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1つのスキルで生きていくことは、決して不可能じゃない。デザイン思考を極めたコンサルタントが語る、専門スキルを磨くことの重要性

Beth合同会社
代表取締役/三重県伊賀市 非常勤特別顧問/愛知県南知多町 町長顧問
慶応義塾大学大学院SDM研究科を優秀賞で修了。デザイン思考を強みとし、これまでにIBMやデロイトにて多数のコンサルティング案件を経験。2019年に独立した後、現在は課題解決のプロフェッショナル人材として、企業、省庁、地方自治体などを対象に、新規事業開発やDX推進を中心に、顧客の課題解決を支援している。
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近年では第四次産業革命によるテクノロジーの進歩や、多様化する消費者ニーズに対応すべく、多くの企業がDXを通じた新規事業の開発、既存ビジネスモデルの変革に取り組んでいます。

しかし、複雑化する課題を前に、目的を見失ってしまい、知らず知らずのうちに手段が目的化してしまう企業も多いのではないでしょうか。

また、個人では幅広い課題を解決するために、多様なスキルを手に入れようとする傾向にありますが、1つのスキルで生きていくことは本当に不可能なのでしょうか。

そこで今回は、デザイン思考を武器に、DX推進や新規事業の開発を支援してきた河上氏に、独立の経緯や課題解決の考え方、1つのスキルで生きていく方法を伺いました。

専門性を突き詰めていくには、それだけに注力できる会社が必要だった

――独立を選んだきっかけについて、教えていただけますか?

もともと専門性を活かすという考えを持っていて、僕の場合、その専門性がデザインでした。多くの方は大学で学んだ内容と関連性の低い仕事に就くと思うのですが、僕はそこに疑問があって。せっかくなら、過去に学んだことを活かせる仕事で稼げたら効率的じゃないですか。これは会社の中で学んだことでも当てはまると思います。どんな仕事でも同じだと思いますが、好きで勉強してできるようになったら、それを活かし続けた方が楽しいし、専門性が高まって、より稼ぎやすくなります。

僕の場合は、たまたま大学院で学んだ内容を仕事に活かせるチャンスが来たので、飛びついたんです。そこでデザイン思考を用いたコンサルティング部門の立ち上げに乗り込み、業界最大級のお客様との仕事や、自社にデザイン思考を導入するといった特別な仕事ができ、多くを学べたことはラッキーでした。

ただ当時はDXすら言われていなかった時代で、デザインやデザイン思考を用いた仕事があまりなくて。そうなると、所属する会社を変えてでも仕事を生み出す必要があるのですが、僕はコンサルティング会社を変革したいのではなく、お客様に価値を出したいので、やっていることとやりたい事がずれる。これが不満で、転職して会社の看板を変えればプロジェクトも取りやすくなるかと思って実際にヘッドハンディングを受諾したのですが、状況は同じでした。そのため、デザインの専門性を磨いていこうとした結果、独立という選択に行き着いたというべきなのかもしれません。

それに、デザイン思考は新規事業の文脈でよく使われるのですが、提案する張本人である河上に、新規事業の立ち上げ経験がないと、お客様を支えられる範囲が狭くなります。そのため、どうせ専門家として仕事をするなら、会社の1つぐらい経営しないと話にならない、どうせ失敗したっていくらでも転職できるだろうと、家族にも言わずに思い切って独立しました。

――専門性を磨くとなると、1つの会社で得られる経験に限界があるのでしょうか?

あらゆる仕事の「専門性」に通じる話ですが、組織が求めることと、個人が求めることには食い違いがあります。組織は、組織の利益になるのなら、個人の専門性を伸ばすことを惜しみません。でも、その専門性が必要なくなればチームの解散・異動を決断します。これが組織のあるべき姿であり、専門性を高めようとしたときの「限界」の正体です。

これを個人の視点から考えると、専門性を高めたい方には都合が悪いですよね。せっかく学んで結果も出したのに、別部署に異動し、ゼロリセットでの学び直しになるので。

――専門的に取り組まれている「デザイン」についても、詳しく教えていただけますか?

まず、デザインとデザイン思考は似て非なるもので、全く違うものです。デザインは物事の考え方で、人の役に立つように問題を解くという精神論的なものです。デザイン思考は料理のレシピみたいに、いくつかの方法論をまとめた型です。 課題解決において、この精神論と方法論の両方が必要なのですが、多くの場合は片方が抜け落ちています。車の運転と同じです。安全運転が大切だと伝わっても、アクセルやブレーキの説明がなければどこにも行けない。安全運転が大切という精神論と、具体的な車の操作方法の両方がそろって、初めて意味が出てきます。

それと同じで、「顧客の役に立つように問題を解くんですよ」と精神論だけ伝えても、お客様は何をしていいか分からず止まります。止まっては意味がないので、具体的な考え方や、フレームワークが必要となる。だからこそ、精神論も踏まえてデザイン思考という一定レベルの方法論を取りまとめたものを、きちんと使える人や企業を増やすことに、大きな意味があり挑戦しています。

コンサルタントの場合、お客様に問題の解き方を教えると仕事がなくなるので、本当の意味で解き方を教えることはできませんでした。個人的には、コンサルタントに問題の解き方を教えるよりも、実際にできる顧客を増やした方が日本にインパクトを残せる。こういう意味でも、「会社」を道具として捉えたときに、僕にとって使い勝手がいい道具として、自分の会社を持つことにしました。

――独立後についてお伺いしたいのですが、案件を安定的に獲得するために行った工夫があれば教えてください。

大切なのは、自分のやろうとしているビジネスが売れるかどうかを検証することです。

僕の場合は会社員時代に提案書を書いてお客様に販売していたので、少なくとも提案書の中身は売れると確信していました。分からなかったのは、会社の看板を外しても、その提案が売れるかどうかという点です。だからこそ、提案の核となるデザインやデザイン思考に興味がある方と出会うことが重要だと考えました。

そのため、立ち上げ当初はデザインに興味のある方が集まるセミナーに足を運んでいました。セミナー後に講師の方と名刺交換する列ができるんですけど、僕はその列の後ろから順に名刺を配っていました。みなさんギョッとしていましたが、手元に名刺があり、列も進まず暇だし、情報も欲しいと多くの方に応じていただけました。

――すごい行動力ですね。実際に連絡は来たのでしょうか?

ありがたいことに、東証一部上場企業の担当者様に興味を持っていただけて、その方が最初のお客様になりました。

また、セミナー講師の方ともご縁ができて、その方の紹介で勉強会を開かせていただいたり、他にも年に数回の講演をさせていただいたりしながら、少しずつ間口を広げていきました。SNSで新規事業の担当者に友だち申請を送って、そこから生まれたご縁もありましたね。

そういう意味では、確度の高い方とどのようにして接点を持つかが、案件を安定的に獲得するうえで重要になってくると思います。

複雑な課題こそ、目的に立ち返ることが重要になる

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――専門家としての支援実績について、特に印象に残っている案件はありますか?

地方公共団体様からいただいた依頼が、印象に残っています。アクションプランを一緒に作るというものだったのですが、行政としてどのように変わるべきかを議論しながら、漠然とした問題を構造として整理していきました。

――整理するうえで、実際にどのようなことを行われたのでしょうか?

やるべきことをABCの3つに分けました。

  • Aは、国から実施を求められていて、やる必要のあること。
  • Bは、国から依頼は受けていないけど、自分たちの負荷を減らすために必要なこと。
  • Cは、住民の満足度を上げたり人口を増やしたりするためにやったほうが良い行政サービス

上記のようなかたちで、情報を整理しました。

――この整理には、どのような狙いがあったのでしょうか?

アイデアよりも先に、進むべき方向性や優先すべきポイントの目線合わせを行うことです。

僕が担当した地方公共団体様のキャッチコピーには「選ばれる」という言葉が入っています。「選ばれる」について考えると、そもそも今住んでいる住民は、選んだ結果として住み続けているので、誰に「選ばれる」のかといえば、地域の外の人ということを考えてもいいのではないか。そういうことを問いかけ、普通は見落としてしまうことを丁寧に整理することで、本当に注力すべき内容を決めていきました。

地域外の住民に選ばれて移住してもらわないと、街は縮小していきます。どの地域にも当てはまりますが、他の地域と差別化して移住を促進するためには、Cの施策こそが本当に注力して取り組むべきものなんですよね。こういう整理をして、きちんと目線合わせを行ってから、具体的にどうしていくかを話し合っていきました。

成果が出るまでにはもう少し時間がかかると思うのですが、毎週色々な人の相談を受けながら、「こういう風にやったほうが良いんじゃないか」というアドバイスをして、自走のための後押しを実施したことで、今は各課に担当者を割り当てて、施策を動かすことができています。

ほんの少し道を変えるだけで、未来は大きく変えていける

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――専門家の立場からみて、企業が外部人材を活用することには、どのようなメリットがあると思いますか?

コストメリットもありますが、大きな違いは、袋小路に入った問題が数秒で解けることです。

少しだけ真面目に語ると、人間が「問題」と表現する中には、変更できるもの(課題)と、変更できないもの(前提条件)の2つが入っています。

企業や組織における問題解決では、この「前提条件」を徹底的に疑い、変更できる課題なのではないかと整理し直す事が鍵となります。古くからの慣例や、業務マニュアルに書いてあるから変えられないというのは思い込みで、能力の問題ではありません。既存の前提条件のまま、論理的に問題を解こうとするから、袋小路にはまってしまうのです。

この前提条件を疑い整理し直すというときに、外部人材は強烈に価値を発揮します。

外部人材は社外の人間なので、既存の商習慣に縛られていませんし、無理に維持しようとも考えていません。また、同様の問題を何度も解いている経験から、前提条件を再整理できます。だからこそ、課題を本質的に捉えて、改善策を提示することができます。

例えば、DX(デジタル・トランスフォーメーション)を推進する際に、既存のアナログ業務を捨てきれず、そこを上手く残したまま、どうにかデジタルを取り入れられないかと頭を抱えている企業様がいたとします。この場合によくある前提条件が、「いまの業務フロー」「いまの業務マニュアル」です。これを変えなければDX以前に、業務改革としての意味がありません。

しかし、外部人材であれば「同じ結果を生み出せるのなら、その一連の業務いらないですかね?」と、前提をひっくり返すような質問ができ、思考探検として議論できます。議論してみて良さそうなら、実際に行えばいい。これが質問の力であり、外部人材の良さの1つです。

――個人の働き方についてもお伺いしたいのですが、キャリアを主体的に考えるうえで、やはり専門性を重視したほうが良いのでしょうか?

必ずしもそうではないと思います。世の中に必要な働き方は2パターンあると思っていまして、1つが専門家として働くこと、もう1つがいわゆる何でも屋のように、求められた仕事を幅広くこなすことです。これはどちらも需要のある働き方なので、どちらが良い悪いという話ではないと考えています。

ただ、仕事にやりがいを求めたり、やりたい仕事を見つけたりしたい場合は、特定の能力を伸ばしたほうが良いです。会社に軸足を置いて、副業・兼業というかたちで別の会社でスキルを磨いていけると専門性が高まり、結果として本業の会社で発揮できる能力も高まります。

――別の会社でスキルを磨くというのは、視野を広げるという意味合いもあるのでしょうか?

それもあると思いますが、専門スキルは会社単位で見るとどうしても活かせる期間が限定されてしまうんですよね。部署異動もあるでしょうし、1度そのスキルで課題を解決しちゃうと、もう1回求められるまでに時間がかかることもあると思います。でも、せっかく勉強してスキルを手に入れたし、問題を解決した実績もあるのに、それを使い捨てちゃうのは勿体ないじゃないですか。

だからこそ、例え特定の会社では半年しか使えない特殊能力であっても、他の会社は、今この瞬間から向こう半年間に特殊能力が必要になる。そうやって短期サイクルであっても、必要とされる場面、色々な会社でスキルを発揮したほうが、専門性は確実に高まります。実はこれが、コンサルティング会社が社員を爆速で育てる仕掛けでもあります。

能力を高めたいとコンサルティング会社に転職を希望する方も多くいますが、個人的には、副業・複業の場合は全部自分の責任として業務を担当できるため、コンサルティング会社よりも遥かに早く成長できると確信しています。

取材後記
着眼点を変えることで、スキルを活かせる場は無数に存在する。これは当たり前のことである反面、終身雇用という考え方が染みついた状態では、気づかぬうちに見失っている要素でもあります。副業・複業を通じて、別の企業でも専門性を磨くことで、市場価値と社内評価の両方を高められることが、今回の取材で改めて理解できました。
and HiPro編集部
パーソルキャリア株式会社
and HiPro(アンドハイプロ)は、「『はたらく』選択肢を増やし、多様な社会を目指す」メディアです。雇用によらないはたらき方、外部人材活用を実践している個人・企業のインタビューや、対談コンテンツなどを通じて、個人・企業が一歩踏み出すきっかけとなる情報を発信してまいります。

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