【社労士監修】副業の労働時間の考え方とは?本業と通算するケースや計算方法を解説

会社員としての本業に加え、副業による収入アップやスキルアップを目指す方が増えるなか、「本業と副業の労働時間をどう扱うべきか」は重要なテーマです。
本記事では、本業と副業で労働時間を通算しなければならないケースや通算が不要となるはたらき方、労働時間をマネジメントするコツなどについて、まとめて解説します。すでに副業を始めている方、これから始めようとしている方は、ぜひ参考にしてみてください。(2025年2月時点情報)
本業と副業の労働時間の考え方。労働時間は通算する?

本業と副業がどちらも雇用契約の場合、労働時間の通算が必要となります。逆に、どちらか一方でも業務委託など雇用契約に該当しないはたらき方をしている場合、労働時間の通算は不要です。
ここでは、以下のポイントについて労働時間の扱い方を解説します。
- 労働時間の考え方
- 本業・副業ともに雇用契約:労働時間の通算が必要
- 本業・副業いずれかが雇用契約でない:労働時間の通算は不要
- 今後通算しないルールに変更される?いつから適用?
順番に見ていきましょう。
労働時間の考え方
まず、労働時間について考えるうえで知っておくべき以下の3点について見ていきましょう。
- 法定労働時間と法定外労働時間
- 所定労働時間と所定外労働時間
- 36(サブロク)協定とは
法定労働時間と法定外労働時間
労働基準法では、1日8時間・週40時間を「法定労働時間」と定めています。法定労働時間を超えない範囲ではたらく場合は、基本的に残業代(割増賃金)は発生しません。
一方、法定労働時間である1日8時間または週40時間を超えた部分は、法定外労働時間に該当し、割増賃金を支払う必要が生じます。割増率は通常の賃金の25%以上です。また、深夜残業や法定休日出勤、月60時間を超える法定外労働などの場合はさらに高い割増率で計算されます。
従業員が法定労働時間を超える勤務を行った場合、雇用側の企業は労働基準法に沿って正しく割増賃金を支払わなければなりません。本業と副業の両方が雇用契約である場合、その合計労働時間が法定労働時間を超えていないかを確認する必要があります。
所定労働時間と所定外労働時間
所定労働時間は、企業ごとに就業規則や労働契約書で定められている労働時間を指します。たとえば、9:00〜18:00(休憩1時間)の8時間を所定労働時間とするケースなどが一般的です。所定労働時間が必ずしも法定労働時間(1日8時間・週40時間)と一致するとは限らず、企業独自の設定になっていることもあります。
企業が定めた所定労働時間を超えてはたらいた部分は、「所定外労働時間」に該当し、賃金の支払が発生します。ただし、所定労働時間を超えても、法定労働時間内に収まっている場合は割増賃金の支給義務はありません。割増なしの残業代が必要となります。
たとえば、9:00〜17:00(休憩1時間)の7時間を所定労働時間とする企業で、9:00~19:00まで勤務した日の場合、労働時間の内訳は以下のようになります。
- 9:00~17:00 所定内労働(7時間)
- 17:00~18:00 所定外労働(1時間/通常の時間単価で支払われる残業代が発生)
- 18:00~19:00 法定外労働(1時間/割増率25%以上の残業代が発生)
このように、所定労働時間を超えただけでは割増賃金の対象にはならず、1日8時間・週40時間を超えた部分のみが「法定外労働時間」となり、割増賃金の支払いが必要となります。
36(サブロク)協定とは
法定労働時間を超える残業や休日労働を行うためには、あらかじめ労使間で「時間外・休日労働に関する協定」を結ぶ必要があります。労働基準法36条に基づいて締結されるため、通称「36(サブロク)協定」と呼ばれます。
36協定で認められる残業時間の上限は、原則として月45時間・年360時間であり、それ以上の残業をさせる場合は特別条項付き36協定の締結が必要です。特別条項付きの36協定を締結すると、繁忙期など臨時的な特別の事情がある場合には、月45時間を超える残業が認められます。しかし、特別条項付きであっても「年720時間以内」「単月で100時間未満(休日労働を含む)」「2~6ヶ月平均が80時間以内(休日労働を含む)」「月45時間を超えられるのは年6回まで」などの上限が定められており、無制限に残業ができるわけではありません。
本業・副業ともに雇用契約:労働時間の通算が必要
本業と副業の双方で企業と雇用契約を結んでいる場合、両社における労働時間を通算しなければなりません。法定労働時間の「1日8時間・週40時間」を超過していないか、時間外労働に対する割増賃金が適切に支払われているかなどを確認するためです。企業側で適切な労働時間の管理が必須となるため、必ず、本業と副業双方の合意を事前に得ることが大切です。
労働時間通算の考え方について、以下3つのポイントで見ていきましょう。
- 所定労働時間の通算
- 所定外労働時間の通算
- 簡便な労働時間管理の方法「管理モデル」
所定労働時間の通算
所定労働時間については、雇用契約締結のタイミングによって計算の順序が決まります。
たとえば、契約順序が先に本業A社、次に副業B社だったとします。A社、B社それぞれの労働が所定労働時間内でありながら、合計労働時間が法定労働時間を超えている場合、割増賃金を支払うのは契約順序が遅いB社です。
このように、所定労働時間の通算では契約の順序がポイントとなります。
所定外労働時間の通算
一方、所定外労働時間は所定外労働が行われた順序によって計算します。
たとえば、本業A社で先に労働したあと、副業B社で労働したとします。A社での所定外労働が2時間、B社での所定外労働が2時間で、労働時間を通算した結果その日の労働時間が11時間だった場合、割増賃金が必要な法定外労働時間は3時間となります。これを所定外労働が行われた順序に当てはめると、割増賃金はA社が1時間分、B社が2時間分となるのです。
このように、所定外労働時間の通算では労働の順序がポイントとなります。
簡便な労働時間管理の方法「管理モデル」
本業と副業を通算した労働時間管理は煩雑になるため、労使双方の負担を軽減する方法として「管理モデル」があります。企業があらかじめ副業を含めた労働時間の上限を設定し、その範囲内ではたらいてもらうことで、合計労働時間をすべて把握しなくても労働基準法を遵守できるという仕組みです。
なお、仮に設定した上限を超えて勤務した場合は、もう一社での労働時間に関わらず「法定外労働時間」として割増賃金を支払うことで、賃金の未払いリスクも防げます。
「管理モデル」を採用することで、雇用側企業は管理負担が軽減され、労働者側は無理な長時間労働を防げるといったメリットがあります。労働時間の通算管理が必要な場合の選択肢として、押さえておきましょう。
参考:厚生労働省「副業・兼業における労働時間の通算について(簡便な労働時間管理の方法「管理モデル」)」
本業・副業いずれかが雇用契約でない:労働時間の通算は不要
本業と副業のいずれかが雇用契約でない場合、労働時間の通算は不要です。たとえば、本業で雇用契約を結んでいても、副業がフリーランスとしての業務委託契約であれば、労働時間を通算する必要はありません。
ただし、通算不要とはいえ、「はたらきすぎ」は健康面や本業への影響が懸念されます。睡眠不足や過労によるリスクを避けるためにも、自己管理を怠らないように注意しましょう。
また、フリーランスとしての業務委託契約などの場合、報酬や納期は基本的に自身で管理する必要があります。本業の勤務に差し支えない範囲で進められるよう、計画性を持って取り組むことが大切です。
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今後通算しないルールに変更される?いつから適用?
近年、「副業を推進するうえで労働時間の通算ルールが企業の負担になっている」という指摘があります。そのため、副業における労働時間の通算について、見直しの動きも見られます。
厚生労働省の参考資料には、以下の記載があります。
労働者の健康確保のための労働時間の通算は維持しつつ、割増賃金の支払いについては、通算を要しないよう、制度改正に取り組むことが考えられる。その場合、法適用に当たって労働時間を通算すべき場合とそうでない場合とが生じることとなるため、現行の労働基準法第38条の解釈変更ではなく、法制度の整備が求められることとなる。
出典:「厚生労働省」労働条件分科会(第193回)参考資料No.3
あくまで検討段階ではあるものの、将来的に労働時間の通算に関するルールが変更される可能性はあるといえるでしょう。
副業の労働時間は本業の勤務先に申告する必要がある?
本業と副業を掛け持ちする場合、本業の勤務先に副業の状況を申告すべきかどうか悩む方もいるでしょう。労働基準法上、本業の会社は従業員の労働時間を適切に管理する義務があります。そのため、「副業でどの程度はたらいているか」が分からなければ正確な労働時間の把握ができなくなり、結果として労働基準法違反のリスクを負う可能性があります。
本業と副業の両方で雇用契約を結んでいる場合は、一度本業にて副業に関する規定を確認した上で、労働時間が通算されることを前提に、事前に申告することが望ましいといえるでしょう。
本業・副業の労働時間をうまくマネジメントするコツ
本業と副業を両立させるには、スケジュールや体調の管理が重要です。ここからは、本業と副業の労働時間をうまくマネジメントするための具体的なポイントを見ていきましょう。
プライベートの過ごし方を見直す
副業をするうえで、まず見直したいのがプライベートでの時間の使い方です。以下のように日々の生活を見直すだけでも、意外とまとまった時間を確保できる可能性があります。
- 朝活を取り入れる
- 飲み会の回数を見直す
- 時短家電で家事を効率化する
たとえば、早起きをして副業や勉強時間に充てる「朝活」は、一般的に日中よりも集中力が高まりやすいといわれています。朝であれば「本業の残業が長引いて副業に取り組めなかった」ということも起こりにくく、計画的に取り組みやすいでしょう。
また、同僚や友人との飲み会が多い場合、参加する回数を見直すという方法もあります。たとえば、これまで実施回数にかかわらず毎回参加していた場合は、事前に参加する回数を決め、予定を把握しておけば、スケジュール管理がしやすくなります。
そのほか、家事に多くの時間を費やしている方は時短家電の購入を検討するのもよいでしょう。食洗機やロボット掃除機など、便利な家電を使えば家事にかかる時間の短縮を期待でき、副業に割く時間を確保しやすくなる可能性があります。
すきま時間、ながら時間を活用する
会社員として本業を行いながら、就業前後の移動時間や休憩時間など、すきま時間をうまく活用して副業や情報収集を行うことも有効です。
たとえば、通勤時間を使って、スマホやタブレットでニュースや専門サイト、資料の確認を行い、学習や情報収集を行うといった方法が挙げられます。音声学習ツールなどを活用して耳から情報をインプットするのもおすすめです。
もちろん、本業の勤務中に副業を行うのはNGですが、すきま時間やながら時間の活用は、労働時間をうまくマネジメントするうえで欠かせないポイントだといえます。
業務を効率化する
本業と副業を両立するには、業務効率を高めることも重要です。同じ就業時間でも、生産性が高いはたらき方をすればより多くの業務を処理できるようになります。
たとえば、以下のような観点で 業務の効率化を検討してみましょう。
- ルーティン業務の見直し
- デジタルツールの活用
いつもの手順やフローを少し変えるだけで、作業時間を削減できる場合があります。手作業で行っていたものをデジタルツールに置き換えるといった方法も有効です。
既存業務を効率化することで、同じ時間で処理できる業務の量を増やしていきましょう。
副業の労働時間に関する注意点
副業をする際には、労働時間だけでなく健康面や本業への影響、保険の適用など、気をつけるべきポイントがいくつかあります。本業と副業を無理なく続けるためにも、以下の点を念頭に置いておきましょう。
健康とのバランスが大切
副業は収入アップや新たなキャリア形成につながる可能性がある一方、心身に負担がかかり健康のバランスを崩すリスクもあります。
以下の二点を意識し、健康を維持するよう心がけましょう。
- 十分な睡眠と休息を取る
- 過労やストレスのサインを見逃さない
睡眠時間が少なくなると集中力が低下し、本業にも悪影響が出ます。週末だけでもしっかりリフレッシュするなど、計画的に休むことを意識しましょう。また、ストレスや疲労が蓄積する前に、「スケジュールを再調整する」「仕事量を見直す」などの対策を取ることが大切です。
本業のパフォーマンスを落とさないことが前提
副業の目的はさまざまですが、どのようなケースでも本業のパフォーマンスが落ちてしまっては本末転倒です。スキルアップや収入アップを目的にしているにもかかわらず、本業での評価が下がってしまえば目的達成から遠のいてしまうでしょう。
業務時間やコンプライアンスを守るといった基本的なことはもちろん、副業に関して申告が必要な項目があれば所属企業に遅滞なく報告するなど、信頼関係を崩すことがないようマナーやルールの順守が不可欠です。
労働・社会保険の適用条件も要確認
副業を始める際は、労働保険や社会保険の適用条件も事前に確認しておきましょう。
まず、労働保険のうちの労災保険については、雇用契約がある事業所ではたらく場合はすべて対象となります。
雇用保険については、一人につき一社しか加入できません。本業と副業の両方で加入要件を満たしている場合、通常は本業の企業側で加入し、副業の企業側では加入しません。
また、社会保険(健康保険・厚生年金保険)については、事業所単位で加入要件を満たすかどうかが判断されます。もし双方の事業所で要件を満たす場合、どちらも加入が必要となり、「二以上事業所勤務届」の提出が必要になります。勤務先の担当者に必ず確認するようにしましょう。
まとめ
本記事では、本業と副業で労働時間を通算しなければならないケースや通算が不要となるはたらき方、労働時間をマネジメントするコツなどを解説しました。副業に取り組む会社員が増えるなか、労働時間の管理は重要性を増しているといえるでしょう。
ただし、フリーランスとして業務委託契約を結ぶ場合などは、雇用契約に該当しないため労働時間の通算は不要です。自身の副業スタイルに合わせて、労働時間をうまくマネジメントしていくことが大切です。
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うちやま社会保険労務士事務所 代表
新卒3年目で社会保険労務士に合格。勤怠管理システムの営業、大手事業会社の人事部経験を経て2022年に独立。「労働時間管理のプロフェッショナル」として、制度づくりやDX支援など、働き方の改善を入り口に会社に寄り添った長期視点での人事労務サポートを提供している。
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