【税理士監修】フリーランスは青色申告にすべき?メリット・デメリットや申請のやり方徹底解説

本記事では、青色申告制度の本質から、フリーランスが事業を成長させるための戦略的な活用法までを徹底的に解説します。表面的な節税額だけでなく、その背景にある考え方や、将来の事業展開にもたらす影響を深く掘り下げているので、ぜひ参考にしてみてください。
フリーランスが押さえておきたい青色申告の基礎知識

青色申告を戦略的に活用するためには、まずその制度の根幹を理解しておくことが重要です。
ここでは、青色申告の定義と、多くのフリーランスが選択に迷う白色申告との本質的な違いを明確にします。
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青色申告とは
青色申告とは、所得税の確定申告方法の一つであり、日々の取引を所定の帳簿に記録し、その記録に基づいて所得を計算・申告する制度です。この制度を利用できるのは、不動産所得・事業所得・山林所得のいずれかがある個人事業主やフリーランスです。
この制度の根底には、「高い透明性の確保と引き換えに、税制上の優遇措置を与える」という原則があります。正規の簿記の原則による記帳(一般的には複式簿記)を行い、事業の財務状況を正確に報告することを条件に、後述するさまざまなメリットが提供される点が特徴です。
青色申告を選択することは、自身の事業を客観的な数値で管理し、経営者としての視点を持つという意思表示でもあります。日々の収支だけでなく、資産や負債の状況までを把握する複式簿記の実践は、フリーランスとしての活動を「個人商店」から一歩進んだ「企業経営」へと近づけるための重要なステップとなるでしょう。
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青色申告と白色申告の違い
フリーランスが確定申告を行う際、青色申告と比較されるのが白色申告です。両者の違いは、手続きの手間と受けられる税制上のメリットの大きさにあります。どちらを選ぶかは、自身の事業規模や将来の展望を考慮した上で判断するとよいでしょう。
大きな違いは、青色申告が事前に「所得税の青色申告承認申請書」を税務署へ提出する必要があるのに対し、白色申告は特別な申請が不要です。青色申告の申請をしなければ自動的に白色申告として扱われます。
また、記帳方法にも明確な差があります。最大65万円の特別控除を受けるためには、青色申告では複式簿記という正規の簿記原則に基づいた記帳が求められます。
一方、白色申告は簡易的な記帳で済みますが、その分、青色申告に用意されているような節税につながる特典はあまりありません。
以下の表で、両者の主な違いを比較してみましょう。
項目 | 青色申告 | 白色申告 |
事前申請 | 必要(青色申告承認申請書) | 不要 |
記帳方法 | 複式簿記(最大65万円控除の場合)または簡易簿記 | 簡易簿記 |
特別控除 | 最大65万円(要件あり) | なし |
赤字の繰越 | 3年間可能(要件あり) | 原則不可 |
家族への給与 | 全額経費にできる(要件あり) | 専従者控除の上限あり |
30万円未満の備品 | 「少額減価償却資産の特例」により、一括経費にできる(年間300万円まで) | 10万円未満のみ一括経費にできる |
提出書類 | 確定申告書、青色申告決算書 | 確定申告書、収支内訳書 |
かつては白色申告の「手軽さ」が魅力とされていましたが、現代では会計ソフトの普及により、複式簿記の負担は大幅に軽減されています。
そのため、白色申告の「簡便さ」を優先するよりも、青色申告による税制上のメリットを活用する方が合理的な選択となり得るといえそうです。
出典:はじめてみませんか?青色申告(国税庁)/No.2070 青色申告制度(国税庁)/No.5408 中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例
フリーランスが青色申告を選ぶメリット
青色申告は、単に税負担を軽減するだけでなく、フリーランスの事業基盤を強化し、成長を後押しする多様なメリットを備えています。
ここでは、その中でも特に重要な5つのメリットを掘り下げて解説します。
最大65万円の青色申告特別控除が受けられる
青色申告の魅力の一つに、所得金額から直接差し引ける「青色申告特別控除」が挙げられます。この控除により課税対象となる所得が圧縮され、結果として所得税や住民税、国民健康保険料の負担を軽減することが可能です。
控除額は記帳方法や申告方法によって10万円・55万円・65万円の3段階に分かれています。
各控除額の適用要件は以下のとおりです。
控除額 | 所得の種類 | 記帳方法 | 提出書類 | 電子申告または電子帳簿保存 |
65万円 | 事業所得・不動産所得(事業的規模) | 複式簿記 | 貸借対照表・損益計算書 | 必須 |
55万円 | 事業所得・不動産所得(事業的規模) | 複式簿記 | 貸借対照表・損益計算書 | 不要 |
10万円 | 事業所得・不動産所得・山林所得 | 簡易簿記 | 損益計算書 | 不要 |
青色申告控除は、いわば国が正規の記帳を行う事業者に対して提供するインセンティブです。65万円の控除を受けることで生まれる数十万円単位の節税額は、新しい機材の購入やスキルアップのための自己投資、広告費など、事業成長のための資金として活用することも可能です。
赤字を3年間繰り越せる
フリーランスの収入は、プロジェクトの受注状況などによって年ごとに大きく変動することが少なくありません。青色申告には、そのような不安定な収入状況に対応するためのセーフティネットが用意されています。それが「純損失の繰越控除」です。
この制度は、事業で赤字(純損失)が生じた場合、その損失額を翌年以降最大3年間にわたって繰り越し、将来発生した黒字と相殺できるというものです。たとえば、開業初年度に50万円の赤字が出ても、翌年に150万円の黒字が出た場合、繰り越した50万円の赤字と相殺し、課税所得を100万円に圧縮できます。
一方、白色申告では、各年が独立して課税されるため、赤字の年の損失は切り捨てられ、黒字の年にはその全額に対して課税されます。青色申告のように、複数年にわたる事業活動を一体として捉え、税負担を平準化する効果はありません。
事業が軌道に乗るまでの初期投資がかさむ開業期や、大型案件の合間で収入が途絶えがちなフリーランスにとって、重要なリスク管理の手段となるでしょう。
家族への給与を経費にできる
フリーランスとして活動していると、配偶者や親族が事務作業や経理を手伝ってくれるケースは少なくありません。青色申告では、このような家族の貢献を正式な労働対価として認め、支払った給与を全額必要経費に算入できる「青色事業専従者給与」という制度があります。
この制度を利用するには、以下の条件を満たす必要があります。
- 生計を同一にしている15歳以上の親族
- その年を通じて6か月を超える期間、事業に専ら従事している
- 事前に「青色事業専従者給与に関する届出書」を提出している
白色申告にも「事業専従者控除」という類似の制度がありますが、こちらは配偶者で最大86万円、その他の親族で最大50万円という控除額の上限が定められています。一方、青色申告では、仕事内容に見合った妥当な金額であれば、支払った給与の全額を必要経費として計上可能です。
家族の労働に対価を支払うことで、事業主自身の高税率の所得を、より低い税率が適用される可能性のある家族へ分散させる「所得分散効果」が期待できます。結果、世帯全体での納税額を最適化することが可能です。
30万円未満の備品を一括で経費にできる
デザイナーやエンジニア、映像クリエイターなど、多くのフリーランスにとって、高性能なパソコンやソフトウェア、カメラ機材などは重要な投資です。青色申告者には、こうした設備投資を促進するための「少額減価償却資産の特例」が認められています。
通常、取得価額が10万円以上の備品(減価償却資産)は、購入した年に全額を必要経費にすることはできず、法定耐用年数に応じて数年間にわたって分割して経費計上(減価償却)しなければなりません。しかし、青色申告者であれば、この特例により取得価額が30万円未満の減価償却資産について、購入・使用を開始した年にその全額を一括で必要経費として計上できます(年間合計300万円が上限)。
たとえば、25万円のパソコンを購入した場合、白色申告では数年に分けて経費化しますが、青色申告であれば、その年の必要経費として25万円全額を計上可能です。これにより、利益が多く出た年に戦略的に設備投資を行うことで、その年の納税額を抑えられます。
出典:No.5408 中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例(国税庁)
貸倒引当金で回収不能な売掛金に備えられる
フリーランスにとって大きな経営リスクの一つが、取引先の倒産などによる売掛金の回収不能(貸倒れ)です。青色申告では、このような不測の事態に備えるため、「貸倒引当金(かしだおれひきあてきん)」を計上することが認められています。
これは、期末時点での売掛金や受取手形などの売上債権の残高から一定の割合を、将来発生するかもしれない貸倒れによる損失の見積額として、あらかじめその年の必要経費に計上できる制度です。
一般的な事業者の場合、期末時点の売掛金などの合計額の5.5%以内を限度として貸倒引当金に繰り入れることが認められています。一方で、金融業については、より低い割合である3.3%以内が上限とされています(一括評価)。
白色申告の場合、実際に貸倒れが発生して回収不能が確定した時点ではじめて損失として計上できますが、青色申告では事前にリスクを見越して費用計上できます。
期末ごとに売掛金の残高を確認して貸倒引当金を計算することで、回収が遅れている案件はないか、特定の取引先にリスクが集中していないかを見直すよい機会となります。事業運営におけるリスク管理の習慣を育む上でも効果的な制度といえるでしょう。
フリーランスが青色申告を選ぶ際の注意点
青色申告には多くの節税メリットがありますが、その恩恵を受けるには、一定の条件を満たすための手続きや管理が必要です。とはいえ、これらの条件は専門家でなくても、会計ソフトやe-Taxなどのデジタルツールを活用すれば十分に対応可能です。
ここでは、青色申告を行う前に知っておきたい4つの注意点を紹介します。
55万円以上の控除を受けるには「複式簿記」による記帳が必要
青色申告特別控除のうち、55万円または65万円の控除を受けるには、「複式簿記」による帳簿づけが必須です。
複式簿記とは、一つの取引を「原因」と「結果」など二つの側面から捉え、借方(かりかた)と貸方(かしかた)に分けて記録する方法です。これにより、お金の出入り(損益)だけでなく、資産や負債の状況までを正確に把握できる貸借対照表の作成が可能になります。
「複式簿記」と聞くと、専門知識が必要で難しいという印象を持つかもしれません。確かに、手書きの帳簿でこれを行うのは大変な作業です。
しかし、現在は会計ソフトの発達により、銀行口座やクレジットカードの取引データを自動で取り込み、仕訳を自動生成することも可能です。簿記の専門知識がなくても、ツールを使えば日々の記帳作業の負担を大幅に減らせるでしょう。
65万円控除を受けるにはe-Tax(電子申告)か電子帳簿保存が必須
青色申告特別控除のうち、最も高い65万円の控除を受けるためには、前述の複式簿記などの要件に加えて、以下のデジタル要件のいずれかを満たす必要があります。
- 「e-Tax(国税電子申告・納税システム)」を利用して電子申告する
- 「電子帳簿保存法の要件」を満たして帳簿を電子データで保存する
e-Taxを利用すれば、税務署に出向く必要がなく、24時間いつでも申告が可能になるなど、納税者側にも大きなメリットがあります。電子申告は節税対策だけでなく、業務効率化の面でも重要な選択肢となるでしょう。
提出書類が多く作成・保存の手間がかかる
青色申告では、白色申告に比べて作成・保存すべき帳簿や決算書がより詳細になります。具体的には、白色申告で提出する「収支内訳書」の代わりに、「青色申告決算書」を作成・提出する必要があります。
青色申告決算書は全4ページ構成で、1ページ目が損益計算書、2〜3ページ目が内訳、4ページ目が貸借対照表です。特に貸借対照表の作成には複式簿記の理解が求められます。
ただし、近年は会計ソフトの活用により、日々の取引を正しく入力していれば自動的に決算書を作成できるため、作業負担は大幅に軽減されます。実務上の課題は、書類作成よりも「日々の記帳を継続すること」といえるでしょう。
帳簿や証憑書類には一定の保存義務がある
青色申告を行う事業者は、作成した帳簿や取引に関する書類を法律で定められた期間保存する義務があります。
具体的には、仕訳帳や総勘定元帳といった主要な帳簿、そして損益計算書や貸借対照表などの決算関係書類は、原則として7年間の保存が必要です。一方で、請求書や領収書、見積書といった証憑(しょうひょう)書類の保存期間は5年と定められています。
ただし、前々年分の事業所得や不動産所得が300万円以下の場合、現金取引等の関係書類は5年保存でも差し支えありません。
保存は税務調査への備えになるだけでなく、融資や補助金申請の際に信頼性を示す資料にもなります。「義務」ではなく「事業の信用を支える仕組み」として捉えることが大切です。
初めての青色申告|申請から提出までの流れ・やり方
青色申告を始めるための手続きは、一見複雑に思えるかもしれませんが、ステップごとに分解すれば決して難しいものではありません。
ここでは、事業の開始から確定申告書の提出まで、具体的な流れを5つのステップに分けて解説します。
ステップ1:開業届を税務署に提出する
個人事業主として事業を開始したら、まずは「個人事業の開業・廃業等届出書」(通称:開業届)を提出しましょう。所得税法上、事業開始から1か月以内に納税地を管轄する税務署へ提出することが義務付けられています。ただし、提出が遅れたり、提出しなかったりした場合でも、直接的な罰則は設けられていません。
また、屋号を開業届に記載しておくと公的な書類上でも屋号が明記され、屋号つきの銀行口座を開設できたり、法人化した際に屋号を引き継げる可能性があったりと、さまざまなメリットを得ることが可能です。
今後、事業を発展させたいなら、開業届を提出しておくとよいでしょう。
出典:A1-5 個人事業の開業届出・廃業届出等手続(国税庁)
ステップ2:青色申告承認申請書を提出する
開業届を提出したら、次に「所得税の青色申告承認申請書」を税務署に提出しましょう。この書類を提出することで、青色申告を行う承認を税務署から得ることが可能になります。
期限は原則として、青色申告を始めたい年の3月15日までです。ただし、その年の1月16日以降に新規開業した場合は、開業日から2か月以内に提出すれば、その年から青色申告が適用されます。
たとえば、4月1日に開業した場合、提出期限は5月31日となります。多くの場合は開業届と同時に提出することで、手続きの漏れを防ぐことが可能です。
ステップ3:会計帳簿を準備する
青色申告の承認申請が済んだら、日々の取引を記録するための会計帳簿の準備に取り掛かります。
青色申告で最大65万円の控除を目指す場合、複式簿記による記帳が必要となり、主に「仕訳帳」と「総勘定元帳」という2つの主要簿を作成しなければなりません。手書きでの作成も不可能ではありませんが、効率性と正確性を考えると、会計ソフトの導入が現実的です。
この段階で、事業用の銀行口座やクレジットカードを会計ソフトに連携させておくと、取引データを自動で取り込むことが可能になり、日々の記帳作業を大幅に効率化できます。
ステップ4:確定申告書・青色申告決算書を作成する
事業年度(個人の場合は1月1日から12月31日)が終了したら、1年間の帳簿記録を締め切り、確定申告のための書類作成に移ります。青色申告で提出が必要な主な書類は、「確定申告書」と「青色申告決算書」の2種類です。
高機能な会計ソフトを利用していれば、日々の取引データからこれらの書類は自動で作成されます。複式簿記の知識がなければ作成が難しい「貸借対照表」や「損益計算書」を含む青色申告決算書についても、自動で集計・生成できるソフトは少なくありません。
このような会計ソフトを使用すれば、利用者は内容を確認し、必要な情報を追記するだけで済みます。
国税庁のWebサイト「確定申告書等作成コーナー」を利用して作成することも可能です。ただ、日々の記帳から一気通貫で管理できる会計ソフトの方が、フリーランスにとっては効率的でしょう。
ステップ5:e-Taxまたは郵送・持参で提出する
確定申告書類が完成したら、最後に税務署へ提出します。
提出方法は、主に以下の3つです。
e-Tax(電子申告) | インターネット経由で申告データを送信する方法です。マイナンバーカードと対応するスマートフォンまたはICカードリーダーがあれば、自宅から24時間提出可能です。 前述のとおり、65万円の青色申告特別控除を受けるためには、このe-Taxによる申告が要件の一つとなっています。 |
郵送 | 作成した申告書を印刷し、管轄の税務署へ郵送します。この場合、通信日付印(消印)が提出日とみなされます。 |
税務署へ持参 | 管轄の税務署の窓口へ直接持参して提出します。時間外収受箱が設置されている税務署であれば、閉庁時間でも投函による提出が可能です。 |
効率性や節税効果を高めたい場合は、e-Taxの利用が便利です。また、郵送、税務署へ持参した場合には控えの収受印がもらえないため、確定申告書を住宅ローンや融資などで利用する場合も、e-Taxの利用がおすすめです。
フリーランスが青色申告の作成・提出を効率化する方法
青色申告のメリットを最大限に享受するためには、記帳や申告にかかる手間をいかに削減するかが鍵となります。ここでは、日々の負担を軽減し、より本業に集中するための具体的な3つの方法をご紹介します。
会計ソフト・アプリを活用する
青色申告を効率化するために効果的な解決策は、クラウド会計ソフト・アプリの活用です。簿記の専門知識がないフリーランスでも、日々の取引入力から確定申告書類の作成までをスムーズに行えるよう設計されているサービスが数多く存在しています。
また、一部のサービスには、スマートフォンアプリと提携することで、レシートを撮影するだけで必要経費の入力が完了する機能も存在します。場所を選ばずに経理作業を進めることが可能です。
これらのソフトは、複雑な複式簿記の処理をバックグラウンドで自動的に行ってくれるため、利用者は取引の内容と金額を入力するだけで済みます。会計ソフトは、複式簿記による記帳やe-Tax申告など、65万円控除を受けるための条件をスムーズに満たすために役立ちます。
金融機関・クレジットカードと連携してデータを自動取得する
会計ソフトの中には、銀行口座やクレジットカードと連携できるものがあります。これにより、入出金やカード利用の明細データが自動で取り込まれ、記帳作業の大部分を自動化できます。
この機能により、手作業での入力ミスが防げるだけでなく、記帳漏れのリスクも大幅に減少します。フリーランスの場合、事業用の銀行口座とクレジットカードをプライベート用と明確に分け、それらを会計ソフトに連携させることで、経理の正確性と効率が向上します。
取引ごと・月毎に記帳・領収書を整理しておく
ツールを導入しても、日々の業務習慣が伴わなければ効率化は実現しません。
特に、1年分の領収書や請求書を確定申告の時期にまとめて処理しようとすることは避けましょう。大きなストレスの原因となるだけでなく、記憶が曖昧になることで必要経費の計上漏れや誤りを引き起こしやすくなります。
効果的なのは、経理作業を日々のルーティンに組み込むことです。たとえば、「週末に1週間分のレシートを処理する」「毎月末にその月の取引をすべて確定させる」といったルールを設けるとよいでしょう。
取引が発生するたびにスマートフォンアプリでレシートを撮影し、簡単なメモを残しておくだけでも、後の作業は格段に楽になります。小さな努力を継続的に行うことが、確定申告期に慌てないための最善の策であり、正確な経営状況をリアルタイムで把握するための基本です。
フリーランスが注意すべき青色申告の変更点
税制は社会経済の状況を反映して常に変化しており、フリーランスもその動向を注視する必要があります。
ここでは、今後の事業計画や税務戦略に直接影響する、最新の税制改正のポイントを解説します。
基礎控除の控除額が引き上げられる
令和7年度(2025年度)税制改正大綱において、物価上昇への対応策として、所得税の「基礎控除」の引き上げが盛り込まれました。基礎控除は、すべての納税者の合計所得金額から一律で差し引かれる控除であり、多くのフリーランスにとって減税に繋がります。合計所得金額が2,350万円以下の納税者を対象に、基礎控除額が引き上げられるのが特徴です。
- 合計所得金額132万円以下:95万円(改正前:48万円)
- 合計所得金額132万円超336万円以下:88万円(令和9年分以後は58万円)(改正前:48万円)
- 合計所得金額336万円超489万円以下:68万円(令和9年分以後は58万円)(改正前:48万円)
- 合計所得金額489万円超655万円以下:63万円(令和9年分以後は58万円)(改正前:48万円)
- 合計所得金額655万円超2,350万円以下:58万円(改正前:48万円)
出典:令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について(国税庁)
この改正は、単なる一律の減税ではなく、所得階層に応じて手厚く配慮する構造になっています。フリーランスは自身の所得水準がどの階層に該当するかを把握し、将来の納税額をシミュレーションすることが重要です。
青色申告特別控除65万円の適用要件が変更される(令和9年分以降から適用)
青色申告特別控除65万円の適用要件も、将来的な変更が予定されています。これは令和9年(2027年)分の所得税から適用されるもので、デジタル化をさらに推進する国の意図が反映されています。
現行制度では、65万円控除を受けるには「e-Taxによる電子申告」または「優良な電子帳簿の保存」のいずれかを満たす必要がありました。改正後は、これらに加えて新たな選択肢が追加されます。
具体的には、「国税庁長官が定める基準に適合するシステムを使用して、電子取引データの送受信・保存が行われている場合」でも65万円控除の適用が認められるようになります。
フリーランスが会計ソフトや請求書発行システムを選ぶ際は、こうした将来の制度変更にも柔軟に対応できる、信頼性の高いサービスを選択することが重要です。
フリーランスの青色申告に関するよくある質問(FAQ)
ここでは、フリーランスが青色申告を検討・実践する上で抱きがちな、具体的な疑問についてお答えします。制度の切り替えや他の税金との関連性など、実務的なポイントをQ&A形式で解説します。
青色申告をやめたいときはどうすればいい?
一度青色申告を始めた後でも、事業規模の縮小などの理由で白色申告に戻りたい場合は、所定の手続きを行うことで変更が可能です。
具体的には、「所得税の青色申告の取りやめ届出書」を、青色申告をやめようとする年の翌年3月15日までに、納税地の所轄税務署に提出する必要があります。たとえば、令和7年分の確定申告から白色申告に切り替えたい場合は、令和8年3月15日までにこの届出書を提出しなければなりません。
事業自体を廃業する場合は、この届出書とあわせて「個人事業の開業・廃業等届出書」を廃業日から1か月以内に提出します。手続きを怠ると、税務署からは事業が継続しているものと見なされて確定申告の案内が届き続けることになるため、忘れずに行いましょう。
出典:A1-5 個人事業の開業届出・廃業届出等手続(国税庁)
青色申告の場合も消費税の申告は必要?
青色申告と消費税の申告は、別の制度です。青色申告は「所得税」の計算・申告に関する制度であり、消費税の申告義務の有無には直接関係しません。
消費税の申告が必要になるのは、「課税事業者」に該当する場合です。
課税事業者になる代表的な要件は、基準期間(原則として前々年)の課税売上高が1,000万円を超えた場合です。また、2023年10月から開始されたインボイス制度への対応のために、売上高に関わらず任意で課税事業者(適格請求書発行事業者)になるフリーランスも存在します。
課税事業者となった場合は、所得税の確定申告(青色申告または白色申告)とは別に、消費税の確定申告と納税が義務付けられます。所得税の申告期限が原則翌年3月15日であるのに対し、消費税の申告期限は翌年3月31日と異なる点にも注意が必要です。
出典:消費税のしくみ(国税庁)/インボイス制度について(国税庁)/主な国税の納期限(法定納期限)及び振替日(国税庁)
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帳簿をつけていない場合でも青色申告は可能?
青色申告制度は、正規の簿記原則に基づいた正確な記帳を行うことを大前提としているため、帳簿を全くつけていない状態では青色申告を行えません。
もし、青色申告の承認を受けているにも関わらず、記帳を怠っていたことが税務調査などで発覚した場合は、ペナルティが課される可能性があります。青色申告の承認が取り消され、過去に遡って特別控除などの特典が無効になるため可能性があります。
また、追加で多額の税金を納める必要が生じるだけでなく、申告漏れに対する「過少申告加算税」や、悪質な場合は「重加算税」が課されることもあります。帳簿の作成と保存は、青色申告者の重要な義務であると覚えておきましょう。
出典:「個人の青色申告の承認の取消しについて(事務運営指針)」(国税庁)/「加算税制度の概要①(基本情報)」(財務省)
フリーランスこそ青色申告を利用して事業の成長につなげよう
本記事では、フリーランスにとっての青色申告について、その基礎知識からメリット・デメリット、具体的な手続き、そして将来の展望までを多角的に解説しました。
青色申告をすると、最大65万円の特別控除や赤字の繰越といった直接的な金銭的メリットを受けられます。また、複式簿記の実践を通じて自社の財務状況を正確に把握する習慣は、より的確な経営判断を下すための羅針盤となるでしょう。
(監修日:2025年9月12日)
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山本聡一郎税理士事務所(https://nagoya-soutax.com/)|税理士
山本聡一郎税理士事務所 代表税理士。1982年7月生まれ。名古屋市中区錦(伏見駅から徒歩3分)にてMBA経営学修士の知識を活かして、創業支援に特化した税理士事務所を運営。クラウド会計 Freeeに特化し、税務以外にも資金調達、小規模事業化持続化補助金などの補助金支援に力を入れている。
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