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社会人2年目で先のキャリアを見据え、いち早く副業を実践。DXの専門家が語る、「日本企業復活への道しるべ」とは

谷古宇 啓之
WAIコンサルティング合同会社
代表社員社長
大学で管理工学を専攻する傍ら、アルバイトでプログラミングを学ぶ。卒業した1989年に株式会社服部セイコー(現セイコーホールディングス株式会社)に入社後、2001年に横河電機株式会社に転職。両社それぞれで社内IT部門とマーケティング部門を経験する。二社で培った経験を全産業向けに展開することを考え、2015年データサイエンティストとして株式会社リコーに転職。中期経営計画の策定に携わり、データ分析を活用したブランディング戦略を推進するなど、大きな成果を残す。その後、独立し2021年にWAIコンサルティング合同会社を設立。
谷古宇 啓之

近年、外部人材の活用や副業を容認する企業が増えるなど、タレントシェアリングに市場の注目が集まっています。

タレントシェアリングはトレンドワードのため、実際にどのような方が専門家として活躍し、どのような考えを大切に企業に成果をもたらしているか、気になっている方も多いと思います。

今回、DX領域に強みを持つ専門家である谷古宇氏に、独立を志したきっかけや活動実績、今後のビジョンをお伺いしました。

日本産業界の停滞は世界の損失

――独立に至るまでの谷古宇さんの経歴をご紹介いただけますか?

ものづくりにこだわって製造業三社を経験してきました。それぞれの会社で情報システム部門と事業部門に所属し、約33年に亘りマーケティングとICTを実践してきました。

1社目の株式会社服部セイコー(現セイコーホールディングス株式会社)では、基幹業務システムとBIに携わり、ICTはブランディング手段と悟る中で在庫半減を実現し、異動した事業部門では自身で構築したシステムで管理するトップ商品のリコールもあり、品質をベースとするブランドの大切さを学びました。2社目の横河電機株式会社では、CRMをはじめとする顧客フロント系システムの企画から開発・運用までを数多く担当し、それらを活用するマーケティング戦略で引き合いを10倍にするなど、大きな効果を生むソリューション力を磨き上げました。3社目の株式会社リコーでは、中期計画の策定に携わり、データ分析を活用したブランディング戦略を推進するなど、在籍していた5年間で経営のイロハを徹底的に学ぶことができ、その後の独立の後押しになったと感じています。

私は2、3社目の在籍時に、副業としてマーケティングやデータ分析に関わるプライベートコンサルの活動にも力を入れていました。このような働き方は当時まだ珍しかったと思いますが、直属の上司が私の副業を「井の中の蛙ではダメ、世界に通用する人材になりなさい」「会社の発展にもつながることだから、どんどんやって構わない」と積極的に後押ししてくれたのです。副業時に築いた人脈は独立後にとても役に立っており、当時の上司には感謝しています。

――独立し、専門家としての活動をはじめたきっかけや思いについてお聞かせください。

1989年に新卒入社してから、日本企業の国際競争力が低下し、若い世代の活躍の場が無くなっていくのを忸怩たる思いで見つめていましたが、世界各国の技術者達との会話では自分では気付きにくい日本の特徴が取り上げられ「日本産業界の停滞は世界の損失」との思いが募っていきました。その様な活動をするにつれて「失われた30年」と同期する私の反省も踏まえた経験が、広く社会に貢献できるのではないかと考えたのが、独立を志したきっかけでした。

2020年8月、55歳の誕生日を機に退職。元々、定年前に自分の実力をつけて会社依存から脱却したいと考えていましたが、コロナ禍の真っただ中で、本当にこのタイミングで大丈夫かと不安でいっぱいでした。ただ、今こそ自分の実力を試す時だと思い、行動に移したのです。

退職直後は実は何の当てもなく、ビジネスプランはゼロ。1か月はリフレッシュしながら、これまでのナレッジを整理しようと国内旅行していたところ、副業時代にお世話になった企業様から「相談に乗ってほしい」との連絡が相次いでありました。

そんなコミュニケーションをやり取りするうちに、「本当に私が技術を持っているなら、それを社会貢献に使うことが自分の責任である」という気持ちが増し、2020年10月に個人事業を開業することにしました。また、経営支援サービスのi-common(現HiPro Biz)サイトのビジネスコラムを執筆していたことがきっかけで、専門家としての案件相談が少しずつ入るようになったこともあり、2021年4月に「WAIコンサルティング合同会社」を設立しました。

運用経験を持つ外部人材の活用は欠かせない

谷古宇 啓之

――これまで支援を行ってきた企業数や成果についてご紹介いただけますか?

2020年10月の個人事業開業から2022年6月の間に、製造業や商社を中心に十数社の企業様を支援しました。そのうち半数以上が、DX関連のプロジェクトです。

私はDXを、三つの要素に分解しています。一般的に言われる「DXで新しい事業を起こせ」というのは、私は「提供価値の変革」だと捉えています。しかし、提供価値の変革が簡単にできたら、多くの企業は苦労しません。難しいからこそ、「プロセスの変革」が必要です。そして、プロセスを変革するためには「意思決定の変革」も必要になります。これらの三つの変革には、従来の思い込みを捨て去り、社員や市場を納得させられる戦略を具体的に描くことが求められますが、そこで効果を発揮するのが、私が得意とするマーケティングとICTを掛け合わせた活用です。

多くのプロジェクトは開始して1年前後のため、「提供価値の変革」はまだ道半ばですが、そのための土壌はできつつあると感じています。プロセスと意思決定の変革が進み、戦略的に物事を考えられるようになると、プロジェクトメンバーの言動は前向きに変化します。クライアント企業の社長から「担当者の成長が予想を超えているのに驚いた」とコメントをいただいた時は、「独立しても、自分の技術は市場で求められている」と感じることができました。

――成果を出すために大切にしていることはなんでしょうか?

社名の由来にもなっていますが、WAI(ダブル・アプローチ・インサイト)を常に意識することです。WAIとは、【マーケティングとICT】、【ボトムアップとトップダウン】、【抽象化と具体化】、【肯定と否定】など、二つの武器を持って物事にアプローチしていく戦略手法です。WAIを用いることで一つのアプローチに固執することなく、何か問題に直面した際にも物事を効果的にスムーズに進めることができます。

――企業が外部人材の専門家を活用するメリットについて、どのようにお考えですか?

新たな機能や価値を生み出すために重要なのは、実は企画や開発以上に “運用”なのです。例えば、プロジェクトマネジメントでは、当初の目標を達成できるように進捗をチェックし、乖離が発生している場合は見直しや改善が必要になります。このような運用を怠るとプロジェクトのミッションは「絵に描いた餅」になり、DXの場合、単なるツール導入計画に終わってしまうことがあります。また、商品サービスや情報システムでもローンチしたタイミングで陳腐化がはじまり、運用する中で継続的な知の創造によって経験に基づく持続的成長を実現できるのです。企画、開発とあわせて、現場で豊富な運用経験を積んだ人材はいま市場で圧倒的に不足していますので、運用の実践ノウハウのある外部人材の専門家の活用は、多くの企業にとってとても有効です。

人と企業の個性を生かすことが日本産業界の成長ファクターになる

谷古宇 啓之

――キャリアを主体的に考え行動する大切さについて、どのようにお考えですか?

トレンドのキャリアオーナーシップですよね。良い概念だと思いますし、私はもっと自分のキャリアに対して、自由に「妄想」して良いと考えています。

私は定年前までに実力をつけて、自立した人生のキャリアプランを入社2年目の頃から考えていました。最初の就職で希望部署への配属が叶わなかったことと、自分の弱さを知ったことがきっかけで考えざるをえなかった、というのが正直な感想です。キャリアの最後に会社からの辞令で定年退職するのではなく、自分の意志を尊重したかったのです。「定年前までに、自分の意思で会社を辞めても生きていけるような技術を自分で磨いておかなきゃいけない」と、若い時に自身に課したわけです。

副業でプライベートコンサルに力を入れたのも、常に「このような可能性も自分にはあるはず」と妄想を実現に移すための行動でした。常に自分の将来のキャリアを自由に妄想し、時に更新しながら、できることを一つずつ行動していった結果、私の「個性」が作られてきたように思います。ちなみに自分らしいキャリアの実現にも、【妄想(抽象化)と行動(具体化)】というWAIが活用できるのでおススメです。

――今後、タレントシェアリングが浸透することで、社会はどのように変わるとお考えですか?

「所属」して働くのではなく、自身の働き方を「創造」または「選択」できるようになることで、個性がより生かせる時代になっていくと期待しています。個人の個性を刺激し合って生かせるチームが合わさり、それによって組織の強みが形成され、組織の集合体として個性的な企業が誕生すれば、他社との差別化やブランディングも実現しやすくなると考えています。

要するに、タレントシェアリングの広がりで日本産業界が活性化し、日本企業の競争力が向上するのではないかと期待しています。金太郎飴ではない、個性的な企業がこれから増え、その集大成として日本の競争力が復活すると良いですよね。

――最後に、谷古宇さんの今後の目標や、キャリアビジョンについてお聞かせください。

私の会社の社是にも掲げている「人と企業の個性を競争力に。」の実現に向けて、とにかく気軽に相談してもらえるような人であり企業になりたいと考えています。日本産業界の停滞は世界の損失です。だから今こそ、日本の人と企業の個性をもっと磨き上げないといけないと信じています。

日本企業が、再び国際市場で輝きを放つポテンシャルは充分にあります。専門家として支援に携わることでクライアント企業の個性が強化され、その集大成として日本の発展に繋がり、若い世代が活躍できるように貢献することが、今後の私のキャリアビジョンであり叶えたい未来です。

取材後記
インタビューを通して印象的だったのは、谷古宇氏自身が30年以上に渡り、「個性を生かし、納得のいくキャリアを描く」ために、試行錯誤してきたことです。副業が一般的になる前から、先のキャリアをしっかりと見据え、プライベートコンサルに取り組むなど、先見性のある働き方を自らの考えで推進し、その通り実現させている点は、年代問わずキャリア形成に悩む社会人のロールモデルになるのではないかと感じました。

また、DX領域の専門家として培った経験、スキルを企業支援に生かし、早期の成果を残している点は、タレントシェアリングの強みであり、魅力だといえるでしょう。「培った技術・スキルを持って、社会に貢献したい」、そのような熱い思いを持つ専門家の活躍が増えるほど日本経済は今後成長するのではないかと、タレントシェアリングに未来を感じたインタビューでした。
and HiPro編集部
パーソルキャリア株式会社
and HiPro(アンドハイプロ)は、「『はたらく』選択肢を増やし、多様な社会を目指す」メディアです。雇用によらないはたらき方、外部人材活用を実践している個人・企業のインタビューや、対談コンテンツなどを通じて、個人・企業が一歩踏み出すきっかけとなる情報を発信してまいります。

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