企業の成長や従業員のエンゲージメント向上にも寄与する「相互副業」 アサヒグループジャパンが感じた人材戦略における有効性とは

激変するビジネス環境下で、企業は変革を求められているが、労働人口の減少に伴い人材の確保は難しさを増す。こうした中、企業間で人材をシェアする「相互副業」が注目されている。パーソルキャリアとアサヒグループジャパンのキーパーソンに話を聞いた。
「『相互副業』を通じて企業間で社員のスキルを循環させることで、企業の成長や、副業を経験した個人のエンゲージメント向上に大きな効果をもたらすことができます」
そう話すのは、パーソルキャリアの片山徹之ゼネラルマネジャーだ。
また、「相互副業」に参画をしているアサヒグループジャパン・人事の大沼美由紀シニアマネージャーは「相互副業」を経験した社員に、気持ちの変化があったと語る。
「ある社員は『成果を出して報酬を得ることの意味を改めて実感し、自社における責任や立ち位置を見つめ直すことで、本業へのモチベーションがアップした』と話していました」

「相互副業」とは聞き慣れない言葉であるが、一般的な「副業」と何が違うのだろうか。企業の成長や従業員のエンゲージメントの向上にも寄与するという「相互副業」について詳しく掘り下げていく。
片山氏:不確実性の高い時代の今、企業が競争優位を保ち、変化の激しい市場に適応するためには、イノベーションの創出が重要です。
個々の社員が持つ創造性や問題解決能力を引き出し、成長を促進させることが、企業全体の革新力を高める鍵となるため、自社の社員にどのように成長機会を提供するかが問われています。
また、2030年には625万人の人手不足が予想されている中で(※)、新たなスキルや知見を持ち合わせた人材をどのように獲得していくか、人材獲得も重要な課題となっています。
※パーソル総合研究所「労働市場の未来推計 2035」
一方で個人の「キャリア形成」への意識も大きく変化している。終身雇用の崩壊や技術革新のスピードが加速する中で、市場の変化に対応し、自身の価値を発揮し続けるために、スキルを磨きたいと考える個人が増えている。
そんな、企業の課題と個人のキャリア形成のニーズ、双方を解決するのが「相互副業」だ。
「相互副業」とは、連携した企業間で相互に人材を受け入れ・送り出す、会社公認の副業だ。
社員は副業案件に申し込み、業務委託契約を締結。自身のスキルを生かして業務に従事することで、報酬と共に、外部企業での経験を得ることができる。
一方、企業は副業人材を受け入れることで、新たな視点や自社にないスキルを取り入れることができ、採用せずとも、社外の即戦力を活用できるメリットがある。

パーソルキャリアが展開するサービス「HiPro(ハイプロ)」では、
副業浸透を目的とした「相互副業プロジェクト」を推進している
副業先での経験が本業へのモチベーションにつながる
アサヒグループジャパンは24年1月に「相互副業」に初めて参加し、これまでに4社5人の副業人材を受け入れ、6人の社員を副業へと送り出している。
その狙いは、人的資本の強化にある。人口減少を踏まえた国内事業の最適化やグローバル展開を強化する上で、社員の「キャリアオーナーシップ(自律的なキャリア形成)推進」が自社の競争力を高めると考えた。
大沼氏:当社は、社員の定着率が高いことが特徴です。
それ自体は良いことなのですが、ともすれば同質的な組織になり、自社の考え方や常識にとらわれるあまり、事業がガラパゴス化する恐れがあります。
また、社員個人のキャリア観も会社の意向に沿った受動的なものになりかねません。
「地球が青いことは、宇宙から見ないと分からない」。会社の外側から自社や自身を俯瞰することが大切です。
そこから事業を変革するヒントが得られますし、個々の社員が市場価値を踏まえたキャリア形成を意識することで、スキルや知見の多様性が生まれます。

アサヒグループジャパン
People&Culture本部 HRビジネスパートナー部 キャリアオーナーシップ支援室
大沼美由紀 シニアマネージャー
大沼氏:当社では、新規事業企画がキャリアの中心だった社員が、培ったプロジェクト管理の経験を生かしたいと、未経験である「人事領域」で、「相互副業」に参加しました。
人事業務は経験がないものの、現業の経験を生かしたプロジェクト進行や、コミュニケーションの取り方など、副業先のプロジェクトリーダーをサポートできる場面も多かったようで、自身のスキルがそのような形で役立つと気付くきっかけにもなったようです。
会社に長く在籍していると、自分の積み上げてきたキャリアを客観視しにくくなります。
「副業」を通じて、会社の外で自分の市場価値を試せたことで、これまでの経験の中で得たスキルへの自信につながり、本業自体にも良い影響を与えるのだと思います。
片山氏:一方、「相互副業」を検討する際、本業への影響や人材流出を懸念する声も頂きます。しかし、副業で得た経験は本業にも生かされ、従業員のエンゲージメントの向上にもつながります。
重要なのは、副業を単なるリスクではなく、企業と社員の成長の機会として捉えることです。

大沼氏:新規企画の立案プロジェクトに応募した社員は、副業先の評価とは別に、自ら以下のような状態目標を定義していました。
レベル0 =「スキルを学ぶ」
レベル1 =「成果を残す」
レベル2 =「人間関係を構築する」
その方はキャリア入社者なのですが、「優秀な方は、自身で構築した人間関係を仕事に生かしている」という着眼点があり、自身がどこまで習熟できるか基準を持って挑んでいました。
片山氏によれば「相互副業」に応募する社員は、いずれの企業でも成長意欲が高い傾向にあるという。
片山氏:異なる環境の中で、相手が求める成果をどう出すか、何を自社に持ち帰れるのか、「相互副業プロジェクト」に参加される方に共通するのは、成長の機会を自ら取りに行くというスタンスだと感じています。
一般的に「成長意欲が高い」人材は、今の企業で成長が行き詰まると、次のステップとして「転職」を選んでしまうことがよくあります。

パーソルキャリア
タレントシェアリング事業部 Business innovation統括部 HiPro新規サービス開発部
片山徹之 ゼネラルマネジャー
大沼氏:私も仕事柄、社内でキャリア相談を受けるのですが、成長意欲があり、かつ自社に愛着のある社員でも、「新たにチャレンジをしたいが、その実現のためには今の仕事を辞めるという犠牲を払わなければならないのではないか」と悩むケースがあります。
要は「辞める」か「残るか」の2択で悩んでいる印象です。今の会社でも(会社を辞めずに)キャリアを積みながら、新しいキャリアをかなえる方法として「副業」という選択肢が増えるのは良いことですね。
片山氏:副業を通じて成長の機会を得て、自分の市場価値を確認することで、本業へのモチベーションも高まり、転職ではなく「定着」が期待できます。
成長意欲の高い発展性のある人材を会社としても失わずに済むのです。
副業人材「受け入れ」のメリットは方向性の違う二つの
パターン
「相互副業」への参加に当たっては、副業人材の受け入れ側のメリットも大きい。大沼氏は、これまで副業人材を受け入れた経験から、
① “自分たちの領域のプロ” を迎えるケース
② 専門領域外のスキル・知見を持つ人材を迎えるケース
の2種類があり、それぞれにメリットがあると語る。
今年1〜3月で実施中の「相互副業」では、大沼氏の所属する人事部門で2人の副業人材を受け入れているが、そのうちの1人はパーソルキャリアの社員であり、これが①のケースに当たる。
大沼氏:人材のプロであるパーソルキャリアさんから社員が来てくれて、アドバイスを頂けたのは、人事部門にとって、とても有意義でした。採用基準や面接のガイドライン、評価シートのブラッシュアップなどをお願いしています。
また、マーケティング領域のキャリアを持つ副業人材もジョイン。
これは②のケース「専門領域外のスキル・知見」に当たる。異なる視点を持つ副業人材の受け入れが、想定以上の価値を生むケースを示唆している。
大沼氏:私たちの部署は「キャリアオーナーシップ」を推進していますが、新しいカルチャーであるため、なかなか社内に浸透しないことに悩んでいました。
そこで、その方には、マーケティング視点からインナーコミュニケーションのバリューアップ提案をしていただいています。
「社内へいかに浸透させるか」という私たちの取り組みに対して、別角度からの提案を頂くことで、新たな知見を得ることができたと思います。

企業と個人の成長を加速させ、日本全体が元気になる
「相互副業」の成功のこつは「受け入れ側がしっかりとしたプロジェクト設計をし、かつ柔軟に協働できる体制を整えることが大切」と片山氏。
片山氏:自社の課題が明確になっていないままの受け入れや、全部お任せといったスタンスではあまりうまく進みません。
課題を洗い出し、何が不足しているか、どのようなスキルが必要なのかを考えることで、受け入れ時のマッチング精度が上がると思います。
大沼氏:短期のプロジェクトが動きだすタイミングで、社外のエッセンスとして参加してもらうのも良さそうですね。
片山氏:実は、実験的に「相互副業」に参加されている企業もあります。
やはり、今後の労働人口減少を視野に入れると、新しい人材獲得の手段である「副業」について、その影響や価値を見定めたいという思いがあるそうです。
そういった企業さまは導入部署を限定するなど、ミニマムな形でスタートしています。
大沼氏:当社は「キャリアオーナーシップ」を推進しているために比較的スムーズに参画することができましたが、最終的に社内のステークホルダーの理解を得るためには、やはり「企業と個人を成長させたい」という推進部署の強い思いが重要になるかと思います。
「送り出し」と「受け入れ」の双方で、効果が生み出されるサステナブルな仕組みだと思うので、グループ内で展開できたらいいなと感じています。
片山氏:HiProは個人が持つさまざまな経験、スキルを1社の中で閉じず、他の企業でも生かすことで、企業と個人が相乗的に成長する「スキル循環社会」を目指しています。
「相互副業」に多くの企業に参画していただき、スキル循環を生むことで、日本企業全体の競争力向上につなげていきたいと考えています。
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