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地域文化の継承と人、経済の循環を両立。「うなぎの寝床」が示す持続可能な地域活性化の道筋と副業での関わり方

地域文化の継承と人、経済の循環を両立。「うなぎの寝床」が示す持続可能な地域活性化の道筋と副業での関わり方

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福岡県南部の筑後地方にある八女市。筑後川が流れ、山々に囲まれた自然豊かなこの地は、八女茶の産地として全国的に知られ、フルーツの栽培も盛んです。また、江戸時代に栄えた商家の町並みが残り、数々の伝統工芸品が根づいています。しかし近年は、人口減少や職人の高齢化、空き家増加といった課題が顕在化しつつあります。 そんな八女市を拠点に、2012年に誕生した「株式会社うなぎの寝床」は、自らを“地域文化商社”と位置づけ、産地と都市、ものづくりと消費、そして人と人を結ぶ活動を行っています。本記事では、同社の共同創業者で取締役、バイヤーの春口 丞悟さんと、製造と卸を担う富永 潤二さんに、その歩みや活動、八女の魅力や地域と共生するビジネスの可能性についてお聞きました。 単なる地場産業の紹介にとどまらず、福岡県八女市の地域活性化を担うプレイヤーの一人として、文化の継承と経済の循環を同時に実現しようと挑戦を続ける同社の取り組みから、地域活性化を実現するための手がかりを探ります。

春口 丞悟

株式会社うなぎの寝床春口 丞悟 氏

株式会社うなぎの寝床 共同創業者、取締役、バイヤー・小売部門担当。宮崎県出身。大学で建築を学ぶ。卒業後、厚生労働省の事業「九州ちくご元気計画」にスタッフとして従事。八女・筑後地区のつくり手や産業に関わり、2012年に白水高広氏とうなぎの寝床を立ち上げ。

富永 潤二

株式会社うなぎの寝床富永 潤二 氏

株式会社うなぎの寝床 取締役、製造・卸部門担当。佐賀県出身。大学を卒業し、飲食業界ではたらいた後、スリランカや中南米などのさまざまな国を訪れる。2014年からうなぎの寝床のイベント「もんぺ博覧会」をサポートし、2016年に入社。

筑後のものづくりを伝えるアンテナショップとしてスタート

まずは、現在の事業内容を教えてください。

富永氏:創業地である八女市の2店を皮切りに、福岡市に2店、東京に2店、愛媛に1店の全7店舗で筑後のものづくりを伝えるアンテナショップ展開しています。取扱商品は店によって特徴があり、北部九州をはじめ全国の伝統工芸品、器、衣服、食品などをそろえています。また、久留米絣(かすり)を現代風にアレンジしたオリジナルウェア「MONPE(もんぺ)」を年間2万着ほど製造し、販売しています。

さらに、2019年に創業した子会社のUNAラボラトリーズでは、文化ツアーや体験プログラムを行い、2021年には八女市に宿泊施設「Craft Inn 手【té】」をオープンしました。

八女にあるショップ「旧寺崎邸」。八女は「伝統的建造物群保存地区」に指定されており、同店のような白壁が特長的な古民家が数多く残っています。

「うなぎの寝床」を立ち上げた経緯を聞かせてください。

春口氏:厚生労働省の雇用創出事業として行われた「九州ちくご元気計画」がきっかけです。共同創業者で現在は顧問でもある白水 高広と私はスタッフとして、筑後エリアでものづくりや農業、漁業などに関わる事業者さんたちと、商品開発や販売促進などに取り組みました。開発した商品は、東京など都市部でも取り扱ってもらえるようなりました。

しかし、私たちは「商品を生んだ地域に、その商品の価値を伝える場がない」と課題を感じていました。プロジェクト終了後の2012年、白水とともに地域のものを発信できる場所を作ることにしました。都市ではなく「産地にあるアンテナショップ」として、筑後エリアをはじめ九州のものを紹介する店を八女に構えたのが始まりです。

共同創業者で取締役・バイヤーの春口さん

なぜ、八女という場所を選ばれたのでしょうか?

春口氏:「八女の地域活性化のために熱い思いで立ち上がった」と思われがちなのですが、実はそうではありません。最初から八女と決めていたわけではなく、当初は佐賀など他の地域で物件を探していました。結果的に白水が住んでいた八女で立ち上げることになりましたが、きっかけは「地域に対する使命感」よりも、ちくご元気計画を通じて出会った、ものづくりに携わるユニークな人たちへの興味と、その魅力を発信したいという想いでした。

人口減少が進行し、地域に根づくものづくりの担い手が高齢化

八女という土地に対する印象や、地域が直面している課題についてどうお考えですか?

春口氏:八女は、歴史ある町並みが残る美しい地域です。提灯や仏壇など国や県指定の工芸品が7つもそろい、ものづくりの文化が地域に深く根づいています。谷ごとに違いがあって、地形や暮らしの多様性からも、奥行きを感じる豊かな土地です。一方で、現実として人口減少やものづくりの担い手の高齢化や材料の確保が難しいなどの課題があります。空き家の増加も顕著で、利活用したくても手を付けられない状況が続いています。

富永氏:仕事の選択肢が限られていることも課題です。多くの若者が就職のため都市部に出てしまい、仮に八女に戻りたいと思っても、希望する仕事がないのが実情です。ただ、八女には他にはない魅力があるんです。季節が移ろうと一面緑が広がっていたお茶畑が刈られて茶色になったり、麦が黄金色に染まって収穫されたら、二毛作で田んぼになり稲が育ったり。川沿いの大きなくすのきからはふわっと香りが漂い、季節の草花を眺めているだけでも気持ちが良くて、私はそんな暮らしを気に入っています。

地域文化商社として、ものと人と経済に循環を生み出す

そんな八女で、「地域文化商社」として活動されている意図を教えてください。

春口氏:最初は1軒のアンテナショップとして、北部九州のものを中心に30件ほどの取引先から事業をスタートしました。事業を進めるうちに単なる販売拠点にとどまらず、地域文化そのものを扱う存在であるべきだという考えに至り、「地域文化商社」というコンセプトができました。私たちが定義する「地域文化」とは、「ある一定の地域において、土地と人、人と人が関わりあい生まれる現象の総体」です。面白い、素晴らしいと思う地域文化を知ってもらうために、その価値を顕在化させることが私たちの大きな役割だと捉えています。

まずは、歴史や土地性を紐解き、地域文化の担い手と対話しながら、ものが生まれる背景にある物語を掘り下げます。次に、店舗やオンラインショップを通じて商品を生活者に届けることで、担い手の経済を回します。さらに、地域文化をつなぐために、人の流れをつくり、文化を実際に体感してもらうツーリズムを行う。「つくる・売る・訪れる」という循環を生み出すことで、現代においても地域文化やものづくりが持続可能な形で継承されていく仕組みづくりを目指しています。

うなぎの寝床が目指している地域文化の循環図。(提供:うなぎの寝床)

春口氏:また、九州のものづくりを伝えるとき、他地域と比較した方が分かりやすいのではないかという考えに至り、2017年に八女で始めた2店舗目は、他の地域のものも並べるリファレンスストア(参考情報の集積地)にしました。たとえば、九州の焼き物と他地域の焼き物を同時に陳列することで、それぞれの技術や美意識の違いが自然と浮かび上がります。綿織物においても、久留米絣と広島のデニムを並べることで、それぞれの違い、魅力に気づきやすくなります。こうした比較によって、訪れるお客様はもちろん、他地域へ出向く機会の少ない地元のつくり手たちにも、新たな視点を持ってもらえるといいなという思いもありました。

「旧寺崎邸」の店内には、地域文化を伝える商品が並びます。

富永氏:全国各地のものを扱うかどうかは、社内で議論を重ねたテーマでした。もし私たちが八女だけに強い思い入れがあったら、他地域のものを扱うことはなかったかもしれません。しかし、もっとフラットに地域文化に関心を持ち、他の地域のものも扱うことにしたことで、今のように深みや広がりが出てきたと感じています。筑後地域の内側にいながら、半歩外にいるようなポジションだからこそ、見えるものやできることがあると思っています。

うなぎの寝床が取り組んでいることは、人々の選択肢を増やすことだと私は思っています。ファッションにおいては、機能性や価格重視の選択肢が大手ブランドに集約されがちです。それ自体を否定するつもりはありませんが、地域性や文化性が反映されたものには、それとは異なる価値があるはずです。豊富な選択肢を提示するために、うなぎの寝床はさまざまなことを可視化し、伝えているつもりです。

久留米絣のMONPE(もんぺ)を現代に再定義。地域文化の再編集によるヒットモデル

うなぎの寝床がオリジナルで製造し、販売している久留米絣の「MONPE(もんぺ)」は、地域文化を発掘し、見直してヒットさせた象徴的な取り組みですね。

春口氏:もともとは久留米絣を伝える企画として「もんぺ博覧会」を開催したのが始まりです。当時、久留米絣の織元の多くは、余った生地を農作業着に仕立てる程度の位置付けでしたが、筑後地方で200年以上受け継がれてきたこの綿織物には、柔らかで快適な風合いという魅力があります。その生地の心地良さを体感してもらうために、私たちは現代の日常着として「MONPE」を新たに作り始めました。結果、多くの人に支持をいただき、今では年間2万着ほどを生産しています。「もんぺ博覧会」も今年で12回目となり、国内各地のみならずフィンランドでも展開しています。

MONPEは全店舗とオンラインなどで販売

富永氏:地元ではかつて「もんぺは商売にならない」「手を出したら店がつぶれる」とさえ言われたこともありました。しかし、時代に合わせてアップデートし、発信したことで、多くの方に受け入れられるようになりました。今では久留米絣の生地の全生産量の3分の1をうなぎの寝床で買い取らせてもらっており、生地の流通と文化継承の両面で重要な役割を果せていると思います。

「売る」から「伝える」へ。地域文化ツーリズムの価値

うなぎの寝床の店や宿、ツーリズムがあることで、八女に足を運ぶ人や関係人口も増えていると思います。宿泊事業やツーリズムを始められた狙いを聞かせてください。

春口氏:ものを売るだけでは伝えきれない、地域文化の背景を感じてもらうためです。その文脈や風土を肌で感じていただくために、宿泊施設の運営やツーリズムにも取り組んでいます。現地に足を運び、「空気・音・香り」といった五感を通じて得られる情報や体験こそが、地域文化への深い理解につながる最良の手段だと考えています。

富永氏:以前からワークショップのような体験ツアーを企画していて、面白いつくり手と直接会うことが地域文化の理解を深める起点になると考えていました。宿泊施設「Craft Inn 手【té】」は手仕事をテーマにしており、伝統的な町屋で手づくりの工芸品を体感していただけます。現在は4割ほどが海外からの宿泊客で、店舗にも世界中からお客さんが来られています。

地域文化の継承を担うことに、責任を感じられていますか?

春口氏:文化継承における責任の重さは当然意識していますが、背負いすぎないようにもしています。

富永氏:最終的に文化継承を担うべきは、つくり手や地域の人だと思うんです。私たちはあくまで伴走者として支える立場です。無理に継承を押しつけるのではなく、作り手の「やめる」という判断も尊重すべき選択肢だと思っています。

その上で、継続が難しい場合には、記録というかたちで未来に残すことを意識しています。「映像・音声・写真」など多角的なアーカイブを通じて、将来誰かが復活させたいと思ったときの“ヒント”になるように。私たちは「継承と収束」を併せて考える姿勢を大切にしています。

八女で広がる副業・共創の可能性

地域文化社「うなぎの寝床」の今後の展望を教えてください。

春口氏:現在は「地域文化商社」に加えて、「ネイティブスケープ」という考え方を取り入れています。「ネイティブ(その土地固有の)」と「ランドスケープ(風景)」を足した造語で、地域文化を重んじながら、それを未来へとつなぐ人々がいる風景を「ネイティブスケープ」と呼んでいます。この地域文化が見える風景をつないでいくために、できることを模索しています。現在は約40名のスタッフが在籍し、県外から理念に共鳴して移住してきたメンバーも増えています。今後は八女の店でさまざまなイベントを企画するなど、新たな取り組みも増やしていくつもりです。

うなぎの寝床が定義した「ネイティブスケープ」の図。(提供:うなぎの寝床)

最後に、地域文化の継承に副業で携わることへの可能性について聞かせてください。

春口氏:歴史や文化の残る八女に深く関わってみると、昔から今に至る人の考えや暮らしが見えてきて「人間って面白いな」と思わされます。新しい人も受け入れてもらいやすく、都市部から地域文化や伝統的なものづくりに関わりたいと思ってくれる方にとっても、世界を広げてくれるフィールドだと思います。

富永氏:自分にとって、八女という地域は素晴らしい教材です。うなぎの寝床で関わる人やものを通して知った全てのことが学びとなり、それを伝えること自体が仕事になる点に、ものすごく面白さを感じています。八女で暮らすことで、自分自身が人として豊かになっていく感覚があります。たとえば、久留米絣は日本三大絣の一つですが、ほかの2つ、備後絣(広島)はデニム、伊予絣(四国)は今治タオルへと進化している事実を知ったとき、人の営みが脈々と続いていることに心を打たれました。

こうした文化の継承に副業で関わることは、非常に現実的です。八女のように文化が根づく地域では、フリーランスのようなはたらき方をしている人が多く、スキルがあればさまざまな可能性が広がっています。一例を挙げると、ITやデザイン、写真、執筆、販路開拓などは事業者のニーズが高いため、副業で活かすチャンスは多いと思います。

「うなぎの寝床」の取り組みは、八女の文化やものづくりを“売る”だけでなく、背景にある物語を掘り起こし、人や経済の循環を生む仕組みづくりにもなっています。MONPEの再定義やツーリズムの展開は、地域文化を未来につなぐ実践の一例です。こうした動きは、八女に限らず全国各地で広がりつつあります。そこには、都市部で培ったスキルや経験を持つ人が関わる余地も多くあります。地域の魅力や価値をともに発信していく——そんな地域文化を支える副業のフィールドが、いまあなたの挑戦を待っています。

※ 所属・肩書および仕事内容は、取材当時のものです。

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