フリーランスも育休は取れる?出産・育児で使える公的支援制度から仕事との両立まで徹底解説

フリーランスとしてはたらく中で妊娠や育児を迎えると、制度やお金、仕事の進め方に悩む場面が増えます。
本記事では、フリーランスが利用できる出産・育児に関する公的支援制度や、育児中でも続けやすい在宅ワークの工夫と選び方を紹介します。安心して育児と仕事の両立をするためにも、ぜひ参考にしてみてください。
フリーランスは雇用型「育休制度」の対象外?基本的な仕組み

フリーランスは、法律で定められた育児休業制度の対象には含まれていません。会社員と同じように「育休を取って、給付金を受け取る」という仕組みが使えないため、利用できる支援制度の内容を理解しておく必要があります。
ここからは、制度の違いや代わりに使える支援策を詳しく解説します。
会社員向け育児休業給付金との違い
会社員とフリーランスでは、育児期間中に受けられる支援に大きな違いがあります。特に経済的な支援である「育児休業給付金」の有無は、大きな違いと言えるでしょう。
会社員が育児休業を取ると、「育児休業給付金」を受け取れます。これは雇用保険から支給される給付金で、一定の条件を満たせば休業中も収入を得られます。
一方、フリーランスはそもそも雇用契約ではなく業務委託契約ではたらいており、雇用保険に加入していない人が大多数です。そのため、同じように仕事を休んでも、育児休業給付金を受ける仕組みがありません。
項目 | 会社員(雇用保険加入者) | フリーランス(個人事業主) |
育児休業制度 | 法律で定められた権利として取得可能 | なし |
育児休業給付金 | 受給可能(休業前賃金の50%〜67%) | なし |
この違いを知らないまま出産を迎えると、収入が途絶える期間が想定以上に長くなり、生活に影響する可能性があります。フリーランスの人は「育児休業給付金は対象外」という前提で、早めに代替となる支援策の準備を進めましょう。
育児休業給付金は雇用保険被保険者が対象
育児休業給付金(正式名称:雇用保険育児休業給付金)は、雇用保険の被保険者であり、かつ1歳未満の子を養育するために育児休業を取得していることが前提です。
休業は原則「子が1歳になる前日まで」が上限ですが、保育所に入れないなど一定の理由がある場合は1歳2か月、1歳6か月、最長2歳まで延長できます。
そのため、出産前から「自分は育児休業給付金の対象外である」と理解しておくことが重要です。安心して産後の生活を送るためにも、他の公的制度や支援策に目を向けておきましょう。
主な支給要件(一般的なケース)
- 雇用保険の被保険者である
- 1歳未満の子を養育するために育児休業を取得している
- 休業開始日前2年間で、賃金支払いの基礎日数が11日以上の月が通算12か月以上あること」
- 休業中の就業が一定時間以内である
※原則、1か月ごとの期間の就業日数が10日(10日を超える場合は就業した時間数が80時間)以下であること
フリーランスが育児中に活用できる公的制度
フリーランスは育児休業給付金の対象外ですが、他にも活用できる公的制度があります。出産や育児の費用を支えたり、健康や生活を守ったりする制度を知ることで、不安を減らすことが可能です。
ここでは、代表的な5つの制度を紹介します。
出産育児一時金
出産育児一時金は、出産費用の負担を軽くする目的で支給される制度です。フリーランスでも、国民健康保険に加入していれば受け取れます。
項目 | 内容 |
制度の概要 | 出産育児一時金は、健康保険や国民健康保険などの被保険者やその被扶養者が出産した際に、出産費用の負担軽減を目的として一定額が支給される制度 |
支給要件 | ・日本の公的医療保険(健康保険・国民健康保険等)に加入していること ・妊娠4か月(85日)以上での出産であること(早産・死産・流産・人工妊娠中絶も含む) |
支給額 | ・産科医療補償制度加入の医療機関で妊娠22週以降に出産:1児につき50万円 ・産科医療補償制度未加入の医療機関で出産、または妊娠22週未満の出産:1児につき48.8万円 ・多胎児の場合は胎児数分支給 |
手続き方法 | 以下の3つの方法から選択: ① 直接支払制度:医療機関が保険者に申請し、出産育児一時金が医療機関へ直接支払われる ② 受取代理制度:本人が保険者に申請し、医療機関が本人に代わって一時金を受け取る ③ 償還払い(直接申請):本人が出産費用を全額支払い、その後健康保険組合に申請して一時金を受け取る |
(2025年6月時点情報)
出典:出産育児一時金等について(厚生労働省)/子どもが生まれたとき(国健康保険協会)
原則として1児につき50万円が支給されます。たとえば双子の場合は2人分の金額が支給対象です。
フリーランスにとっては、出産時の一時的な出費を抑える意味でも大きな支援になります。保険証やマイナンバーカードを準備し、申請方法を事前に確認しておくと安心です。
こどもに係る医療費助成制度
こどもに係る医療費助成制度は、子どもの通院・入院にかかる医療費の自己負担分を自治体が負担してくれる制度です。対象となる子どもの年齢や助成内容は、自治体ごとに異なります。
たとえば、自己負担なしで中学校卒業まで助成が受けられる地域もあれば、一部自己負担が必要な地域もあります。
こどもに係る医療費助成制度は、子育て中の家庭にとって医療費負担を大きく減らせる手段です。住んでいる地域の制度内容を早めに確認しておきましょう。
出産・子育て応援交付金
出産・子育て応援交付金は、妊娠から出産、育児の初期までを切れ目なく支援するための制度です。フリーランスでも対象となり、全国の市区町村で実施されています。
交付金の内容は以下の通りです。
支援タイミング | 支給額の目安 |
妊娠時 | 5万円 |
出産・育児時 | 5万円 |
(2025年6月時点情報)
支給には、原則として「面談」や「妊娠届出書」の提出など、一定の手続きが必要です。窓口は、市区町村の子育て支援課や保健センターにあります。
この制度は現金支給ではなく、指定のギフトカードや電子クーポンで支給される場合もあります。自治体によって申請方法や内容が少しずつ異なるため、出産前に確認しておきましょう。
出典:令和6年度出産・子育て応援交付金の交付について(こども家庭庁)/出産・子育て応援交付金の概要について(厚生労働省)
児童手当
児童手当は、0歳から中学卒業(18歳)までの子どもを育てている家庭に支給される現金給付です。フリーランスも対象で、はたらき方に関係なく受け取れます。
支給金額は、以下の通りです。
項目 | 内容 |
制度の概要 | 0歳から18歳に達する日以後の最初の3月31日までの児童を養育している方に支給される制度 |
支給要件 | ・日本国内に住所がある児童を養育していること(留学中など一部例外あり) ・監護相当・生計費の負担要件を満たす児童の兄姉等 |
支給額 | ・3歳未満:15,000円(第3子以降は30,000円) ・3歳以上~高校生年代まで:10,000円(第3子以降は30,000円) ※「第3子以降」は、18歳到達年度末までの兄姉を含めて数える |
申請期限 | ・出生日または転入日の翌日から15日以内に申請 ・期限を過ぎると原則として遅れた月分は受給できない |
必要書類 | ・児童手当認定請求書 ・請求者の本人確認書類(マイナンバーカード、運転免許証等) ・請求者名義の口座情報 ・請求者の健康保険証または年金加入証明書 ・監護・生計費負担確認書(※高校卒業までの子どもは通常不要ですが、別居や収入がある場合、または高校卒業後も特例として申請する場合は提出が求められることがあります) ・必要に応じて所得証明書等 |
(2025年6月時点情報)
申請は、出産後または転入後に、住民票のある自治体で行います。必要書類には、マイナンバーカードや振込口座の情報などがあります。
児童手当は子どもの成長に伴う日々の出費に使える支援で、申請が遅れるとさかのぼっての支給は受けられません。必ず早めに手続きしておきましょう。
妊婦健康診査費用助成
妊婦健康診査費用助成は、妊婦健診にかかる費用の一部または全部を自治体が負担する制度です。妊娠中のフリーランスが安心して健診を受けるために、欠かせない支援といえるでしょう。
助成の回数や金額は自治体によって異なります。詳細は各自治体の公式サイトで確認してください。
妊婦健康診査は、母体と赤ちゃんの健康を守る基本的な医療行為です。費用負担を気にせず受診するためにも、制度の内容をよく確認しておきましょう。
2026年10月より国民年金における育児期間の保険料が免除
2026年10月から、育児中の自営業やフリーランスでも国民年金保険料が免除されます。対象は第1号被保険者で、子が1歳になるまでの期間が免除対象です。所得の制限や就業の有無に関係なく、対象になります。
この免除制度は、会社員の育児休業中と同様の支援を、フリーランスなどにも広げるしくみです。保険料を免除された月も、将来の年金額に満額反映されます。
すでに産前産後免除を受けている場合でも、さらに9か月間の免除が追加されます。はたらき方を問わず、育児期の負担軽減と老後の年金保障を両立する制度です。
以下に制度の概要をまとめました。
項目 | 内容 |
対象者 | 国民年金第1号被保険者(自営業者、フリーランス、無職など)で、子どもを養育する父母(養父母を含む) |
対象期間 | 子が1歳になるまで(実母の場合、産後免除期間に続く9か月間も対象) |
所得制限 | なし |
就業の有無 | 問わない |
免除対象となる保険料の扱い | 保険料納付済期間として年金額に満額反映 |
制度の財源 | 子ども・子育て支援金 |
施行開始日 | 2026年10月1日 |
(2025年6月時点情報)
免除を希望する場合は、市区町村の窓口での申請が必要になる見込みです。詳細な手続きは今後公表されるため、定期的に自治体や年金機構の情報を確認しておきましょう。
出典:子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律案における国民年金法の改正について(厚生労働省)
出産〜育児期の仕事・収入を守る実践3ステップ
フリーランスにとって、出産と育児ははたらき方を見直す大きな転機です。収入をゼロにしないよう、仕事の流れを止めないための工夫を取り入れること大切です。
ここでは、実際に役立つ3つのステップを紹介します。
クライアントとの調整術
出産前に最優先で取り組みたいのは、クライアントとの調整です。安心して育児に集中するためには、早めの情報共有と契約内容の見直しがポイントになります。
妊娠が安定期に入ったら、納期や連絡体制についてクライアントと話し合いましょう。伝える内容の整理例は以下の通りです。
- 産前・産後で想定される仕事の時期
- 一時的に業務を引き継ぐ必要があるかどうか
- 緊急時の連絡方法(メール・チャット・電話など)
さらに、作業内容や進行状況を見える化しておくと、信頼維持に役立ちます。契約書の変更が必要な場合は、「契約変更合意書」などで、納期延長や作業内容の一部縮小を明文化しておくと安心です。
ポイントは、「信頼関係だけでカバーするのではなく、仕組みで補う」という意識を持つことです。
資金計画の立て方
資金計画は、育児と仕事を無理なく両立するための土台です。出産後ははたらける時間が減る可能性があるため、休業中の生活費と復帰までの期間を想定して備えておきましょう。
まず、収入が止まる期間の生活費を3か月〜6か月分を目安として確保するのが基本です。
次に、出産育児一時金や児童手当などの公的給付を受け取る時期と金額を一覧化し、キャッシュフローのギャップを確認します。家計簿アプリやExcelで一覧にすると把握しやすくなるでしょう。
保活&預け先確保戦略
保活(保育園探しや入園準備)は、育児と仕事の両立に直結する現実的な課題です。
まず、居住地域の「保育園利用案内」を自治体のサイトや窓口で確認します。次に、以下のようなステップで情報を整理していきましょう。
- 地域の待機児童状況を確認(市区町村の保育課)
- 認可保育園と認可外保育園の違いを比較
- 自営業用の就労証明書のフォーマットを取得
- 実績や収入を示せる資料を用意(業務報告書・確定申告書など)
また、認可外保育園や小規模保育所、一時保育、ファミリーサポートセンターなど、選択肢を広く検討しておくことも大切です。
出産・育児中に使えるフリーランス向け民間支援サービス
出産や育児期も安心してはたらくためには、行政だけでなく民間の支援サービスも活用がおすすめです。
サービス種別 | 特徴 |
所得補償保険 | 病気やケガではたらけなくなった場合に、所得を補償してくれます。 |
共済制度 | 比較的安い掛金で、出産祝い金や帝王切開による入院費用などが受け取れる場合があります。 |
ベビーシッターサービス | 仕事に集中したい時やリフレッシュしたい時に、単発で子どもを預けることができます。 |
家事代行サービス | 産後の体力が回復しない時期に、掃除や料理などを依頼することで負担を軽減できます。 |
万が一の事態に備え、これらの活用も検討しましょう。
育児中でもできる在宅ワークモデル
育児中はまとまった作業時間が取りにくくなりますが、工夫次第で仕事を続けられるモデルも存在します。
ここでは、実際の案件をどのように変えていくか、時間にゆとりを生むはたらき方を具体的に紹介します。
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既存案件のタスクを細分化してディレクション業務に徹する
既存案件のタスクを細分化し、自分が手を動かす部分を減らす方法は、育児中のフリーランスにとって有効です。時間の余白が少ない中では、「自分がやる作業」と「他の人に依頼する作業」を分ける視点が必要です。
たとえば、ライターであれば、以下のように分担できます。
- リサーチ:外注またはAIに任せる
- ラフ構成:自分で作成
- 原稿作成:パートナーライターに依頼
- 最終チェック・納品:自分で対応
また、Webデザイナーの場合は、デザイン指示書やレイアウト案を作成し、コーダーや制作パートナーに落とし込むだけでも作業時間を圧縮できます。
タスクを細かく分けて「進捗管理」だけを担うようにすれば、自分の可動時間に合わせて仕事を回せます。時間とスキルの使い方を見直し、ディレクション業務へシフトすることで作業時間の短縮を目指せます。
家事や育児と両立できる高効率な業務を選択する(監修・講師・UXレビュー等)
家事や育児と両立できる仕事を選ぶには、短時間でも専門性を活かせる業務を探すことが効果的です。
たとえば以下のような仕事があります。
- 専門記事の監修
- オンライン講座の講師
- UXレビューやUIフィードバック
- キャリアコーチングやSNS相談
いずれも、自分の経験を活かして「判断力」や「提案力」で貢献できる仕事で、夜間やすきま時間にも取り組めます。自分の専門スキルに合った業務を一度棚卸しし、単価と時間効率のバランスが良い案件を選んでみましょう。
フリーランスの育休について気になっている方によくある質問
フリーランスとしてはたらきながら出産や育児に向き合うと、制度やはたらき方の疑問が次々に出てきます。
ここでは特に質問が多い内容を2つ取り上げ、具体的に答えていきます。
Q1. 妊娠判明からいつクライアントへ報告すべき?
妊娠をクライアントに伝えるタイミングは、業務への影響が見込まれる段階での報告が理想です。安定期を待つケースもありますが、納期や仕事の状況に関わる場合は早めの共有が信頼関係につながります。
伝える際には、単に妊娠を報告するのではなく、次の点をセットで共有することが大切です。
- 出産予定日
- 仕事の継続可否と期間
- 必要な調整(納期や業務量)
- 緊急時の連絡手段
たとえば、「○月○日が出産予定で、○月中旬から○月末までは対応を調整したい」「業務量の一部は減らすが継続は可能」など、具体的に伝えましょう。
クライアントとの関係を円滑に保つためにも、配慮と提案をセットにして伝えましょう。
Q.2 育休中に副業を行なってもよい?
フリーランスの場合、法的に「育休中だからはたらけない」という制限はありません。そのため、自分のペースで副業を続けたり、新しい仕事を始めたりすることも可能です。
たとえば、平日昼間は育児に専念し、夜間に1日1時間だけSNS運用やコンサル業務を行うなど、自分に合ったスタイルではたらけます。収入確保やスキル維持のためにも、無理のない範囲ではたらくという選択肢も持っておきましょう。
フリーランスは育休制度を早いうちから正しく理解しておきましょう
フリーランスには、会社員のような法律で定められた育休制度や育児休業給付金はありません。
しかし、出産育児一時金や児童手当といった公的支援をフル活用し、計画的に資金を準備することで、経済的な不安を軽減することも可能です。
大切なのは、制度がないことを悲観するのではなく、利用できる制度を正確に把握し、自分たちの状況に合わせて主体的に行動計画を立てることです。クライアントとの良好な関係を維持しながら柔軟なはたらき方を模索し、フリーランスならではの自由な子育てを実現していきましょう。
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