日本における製造業の課題とは? 現状と今後の解決方法や事例を解説
日本では、製造業がGDP・就労人口とともに2割程度を占めています。ものづくり大国と称されるほど、日本において製造業は重要な基幹産業の一つです。 出典:製造業を巡る動向と今後の課題(経済産業省製造産業局) 近年では新型コロナウイルスの感染拡大により、サプライチェーンが寸断されるなど大きな影響を受けました。 材料の調達ができないことによる生産ラインの停止などが影響して、廃業に追い込まれた企業も少なくありません。この出来事をきっかけに、サプライチェーンの脆弱性が問題視されるようにもなりました。 この記事では、日本における製造業の現状や課題に触れたうえで、解決に向けた取り組みのポイントを解説します。製造業の今後を見据えた課題解決手段など、改善策の参考にしてください。 日本における製造業の現状 経済産業省製造産業局が発表した「製造業を巡る動向と今後の課題」によると、2020年前半に、新型コロナウイルス感染症拡大による影響を受け、一時期は売上高が大きく低下しました。 2020年後半頃より業界の状況は回復傾向にあるものの、感染拡大以前の売上高には届かない状況です。 ※出典:製造業を巡る動向と今後の課題(経済産業省製造産業局) 以下では、日本における製造業の現状を解説します。 原材料やエネルギーコストの高騰による事業環境の変化 世界情勢などの影響により、日本では原材料やエネルギーコストが日々高騰している状況です。 さらに円安の影響を受け、輸入品の価格も高騰しています。原材料を海外から輸入している企業にとって、コストの負担増加は避けられない深刻な課題となっているのです。 新型コロナウイルス感染症の蔓延の影響 新型コロナウイルス感染症の拡大によるサプライチェーンの寸断は、日本の製造業に対して事業活動の件族が難しくなるほどの打撃を受けました。生産コストを抑えるために、工場を海外の拠点に置く企業が多かった背景も大きく影響しているでしょう。 製造業の市場全体は回復傾向にあるものの、安定的な材料調達は難しく、製造ラインが滞っている状況は続いています。サプライチェーンが正常に機能する体制づくりが課題です。 カーボンニュートラル宣言による脱炭素化 カーボンニュートラルとは温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させ、実質排出量をゼロにする施策です。各国が2050年までにカーボンニュートラルを目指すことを表明しています。 環境省が発表した2020年度の温室効果ガス排出量の調査結果によると、製造業(産業部門)のCO2排出量は、全体の約24%(電気・熱配分前)と比率が高い状況です。だからこそ、製造業の脱炭素への取り組みが強く求められています。 ※出典:2020年度温室効果ガス排出量(確報値)概要(環境省) 製造業が環境に影響を与える内容は、製造過程の廃棄物、電気・ガス・石油などの使用によって発生する温室効果ガスがあげられます。 日本の製造業における現状の課題 ここからは、日本の製造業が現状どのような課題を抱えているのかを確認していきましょう。現状における製造業の課題は以下のとおりです。 設備投資の遅れ 就業人口の低下による後継者不足 指導者不足による技術継承の遅れ 設備投資の遅れ 製造業の設備投資額は、2012年以降、投資額が減価償却費を上回っているものの、新型コロナウイルス感染症が拡大した2020年頃から減少しています。 ※出典:製造業を巡る動向と今後の課題(経済産業省製造産業局) 設備の老朽化への対応や、ITツール・システム導入などの業務効率化に向けた取り組みは重要ですが、未実施の企業も多くあります。売上高が低迷しているなか、追加投資への判断は難しいものの、今後の市場拡大に向けては積極的な取り組みも必要でしょう。 就業人口の低下による後継者不足 経済産業省・厚生労働省・文部科学省の発表した「2022年版 ものづくり白書」によると、製造業の就業者数は約20年間で157万人減少している状況です。少子高齢社会の日本では、前述のデータのように年々就業人口が減っており、後継者不足が課題となっています。 また、近年は、同じ企業に勤務し続けるよりも、条件のよい企業に転職するケースが増えてきています。技術を継承する人材が一人前に育つ前に辞めてしまうことも、後継者不足の要因のひとつにあげられるでしょう。 ※出典:2022年版 ものづくり白書(経済産業省・厚生労働省・文部科学省) 指導者不足による技術継承の遅れ ものづくり大国といわれる日本の製造業は、高い技術力が評価されています。継続して高い技術力を保つためには、知識やノウハウを継承していくことが重要です。 しかし、製造業を支えてきた技術者が年々高齢化している影響で、指導者不足が課題にあげられます。実際、先述の「2022年版 ものづくり白書」では、2020年に実施された人材育成の課題の調査において「指導する人材が不足している」と答えた事業所は、6割を超えていました。 ※出典:2022年版 ものづくり白書(経済産業省・厚生労働省・文部科学省) さらに、技術を指導する後進世代の人材が定着しないことも、技術継承の遅れに影響していると考えられます。 技術継承の遅れの要因は、継承する仕組みが構築できていない点もあげられます。技術者の知識やノウハウは、経験をもとに培ってきたものであり、マニュアルなどの見える化された資料が用意されていません。 口頭での説明、見て覚えるという継承方法では、短期間での技術継承は難しく、改善の難易度が高い課題です。現状の継承手段の見直しをするうえで、AIなどの活用による見える化が効率的な継承方法のヒントになるでしょう。 製造業の課題解決へ向けた今後の対応 製造業の課題を改善するためには、より効率的に業務を遂行できる仕組みづくりが重要です。ここでは、課題解決へ向けて、今後対応が求められる内容を解説します。 DX推進による人材不足の解消 DXが推進されると、現状のアナログ業務を中心にデジタル化が進み、効率良く業務がおこなえるようになり、生産性の向上が期待できます。 属人化していた業務なども見える化が進み、誰でもフォローできる体制が整い、働きやすい職場に近づくメリットもあります。定型業務は自動化に置き換え、非定型業務はプロセスを見直すことで、さらに従業員の負担軽減も目指せるでしょう。 スマートファクトリー(スマート工場)の実現 スマートファクトリーでは、倉庫内の生産設備・機器の管理、人員の作業データを、IoT(モノのインターネット)を活用して集約します。 集めたデータを分析すれば、製造業での現状の課題解決が見込まれ、新たな付加価値を見出せる仕組みを構築できます。 サプライチェーン体制の再構築 新型コロナウイルス感染拡大による影響で、サプライチェーンの寸断が引き起こされ、事業継続が難しくなる企業も多くありました。今後はあらゆるリスクを想定し、サプライチェーンを強靭化する必要があるでしょう。 調達フローや生産体制の見直しを図り、生産・配送拠点を分けるなどのリスク分散が必要です。さまざまな事態を想定したうえでの仕組みを再構築して、リスクに強い体制を整えてください。 カーボンニュートラル対策 カーボンニュートラルを達成するためには、使用電気を再生可能エネルギーなどの環境に配慮された電力へ切り替えることなどが有効です。しかし、初期投資のコスト負担を考えると切り替えは容易ではありません。 まずは、使用電力の削減や電力会社の見直しなど、すぐに実施できるところから取り組むことが現実的でしょう。 5S活動などによる現場の改善 業務の効率化や改善には、大規模な取り組みだけでなく、身近なところから取り組むことも大切です。具体的な取り組みとして、5S活動があげられます。 5Sとは以下の頭文字を取った表現です。 整理 整頓 清掃 清潔 躾(習慣化) 具体的には、商品や物品などのモノや情報の取り扱いが容易にできる体制のことを指します。職場環境の維持や改善を目的に、多くの企業で取り入れられる取り組みです。 5Sへの取り組みを徹底することで、どこに何があるかわからない状況の改善が期待できます。また、整理整頓されている現場では、ムダな作業が生まれにくいため、業務の効率化が目指せるでしょう。 製造業の課題解決に向けたポイント 製造業の業務は、サプライチェーンが基本です。国内外問わず複数の企業が関かかわる業務のため、さまざまな社会情勢の影響を受けることも少なくありません。 そこで、製造業への課題解決に推奨されるのが業務のデジタル化です。ここからは、製造業の課題解決に寄与するデジタル化の実現に向けたポイントを解説します。 小規模な改善から始める デジタル化を進める場合は、まずはテストとして小規模な改善から開始すると移行がスムーズでしょう。 業務を一度にデジタル化すると、移行へのコストや人材に大きな負荷がかかるだけでなく、既存業務に支障をきたす可能性があるためです。 課題を洗い出したうえで、すぐに取り組めそうな低予算でおこなえる業務から実施してみてください。 業務のデジタル化は従業員の意思疎通を図りながらおこなう 製造業のデジタル化は、従業員不足をカバーする役割もあります。円滑にデジタル化への移行が完了すれば、既存の業務を少ない従業員で行えるため、人件費の削減にもつながるでしょう。 一方で、それゆえに「仕事がなくなるのではないか」と不安に思う従業員が出るケースもあるため、デジタル化は慎重に進めてください。 業務デジタル化へ向けての取り組みの目的や、今後の見通しなどを従業員へ話を通しておくことが重要です。 デジタル人材の確保・育成 デジタル化ができても、何らかのトラブルがあったときにすぐに対応できる人材がいないと、業務が円滑に進みません。そのため、業務のデジタル化には、デジタル技術を活用・運用できる人材の確保が不可欠です。 しかし、デジタルに精通した人材はどの企業からも引く手あまたのため、スムーズな雇用の実現は難しいかもしれません。導入段階の時期や慣れるまでなど、期間を定めて専門家へ委託することも検討しましょう。 セキュリティ対策 デジタル化により、自社の貴重なノウハウや新商品の情報など、さまざまな機密情報も扱うようになります。そうなると懸念されるのが、情報流出などのリスクです。 デジタル化を開始する段階で、セキュリティレベル向上などの対策が必須でしょう。 日本の製造業における具体的な課題解決の事例 ここからは、日本の製造業における、具体的な課題解決の事例を見ていきましょう。今後の取り組みの参考にしてください。 食品メーカーA社/事例 食品メーカーのA社は、社員同士の会話がオフィスの電話を起点としていた結果、顧客対応に遅れが生まれていました。 変化の激しい現代で、顧客の声に対していかに柔軟かつ迅速に対応できるかは重要です。その点において、同社は社内のコミュニケーションに課題を感じていました。 そこで、同社が対策として導入したのが、スマートフォンと社内SNSです。これらによって無駄な確認作業が減り、オフィスの電話を中継する必要もなくなりました。結果として社内対応に追われていたオフィスの従業員も、顧客対応に専念できるようになったのです。 また、同社はこれまで、部署やグループ会社によって異なるスマートフォンを使用していたことで、運用管理や通信コストにも課題がありました。今回の取り組みで1つの通信会社のスマートフォンに統一したことで、運用の負担や通信コストの最適化にも成功しています。 大手総合通信メーカーC社/事例 大手総合通信メーカーのC社では、人に依存しないものづくりを目指しています。 納期の短縮化や製品の複雑化に対応するための技術継承壁、災害対策を踏まえたBCP(事業継続計画)の強化を行ううえで、事業部間の連携が課題でした。同社は事業部ごとに担当製品や工場が異なっており、事業部間で共通したルールがなかったのです。 そこで、製品開発の課題解決のため、自社の生産方式の仕組みのなかに設計のデジタル化プラットフォームを構築しました。このプラットフォームを通じて業務のデジタル化、ルールや開発フローの整備も行い、製品開発のノウハウ共有やリアルタイムで円滑なコミュニケーションを目指したのです。 結果として、同社は全社的な比較などによって製品開発プロセスの品質が向上し、手戻りが減少したことで、納期の短縮化を実現しました。 まとめ 日本において、製造業は重要な基幹産業のひとつです。 近年、新型コロナウイルスの感染拡大により、材料調達が困難となり、サプライチェーンが分断される大きな影響を受けました。世界情勢の影響を受けやすい製造業は、大きなトラブルやリスクが起こることを想定して、事前に対策を講じておく必要があるでしょう。 人材不足や設備投資の遅れなど現状の課題を解説するためには、デジタル化による業務効率化などが推進されています。まずは自社業務を見直し、負担が少なく取り組める業務からデジタル化を進めてみてはいかがでしょうか。