
国内最大のスタートアップ支援拠点「STATION Ai」案件特集

介護中の会話をAIが解析し、自動で記録を作成する介護支援アプリ「ながらかいご」を開発したのは、豊田高専でAIを学んだ岡田 一輝さんを中心とするメンバーです。2025年7月、愛知県のスタートアップ支援拠点「STATION Ai」内で株式会社NAGARAを設立しました。 学生発のエンジニア集団としてスタートしたNAGARAが、事業を社会に届ける組織へと進化するうえで必要としたのが、外部プロ人材の経験と知見でした。 本記事では、NAGARA CEO岡田さんと、外部プロ人材として参画するTさん、そしてスタートアップ支援を行うSTATION Aiの中島 順也さんにお話を伺いました。 ※STATION Aiとは 約1,000社が参画する日本最大級のオープンイノベーション拠点です。スタートアップの創出や育成に加え、企業、大学、自治体などとの共創を促進し、ハード(施設・設備)とソフト(実証・事業化・人材交流)の両面から多角的に支援しています。また、一般の方も利用できるカフェレストランやホテルも整備しています。

株式会社NAGARA CEO岡田 一輝 氏
豊田工業高等専門学校にてコンピュータサイエンスを専攻。デジタル技術とAIの可能性に魅了される一方で、現場のデジタル実装の遅れを痛感。高齢化問題、介護現場の負担に課題意識を持ち、音声特化AIで介護記録を自動化する「ながらかいご」を開発。2025年7月、株式会社NAGARAを設立。

STATION Ai株式会社 投資企画室中島 順也 氏
STATION AiおよびAI特化ベンチャーキャピタル「DEEPCORE」にて、研究開発型スタートアップの立ち上げ支援や投資業務に従事。大企業向けITコンサルティングや海外拠点での品質管理経験を持ち、B2B領域の事業開発支援を得意とする。2021年よりSTATION Aiプロジェクトに参画。

プロ人材T 氏
介護施設での就業経験を経て、介護業界のDXの遅れを実感し、介護ソフトの開発者に転身。介護×ITの知見を生かし、現在はフィンテック領域の新規事業も担当。HiPro Directを通じ、株式会社NAGARAへプロ人材として副業で参画。
岡田さん:2025年の春に、学生向けの起業支援プログラム「STAPS」(STATION Ai Program for Students)に参加したのがきっかけです。
中島さん:STAPSは、愛知県の事業としてSTATION Aiが運営している起業支援プログラムです。愛知県はもともと大きな産業基盤を持っているため大企業の就職を目指す学生が多く、スタートアップが生まれにくいという課題があります。そんな中、未来を担う新しい産業をつくっていくために、学生の方々にも起業という選択肢を知っていただくために運営しています。
NAGARAは2025年の春に開催したSTAPSで、最優秀賞であるSTATION Ai賞とビジネスプランコンテストTongaliの本選シード権であるTongali賞を受賞し、頭角を現してきました。
岡田さん:はい。「ながらかいご」は、私が高専の仲間たちと開発した介護支援アプリです。介護の現場では人材不足が深刻と言われますが、実際に介護士が多くの時間を割いているのは報告書作成などの事務作業です。そこで、介護士さんが実際に介護をしている間に、その会話をAIが解析し、報告書を自動生成する仕組みをつくりました。
正直、最初は起業するつもりはなく、仲のいい友達間でつくったこのプロダクトを社会に届けたいという思いで、ビジネスコンテストなどに参加していました。しかし、STAPSに参加していくなかで、介護現場の思いや起業に対する熱意というものがどんどん加速していき、STAPSが終わるころにはもう起業を決意していました。
そこから、STATION Aiにサポートしていただきながら7月に登記し、スタートアップとして動き始めたという経緯です。
岡田さん:特に課題だったのが「仲間集め」ですね。最初は高専で同じクラスだったメンバーがほとんどで、その点はやりやすかったのですが、学生が主体なので組織運営や経営は手探り状態でした。
また、プロダクトを磨くには介護領域の深い知見が必要で、技術者だけでは限界があると感じていました。そこでSTATION Aiに相談したところ、HiPro Directを紹介していただきました。

岡田さん:介護領域の知見をお持ちの方、介護施設や法人への営業ができる方、そして、PMとして事業や開発を安定させる役割を担える方、という3点を軸に探しました。
中島さん:岡田さんにとって初めての人材活用だったため、面談での質問設計や、自社の魅力を伝えるためのアジェンダづくりを一緒に検討しました。面談にも同席し、双方の理解が深まるようサポートしました。
岡田さん:いちばん大切な軸は、NAGARAのビジョンにマッチしているか、という点です。私たちのビジョンは「介護に関わるすべての人が、やりたいことに専念できる社会を作る」です。この想いに賛同していただけることを最優先にしました。そのうえで、組織として抱えていた課題を解決できる方、解決したいと思っていただける方を選びました。

岡田さん:Tさんはビジョンに強く共感してくださり、全力で関わりたいと話してくれました。また、介護現場の経験に加え、開発やプロダクトの知見も豊富で、まさに求めていた人物像でした。
さらに本業をお持ちの中でも、多くの時間を我々に使っていただけるという覚悟もお持ちだったので、Tさんと一緒に事業を前に進めたいと思ったのです。
Tさん:本業はフィンテック領域にあり、リスクを最小化する方針から開発は比較的ゆるやかなペースで進んでいます。そのため、業務が極端に長時間化することはなく、時間的な余裕が生まれるようになりました。その空いた時間を、自分の知見を広げながら社会に役立てられないかと考えていたところ、出会ったのがNAGARAの募集でした。
既存のプロダクトに頼らず、AIを最大限に活用して介護を変えていくNAGARAの挑戦は、実現できる手応えを強く感じました。介護業界は自分の原点です。だからこそ、自分もその取り組みに参加し、力になりたいと思いました。
岡田さん:私自身はデジタルの世界から入り、その技術を届ける先として介護に関心を持つようになりました。一方でTさんは、介護の現場からスタートし、よりよい仕組みをつくるためにデジタルの世界へ進まれた方です。出発点も進む方向も“逆”ですが、介護業界を良くしたいという想いは非常に近いと感じました。
Tさん:私も同じ印象でした。私がキャリアをスタートした当時の介護現場では、IT機器がほとんどなく、すべてが手書きでした。その後、ITが入って既存の大手が領域を広げていく中で「このまま進むのだろう」と思っていたところに、AIが登場し、大きく変わる気配を感じていました。
そうしたタイミングでNAGARAの取り組みを知り「これはイノベーションになる」と強く感じました。 “AIネイティブ”とも言えるNAGARAの発想は、自分とはまったく違う視点で、とても新鮮で面白いと感じました。
岡田さん:大枠でいうと、これまで自分たちだけでは整えきれなかった部分を、Tさんにしっかり補強していただいている点が一番のポイントです。社内のPMとしてWBSの運用をはじめ、介護現場での知見を生かしたプロダクト設計、さらにはセキュリティ面の強化など、私たちの詰めが甘かった領域を幅広くサポートしていただきました。
Tさん:良し悪しではなく、NAGARAは若い組織なので、私が持っているプロダクトマネジメントの基本的な知識や、開発現場で蓄積してきた再現性のある進め方を中心に支援しています。一方で、AI活用に関しては私自身も専門ではない部分が多く、そこで発生するさまざまな課題については「一緒に考えていく」という姿勢で関わらせていただいています。
岡田さん:経験や知見はもちろんですが、Tさんが業務委託という立場でありながら、NAGARAのことを“自分事”として考えてくださっている点が大きいです。NAGARAに必要だと感じた部分には、積極的に踏み込んでくれるんです。
その姿勢を見て、自分もスコープを狭く区切って効率だけを追うのではなく、組織全体を見渡しながら動くことの大切さに気づきました。結果として、そうした視点を重んじるカルチャーをつくるきっかけにもなったと感じています。
Tさん:私が驚いたのは、とにかく開発のスピードが速いことです。「今はこのスピード感での進め方が当たり前なんだ」と、これまでのプロジェクトマネジメントの常識を自分の中でアップデートできる学びが多くありました。
そしてその延長に、介護や福祉業界全体をどう変えていけるのかという、より高い視点での課題意識やイノベーションの可能性を考えられるようになりました。そうした視座の変化も含めて、NAGARAに参画して本当に良かったと感じています。
岡田さん:私自身を含む経営陣が「より本質的な仕事をしよう」という意識を強く持てるようになりました。これまでは、とにかくがむしゃらに前へ進むことが最重要だと考えていましたが、スピードがあっても方向が正しくなければ事業は前に進まない、ということに気づかされました。
Tさんから学んだことを踏まえ「この道で本当に良いのか」「別の選択肢の方が将来のためになるのではないか」と、先を見据えて意思決定できるようになったことは、大きな変化だと思います。
中島さん:岡田さんたちは高専のメンバーで集まり、ゼロから事業を立ち上げてきました。しかしスタートアップには「巨人の肩の上に立つ」という言葉があるように、すでに確立された型や知見を活用しながら、効率よく前に進むべきフェーズがあります。チーム内部の力だけで進めようとすると、どうしても時間がかかり非効率になることも多いのです。
その点、Tさんのように実務経験を持つ人材が加わると、すでに通ってきた道で得た知見を直接還元してもらえるため、事業の進み方が一段も二段も早くなります。外から見ていても、その加速感がはっきりと感じられました。

中島さん:スタートアップの場合、まだ何も整っていない段階から参画していただくことが多いため、まずはその事業やミッションに共感できるかが非常に重要だと思います。そこが一致していないと、日々の判断や動き方にズレが生じてしまいます。
もう一つ大切なのが「アンラーン(学びほぐし)」の姿勢です。一定の経験がある方ほど、前職で身につけた成功パターンに無意識に引っ張られてしまいます。しかし、新しい環境で成果を出すためには、過去のやり方を一度手放し、環境に合わせてアップデートする必要があります。
経験だけに依存すると、入ってから創業者との方向性に齟齬が出てしまうことも少なくありません。創業者が向かっている方向に合わせ、違うベクトルへ引っ張らないといった姿勢を持てる方こそ、スタートアップでは大きな力を発揮できると思います。
中島さん:スタートアップの魅力は、良くも悪くも自分の行動がそのまま会社の成長に直結する点だと思います。成果が出なければ事業が停滞することもありますが、そこも含めてスタートアップならではの緊張感とダイレクトな手応えがあります。
大企業の新規事業では、たとえ失敗しても会社全体が傾くことはほとんどありません。しかしスタートアップでは、個々の成果がそのまま事業の存続に影響します。逆に言えば、エンジニアのスキルが向上すれば、そのまま企業の競争力が一気に高まることもあり、大企業ではなかなか体験できないスピード感があります。
自分のスキルアップが直接サービスに反映され、それが競争力や売上につながっていく実感を持てる点は大きな魅力です。裁量も大きく、やりがいのある環境だと思います。
岡田さん:介護業界のデジタル化は進んだと思いますが、“真のDX”にはまだ距離があると感じています。デジタル化されたとしても、それで現場が本当に効率化されたのか、介護の質が向上したのかというと、必ずしもそうではありません。いまだに「紙のほうが使いやすい」と言われることもあります。
私たちは、介護に関わるすべての人が“本当にやりたいことに専念できる状態を実現するため、その決定版となる介護ソフトを開発したいと考えています。
中島さん:STATION Aiのミッションは「挑戦をつなぎ、未来を動かす。」です。スタートアップには、挑戦を通じて自分自身の未来を動かし、日本の未来にも影響を与えられる環境があります。
新しいことに挑戦したい方は、ぜひ一度スタートアップの世界に踏み出してみてほしいと思います。私たちは支援する立場として、スタートアップ企業とプロ人材のより良いご縁をつなぎ、挑戦を後押しできる存在でありたいと考えています。

※ 所属・肩書および仕事内容は、取材当時のものです。