物流DXとは?進め方や事例を徹底紹介
新型コロナウイルスの感染拡大によって、物流業界は大きな影響を受けました。
輸入規制による在庫不足、取引先の営業自粛による売り上げの低迷など、特にBtoB向けのビジネスを展開していた企業にとって、打撃は決して小さくなかったのではないでしょうか。
一方で、巣ごもり需要の増加するBtoCビジネスにおいては、多頻度小口配送が爆発的に増加し、積載効率や配送計画の見直しが急務となっています。
これらの問題によって、既存の商習慣に限界を感じる企業が増えており、その打開策として物流DXに注目が集まっています。
本記事では、物流DXの概要から、具体的な進め方、先進企業の取り組み事例を中心にご紹介します。物流機能の強化を検討している方はぜひお役立てください。
物流DXとは?
国土交通省が2021年に公表した資料において、物流DXは「機械化・デジタル化を通じて物流のこれまでのあり方を変革すること」(※1)と定義されています。
※1 引用:最近の物流政策について(国土交通省)
これは社会構造や消費者行動の変化によって、従来のやり方に限界がきていることを示しています。
サプライチェーンの要となる物流機能を変革することは、顧客の満足度を高めるだけでなく、変化の激しい時代に適応するうえでも効果的です。物流DXはそのための手段であるといえるでしょう。
物流業界における課題
物流DXが求められる背景には、物流業界の抱える課題が日に日に大きくなっていることが挙げられます。
では、物流業界が抱える具体的な課題とは何なのでしょうか。ここでは主な課題を3つご紹介します。
小口配送の増加に伴う配送ルートの複雑化
近年はスマートフォンの普及によってEC市場が拡大しており、Amazonや楽天市場などの大型ECモールを通じて、誰でも手軽に商品を購入できる時代になっています。このECによる注文数が増加することによって、小規模の配送頻度が膨れ上がり、ルート設計が複雑化している状態です。
配送以外の負担も増えるため、短いルートをいかに効率よく回るかという点が重視され、従来の大口配送を起点にした業務最適化が通用しなくなっています。
労働力不足の深刻化
物流業界では慢性的な長時間労働が問題視されており、トラック運転手の減少・高齢化が進行しています。
厚生労働省が2021年に公表した労働力経済動向調査において、運輸業・郵便業の労働力不足状況(正社員等労働者)は、業種平均の約1.3倍(※2)に達しており、他業種と比較しても深刻な状況となっています。
※2 出典:労働経済動向調査(令和4年2月)(厚生労働省)
これにより、既存の商習慣を見直す動きが活発化しており、労働生産性の改善を通じた働き方改革に取り組む企業が増えています。
新型コロナウイルス感染症の影響
新型コロナウイルスの感染拡大により、巣ごもり需要が生まれたことで、ECの利用頻度は増加傾向にあります。
また、非対面・非接触のニーズに対応するため、多くの配送業者が玄関前への置き配や宅配ボックスなど、受け取り方法の選択肢を拡大しています。ユーザーの自由度が高まる一方で、再配達依頼なども相まって、ドライバーの業務はさらに複雑になっている状態です。
さらに、新型コロナウイルスでサプライチェーンの脆弱性が明らかになったことは、輸入に力を入れている日本にとって深刻な問題として受け止められました。そのうえで物流機能の強化を通じてサプライチェーンの改革を促すことは、有事への対応力を高めるだけでなく、海外を中心に取り組みが加速しているカーボンニュートラルやSDGsなどの環境・人権対策の貢献につながり、グローバルサプライチェーンからの排除リスクを低減できるという複数のメリットがあります。
物流DXの最新事例5選
ここでは物流DXに対する取り組みとして、企業の事例を5社ご紹介します。
配送ルートの最適化
A社では、ECによって増え続ける宅配便のニーズに対応するため、物流DXを通じた配送ルートの最適化に取り組みました。
これまで同社は、作業者の経験に依存した状態で業務を進めており、配達順序に応じた荷物の積み込みや伝票の並び替えという作業の所要時間・品質が、作業者によって大きく異なる課題を抱えていました。
そこで同社は、デジタル化を通じて手書きの作業を削減したうえで、伝票情報、在不在情報、再配達依頼などのデータをAIによって分析することで、最適な配送ルートを導き出すことに成功しました。これによって業務の効率化だけでなく、サービス品質や顧客の利便性の向上にもつながっています。
宅配効率の改善
B社では、新型コロナウイルスの感染拡大による生活様式の変化に対応するため、エコシステムの確立や物流強化を通じて、宅配効率の改善に取り組みました。
宅配効率の改善においては、ECを軸に、エンドユーザー、出品事業者、配送事業者のデータをリアルタイムで共有し、購入から受け取りまでの改善を実施しています。LINEやメールを活用して、商品が今どこにあるのかをリアルタイムで共有しつつ、置き配の場所指定や受け取り日時・方法の変更などを柔軟に行える仕組みを実装し、不在時には持ち帰り通知を出すなどを通じて、利便性を向上しました。
また、スーパーやドラッグストアなど、近隣の店舗での受け取りも可能にしたことで、エンドユーザーの多様化するニーズにも柔軟に対応できるようになっています。
特定施設だけが購入できるECの仕組み化
C社では、新型コロナウイルスの感染拡大によって爆発的にニーズが増加した商品の需給バランスを制御するため、ECの限定化に取り組みました。
当時、転売や備蓄を目的に、消毒剤をはじめとする感染予防用品が大量購入されて、医療・介護などの施設に商品が行き届かない事象が発生していました。
そこで同社は、衛生用品を安定的に供給するため、特定の施設しか購入できないようにECに制限を施し、仕組み化しました。
この取り組みによって、同社は衛生用品を必要とする施設に対して、商品を安定して届けることに成功しています。
ドローンを活用した物流改革
D社では、物流業界の慢性的な人手不足への対策として、ドローンを用いた物流改革に取り組んでいます。
同社は小型で付加価値の高い医薬品や生鮮品などを対象に、ドローンでの遠隔操縦による非接触の輸送実現を目指しています。自社のオペレーションノウハウに加え、他社との協業や政策とも連携しながら、事業化に向けて順調に試験を重ねています。
この事業を通じて、同社は航空輸送手段を拡張し、渋滞のない効率益な移動だけでなく、過疎地での人員輸送や災害対策など、幅広いシチュエーションでの活躍を実現しようとしています。
物流起点でのサプライチェーン最適化
E社では、個別最適化されたビジネスプロセスやレガシーシステムへの対策として、物流DXを通じたサプライチェーン改革に取り組みました。
これまで同社は、バリューチェーンごとに最適化された業務プロセスによって、点在するデータを上手く連携できず、生産性の低下や意思決定の遅延に悩まされていました。
そこで物流DXにより、レガシーシステムの刷新を通じてデータ基盤の構築を実現し、社内外を含む関係各所との連携強化を図りました。このデータ基盤によって、サプライチェーンの横断的な連携が実現可能になり、KPIのモニタリング状況に応じて柔軟な対処を実施することで、サプライチェーンの全体最適化を維持・発展させることに成功しています。
物流DXの推進に必要なステップ
物流DXを実現するために必要なポイントは主に3つあります。それが「機械化・デジタル化」「可視化」「標準化」です。
物流機能の機械化・デジタル化
機械化の目的は、配送・庫内での業務領域において、手作業を可能な限り減らしていくことにあります。ドローン配送やピッキングロボットなどを活用し、負担のかかる作業を機械に委ねることで、従業員はより重要度の高い領域に注力することができます。
デジタル化の目的は、これまでの実績からデータを収集し、より効率的な配送計画・倉庫管理を行うための環境を整備することにあります。ERPや倉庫管理システムの導入を通じて、データ活用基盤を構築することで、これまでは見えていなかった部分が少しずつ明らかになっていくでしょう。
物流情報の可視化
商品の入出庫履歴や配送ルートの傾向がデータによって可視化されると、それらをもとに業務の最適化が可能になります。情報がリアルタイムに可視化されることで、優先順位の判断、倉庫の動線、トラックの積載・燃費効率などの見直しが進み、結果的に業務の効率化が期待できるでしょう。
また、従業員の勤務状況を可視化することで、労働環境の改善にも役立てることも可能です。過重労働が発生していないか、進捗が悪い業務はないか、負担の原因はどこにあるのかなどを特定することで、改善に向けた具体的なアクションを取りやすくなります。
オペレーションの標準化
デジタル化によるオペレーションの改善が進むと、今まで経験と勘に頼っていた部分に対して、データによる客観的な判断ができるようになります。
データ活用によってオペレーションが標準化されると、複雑で難解な業務がなくなるため、誰もが計画した時間通りに業務を完結することができるようになります。また、新しい人材を迎え入れるハードルが下がり、人材獲得率の向上も期待できるでしょう。
まとめ
今回は物流DXの概要をはじめ、物流業界における課題、物流DXの取り組み事例をご紹介しました。
新型コロナウイルスの感染拡大による巣ごもり需要の増加をはじめ、生活様式の変化や消費者ニーズの多様化によって、サプライチェーンにおける物流機能の重要度は以前よりも高まっています。
一方で、物流業界の負担は着実に増えており、労働力不足や業務効率の対策に向けた早急な取り組みが課題となっています。
しかし、企業によってはデジタル化だけでは十分な改善が期待できず、サプライチェーンの全体最適化や共同配送に向けた交渉に取り組むものの、思うように進まないというケースもあるでしょう。
そのようなときは、オープンイノベーションを通じて他社やプロ人材の成功体験を取り入れ、ときには協働でプロジェクトを推進することも視野に入れましょう。
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