日本の物流業界の現状や課題とは?改善策や将来性についても解説
近年、ECサイトやフリマアプリなどのサービスが拡大しています。これらは手間がかからず買い物ができることもあり、利用者にとって便利なサービスです。そのため、商品の配送に不可欠な物流は、日常生活を支える重要な要素のひとつとなっています。 一方で、物流最前線の運送現場では、ドライバーの不足、燃料費の高騰など、多くの深刻な課題を抱えている状況です。 本記事では、日本の物流業界の現状と課題に触れたうえで、改善策や今後の見通しまで解説します。物流業界の現状を知ったうえで、課題・改善策を確認していきましょう。 物流業界の現状 近年、物流業界は以下のような事象による変化が生まれています。 新型コロナウイルスの影響による国際物流関連市場の減少 インターネットショッピングの需要拡大による個人向け配送の好調 新型コロナウイルス感染症の影響による国際物流関連市場の減少 2020年頃から日本でも広まった新型コロナウイルス感染症により、BtoB向けの貨物量が減少した影響を受け、市場規模も減少傾向にあります。 2022年に経済産業省・国土交通省・農林水産省が発表した「我が国の物流を取り巻く現状と取組状況」によると、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた2020年は、国際貨物数が前年対比で輸出11.1%、輸入は13.7%の減少となっています。 ※出典:我が国の物流を取り巻く現状と取組状況(経済産業省・国土交通省・農林水産省) インターネットショッピングの需要拡大による個人向け配送の好調 新型コロナウイルスの感染予防の一環でおこなわれた外出自粛が影響し、巣ごもり需要の増加によってECサイトや通販アプリなどでの取引頻度が上昇傾向にあります。 経済産業省が発表した「令和3年度デジタル取引環境整備事業(電子商取引に関する市場調査)」によると、2021年度の日本国内のBtoC-EC市場規模は、20.7兆円となっており、前年比より7.35%増加しています。 ※出典:電子商取引に関する市場調査の結果を取りまとめました(経済産業省) この動きに伴い、宅配便の取り扱い個数は増加傾向にあります。インターネットショッピングの拡大は、結果として物流業界の小口多頻度化が加速するかたちとなりました。 日本の物流業界が抱える課題 ECサイトの普及により個人向け配送が増加傾向にある一方で、ドライバーの不足や燃料費の高騰など、さまざまな課題が浮き彫りとなっています。 日本の物流業界が抱える課題を詳しく見ていきましょう。 長時間労働 物流業界が抱える課題のひとつにあげられるのが、長時間労働です。インターネット通販では、翌日配送をはじめ、配達時間や場所を指定できるメリットなど、消費者にとって多くのメリットがあります。 一方で、輸送業務を担う物流業界の視点では、荷物の量が増えるだけでなく、付加サービスに対処するために配送ルートが複雑化し、長時間労働につながるケースが増加しています。 長時間労働が常態化するとドライバーの健康状態にも影響が生まれ、離職につながる可能性もあるため、物流企業には早急な働き方改革が求められている状態です。 人手不足 物流業界は、トラックドライバー不足が深刻化しています。 国土交通省の資料において、トラックドライバーが「不足している」「やや不足している」と感じる企業の割合は、2021年時点で50%を超えています。 また、物流業界のドライバー年齢構成を見ると、若年層(29歳以下)の割合は9.1%、全産業平均の16.3%と比較して低い状況です。 一方で、中年層(40歳〜54歳)の割合は45.2%、全産業平均の34.7%と比較すると割合は多くなっています。 いずれ、定年などの退職タイミングが訪れるため、次世代を担う若年層の雇用を増やさなければ、今後人材が大幅に不足することが考えられるでしょう。 ※参考:トラック運送業の現状等について(国土交通省) しかし、トラックドライバーの過酷な労働環境が改善されない限り、人員が集まりにくい状況は変わりません。人手不足は物流業界自体の衰退を招くおそれもあり、大きな課題となっています。 個人向け配送の増加 ECサイトの利用増加とともに、個人宅向けへの配送件数も増加傾向にあります。個人宅への配送の場合、日付や時間などの細かな指定が可能である分、配送前に綿密なルートの組み立てが必要です。 しかし、ルートを組み立てた場合でも、さまざまな事情で受取人が不在のケースは少なくありません。これに伴って再配達の件数が増加すると、いつまでも業務を完了できず、配送ドライバーの負担は大きくなっていくでしょう。 燃料の高騰 物流業界では、燃料価格の高騰も大きな問題のひとつです。燃料価格は日本だけの問題ではなく、世界情勢によって大きく変動します。燃料価格が高騰すると、比例して配送コストも増加するため、運送料金の見直しが必要です。しかし、荷主への値上げ交渉は簡単ではありません。 燃料の高騰のほかに再配達に関する問題もあげられます。国土交通省の発表によると、2021年10月の宅配便再配達率は約11.9%と前年同月(約11.4%)よりも増加している状況です。 ※出典:宅配便の再配達率が微増(国土交通省) 現行では再配達はサービスの一部であり、追加料金がかかりません。あくまで現時点では、再配達による燃料費や人件費などのコスト負担は、物流業界に対策を委ねられている課題であるといえるでしょう。 物流業界の課題の改善策 日本の物流業界は市場が拡大傾向であり、さまざまな課題に直面している状況です。ここからは、現状で考えられる改善策を解説します。 物流システムの導入 改善策として「スマートロジスティクス」と呼ばれる物流システムを導入する方法があげられます。スマートロジスティクスとは、最新のIT技術を利用して物流の5工程(輸送・保管・荷役・包装・流通加工)を一括管理し、業務効率化やコスト削減、品質向上などが目指せるものです。 アナログ作業が多かった物流業界において、物流システムの導入は大きな変革です。スマートロジスティクスを活用すれば、アナログ作業の廃止・無人化・自動化の実現が見込まれます。人員が足りなくとも業務がおこなえる体制を作ることができるでしょう。 物流業務のアウトソーシング アウトソーシングサービスの活用も手段のひとつです。物流業務のアウトソーシングとは、物流部門の業務やシステム管理などを外部の専門業者に委託することを指します。 自社で対応が難しい案件がある場合、対処するための新たなシステムの導入や仕組みの構築は、時間もコストもかかります。対処できるシステムや仕組みのある外部の業者に依頼することで、自社の負担を軽減しつつ円滑な運用が期待できるでしょう。 物流プロセスの効率化 2016年10月1日に物流総合効率化法が改正され、物流プロセスの効率化に向けての取り組みが国をあげておこなわれています。これは1社で担っていた物流業務全般(輸送・保管・荷さばき・流通加工)を複数の企業で共同し、物流プロセスの効率化を図ることが狙いです。 具体的には、2社以上で利用する共同の保管庫や輸送手段の利用、輸送網の集約やモーダルシフトなどの取り組みがあげられます。共同化により、同じ配送先や地域などを一括して配送ができる点がメリットです。 また、配送方法に関しても、鉄道や船舶などの手段を取り入れることで、少ない人員での輸送が可能となり、ドライバー不足の課題解決が期待できます。 再配達の防止 配送業務の負担となる業務のひとつに、再配達があげられます。先述したように、国土交通省の調べでは2021年10月度の再配達率が約11.9%で、前年同月(約11.4%)と比べ0.5ポイントと増加している状況です。 ※出典:宅配便の再配達率が微増(国土交通省) 宅配個数が増加しているなかで、再配達が増えることによるデメリットも多くあります。二酸化炭素排出量の増加やドライバー不足を深刻化させるため、大きな社会問題となっています。 トラックドライバーの人手不足に対する改善策の一環として、国土交通省では宅配ボックスの利用などが推進されています。しかし、設置費用は自己負担となるため、広く普及できていない状況です。 今後の推進によって再配達率が下がれば、トラックドライバーの業務負担が減り、過酷な労働環境の解消が期待できるでしょう。 物流拠点の見直し 物流拠点を増やすと長距離移動が少なくなり、効率のよい運送が可能になります。例えば、関東から九州などの長距離移動の場合、高速代・燃料費・人件費などのコストがかかり、トラックドライバーの拘束時間も必然的に長くなります。 全国配送に効率良く対応するには、首都圏だけでなく、東海地方や東北地方など、さまざまな箇所に物流拠点を設置することが理想です。しかし、初期費用などのコスト負担が膨大であるため、はじめからいくつも拠点を置くことは現実的ではありません。 拠点を増やすことが難しい場合は、自社が拠点を置きたい地域に拠点を持つアウトソーシングサービスの利用も有効です。輸送だけでなく、保管倉庫の業務を担う企業も多くあり、全般的な物流業務の委託ができるでしょう。 今後の日本の物流業界に必要な取り組み 需要が拡大傾向にあり、好調な印象のある物流業界には、課題も多くあります。今後、物流業界が飛躍するためには、さらなる業務効率化が重要です。ここでは、業務効率化に有効とされる方法を紹介します。 物流DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進 DX推進とは、デジタル技術を駆使して業務プロセスを抜本的に見直し、ビジネス・組織を変革させることを指します。物流業界では、物流DXと呼ばれており、積極的に従来のアナログ業務の機械化・デジタル化を推進しています。 物流DXは、これまでの物流業界のあり方そのものを変革することを指標として、国土交通省を中心に推進される取り組みです。特に、輸送などの詳細情報やコストなどの見える化は、作業プロセスの単純化・標準化を目指し、物流業界の発展へと寄与する重要な取り組みといえるでしょう。 ※出典:最近の物流政策について(国土交通省) AIやドローンの導入 物流業界でも、AIやドローンの導入が進みつつあります。業務効率化を図るためには、荷物の輸送に関わるシステム導入だけでなく、AIによるオペレーションの見直し、効率化なども有効です。 運送業務や倉庫内作業の自動化・機械化、オペレーションのデジタル化など、新しい体制作りが求められます。 AIやドローンを活用し効率化が進めば、物流業界はさらなる市場規模拡大が期待できるでしょう。 業務の自動化 中長期的な面では、倉庫内の物流業務の自動化や省人化への取り組みが重要です。 自動化への移行は導入コストがかかるだけでなく、電気料金やメンテナンス費用などのランニングコストもかかります。検討しているものの、導入までに至らない企業も多いのが実情です。 しかし、新型コロナウイルス感染症の流行による外出自粛が影響し、実店舗での商品購入よりもECサイトの利用が増加傾向にあります。 そのため、これから自動化へ移行する企業も少なくないでしょう。 物流業界の今後の見通しや将来性 日本の物流業界はECサイトの好調により、市場が拡大傾向にあります。今後も物流の需要は高まると予想されており、供給が追い付いていない現状の打開策を講じることが重要です。 その一方で、過酷な労働環境によるトラックドライバーの人員不足や燃料費の高騰など、課題も多くあげられます。また、アナログでおこなう業務も多くあり、他業界に比べてシステム導入が遅れていると指摘する見解もあります。 物流業界が市場拡大している状況では、今後の業務効率化への対処方法次第で、大規模な市場へ移る可能性が大いにあります。 市場拡大の恩恵を受けるためには、物流業界全体の動向を注視しながら、自社でも課題に対する積極的な取り組みが重要となるでしょう。 まとめ 物流業界は、ECサイトの普及により市場規模が拡大傾向にあります。需要が高まっているものの、トラックドライバーなどの人員不足や労働環境の悪化、燃料費の高騰など、運営を維持するうえで、さまざまな課題が浮き彫りとなっています。 課題解決の手法として、AIの導入によるオペレーションの見直しや倉庫内業務の自動化などがあげられます。しかし、初期費用のコストの面で、多くの企業が導入に踏みきれていない状況です。 大幅なコストがかかるシステム導入が難しい場合は、アウトソーシングサービスも一つの手段にあげられます。今後の市場規模拡大に向けて、業界の動向を注視しながら、自社で取り組める改善策を進めていくことが重要でしょう。