DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?定義や意味をわかりやすく解説します
テクノロジーの急激な進化、経済のグローバル化、新型コロナウイルスの蔓延など、世界は私たちの想像を超え、目まぐるしく変化しています。このような時代を生き抜くには、課題を早期的に発見・解決し、変化に対して迅速・柔軟に適応していく必要があるでしょう。
そのための仕組みをつくるうえで注目されているのが、DX(デジタルトランスフォーメーション)です。変化し続ける時代に適応し、ビジネスにおいて確かな競争力を手に入れるために、企業のDX推進は欠かせません。
本記事では、DXの定義をはじめ、必要な技術、求められる背景、DX推進の現状と課題、具体的な推進ポイント、国内のDX事例などを解説します。DXの推進を通じて、企業の競争優位性をアップデートしていくために、ぜひお役立てください。
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?
通信技術の発展によるグローバル化が進み、競合ビジネスが乱立する現代においては、デジタル技術を駆使した新しい手法が相次いで生まれており、既存のビジネス慣習を維持することが日に日に難しくなっている状況です。
特に近年では世界各国の企業がデジタル技術を巧みに扱い、国内市場に続々と参入してシェアを獲得しています。もはやデジタル技術の影響力は、国内でも無視できないレベルに達したといえるでしょう。
そのような状況下で求められるDXには、一体どのようなニュアンスが含まれているのでしょうか。
DX(デジタルトランスフォーメーション)の意味とは?
DXを直訳すると、デジタル(digital)によるトランスフォーメーション(transformation)を指します。具体的には進化し続けるテクノロジーやデジタル世界を、今以上に良質な状態に変革し、イノベーションを起こしていくことを表しています。
概念が生まれた当時はアナログ主流の時代で、これから広がっていくであろうデジタル世界に移行・刷新することで、より豊かな生活を実現しようという願いが込められていたのではないかといわれています。
なぜDXと表記されるのか?
デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)は、経済産業省をはじめとする各省庁や、企業の調査レポートでも、DXとして表記が統一されています。頭文字を取ってDT(Digital Transformation)と略されるのではないかと思う方も多いでしょうが、DXの略語は英語圏の考えがベースとなっています。
英語圏では「trans」などの接頭辞を「X」に省略することが一般的であり、これは「超える」「横切る」という意味を持つtransが、交差するという意味を持つcrossと同義であるためとされています。このcrossをより視覚的に表現した「X」というモチーフがデジタルトランスフォーメーションにも適用され、「Digital X-formation」をさらに略してDXと呼ばれています。
IT化との違い
似たような表現としてIT化がありますが、IT化とDX化の違いはデジタル技術の捉え方にあります。IT化の目的はデジタル技術を扱い、旧来のアナログ業務をデジタルに移行し、業務の効率化と生産性の向上を図ることです。
対してDX化の目的は、デジタル技術を導入した後に、組織やビジネスの仕組みそのものを変革し、企業としての競争優位性を確立することにあります。
これらのことから、IT化はあくまで限定的な領域への対処法であり、DXの一部として捉えることができるでしょう。
DXの実現に必要な技術
DXの実現にはデジタル技術が不可欠です。しかし、具体的にどのようなデジタル技術の導入を検討したほうが良いのか、判断に迷う方も多いのではないでしょうか。ここではDXの実現に活用される5つのデジタル技術をご紹介します。
IoT
IoTとは、Internet of Thingsの略称であり、モノのインターネットと訳されることが多い言葉です。身近なところではスマホで簡単に操作できるIoT家電や、QRコード決済に使われるIoTペイメントなどがイメージしやすいのではないでしょうか。
IoTはインターネットを経由することで、遠隔での操作・監視・制御を可能にします。これらの機能を同時に活用することもできるため、組み合わせ方次第で幅広いシーンで活躍できる可能性を秘めています。
AI(人工知能)
AIとは、Artificial Intelligenceの略称であり、日本では人工知能という呼び名で親しまれています。機械の制御プログラムとして組み込まれる、またはRPAの自動化ツールとして活用されるなど、膨大なデータを取り込み、多種多様なタスクを処理する目的で搭載される技術です。
かつては限定的な領域のみでの活躍に留まっていたAIですが、現在はディープラーニングなどの技術によって複雑なデータ処理が可能になっており、今まで以上にパターンを分岐させ、要望に対して柔軟に対応できるように進化しています。
クラウド
クラウドとは、クラウド・コンピューティングの略称であり、物理的なハードウェアやソフトウェアを必要とせず、サービスを利用するための技術です。
クラウド技術を活用したサービスでは、社内にハードウェアを設置する必要も、ソフトウェアをPCにインストールする必要もありません。インターネットでアクセスするだけで、サービスの提供を受けることができます。
クラウドサービスの種類は幅広く存在していますが、ソフトウェア・サービスを提供するSaaS、プラットフォーム・サービスを提供するPaaS、インフラ・サービスを提供するIaaSの3種類がクラウド技術の代表格といわれています。
サイバーセキュリティ
IoT、AI、クラウドなど、インターネット上でデータをやり取りする技術には、サイバー攻撃や不正アクセスなどのリスクが付きまといます。そこで注目されているのがサイバーセキュリティです。
サイバーセキュリティは、デジタルデータの改ざんや漏えいを防ぐための技術です。デジタルデータは機密性、完全性、可用性の担保が重要とされるため、この状態をいかに守り抜くかがサイバーセキュリティの考え方になります。この考え方には外部からの侵入を防ぐだけでなく、内部からのデータの持ち出しや、ヒューマンエラーなどによるデータ改変への対処も含まれ、より多面的な対策が求められています。
5G通信
5Gは、5th Generation(第5世代移動通信システム)の略称であり、次世代の通信規格です。5Gの特徴は物量・品質・速度という3つのポイントで語られることが多く、具体的には大容量のデータを、高速かつ低遅延でやり取りできることに加えて、多種多様なデバイスとの同時接続ができる点がクローズアップされています。
この技術はIoT、AI、クラウドをより高度な次元に押し上げるためにも重要な要素であり、DX基盤を支えるうえでも注目を集めています。
ビジネスシーンにDX推進が求められる背景
日本でDXが注目されるようになったのは、経済産業省によるレガシーシステムへの指摘が一因といわれています。では、経済産業省の資料をベースに、DX推進が求められる背景を詳しく紐解いていきましょう。
経済産業省(MTMI)が発表するDXの定義
経済産業省が2019年に発表した資料では、DXを以下のように定義しています。
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること
その後、新型コロナウイルスの蔓延により、社会構造は急激に変化し、従来の何倍ものスピードでデジタル化が進みました。この動きによって、DXは将来的な計画から早急に取り組むべきプロジェクトへと認識が改められ、先行する海外テック企業に後れを取らないためにも、DX推進を求める声が高まっています。
DXの遅れによって生じる2025年の崖とは?
2018年に発表されたDXレポート(※1)では、企業の中核を担う基幹システムのレガシー化が進んでおり、可及的速やかにシステム刷新と業務改善を実施しなければ、2025年以降に年間で最大12兆円もの経済損失が生じる可能性を示唆しました。経済産業省はこの問題を2025年の崖と定義し、国内企業に警鐘を鳴らしています。
※1_出典:DXレポート 〜ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開〜(経済産業省)
DXをスピーディに進めることが重要
DXはシステムの導入・刷新だけでは不十分であり、その先にあるデータの利活用や、変化の連続に対応できるビジネスと組織の形成までが求められます。それらを実現することで、初めて競争優位性の獲得につながります。
そして重要なのは、DXに終わりはないということです。競争優位性は永久的に続くわけではないため、社会情勢や競合他社に動きがあれば、優位性を再定義する必要が出てくるでしょう。DXはあくまで、そのときを見越したうえでの事前準備に過ぎません。
DX推進に向けた企業の現状と課題
新型コロナウイルスによりデジタル化が進み、DX推進の重要性の高まる現在では、国内でも多数の企業がDXに着手しています。
しかし、現状は決して芳しくありません。2020年に経済産業省が発表したDXレポート2では、DXにおいて部門横断的な推進が実施できていると回答した企業の割合は約5%(※2)と低迷していました。
※2_出典:DXレポート2 中間取りまとめ(経済産業省)
なぜ、これほどまでにDX推進は期待以上の成果を得られていないのでしょうか。主な原因となる3つの問題について解説します。
ビジョンと戦略が不明確
DXは場当たり的な導入を進めると、計画途中で頓挫しやすい傾向にあります。何のためにDXを推進するのか、DXの推進によって何を得るのか、どのようにDXを推進していくのかという明確な戦略がなければ、従業員に適切な指示を出すこともできません。
特にDX推進の大きな問題とされるPoC(概念実証)のフェーズにおいて、DXの戦略やコンセプトが抽象化していると、判断材料となるデータを集めることも難しいでしょう。PoCを無駄に繰り返さないためにも、DXの戦略・コンセプトの明確化は重要となります。
既存システムの老朽化
システムを長期的に利用すると、機能を無理やり継ぎ足すことでシステムが肥大化・複雑化し、システムの全容が誰にも分からなくなることに加えて、メンテナンス負担が増してしまい、結果的に維持コストの増大につながります。
システムの維持にコストがかかりすぎると、戦略的なIT投資に必要な資金や人材を確保できなくなり、DX推進が思うように進まなくなるリスクがあります。
また、日本ではベンダーとユーザー企業で役割を分担してきた歴史があり、システムの保守運用をベンダーに依存することが一般的となっています。そのため、システム調達に制限がかかり、ビジネス刷新に向けた柔軟な計画が立てられないなど、ベンダーロックインから抜け出せない状態が生まれ、結果的にDX推進のスピードに影響を及ぼしている場合もあります。
IT・デジタル人材の不足
2019年に総務省が発表した資料(※3)によると、日本のIT人材の約7割がベンダー企業に所属しており、ユーザー企業での人材獲得・教育の難しさが表れています。
※3_出典:情報通信白書 令和元年版(総務省)
これは先述のベンダーロックインからも分かるように、IT関連の業務をベンター企業に頼り切ってしまっていた慣習が原因とされています。
さらに経済産業省が2016年に発表した試算結果(※4)では、IT人材の不足数は今後も上昇を続け、2030年の段階で約59万人の人材不足に陥ると言われています。
※4_出典:IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果(経済産業省)
特にDX推進に必要なデジタルリーダーやビジネスデザイナーの採用難易度は高まっており、あらゆる企業が多種多様な手法を駆使して、IT人材の確保に乗り出しています。
企業が進めるべきDX推進のポイント
DXを効率的に推進するには、押さえておくべきポイントが3つ存在します。それは「構想」「環境」「教育」です。この3つが十分に整備されているかどうかで、DX推進のスピードや得られる利益は大きく異なるでしょう。
ここでは、構想、環境、教育ではそれぞれ具体的に何をすべきなのかを詳しく解説します。
構想:DXを行う目的の明確化
DXはアナログからデジタルへの移行と捉えられがちですが、本質はビジネスモデルと顧客ニーズの適合性を高め、企業として利益を追求していくことにあります。そのためには、企業がDXを経営戦略として位置づけられているかが重要です。
既存のビジネスモデルを見直すうえで、マーケット調査を通じてニーズの傾向を理解し、新たな価値をどのように提供するか、その仕組みをどのように構築するのか、理想の実現にはどのようなデータが必要なのか、それらの答えがDXで獲得すべき成果になるでしょう。
戦略の欠けた状態でデジタル技術を受け入れても、PoCを闇雲に繰り返してしまい、従業員の疲弊とモチベーションの低下を招きます。DX推進チームに丸投げするのではなく、まずはDXに対するコミットメントを整理し、経営陣と一緒に取り組んでいく状況を作ることが大切です。
環境:既存ITシステムの刷新
DXで変化に強い組織を作るためには、ITインフラの整備が欠かせません。加えて、ただレガシーシステムを新しい技術にすげ替えれば良いというわけではなく、自社の事業スタイルに合わせてシステムを最適化することが重要になります。
当然、システム刷新には時間とコストがかかります。刷新後のシステムが再びレガシー化するというリスクもあるでしょう。これらの課題に対処するためにも、システム刷新に関わる全てのステークホルダー(経営陣、事業部門、情報システム部門など)が状況を理解し、歩み寄っていくことが大切です。
ときには不要な機能を廃棄する、柔軟なシステム選定を行うためにベンダーロックインから脱却するという大きな決断を迫られることもあるでしょう。
教育:IT人材の採用・育成
DXの推進を主導するデジタルリーダー(CDOなど)、経営改革をITシステムに落とし込むITアーキテクト、ビジネスモデルの変革に求められる要件を定義するビジネスデザイナー、AIやデータ活用を専門とするITエンジニアなど、DXの実現には多種多様なIT人材が必要となります。
しかし、近年はあらゆる企業がDX推進に取り組んでいる関係上、IT人材の不足数は年々増加しています。そのため、自社で雇用するということにこだわらず、外部講師を招いて社内人材に対するリスキリングを実施する、あるいは他の機関と共同でプロジェクトを推進するという選択肢も考慮したほうが良いでしょう。具体的には大学との産学連携を通じてDXの理解を深める、他社とのオープンイノベーションで知識を吸収し合う、専門家を迎え入れて成功体験やノウハウを得るなど、従業員のITリテラシーを高める工夫が重要です。
国内のデジタルトランスフォーメーション事例
DXによるビジネスモデル改革は、既存の商習慣を破壊するほどの革新的なイノベーションが究極形といわれています。ここでは国内企業のDX推進について、革新的なビジネスモデル変革を行った事例をご紹介します。
A社(タクシー業界)
A社がタクシー業界に与えたインパクトは、配車の常識を変えるアプリの導入にあります。当時のタクシー配車は、ドライバーによるルート巡回と、無線によるマッチングによって顧客獲得を成立させるというランダム性の高いものでした。移動ニーズの高い駅前やホテルに待機するという偶発的なマッチングに頼ることも多く、売上の平準化に課題がありました。
そこでA社の取った手法が、タクシーの手配・予約から、目的地の設定、料金の支払いまでをアプリ内で完結させるシステム開発です。現在では当たり前に浸透している配車アプリですが、当時は配車ニーズをリアルタイムにキャッチし、業者と顧客を電話連絡なしでマッチングできることに加えて、事前入力で口頭での確認ミスを減らせるサービスは珍しく、注目を集めました。
しかし、このイノベーションの実現に至るまでは、多くの苦労がありました。特にタクシー業界は足で稼ぐ文化があり、IT業界のデータドリブン文化と足並みが揃わず、文化の違いを認め合うことに時間を要したようです。タクシー業界の従業員にはアジャイルの考え方を理解してもらい、IT業界の従業員には現場に対するリスペクトを大切にしてもらいながら、少しずつ配車件数を増やしていくことに成功し、数年かけて本格的な取り組みをスタートさせました。
B社(金融業界)
B社が金融業界に与えたインパクトは、フィンテック技術によるデジタルバンキングの実現です。当時の銀行サービスはリアル店舗でしか対応できない手続きが多く存在し、営業時間等の関係で顧客のニーズを十分にくみ取れていませんでした。
そこでB社の取った手法が、デジタルチャネルの拡充による場所や時間に依存しない銀行サービスの提供です。具体的にはアプリを中核とし、多種多様な連絡手段による悩み・相談の解決支援や、ビッグデータによるアップセル/クロスセルの機会創出を生み出すためのプラットフォーム構築を進めています。
この取り組みを通じて、B社はリアル店舗の業務改革だけでなく、他の金融機関・異業種との提携による新規事業の創出、コミュニケーションスタイルの刷新を実現し、幅広い外部機関から評価を受けています。
C社(コンビニ業界)
C社がコンビニ業界に与えたインパクトは、QRコード決済による財布レスの実現です。当時のコンビニは支払方法が多様化するだけでなく、ポイントカード、クーポン、回数券など、顧客の提示物が多く、従業員の負担にもなっていました。
そこでC社の取った手法が、QRコード決済アプリに情報を集約し、顧客の財布レスを実現することです。このアプリによって顧客と従業員の負担を減らしつつ、顧客の購買データを集め、マーケティング施策につなげています。
キャッシュレスアプリとしては後発だったものの、インナーマーケティングを通じて、アルバイトメンバーにもDXの必要性を繰り返し説明したことで、リアル店舗での対面サポートなどの品質面を担保することにも成功しました。
D社(不動産業界)
D社が不動産業界に与えたインパクトは、社内で活用していたITツールを、SaaSビジネスとして事業化した点です。社内DXのために構築したシステムが、結果として収益の中核を担うまでの事業に成長しました。
D社は宅建資格を持つ従業員が何時間もかけて行っていた査定業務をAIで代替する、契約書類の作成業務をフォーマット化するなど、DXによる業務効率化を通じて得られた成果をもとに、成功体験そのものをビジネスとして昇華しました。これにより事業の拡大に成功し、今では不動産業界や金融機関にも影響を与えるほど存在感を強めています。
まとめ
本記事では、DXの定義、求められる背景、代表的な技術、DX推進の現状と課題、推進の具体的なポイント、国内のDX事例などをご紹介しました。
グローバル化による越境ビジネスが進んだことで、GAFAをはじめとするデジタル・ディスラプターが、デジタル技術を巧みに扱い、革新的なイノベーションを携えて国内市場に続々と参入しています。そのような状況下で利益を出し続けるためには、時代に対する適応力を高め、企業としての競争優位性を獲得していく必要があります。
そのための手段として注目されるDXは、まだ課題が山積みの状態ではあるものの、業務効率化やビジネスモデル改革を通じて、競争優位性を獲得するための重要な足掛かりとなることは間違いありません。
予測不能な時代を生き抜き、競合他社より優れたビジネスを展開するために、DXを効果的に推進することは、突破口を開くための手段として期待が持てるでしょう。
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