根源的な問いに再び向き合える
3.社会や業界全体の構造変革に携わることで、単なる“経験の幅を広げる”では終わらない、キャリアの解像度をあげる挑戦ができる
外部人材が経営に携わり、社会変革をリードする存在になれる点が、地域スタートアップに参画するメリットだと話しました。
東北での活動には、企業単体ではなく地域全体が一体となって事業やまちづくりを推進できる魅力があるとお二人は話しています。
「社会課題の解決と経済性の両立には困難も伴うものの、その先には個人としての成長や大きなやりがいが待っているはず」と権藤さんは話し、永田さんも「変わり続ける社会で正解のない問いに向き合い、しなやかに挑戦を楽しめる人材にぜひ東北発のスタートアップに参画してほしい」と期待を寄せました。
SESSION01特別対談がステージで行われている間、別室ではPITCH 01でスピーカーを務めた4社とCXO候補者によるグループディスカッションが行われました。テーマは「『すごい技術』を『売れる技術』に変えるには?」と「ディープテックスタートアップの『ブランド』とは?」の2つです。
グループディスカッションは、この後のSESSION02の間にも「グローバル展開、いつから本気を出すべき?」「少数精鋭チームで、どうやってスタートアップの難局を乗り切るか?」のテーマで行われました。
PITCH 02では、地域の強みを活かした多彩な事業モデルを展開するスタートアップが次々と登場しました。社会課題の解決や新しい産業づくりに挑む各社が、自社の戦略やビジョン、求める人材像についてプレゼンを行いました。
2016年に福島県から誕生したスタートアップであり、産業用ドローンでは一定の実績を有する、国内ではパイオニア的存在です。現在、「物流」「点検・警備」「災害対応」の3分野を中心に事業を展開。すでに地域、行政、産業界との提携による社会実装に向けた実証も多数進めています。今後、国際情勢が不安定課する中、防衛分野でも注目されている。IPOに向けて経営基盤強化を牽引するCOO/CFOを募集しています。
サステナブルで高品質なデカフェコーヒーをつくる東北大学発のスタートアップです。超臨界二酸化炭素を使ったまったく新しいカフェイン除去技術により、除去率を自由に設定できるだけでなく、高品質で高価格のスペシャリティコーヒーの提供を可能にしました。グローバル展開に挑戦すべく、量産体制を目指しています。R&DをリードするCTOを募集しています。
国立研究開発法人 量子科学技術研究機構(QST)からスピンアウトして誕生した、青森県発のスタートアップです。世界的に注目されている核融合発電に必要なベリリウムを、低エネルギーかつ低コストで量産する独自技術を持つ。海外VCを含めた大型資金調達を牽引するCFOを募集しています。
2021年に設立された東北大学発のアグリテックスタートアップです。宇宙ロボット工学を応用し、AIを搭載して自律走行できる農業用ロボットを開発。果樹園の収穫作業をサポートするなど、農業の課題である人材不足対策、肉体的負担の軽減などを実現します。海外市場も視野に入れた量産体制を目指して、資金調達リードするCFOを募集しています。
登壇者
小笠原 夕帆さん(FAIR Aid株式会社 共同創業者COO)
鳥谷 眞澄さん(大学発スタートアップCOO就任予定 現NEDO MPM副業パートナー)
MC
岡田 慎太郎(パーソルキャリア株式会社 タレントシェアリング事業部 パブリック企画グループ マネジャー)
この日最後のステージは、実際に副業CXOとしてディープテックスタートアップに参画するという決断をされたお二人のクロストークです。
小笠原さんは、漢方薬メーカーの技術部門を経て、生産戦略、人材開発に従事し、2025年4月に免疫バランスを可視化して健康管理の新しい仕組みを提案するスタートアップFAIR Aidを共同創業。COOに就任しました。
鳥谷さんは、大手食品メーカーで製造、エンジニアリング、生産技術、企画などを歴任した後、2025年7月に同社を退職しました。イベント当時は、革新的な殺菌水技術を用いたスタートアップの設立を目指して活動中でした。パーソルキャリアの岡田が、CXOとしてディープテックスタートアップ企業に関わるキャリアについてお話を伺います。
お二人とも、経産省傘下のNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が推進するMPM(大学発スタートアップにおける経営人材確保支援事業)プログラムで技術シーズと出会い、スタートアップ参画を決めています。
その背景について、小笠原さんは、これまで十数年間の社会人経験を経て、「この先の人生は、自分が“価値がある”と信じることに時間を使いたい」と語ります。現在取り組んでいる研究シーズの事業化は、誰かの健康に貢献できるものであり、やりがいを強く感じているそうです。
一方、鳥谷さんは「人生は一度きり。安定よりもチャレンジを選びたい」という思いから、心の底から向き合いたい社会課題の解決を目指して、スタートアップ設立への挑戦を決めました。
ご家族を持つお二人は、それぞれの立場からリスクとの向き合い方を考えたと話します。
鳥谷さんは、「経済的なリスクやキャリア上のリスクは感じていますが、挑戦した経験そのものが財産になると思っています。もしうまくいかなくても、挑戦はキャリアのプラスになるはずです。」と語ります。
未就学児を育てながら共働き家庭である小笠原さんは、「正社員+副業」というはたらき方よりも、フルコミットした方が結果的に子どもとの時間を確保できると判断しました。パートナーからも「家族を理由に挑戦を諦めないで」と背中を押され、決断を下したといいます。
鳥谷さんは、大学との協働における難しさとして「価値観や行動様式の違い」を挙げます。「自分がこれまで培ってきた行動原理や価値観、成果物へのスピード感や品質基準を、大学側とすり合わせるのは簡単ではありませんでした」と振り返ります。
「前向きに意思決定を進め、足並みを揃えることが求められる一方、技術の専門性が深いため、事業化には高度な理解が不可欠です。資金調達などCFOのスキルを含め、リスキリングしながら幅広い役割を担う覚悟が必要でした。」
小笠原さんも、大学の研究室と事業側では優先順位が異なることに難しさを感じたそうです。「研究は“発見”を重視しますが、事業では“再現性”が重要になります。両者のバランスを取るのは簡単ではありませんでした」と話します。しかし同時に、さまざまな分野の専門家と出会い、壁打ちを重ねる中でスキルが磨かれていく実感も得ているそうです。
「たくさんの人と出会いながら、自分たちで意思決定できる。それがこの環境のやりがいです。」と語ります。
小笠原さんは、自身の原動力となった言葉を紹介します。
「MBA取得時に講師からいただいた『コンフォートゾーンを飛び出せ!』という言葉が心に響きました。挑戦には困難が伴いますが、乗り越えた先には成長があるはずです。異なる領域に飛び込むことで得られる学びや経験は、必ずキャリアの糧になると思います。」また、副業から段階的に関わる方法についてもアドバイスします。
「副業から関与を始めれば、いきなりフルコミットするよりもリスクを抑えた挑戦が可能です。」
鳥谷さんも副業での参画を推奨しつつ、全力で取り組む姿勢の重要性を強調します。「スタートアップ側も、後々経営に参画してくれる人材かどうかを見ています。副業での参画は簡単ではありませんが、だからこそ全力で取り組んでほしいです」とメッセージを送りました。
約4時間に及んだすべてのプログラムは無事終了し、最後は、記念撮影、交流会&ネットワーキング会を行いました。なごやかな中にもなにか新しいことが始まりそうな予感に、いつまでも熱気の冷めない麻布台ヒルズの交流ラウンジでした。
※ 所属・肩書および仕事内容は、取材当時のものです。