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【税理士監修】フリーランスの事業所得とは?給与所得・雑所得との違いやメリットを解説

フリーランスの事業所得のイメージ

「フリーランスとしての収入は、事業所得に該当するのか、それとも雑所得なのか?」
「事業所得として申告することで、どのような戦略的メリットが得られるのか?」

フリーランスとして独立すると、税務に関する判断が事業運営の質を左右します。特に、所得区分の誤りは、節税機会の損失や信用低下につながるリスクがあるため、正確な理解が不可欠です。

本記事では、フリーランスの「事業所得」の基本的な定義から、給与所得や雑所得との明確な違いを解説します。事業所得で確定申告を行うことの具体的なメリットや申告手続きの流れも解説するので、ぜひ参考にしてみてください。

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フリーランスの「事業所得」とは?基本情報を解説

フリーランスとして活動する上で、自身の収入がどの所得区分に該当するかを理解することは不可欠です。所得税法では所得を10種類に分類しており、フリーランスの収入は主に「事業所得」または「雑所得」に該当します。この区分は、受けられる控除や税制上の優遇措置に大きく影響するため、正確な知識を身につけておきましょう。

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事業所得とは

事業所得とは、農業・漁業・製造業・卸売業・小売業・サービス業・その他の事業を営んでいる人の、その事業から生ずる所得のことをいいます。

また、「反復・継続・独立して」行われる仕事から得られる所得が事業所得に該当します。たとえば、マーケティングコンサルタントが複数のクライアントと継続的に契約を結び、専門的なサービスを提供して得た報酬は事業所得と判断されるのが一般的です。

事業所得として認められるためには、片手間ではなく、自己の計算と危険において独立し、営利性・有償性をもって継続的に行われている実態が重要になります。

出典:No.1350 事業所得の課税のしくみ(国税庁)所得税法における「業務」の範囲について(国税庁)No.2011 課税される所得と非課税所得(国税庁)

給与所得との違い

給与所得は、勤務先から受け取る給料や賞与などの所得です。事業所得との最も大きな違いは「雇用契約の有無」にあります。

給与所得者は会社と雇用契約を結び、指揮命令系統のもとで労働を提供します。一方、事業所得を得るフリーランスは、特定の組織に属さず、クライアントと業務委託契約などを結び、独立した事業者として業務を遂行するのが特徴です。

所得区分は、契約書の名称だけでなく、業務の独立性、報酬の計算方法、リスク負担などを総合的に判断しますが、時間的な拘束や場所の指定がなく、自身の裁量で業務を進められる場合は事業所得、会社の指揮命令下にある場合は給与所得と判断されるのが基本です。

給与所得には、実費経費の代わりに「給与所得控除」が適用されますが、事業所得では、実際にかかった経費を計上でき、さらに青色申告を選択すれば最大65万円の特別控除などの優遇措置を受けられます。

雑所得との違い

雑所得は、他の9種類の所得のいずれにも当てはまらない所得を指し、公的年金や単発や一時的な副業による収入などが該当します。

事業所得と雑所得の区分は、フリーランスにとって判断が難しいポイントです。税法上の明確な金額基準はなく、その業務が「事業として成立しているか」という実態に基づいて総合的に判断されます。

また、個人事業の開業届を出せば事業所得になると考える人もいますが、開業届の有無によって所得区分が決まるわけではありません。

判断基準としては、営利性・有償性の有無、継続性・反復性の有無、自己の計算と危険における企画遂行性の有無、精神的・肉体的労力の程度、人的・物的設備の有無などが挙げられます。

たとえば、単発のコンサルティング案件で得た収入は雑所得、継続的に複数のクライアントを持ち、安定した収入を得ている場合は事業所得と判断される可能性が高いです。

フリーランスが事業所得で確定申告をするメリット

フリーランスの収入が事業所得として認められると、税制上の多くのメリットを享受できます。これらのメリットを最大限に活用することは、手元に残る資金を増やし、事業の成長を加速させる上で重要です。

ここでは、事業所得で確定申告を行う主なメリットを解説します。

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最大65万円の青色申告控除が受けられる

事業所得で確定申告を行う最大のメリットは、青色申告を選択できる点です。青色申告を行うことで、所得金額から最大65万円を控除できる「青色申告特別控除」が適用されます。

たとえば、課税所得が500万円の場合、所得税率は20%です。65万円の控除を受けられれば、単純計算で10万円以上もの節税につながります。

この控除を受けるには、事前に「青色申告承認申請書」を税務署に提出し、複式簿記による記帳や電子申告(e-Tax)などの要件を満たす必要があります。

ただ、その手間を補って余りある大きな恩恵といえるでしょう。

出典:No.2072 青色申告特別控除(国税庁)No.2260 所得税の税率(国税庁)

赤字の繰り越しや損益通算ができる

事業が赤字になった場合、青色申告を行っていればその赤字額(純損失)を翌年以降3年間にわたって繰り越し、各年の黒字所得と相殺できます。これにより、将来の所得税や住民税の負担を軽減することが可能です。

たとえば、1年目に100万円の赤字が出ても、2年目に300万円の黒字が出た場合、1年目の赤字を繰り越して2年目の所得を200万円に圧縮できます。

また、フリーランスとしての事業所得以外に給与所得など他の所得がある場合、事業所得の赤字を他の黒字所得と相殺できる「損益通算」も可能です。

事業開始当初など、収入が不安定な時期のリスクを軽減する上で有効な制度といえるでしょう。

出典:No.2070 青色申告制度(国税庁)

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開業前の支出を「開業費」として経費計上できる

フリーランスとして独立する前に支出した費用を「開業費」として経費計上できるのも、事業所得の大きなメリットです。開業費には、打ち合わせの交通費、セミナー参加費、名刺作成費などが含まれます。

開業費は、開業した年に一括で経費計上することも、数年にわたって分割して償却(任意償却)することも可能です。

収入が少ない開業初年度は経費計上を抑え、所得が増えた翌年以降に償却することで、所得税の負担を平準化し、効果的な節税が期待できます。

出典:No.2070 青色申告制度(国税庁)償却期間経過後における開業費の任意償却(国税庁)

「少額減価償却資産の特例」を利用できる

事業所得で、かつ青色申告を行っている事業者は、「少額減価償却資産の特例」を利用できます。これは、取得価額が30万円未満の減価償却資産について、購入・使用した年に全額を必要経費として一括計上できる制度です。(年間合計300万円が上限)

通常、10万円以上の資産は固定資産として計上し、法定耐用年数にわたって分割して減価償却する必要があります。

しかし、この特例を使えば、購入した年に全額を必要経費にできるため、より大きな節税につながる場合があります。高額な機材を導入する際に有効な制度です。

出典:No.5408 中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例(国税庁)

社会的信用につながりやすい

事業所得で確定申告を行うためには、原則として税務署に「開業届」を提出します。開業届を提出して個人事業主として活動している事実があることで、社会的信用の向上につながりやすくなる点もメリットです。

特に、以下のような審査が必要になるシーンで、開業届の控えや確定申告書の控えが事業の実態を示す公的な証明書として機能します。

  • 事業用の銀行口座を開設する際
  • 金融機関から融資を受ける際
  • オフィスを借りる際

また、屋号付きの口座を持つことで、取引先からの信頼も得やすくなり、プライベートの資金と事業資金を明確に分けられるため、経理管理の効率化にもつながるでしょう。

なお、以前は開業届の控えを税務署にもっていけば受領印をもらえましたが、令和7年1月から税務署は捺印を廃止しました。電子申告であれば控にも受領印がもらえるため、控えが必要な場合は電子申告をしましょう。

出典:令和7年1月からの申告書等の控えへの収受日付印の押なつについて(国税庁)

フリーランスが事業所得で確定申告をする流れ・やり方

フリーランスにとって確定申告は避けて通れない重要な手続きです。

HiProの「副業・フリーランス人材白書2025」によると、フリーランスが抱える課題として「確定申告が面倒・難しい」と回答した人は、約30%も存在しています。(メンバークラス層で33.6%・ハイクラス層で28.2%)

出典:副業・フリーランス人材白書2025(HiPro)

このことから、多くのフリーランスが確定申告を負担に感じていることがわかります。

しかし、基本的な流れと手順を理解すれば、決して難しいものではありません。ここでは、事業所得で確定申告を行うための4つのステップを解説します。

ステップ1:年間の所得を確認する

まずは、1月1日から12月31日までの1年間の所得を正確に計算します。所得とは、収入(売り上げ)そのものではなく、収入から必要経費を差し引いた金額のことです。

所得=収入(売り上げ総額)−必要経費

日頃から会計ソフトなどを活用し、売り上げと必要経費をしっかりと記録しておくことが重要です。必要経費には、事務所の家賃や水道光熱費、通信費、消耗品費、交通費などが含まれます。

自宅で事業をしている場合など、家事按分できるもの(家賃や通信費など)がある人は、こちらも忘れずに計上しましょう。

この段階で正確な所得額を把握することが、確定申告の第一歩です。

ステップ2:申告方法(青色 or 白色)を選択する

次に、確定申告の方法として青色申告と白色申告のどちらを選択するかを決めます。前述の通り、事業所得で申告する大きなメリットは青色申告が選択できる点にあります。

最大65万円の特別控除や赤字の3年間繰越など、節税メリットが大きいのは青色申告です。ただし、青色申告を行うには、原則として申告する年の3月15日までに「青色申告承認申請書」を税務署に提出しておく必要があります。

手続きの煩雑さから白色申告を選ぶことも可能ですが、節税の観点からは青色申告を目指すのが賢明な選択といえるでしょう。

出典:No.2070 青色申告制度(国税庁)

ステップ3:必要書類を準備する

申告方法を決めたら、必要な書類を準備します。一般的に必要となるのは以下の書類です。

  • 確定申告書
  • 本人確認書類(マイナンバーカードなど)
  • 青色申告決算書(青色申告の場合)または収支内訳書(白色申告の場合)
  • 各種控除証明書(生命保険料、地震保険料、iDeCo、国民年金保険料など)
  • 帳簿、領収書、請求書、契約書などの証拠書類

特に青色申告決算書は、日々の取引を記録した帳簿(仕訳帳、総勘定元帳など)を基に作成します。

会計ソフトを利用していれば、自動で作成されることも多いです。書類に漏れがないよう、早めに準備を始めましょう。

ステップ4:申告書を作成して提出する

必要書類が揃ったら、確定申告書を作成します。国税庁の「確定申告書等作成コーナー」を利用すれば、画面の案内に従って入力するだけで、税額が自動計算され、申告書を簡単に作成できます。

ただ、会計ソフトにも同様の機能が備わっていることが多いです。使用している会計ソフトの機能を確認しておきましょう。

作成した申告書は、以下のいずれかの方法で提出します。

  • e-Tax(電子申告):65万円の青色申告特別控除の要件
  • 税務署へ郵送
  • 税務署の窓口へ持参

申告期間は、原則として翌年の2月16日から3月15日までです。期限に遅れるとペナルティが発生する場合があるため、余裕を持ったスケジュールで進めましょう。

出典:No.2024 確定申告を忘れたとき(国税庁)

フリーランスが事業所得で確定申告をする際の注意点

事業所得での確定申告はメリットが多い反面、いくつか注意すべき点があります。特に、青色申告の恩恵を受けるためには、定められたルールを遵守しなければなりません。

ここでは、フリーランスが確定申告を行う際に押さえておくべき重要なポイントを解説します。

青色申告の場合は複式簿記で記帳する

最大65万円の青色申告特別控除を受けるためには、原則として「複式簿記」による記帳が義務付けられています。複式簿記とは、一つの取引を「借方」と「貸方」の二つの側面から記録する方法です。

簿記の知識がないと難しく感じるかもしれませんが、現在は多くの会計ソフトが複式簿記に対応しており、取引内容を入力するだけで自動的に仕訳を行ってくれます。本業に集中するためにも、会計ソフトを導入して経理作業を効率化するのが賢明です。

事業所得と認められず雑所得と判定された場合は青色申告ができない

フリーランスとしての収入が、税務署の判断で事業所得ではなく雑所得と判定されるリスクも考慮しなければなりません。雑所得と判定された場合は青色申告を行えず、青色申告特別控除や赤字の繰り越しといった税制上のメリットは受けられなくなります。

前述の通り、事業所得と認められるには「反復・継続・独立して」事業を行っている実態が必要です。特定のクライアントに収入の大部分を依存しており、実態が雇用に近い場合や、活動の規模が小さい場合などは、雑所得と見なされる可能性があります。

事業としての実態を客観的に示せるよう、日頃から意識して活動することが大切です。

領収書・請求書・契約書などは全て保管する

事業所得の申告において、必要経費を計上するためには、その支出が事業に関連するものであることを証明する証拠書類(証憑)が不可欠です。領収書やレシートはもちろんのこと、請求書、契約書、納品書なども取引の事実を証明する重要な書類となります。

これらの書類は、法律によって一定期間の保管が義務付けられています。青色申告の場合、帳簿や決算関係書類、現金預金取引等関係書類は原則7年間の保管が必要です。

税務調査が入った際に、必要経費の正当性を主張するための重要な証拠となるため、整理して大切に保管しましょう。

出典:記帳や帳簿等保存・青色申告(国税庁)

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基礎控除や社会保険料控除など各種控除を考慮する

確定申告では、青色申告特別控除以外にも、納税者本人の状況に応じて適用されるさまざまな所得控除があります。これらの控除を漏れなく申告することが、最終的な納税額を抑える上で重要です。

代表的なものには、全ての納税者に適用される基礎控除や自身で支払った国民年金や国民健康保険料が全額控除される社会保険料控除が挙げられます。他にも、生命保険料や地震保険料の控除、配偶者控除、扶養控除、医療費控除などもあります。

適用できる控除がないかを確認し、証明書類を準備して、忘れずに申告書に記載しましょう。

出典:所得控除に関する資料(財務省)

フリーランスの事業所得について理解を深めて適切に確定申告をしよう

本記事では、フリーランスの「事業所得」に焦点を当て、その定義や給与所得や雑所得との違い、事業所得で申告するメリットを詳しく解説しました。また、具体的な手続きや注意点も紹介しました。

フリーランスとして事業を成長させていく上で、税金に関する知識は強力な武器になります。自身の収入が事業所得に該当するかを正しく見極め、青色申告のメリットを最大限に活用することは、手元資金を確保し、次なる事業投資へとつなげるために重要です。

まずは、自身の活動が事業所得の要件を満たすかを確認し、まだ提出していなければ「開業届」と「青色申告承認申請書」を税務署に提出しましょう。どのように確定申告を進めるべきかわからない場合は、専門家である税理士に相談するのも一つです。

(監修日:2025年9月12日)

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山本 聡一郎氏

山本聡一郎税理士事務所(https://nagoya-soutax.com/)|税理士

山本聡一郎税理士事務所 代表税理士。1982年7月生まれ。名古屋市中区錦(伏見駅から徒歩3分)にてMBA経営学修士の知識を活かして、創業支援に特化した税理士事務所を運営。クラウド会計 Freeeに特化し、税務以外にも資金調達、小規模事業化持続化補助金などの補助金支援に力を入れている。

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