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【税理士監修】フリーランスも税務調査の対象?基本的な流れ・対応方法を解説

フリーランスの税務調査のイメージ

フリーランスとしてはたらくようになると、税金に関する手続きや仕組みについて気になることが増えるものです。中でも「税務調査」という言葉に対して、あまり馴染みがなく不安を感じる方もいるかもしれません。

本記事では、フリーランスが税務調査の対象となるケースや確率、調査の一般的な流れをわかりやすく解説します。万が一税務調査を受けた時の具体的な対応方法も紹介しているので、ぜひ参考にしてみてください。

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フリーランスも税務調査の対象?

フリーランスとして活動する上で、税務調査は無関係ではありません。健全に事業を運営するためには、税務調査の基本的な仕組みを正しく理解しておくことが大切です。

本章では、フリーランスが税務調査の対象となるのか、またその発生頻度について解説します。

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税務調査はフリーランスも対象

フリーランス(個人事業主)も税務調査の対象です。

税務調査とは、納税者が提出した確定申告書の内容が正確であるかどうかを、税務署や国税庁が確認するための手続きです。所得があるにも関わらず申告していない、売上を少なく計上している、不適切な経費を計上しているなどの可能性がある場合に、その内容を確認するのが目的です。

会社員の場合、源泉徴収や年末調整で納税手続きが完結できるケースが多く、税務署との直接的なやり取りは少ないかもしれません。しかし、フリーランスは自らの責任で所得を計算し、納税額を確定させる必要があります。

申告内容に誤りや不明点があると判断された場合は、所得金額や事業規模にかかわらず調査が行われることがあります。

出典:国税通則法第74条の2(e-GOV法令検索)

税務調査を受けるフリーランスの確率

「フリーランスは税務調査の対象」と聞くと、身構えてしまう方もいるかもしれません。しかし、すべてのフリーランスが調査を受けるわけではありません。

令和4年度において、所得税の確定申告書を提出した人のうち、納税が必要な納税者数は約653万人でした。一方で、同年度に行われた個人の所得税に対する実地調査の件数は46,306件です。

これらの数値から計算すると、税務調査を受ける確率は約0.7%となります。納税者約140人のうち1人が調査を受けている計算です。

この数値からもわかるように、税務調査は誰にでも起こる一般的な出来事ではなく、主に申告内容に疑義がある場合や、特定の確認が必要と判断されたケースで実施されます。

後述する「税務調査の対象になりやすい特徴」に該当しない限り、過度に心配する必要はないでしょう。

出典:令和4事務年度 所得税及び消費税調査等の状況(国税庁)
出典:令和4年分の所得税等、消費税及び贈与税の確定申告状況等について(国税庁)

税務調査の対象になりやすいフリーランスの特徴

どのようなフリーランスが税務調査の対象に選ばれやすいのでしょうか。ここからは、税務調査のターゲットとなりやすいフリーランスの具体的な特徴を7つ紹介します。

確定申告をしていない

所得があるにも関わらず確定申告をしていない「無申告」の状態は、税務調査の対象となる可能性が高いです。税務署は、支払調書や取引先の情報などから、誰にいくら支払いがあったかを把握しています。「売り上げが少ないから大丈夫」と考えるのはリスクがあります。

特に、クライアントが法人である場合、その法人が必要経費としてあなたの報酬を計上しているため、税務署はあなたの収入を把握しやすくなります。無申告が確認された場合、本来納めるべき税金に加えて、無申告加算税や延滞税が課される可能性があります。

事業の信頼を失うだけでなく、金銭的にも大きな打撃を受けるため、期限内に確定申告を行いましょう。

出典:No.2024 確定申告を忘れたとき

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売り上げや利益が急増・急減している

前年度と比較して売り上げや利益が急激に増えたり、逆に不自然に減少したりしている場合も、税務署の注意を引く要因となります。

たとえば、売り上げが前年の2倍以上に増加しているにも関わらず、所得の伸びが緩やかであれば「売り上げの一部を隠しているのではないか」と疑われる可能性があります。反対に、売り上げは変わらないのに利益が大幅に減少していると「架空の必要経費を計上しているのではないか」という疑念を抱かれかねません。

もちろん、新規の大型案件を獲得したり、事業投資のために大きな必要経費を支出したりと、正当な理由があるケースも多いでしょう。税務調査で問われた際に、その変動の理由を帳簿や契約書など客観的な資料に基づいて明確に説明できるかどうかが重要です。

経費の割合が多すぎる・不自然な経費がある

売り上げに対して必要経費の割合が多すぎる、いわゆる「経費率」が高い場合も、調査対象になりやすい特徴の一つです。業種によって経費率の平均は異なりますが、同業他社の平均値から大きく乖離していると、税務署のKSKシステム(後述)などによって不自然な数値として抽出される可能性があります。

特に注意すべきは、事業との関連性が曖昧な経費の計上です。たとえば、マーケティングコンサルタントが「接待交際費」として、家族との旅行費用や友人との飲食代を計上するケースは認められません。

また、自宅兼事務所の場合の家賃や光熱費(家事按分)の事業割合が不当に高い場合も指摘の対象となります。プライベートな支出と事業用の必要経費は明確に区別し、客観的に説明できるものだけを計上する意識が不可欠です。

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KSKシステム(国税総合管理システム)で不自然な数値が検知される

税務署は、KSKシステム(国税総合管理システム)という全国の国税局と税務署をネットワークで結んだ巨大なデータベースを運用しています。このシステムには、過去の申告データや取引先の情報などが一元的に蓄積されており、あらゆる角度から納税者の情報を分析することが可能です。

KSKシステムは、同業種・同規模の事業者と比較して売り上げや経費率が大きく異なる場合や、過去の申告内容との矛盾がある場合などに不自然な数値を検知します。

調査官の勘や経験だけでなく、こうした高度なシステムによっても調査対象は選定されています。

出典:Ⅱ 納税者サービスの充実と行政効率化のための取組(国税庁)

現金での取引が多い

近年はキャッシュレス化が進んでいますが、コンサルティングフィーやアドバイザリー報酬などを現金で受け取る機会が多い業種は、税務署から注目されやすい傾向にあります。銀行振込とは異なり、現金取引は記録が残りにくく、売り上げ除外などの不正が行われやすいと考えられているためです。

もちろん、現金での取引自体が違法なわけではありません。重要なのは、すべての現金取引を正確に帳簿に記録し、入出金の流れを明確にしておくことです。

現金売り上げが多い場合は、日々の記帳を徹底し、いつ、誰から、いくら入金があったのかを証明できるようにしておくことが、疑いを招かないための最善の策といえるでしょう。

海外取引や暗号資産(仮想通貨)の取引がある

グローバル化に伴い、海外企業との取引や、海外のプラットフォームを利用した資産運用を行うフリーランスも増えています。また、暗号資産(仮想通貨)での利益も注目されています

海外送金については、金融機関に100万円を超える国外送金等があった場合に税務署へ報告する義務(国外送金等調書制度)があります。暗号資産に関しても、国税庁は交換業者からの情報収集を強化しており、無申告や過少申告が発覚するケースが増加しています。

これらの取引で利益を得た場合は、計算方法などを正しく理解し、適正に申告することが強く求められます。

出典:内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律施行令(e-Gov 法令検索)
出典:Ⅲ 適正・公平な課税・徴収(国税庁)

SNSなどで高額な消費を発信している

SNSで高級品の購入や海外旅行など、比較的高額な消費の様子を発信することは、税務署から注目されるきっかけになる場合があります。

特に、確定申告書に記載された所得と、投稿からうかがえる生活水準に大きな差があると見られる場合には、確認の対象となる可能性があります。

たとえば、申告所得が数百万円程度であるにもかかわらず、高級車や高価な宝飾品を頻繁に紹介し、豪華な食事の様子を継続的に投稿していると、申告内容との整合性について疑問を持たれることがあります。

近年は、フリーランスがブランディングの一環として、成功している姿をアピールするケースも増えています。ただし、SNSでの発信は、ある意味で自らの経済状況を公開していることにもつながるため、投稿内容には一定の配慮をしておくと安心です。

フリーランスは税務調査が来たらどうなる?基本の流れを解説

もし税務調査の対象となった場合、どのようなプロセスで進んでいくのでしょうか。突然の連絡に慌てないためにも、事前に一連の流れを把握しておくことが大切です。

ここでは、一般的な任意調査(納税者の任意協力のもとで行われる調査)の基本的な流れを4つのステップに分けて解説します。

ステップ1:税務署からの事前通知が来る

多くの場合、税務調査は税務署の担当者からの電話による事前通知から始まります。ある日突然、調査官が事務所や自宅に訪問してくる「無予告調査」は、現金商売で不正が疑われるなど、よほど悪質なケースだけです。

電話では、担当者名、調査対象となる税目(所得税など)、調査対象期間、調査希望日時、調査場所(自宅兼事務所など)が伝えられます。提示された日程が業務の都合で難しい場合は、調整も可能です。

この段階で顧問税理士がいる場合は、すぐに税理士に連絡し、以降の対応を一任するのが一般的です。なお、税務代理権限をつけている場合は、税務署から税理士に直接連絡があり、税理士がクライアントに税務調査の旨を伝えます。

ただ、無予告調査の場合は税理士にも知らせが来ない点に注意が必要です。

ステップ2:調査日までに書類とデータを準備する

事前通知を受けたら、指定された調査対象期間の会計帳簿や証拠書類(証憑書類)を準備します。具体的には、以下のような書類が必要です。

  • 総勘定元帳、仕訳帳などの主要簿
  • 売掛帳、買掛帳などの補助簿
  • 請求書、領収書、契約書
  • 預金通帳
  • 確定申告書の控え

これらの書類を整理し、調査官からの質問にすぐ答えられるように内容を見返しておきましょう。

会計ソフトを使用している場合は、データのバックアップを取り、必要に応じて印刷できるようにしておくとスムーズです。

ステップ3:2〜3日程度の実地調査が行われる

調査日当日になると、調査官が事務所や自宅を訪れ、実地調査が開始されます。調査期間は、事業規模にもよりますが、フリーランスの場合は1〜2日で終わることが多いです。

調査では、まず事業の概要や業務の流れ、経理処理の方法などについてヒアリングが行われます。その後、準備した帳簿や書類と照らし合わせながら、売り上げや必要経費の内容について具体的な質問を受けるのが一般的です。

調査官は、申告内容に誤りがないか、不審な点はないかを確認するために質問を重ねます。あいまいな記憶で答えず、事実に基づいて冷静に対応することが重要です。

ステップ4:調査結果の報告を受ける

実地調査が終了してから数週間〜1か月程度で、調査官から調査結果の報告があります。

申告内容に特に問題がなければ「申告是認」として、是正事項なしで調査は終了です。もし申告内容に誤りや漏れが指摘された場合は「修正申告」を勧められます。

修正申告に応じると、本来納めるべきだった税額との差額に加え、過少申告加算税や延滞税などを追加で納付しなければなりません。意図的な仮装隠蔽など、悪質と判断された場合には、さらに重い重加算税が課されることもあります。

調査結果に納得がいかない場合は、不服申し立ての手続きを取ることも可能ですが、まずは指摘内容を真摯に受け止め、専門家と相談しながら対応を検討することが大切です。

フリーランスが税務調査を受けた際の対応方法

税務調査の連絡が来ると、誰でも不安や緊張を感じるものです。しかし、過度に恐れる必要はありません。誠実かつ適切に対応することで、円滑に調査を終えることが可能です。

ここでは、フリーランスが税務調査を受ける際に心得るべき4つの対応方法を紹介します。

必要書類(帳簿・領収書・請求書など)を事前に準備する

税務調査の対応で最も基本かつ重要なのが、根拠となる書類を漏れなく準備しておくことです。調査官は、あなたの主張や説明が正しいかどうかを、帳簿や領収書といった客観的な証拠に基づいて判断します。

「ステップ2:調査日までに書類とデータを準備する」で挙げた書類を、対象期間分、すぐに提示できるよう整理しておきましょう。書類が整理されているだけで、調査官に「日頃からしっかりと経理処理を行っている」という良い印象を与え、調査がスムーズに進む一因にもなります。

逆に、書類が不足していたり、整理されていなかったりすると、それだけで管理体制を疑われ、調査が長引く原因になりかねません。

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証憑が不足している場合は、取引先に再発行依頼を検討する

日頃から整理していても、領収書などを紛失してしまうことはあり得ます。もし必要な証憑書類が不足していることに気づいた場合は、諦める前に取引先に再発行を依頼できないか確認しましょう。

すべての取引先が応じてくれるとは限りませんが、事情を説明すれば再発行してくれるケースもあります。再発行が難しい場合でも、銀行の振込履歴やクレジットカードの利用明細、メールでのやり取りなどが、取引の事実を証明する代替資料として認められる可能性があります。

調査官に指摘されてから慌てるのではなく、事前にできる限りの手を尽くしておく姿勢が重要です。正直に状況を説明し、代替となる資料を提示できるよう準備しておきましょう。

調査官の質問には正直・誠実に答える

調査当日は、調査官から事業内容や必要経費の内訳についてさまざまな質問を受けます。

調査官は雑談を交えながら、事業実態や経費の関連性を確認することもあります。「趣味は何ですか?」などの質問から、支出内容の妥当性を探るケースもあるため、事実に基づいて冷静に回答しましょう。

不利な事実を隠そうとすると、かえって疑いを深め、より詳細な調査につながる可能性があります。たとえ自分に不利な内容であっても、質問には正直かつ誠実に、事実に基づいて回答することが大切です。

もし記憶が曖昧な場合は「確認して後ほど回答します」と伝え、不確かな回答は避けましょう。冷静で真摯な対応が、調査官との良好な関係を保ち、円滑な調査進行につながります。

不明点は自分で判断せず、必ず専門家に確認する

調査官からの指摘や質問の中には、専門的な税務知識がないと判断が難しいものもあります。そのような場面で、安易にその場で認めたり、自分で判断して回答したりするのは危険です。

たとえば、必要経費の解釈について調査官と見解が分かれた場合、その場で「必要経費ではない」と認めてしまうと、後から覆すのは困難になります。少しでも疑問や不安を感じたら、「その件については、顧問税理士に確認してから回答します」と伝え、一度持ち帰るようにしましょう。

税務調査は、フリーランス一人で立ち向かうには精神的な負担も大きいものです。不安な場合は、事前通知の段階で税理士に相談し、調査の立ち会いを依頼することも一つでしょう。

フリーランスの税務調査に関するよくある質問(FAQ)

ここでは、フリーランスの税務調査に関して、多くの方が抱く疑問についてQ&A形式で解説します。事前に疑問点を解消し、いざという時に備えましょう。

白色申告でも税務調査は来る?

青色申告か白色申告かに関わらず、税務調査の対象となる可能性はあります。

青色申告は、複式簿記での記帳が義務付けられているなど、白色申告に比べて高い記帳水準が求められるため、一般的に申告内容の信頼性が高いと見なされています。しかし、申告方法の種類によって調査の対象から外れることはありません。

売り上げが急増している、経費率が不自然に高いなど、調査対象になりやすい特徴に当てはまれば、白色申告であっても調査の対象となります。むしろ、帳簿付けが簡易である白色申告の方が、申告内容に誤りが生じやすい側面もあります。

申告方法に関わらず、日頃から収入や経費を正確に記録し、根拠資料を保管しておくことが重要です。

税務調査の連絡を無視したらどうなる?

税務署からの事前通知を無視することは避けましょう。

正当な理由なく調査を拒否したり、連絡を無視し続けたりすると、事前通知なしの「無予告調査」に切り替わる可能性があります。任意調査への協力を拒んだと見なされ、裁判所の許可状を得た上で、強制的に調査(査察調査)が行われる可能性もあるでしょう。

税務署からの連絡には誠実に対応し、もし日程の都合がつかない場合は、その旨を伝えて正直に日程調整を依頼しましょう。

適切に準備をしてフリーランスの税務調査に備えよう

本記事では、フリーランスの税務調査について、その確率から対象になりやすい人の特徴、調査の基本的な流れ、そして具体的な対処法までを網羅的に解説しました。

税務調査は「申告内容が正しいかどうかを確認する手続き」であり、日頃から誠実に経理処理を行い、正しく申告していれば、過度に恐れる必要はありません。むしろ、税務調査への備えを意識することは、自身の事業の財務状況を正確に把握し、経営の透明性を高めることにつながります。事業の持続的な成長にとって不可欠な基盤となるでしょう。

まずは、自身の過去の申告内容や日々の記帳方法を一度見直してみてください。もし少しでも不安な点があれば、手遅れになる前に税理士などの専門家に相談することをおすすめします。

(監修日:2025年9月12日)

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山本 聡一郎氏

山本聡一郎税理士事務所(https://nagoya-soutax.com/)|税理士

山本聡一郎税理士事務所 代表税理士。1982年7月生まれ。名古屋市中区錦(伏見駅から徒歩3分)にてMBA経営学修士の知識を活かして、創業支援に特化した税理士事務所を運営。クラウド会計 Freeeに特化し、税務以外にも資金調達、小規模事業化持続化補助金などの補助金支援に力を入れている。

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