
【スポーツ団体×理事 案件特集】DIVERS SPORTS CAREER - 多様な人材がスポーツの未来を切り開く

近年、日本のスポーツの躍進は目覚ましく、グローバルな舞台でも注目される機会が増えています。人々の関心が高まる一方で、これまで以上に透明性、健全性が求められるという課題も表出しています。 スポーツ庁では、令和2年度より推進する「スポーツ・インテグリティ推進事業」の一環として、各競技団体に対し、外部理事をはじめとする多様な人材とのマッチング支援を実施しています。こうした施策の背景や展望について、スポーツ庁で事業を推進する内田 裕也さん、田川 優也さんにお話を伺いました。

スポーツ庁 政策課専門官(法務支援スタッフ)内田 裕也 氏
2025年4月より都内法律事務所から出向。競技団体組織基盤強化係にて、スポーツ・インテグリティ推進、組織基盤強化支援、スポーツ団体ガバナンスコード(中央競技団体向け)に関する業務などを担当。

スポーツ庁 競技スポーツ課 競技団体組織基盤強化係田川 優也 氏
日本スポーツ振興センター(JSC)所属。2022年4月よりスポーツ庁に研修派遣。2025年からは競技スポーツ課にて、内田氏とともにスポーツ・インテグリティの推進や競技団体の組織基盤強化に関する業務などを担当。
内田さん:スポーツ庁では、スポーツ界におけるインテグリティ(誠実性・健全性・高潔性)の確保を目的に、スポーツ団体ガバナンスコードの実効化に向けた支援など、さまざまな取り組みを行っています。
スポーツの世界は、これまで人と人との結びつきが強いという特性を持つ一方で、組織運営や意思決定のあり方について、外部の視点が十分に取り入れられにくい側面も指摘されてきました。平成30年頃には、スポーツの価値を毀損するような不祥事が相次ぎ、こうした課題を見直し、組織体質の改善に取り組む機運が高まりました。
その流れを受けて、令和2年度から継続的に実施しているのが「スポーツ・インテグリティ推進事業」です。
内田さん:多様性に乏しい組織では、意見が内部で偏りやすく、結果として問題点が見過ごされやすくなります。特定の価値観や人間関係が固定化すると、組織としてのチェック機能や改善が十分に機能しにくくなるのです。
また、競技団体は競技力の強化だけでなく、選手の育成環境づくり、競技の普及、地域や社会との連携など、幅広い役割を担っています。そうした多様な役割に対応するためには、幅広い分野の知見や視点を組織運営に取り入れることが重要です。多様な視点が加わることで、課題への気づきが生まれ、より持続的で健全な事業推進につながると考えています。
内田さん:必要とされるスキルは競技団体によって異なりますが、特に大規模とは言えない団体では、専門的な機能を十分に確保することが困難なケースが多く見られます。中央競技団体は、各競技を国内で統括し、競技力向上や普及、国際大会の対応などを担う中核的な組織ですが、そうした重要な役割を担っているにもかかわらず、事務局の職員が10人に満たない組織も少なくありません。
限られた人数で競技全体を統括する中では、競技運営に加え、経理、法務、広報、営業といった専門的な領域まで十分に対応することが難しくなる場合があります。こうした機能不足を補う意味でも、多様なバックグラウンドやスキルを持つ人材が組織運営に関与することは、業務の安定化や意思決定の質の向上に大きく寄与すると考えています。

内田さん:これまで団体内部で経験を積んできた方々だけで組織を運営していると、どうしても物事の見方や発想が似通ってしまいがちです。もちろん、長年の経験や現場理解は組織を動かすうえで非常に重要です。
一方で、外部の視点が加わることで、「こうした考え方もあるのではないか」「新しい事業に挑戦できるのではないか」といった新たな気づきや刺激が生まれます。そうした多様な視点を取り入れることが、よりよい組織運営につながるのではないかと考えています。
田川さん:競技団体にとっては、いわゆる「風通しの良い組織」であることが非常に重要だと考えています。中央競技団体は、所属するアスリートや日本代表チームの活躍を通じて、国民に勇気や希望を届ける存在であり、高い公共性や公益性を持っています。
その一方で、不祥事などネガティブな出来事が起きた場合には、社会に与えるインパクトも大きくなります。だからこそ、日頃から透明性の高い組織運営を行うために、外部の視点を積極的に取り入れていくことが重要だと考えています。
田川さん:競技団体が取り組む事業は、競技力の向上、競技の普及、競技者のための環境整備などが中心であり、基本的には活動内容は大きく変わりません。しかし、外部人材が組織に加わることで、これまでとは異なる視点や専門性を取り入れた新たなアプローチで取り組みを進められる可能性が広がります。
たとえば、ある競技団体では広報力の弱さが課題となっていました。そこで広報分野に強みを持つ人材を登用した結果、SNSやYouTubeなどを通して競技の魅力を積極的に発信できるようになりました。その取り組みは認知度向上に寄与しただけでなく、広告収入の拡大にもつながっています。
このように事業収益が拡大すれば、事業費や強化費、人件費などへの再投資が可能となります。そして、その投資が更なる発展を生み出し、最終的には競技者への還元へとつながる好循環が生まれると考えています。

内田さん:外部理事として参画いただく以上、単なる助言役ではなく、組織運営における意思決定者の一人として関わっていただくことになります。その中で最も期待しているのは、これまで組織内にはなかった視点や考え方を持ち込み、運営のあり方に新たな選択肢をもたらしていただくことです。多様な視点が加わることで、組織としてより健全な意思決定ができるようになると考えています。
田川さん:〝新しい風〟というものを組織の中に吹き込んでいただきたいと考えています。専門的なスキルやこれまでの経験を生かしながら、競技団体という枠の中だけでは挑戦しにくかった分野にも、積極的に取り組んでいただけることを期待しています。
田川さん:多くの競技団体関係者から話を聞く中で、マーケティングや広報といった「収益を生み出す力」が十分に備わっていない、という課題が共通して聞こえてきます。現在、多くの団体が財政基盤の弱さを大きな課題として抱えています。
今回募集を行う一般社団法人日本クリケット協会を例に挙げると、クリケットという競技は、世界的には非常に人気の高いスポーツですが、日本国内ではまだ認知度が高いとは言えません。そこで外部人材が持つマーケティングや情報発信の専門性を活かし、競技の魅力が広く伝われば、競技者の増加による登録料収入やスポンサー収入の拡大など、事業収益の向上につながる可能性があります。
田川さん:もちろん専門的なスキルや経験は重要ですが、それ以上に大切なのは意識の持ち方だと思います。自分が関わることで、組織や競技を少しでも良い方向に変えていきたいという意欲を持ち、主体的に関与していただける方を期待しています。

田川さん:現在、スポーツ界は成長産業として、さらなる発展が期待されている分野です。その中で多くの競技団体は、ガバナンスコードを踏まえた組織改革に本格的に取り組み始めており、まさに今、変革のフェーズにあります。
こうした変革の最前線に、意思決定に関わる立場で参画できることは、ご自身にとっても大きな成長の機会となり、今後のキャリア形成にもつながっていくはずです。
内田さん:スポーツ業界は、やりがいという点で見ても非常に魅力的な世界だと思っています。スポーツには、人を感動させ、勇気や希望を与える力があります。
競技団体は、その価値を社会に届ける中核的な存在です。その運営に関わることは、日本国内にとどまらず、世界中の人々の心を動かす取り組みの一端を担うことでもあります。責任は大きいですが、それ以上に得られるやりがいも大きい仕事だと思います。
内田さん:まず大切なのは、これまで競技団体が積み重ねてきた取り組みや価値観を理解し、尊重することだと思います。長年に渡って続いてきた活動の中には、競技を支えてきた理由や背景があります。それを十分に理解する姿勢が、信頼関係を築く第一歩になるように思います。
そのうえで、従来のやり方を前提としながらも、「こうすればさらに良くなるのではないか」という視点で、プラスアルファの提案を重ねていくことが重要です。変革が必要な部分に少しずつ新しい考え方や仕組みを取り入れていくことで、組織は無理なく変化していけると考えています。
最近では、競技団体側も社会的要請やガバナンスの重要性を強く認識し、変わろうとする意識が高まっているように見受けられます。そうした状況だからこそ、柔軟な姿勢で対話を重ねながら変革に関われる外部人材の存在が、これまで以上に大きな意味を持つのではないでしょうか。
内田さん:これまでの取り組みを見ると、外部理事を積極的に迎え入れ、成果を上げている競技団体もあれば、導入の段階で課題を抱えている競技団体もあります。
そこでスポーツ庁としては、外部人材の活用が組織運営の改善につながった事例や、工夫しながらうまく進めている事例を整理し、広く発信していくことを重視しています。具体的なロールモデルを示すことで、他の競技団体にとっても取り組みの参考になると考えています。
田川さん:そのように競技団体向けの研修会や説明会を継続的に開催する中で、競技団体の役員や職員同士が交流できる場をつくることも重要な支援の一つです。
外部理事として関わる人材同士がつながることで、取り組み事例を共有したり、課題について意見交換をしたりと、相互に学び合える関係が生まれます。そうしたネットワークが広がることで、新たな連携や発想が生まれる可能性もあります。
競技団体の自律的な取組みを尊重しながらも、学びや交流の土台を整えるような間接的かつ継続的な支援を行っていきます。

内田さん:競技団体の運営という点では、よりオープンで、社会に対して開かれたものになっていくことが重要だと考えています。スポーツは多くの人から大きな期待を寄せられている分野です。その期待に応えられるよう、透明性が高く、説明責任を果たす組織運営が当たり前になっていくことで、スポーツ界全体はさらに良い方向へ進んでいくのではないでしょうか。
田川さん:競技団体には、さらなる競技力の向上や競技人口の拡大といった重要なミッションがあります。それらをより効果的に実現していくためにも、組織としての基盤を強化していくことが欠かせません。将来的には、競技特性や環境に応じた多様な財源確保を実現させ、自律的に運営できる団体が増えていくことを期待しています。
内田さん:スポーツ界は非常にやりがいの大きな世界ですし、その中で自分のスキルや経験を生かせる機会は、人生の中でもそう多くはありません。少しでも挑戦してみたいという思いがある方には、ぜひ一歩踏み出していただきたいと思います。この貴重な機会を、自身の成長につなげていただければうれしいです。
田川さん:ご自身のスキルを生かして、競技団体の社会的価値を高めていくことは、大きなやりがいにつながるはずです。ぜひ積極的にチャレンジしていただければと思います。
※ 所属・肩書および仕事内容は、取材当時のものです。