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【弁護士監修】フリーランスの契約書ガイド|作成の流れや記載項目・注意点を解説

フリーランスの契約書のイメージ画像

「クライアントから提示された契約書、このままサインしても問題ないだろうか?」
「契約書なしで仕事を進めてしまったが、後からできる対応はあるだろうか?」

フリーランスとして活動する中で、このような不安や疑問を感じたことは少なくないかもしれません。本記事では、フリーランスが関係する契約書の種類や、契約書を作成するべき理由を解説します。さらに、契約書がないことのリスクや作成方法も解説します。

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フリーランスの契約書とは?種類を解説

フリーランスがビジネスを行う上で遭遇する契約書には、いくつかの主要な種類が存在します。契約形態の違いを戦略的に理解することは、フリーランスが自らの立場を的確に把握し、リスクを管理する上で不可欠です。

本章では、基盤となる契約書の類型を解説します。

業務委託契約書

「業務委託契約書」という言葉はビジネスの現場で頻繁に使われますが、民法で厳密に定義された用語ではありません。企業が特定の業務を外部の個人や法人に委託する際に用いられる、包括的なビジネス上の呼称です。

法的な観点から見ると、この「業務委託契約」は、民法上で規定されている「請負契約」または「準委任契約」のいずれかの性質を持つことになります。

したがって、契約書を交わす際には、どちらに該当するのかを正確に理解することが重要です。

▼関連記事
フリーランスと業務委託契約の違いとは?業務委託契約書の種類や作成方法を解説。

請負契約書と準委任契約書

フリーランスの業務契約において、「請負契約」と「準委任契約」のどちらを選択するかは、取引の構造を決定づける重要な判断です。それぞれの違いは、以下のとおりです。

特徴

請負契約

準委任契約

契約の目的

仕事の完成

業務の遂行

負うべき義務

成果物を完成させる義務(完成責任)

善良な管理者の注意をもって業務を処理する義務(善管注意義務)

報酬の発生基準

成果物の納品・検収完了時

業務の遂行(時間・工数)に対して

責任

契約不適合責任(納品物の欠陥等に対する責任)を負う

業務遂行における注意義務違反に対して責任を負う

契約解除

発注者は仕事の完成前ならいつでも解除可能(損害賠償が必要)

当事者双方がいつでも解除可能(相手方に不利な時期の解除は損害賠償が必要)

具体例

仕様が固定されたWeb制作、記事執筆、ロゴデザイン

ITコンサルティング、システム運用保守、アジャイル開発

請負契約(Contract for Work)は、「仕事の完成」を目的とする契約です。ウェブサイトの構築・ロゴデザインの制作・特定の記事の執筆など、明確な成果物(納品物)が存在する業務で用いられます。

この契約形態では、フリーランスは約束された成果物を完成させ、納品する義務を負います。報酬は、この「結果」に対して支払われるのが原則です。もし成果物が完成しなければ、それは契約不履行(債務不履行)となり、責任を問われる可能性があります。

一方、準委任契約(Quasi-Mandate)は、「業務の遂行」そのものを目的とします。フリーランスは、専門家としての注意義務(善管注意義務)をもって業務を処理することが求められますが、必ずしも特定の結果を保証するものではありません。

コンサルティング、システムの運用・保守、プロジェクトマネジメントなど、業務プロセス自体に価値がある場合に適しています。報酬は、労働時間や工数に基づいて支払われることが多く、たとえ期待通りの結果に至らなかったとしても、誠実に業務を遂行していれば報酬を請求する権利があります。

秘密保持契約書(NDA)

秘密保持契約書(NDA)は、業務遂行の過程で開示される機密情報を目的外に利用したり、第三者に漏洩したりすることを禁じる契約です。

この契約の重要な点は、締結のタイミングにあります。具体的な業務内容や技術情報といった機密情報が開示されるよりも先に締結するのが鉄則です。NDAは、単なる情報漏洩防止のための文書ではなく、フリーランスにとっては、キャリアを左右しかねない重要な契約です。

クライアントが提示するNDAでは、「秘密情報」の定義や、競業避止義務が広範に設定されていることが少なくありません。フリーランスが業務を通じて得た一般的なスキルやノウハウまで秘密情報に含めてしまうと、将来的に類似プロジェクトへの参画が難しくなる可能性があります。

したがって、フリーランスがNDAに署名する際は、「秘密情報の定義」や「目的外使用の禁止」の条項を精査することが大切です。自らの専門性やキャリア形成を不当に制限する内容になっていないか、慎重に確認する必要があります。

基本契約書と個別契約書

継続的に取引を行うクライアントとの間では、契約手続きの効率化を図るために「基本契約書」と「個別契約書」という二段階の契約形態が用いられることが一般的です。

まず、最初の取引開始時に「基本契約書(業務委託基本契約書)」を締結します。この契約書には、両者間のすべての取引に共通して適用される基本的なルール(支払い条件、秘密保持義務、知的財産権の帰属、契約解除事由など)が定められます。

その後、具体的な仕事が発生する都度、「個別契約書」を取り交わします。この個別契約書は、発注書(注文書)と請書といった簡易な形式や、電子メールでの合意によって成立することもあります。ここには、個々のプロジェクトに固有の条件(具体的な業務内容、成果物の仕様、納期、報酬額など)が記載されます。この仕組みにより、取引のたびに毎回ゼロから契約書を作成・交渉する手間を省き、迅速かつ安定した取引関係を維持することが可能になります。

著作権譲渡契約書

デザイン・プログラムコード・文章・イラストなど、フリーランスが制作した成果物(著作物)の著作権は、原則として、創作したフリーランス自身に帰属します(著作者主義)。クライアントが著作権を取得するためには、別途「著作権譲渡契約書」を締結するか、業務委託契約書の中に著作権譲渡に関する条項を明確に盛り込む必要があります。

ただ、単に「本件成果物の著作権を発注者に譲渡する」と記載しただけでは不十分です。二次的著作物を創作する権利である「翻案権(著作権法第27条)」や「二次的著作物の利用に関する原著作者の権利(同法第28条)」は譲渡されません。

これらの権利まで移転させるためには、契約書に「著作権法第27条及び第28条に定める権利を含む」と明確に記載することが法律上要求されています。

さらに、著作権とは別に、著作者には「著作者人格権」(公表権、氏名表示権、同一性保持権)という、一身専属的で譲渡不可能な権利が残ります。クライアントは制作物を自由に改変・利用したいため、契約書に「著作者人格権を行使しない」という不行使特約を盛り込むことを要求するのが通例です。

これらの権利の扱いは、フリーランスにとってポートフォリオでの実績公開の可否にも直結するため、報酬額と並ぶ重要な交渉事項となります。

出典:著作権法(e-Gov 法令検索)

フリーランスが契約書を作成すべき理由

フリーランスにとって契約書は、クライアントとの関係を強固にするための重要な書類です。以下、理由を解説します。

業務内容・報酬・納期など重要要素を明確化できる

契約書を作成する理由の一つは、プロジェクトの根幹をなす重要要素を文書化し、双方の認識を一致させることにあります。

HiProが発表した「副業・フリーランス人材白書2025」によると、企業がフリーランスの活用に踏み切れない理由として最も多いのは「現場での活用イメージがわかない・どのようなケースに適しているのかわからない」でした。全体の約30%にものぼります。

このデータは、クライアント側が「何を頼めばよいか」を具体的に描けていないという課題を浮き彫りにしています。

契約書で「業務内容」の条項を作成することで、自らの専門性を示し、クライアントが安心して依頼できる状態を作り出すことが可能です。

企業とフリーランス人材が互いに信頼したうえで仕事ができる

信頼関係は、フリーランスとクライアントが協業する上での基盤です。

しかし、「副業・フリーランス人材白書2025」では、企業がフリーランス活用をためらう理由として、「業務に責任を持ってもらえるかどうか不安」が10.0%、「副業人材に対して抵抗がある」も20.0%存在することが示されています。

正式な契約書を交わすことで、こうした心理的な障壁を和らげる効果を期待できます。納期・成果物の品質・秘密保持義務といった条項が明記された契約書は、フリーランスが自らの業務に向き合い、責任を全うする意思があることを示せるためです。

信頼を補完・可視化する役割して、契約書が機能する可能性があるのです。

トラブル発生のリスクを抑えられる

フリーランスの仕事におけるトラブルの多くは「言った・言ってない」「そんなつもりではなかった」といった曖昧さに起因します。

契約書は、この曖昧さを排除するために効果的なツールです。事前に文書で定義することにより、両当事者は潜在的な問題点を予見し、深刻な対立に発展する前に対処法を合意できます。たとえば、「修正は2回までとし、3回目以降は追加料金を請求する」といった一文があるだけで、際限のない修正要求という典型的なトラブルを未然に防ぐことが可能です。

トラブルが発生した際に証拠として使用できるため

トラブルが発生した際に証拠として使用できる点も、フリーランスが契約書を作成すべき理由の一つです。万が一、紛争が法的な段階に発展した場合、口頭での約束や断片的なメールのやり取りだけでは、合意内容を客観的に証明することは困難です。

契約書は、署名・押印を行った両当事者の合意を示す、法的にも認められる証拠となります。報酬の未払いや一方的な契約解除といった事態に直面した際、契約書が存在するか否かは、フリーランスが自らの正当な権利を主張し、実現できるかを左右します。

契約書は、万一の事態に備える重要な手段となります。

フリーランスで契約書がない場合に考えられるリスク

契約書なしで業務を始めることは法的には可能ですが、多くのリスクが伴う可能性があります。ここでは、契約書がない場合に想定される具体的なリスクについて詳述します。

報酬未払い・減額のリスクがある

契約書がない場合に発生する可能性が高いのが、金銭に関するトラブルです。報酬額・支払期日・支払方法などが書面で定められていなければ、クライアントからの支払いが遅延したり、一方的に減額されたりするリスクが高まります。

「月末払いと聞いていた」「消費税込みの金額のはずだ」と主張しても、裏付ける客観的な証拠がなければ、交渉は不利になる可能性があります。契約書は、フリーランスにとって重要な防御手段といえるでしょう。

業務内容・範囲でのトラブルになる可能性がある

業務内容・範囲は、契約書なしではたらくフリーランスが直面する典型的な問題です。当初は「簡単な修正」として善意で対応した作業が、いつの間にか当然の義務のように扱われ、次から次へと追加の要求が続くことも考えられます。

契約書で業務の範囲が明確に定義されていないため、「どこまでが契約内の業務で、どこからが追加業務なのか」という境界線が曖昧になります。結果、追加の報酬を請求することも不当な要求を断ることも難しくなり、追加作業を強いられる状況に陥る可能性があります。

トラブルが起きた際に証拠を提示できない恐れがある

前述の通り、契約書の重要な機能の一つは、証拠能力です。万が一、クライアントとの間で紛争が生じ、話し合いでの解決が困難になった場合、最終的には法的な場で争うことになります。その際、裁判所が重視するのは客観的な証拠です。

契約書が存在しない場合、たとえメールやチャットの履歴があったとしても、それらが断片的であったり、最終的な合意内容を示していなかったりすると、法的な証明力は限定的になります。

納品後の権利帰属について対立する可能性がある

特にデザイナーやライター、プログラマーなどのクリエイティブ職にとって、知的財産権(著作権など)の扱いは極めて重要です。契約書で著作権の譲渡について明確な取り決めがなければ、法律の原則通り、成果物の著作権は制作者であるフリーランスに帰属したままとなります。

この状態でクライアントが成果物を改変して二次利用したり、別の媒体に転用したりしようとした場合、深刻な対立が生じる可能性があります。クライアントは「お金を払ったのだから自由に使って当然」と考え、フリーランスは「二次利用には追加のライセンス料が必要」と主張するでしょう。

このような権利に関する紛争は、契約書で事前に帰属先を明確にしておくことで回避できます。

フリーランス新法違反の不当な扱いを受けるリスクがある

フリーランスが企業から業務委託を受ける場合、フリーランスは「下請法」及び「フリーランス新法」によって保護される可能性があります。この法律は、優越的な立場にある事業者(クライアント)が、個人事業主(フリーランス)に対して不当な行為を行うことを禁じています。

しかし契約書がなければ、当初合意した代金や本来の納期、定められた仕様を客観的に示せません。クライアントは「最初からその金額だった」「仕様を満たしていなかったからやり直しを求めた」と主張することが可能になり、フリーランス新法違反を立証することが困難になります。

フリーランスが契約書を作成する流れ

契約書の作成は、単なる事務作業ではなく、プロジェクトの成功に向けた重要なコミュニケーションプロセスです。明確で公正な契約書を締結するためには、体系的な手順を踏むことが不可欠です。ここでは、フリーランスが契約書を作成し、締結に至るまでの実践的な5つのステップを解説します。

ステップ1.契約内容の整理・すり合わせ

契約書作成の第一歩は、文書化する前の口頭またはメールでの交渉段階です。このステップは、プロジェクトのスムーズな進行に大きく影響する可能性があります。

業務の範囲や報酬額をはじめ、契約の各項目について、クライアントと十分に話し合い、できるだけ認識を揃えておくことが望ましいです。この段階で曖昧な点を残してしまうと、後の工程で手戻りが発生したり、契約書に落とし込む際に解釈の違いが露呈したりする可能性があります。

フリーランスは対等なビジネスパートナーとして、自らの希望や条件を明確に伝え、お互いが納得できる合意点を形成することが求められます。

ステップ2.契約書の作成

ステップ1で合意した内容に基づき、契約書の草案を作成します。

契約書はクライアント側が用意することが多いですが、フリーランス側が自身のテンプレートを提示することも可能です。草案を作成する際は、ステップ1で合意した内容が正確に、かつ法的に有効な言葉で反映されていることを確認します。テンプレートを利用する場合でも、個別の案件に合わせて内容をカスタマイズすることが不可欠です。

ステップ3.内容の確認・調整

一方の当事者が作成した契約書の草案を、もう一方の当事者が精査するステップです。クライアントから提示された契約書をレビューする場合、フリーランスは特に注意深く内容を確認する必要があります。一言一句を丁寧に読み込み、当初の合意内容との間に齟齬がないか、自分にとって一方的に不利な条項が含まれていないか、法的に曖昧な表現が使われていないかをチェックします。

もし疑問点や修正を希望する箇所があれば、この段階で遠慮なく指摘し、修正を求めます。契約書に一度署名・押印すると内容に同意したと見なされ、後から変更することは困難になります。自分が完全に理解し、納得できる内容になるまで、調整を重ねることが重要です。

ステップ4.契約書への署名・押印

双方が契約書の最終版の内容に合意したら、契約を正式に成立させるための署名・押印のステップに移ります。伝統的な紙の契約書の場合は、当事者の数だけ契約書を印刷し(通常は2部)、それぞれが署名・記名し、押印します。契約書が複数ページにわたる場合は、ページの差し替えを防ぐために契印(または割印)を押すのが一般的です。

近年では、電子契約サービスを利用して電子署名を行うケースも増えています。電子署名は、法的に有効性が認められており、物理的な押印と同様の効力を持ちます。どちらの方法を用いるにせよ、双方が正式に契約を締結したことを示す重要な行為です。

ステップ5.保管・管理

署名・押印が完了した契約書は、両当事者がそれぞれ1部ずつ保管します。契約期間中の業務遂行における参照資料となるだけでなく、将来的に何らかの確認やトラブルが生じた際の重要な証拠となるでしょう。

紙の契約書であれば、紛失や劣化を防ぐためにファイリングして安全な場所に保管します。電子契約の場合は、サービス上のストレージや自社のサーバーに、法的な要件(電子帳簿保存法など)を満たす形で保存・管理が必要です。

契約の履行が完了した後も、税法上の帳簿保存義務に基づき、関連書類と同様に5年~7年間程度の保存が必要です。

出典:記帳や帳簿等保存・青色申告(国税庁)

フリーランスの契約書に記載すべき主要項目

フリーランスの契約書は、個々の取引の特性を反映したオーダーメイドであるべきですが、どのような契約にも共通して含まれるべき、核となる主要項目が存在します。これらの条項は、取引の骨格を形成し、当事者間の権利と義務を明確にするために重要です。

ここでは、それぞれの項目が持つ戦略的な意味と、記載する際の注意点を詳しく説明します。

業務内容とその範囲

この条項は、フリーランスが「何をするのか」を定義する、契約書の中でも基本的な部分です。ここでの曖昧さは、後々のスコープの拡大や「言った、言わない」といった認識の違いによるトラブルにつながる可能性があります。

誰が読んでも同じ解釈ができるレベルまで具体的に記述することが重要です。何を成果物として納品するのか、どの作業までが範囲内で、どの作業は範囲外なのかを明確に線引きしましょう。

報酬額と支払い方法・期日

報酬額と支払い方法・期日は、フリーランスの事業継続にとって重要な条項です。

報酬額は、税抜(本体価格)と消費税額を分けて明記し、総額がいくらになるのかを明確にすると誤解を防げます。源泉徴収の対象となる業務の場合は、その旨も記載することが望ましいです。

また、銀行振込手数料をどちらが負担するのかも明記しておくと、些細なトラブルを避けられる可能性が高まるでしょう。

納期・検収条件・遅延時の対応

「いつまでに納品するのか」という納期を明確に定めます。しかし、納期と同じくらい重要なのが「検収」に関する条件です。

納品後、クライアントが成果物を確認し、契約内容に適合しているか検査する期間を「検収期間」として設定します。この期間を定めないと、クライアントの都合で検収が先延ばしにされ、報酬の支払いが遅れる原因となります。

さらに、「検収期間内に甲から乙に対し、書面による具体的な理由を付した通知がない場合、本件成果物は検収に合格したものとみなす」という「みなし検収」条項を入れておくことが大切です。

知的財産権の帰属

クリエイティブな業務において、紛争になりやすい項目の一つです。

成果物の著作権が、報酬の支払いと引き換えにクライアントに譲渡されるのか、フリーランスに留保され、クライアントには利用を許諾するだけなのかを明確に規定します。

フリーランスが自身のポートフォリオとして実績を公開したい場合は、条項を交渉して加えることが大切です。

秘密保持(NDA)条項

別途NDAを締結しない場合は、業務委託契約書にこの条項を盛り込みます。

どの情報が「秘密情報」に該当するのかを定義し、情報を第三者に漏洩しない義務、および契約目的以外に使用しない義務を定めます。

秘密情報の定義が広すぎる場合、フリーランスの活動に制約が生じる可能性があるため、注意して確認することが望ましいです。

損害賠償・免責事項

フリーランスにとって、損害賠償・免責事項はリスク管理で欠かせないポイントです。フリーランスが負うべき損害賠償責任が無制限になっている場合があるため、賠償責任の上限額 の設定について交渉するとよいでしょう。

一般的で公正な落としどころは、賠償額を契約で得られる報酬額の総額に限定することです。これにより、数万円の報酬のプロジェクトにおいて、数千万円の賠償請求をされるといったリスクを回避できます。

契約期間・中途解約・自動更新

契約がいつからいつまで有効なのかといった期間を明記する項目です。また、以下のように、契約期間の途中で契約を解除する場合の条件も定めます。

「当事者は、相手方に対し30日前までに書面で通知することにより、本契約を解約できる」

この際、解約時点までに履行された業務に対する報酬は支払われるべきことを明確にしておくことが大切です。また、契約が自動的に更新されることを書きたい場合は、条件も正確に記載しましょう。

その他(経費負担・管轄裁判所など)

業務遂行にあたって発生する経費(交通費、通信費、素材購入費など)をどちらが負担するのかを定めます。

また、万が一、契約をめぐって訴訟に発展した場合に、どの裁判所で審理を行うかをあらかじめ決めておく「合意管轄」条項も重要です。

契約交渉で気を付けるべきポイント

契約交渉は、フリーランスが自らの価値を主張し、ビジネスのリスクを管理するための重要な機会です。クライアントから提示された契約書にただ署名するのではなく、内容を吟味し、対等なパートナーとして交渉に臨む姿勢が求められます。

ここでは、特に注意すべき交渉のポイントを解説します。

無制限責任や成果物保証に注意する

契約書の中でも警戒すべき条項の一つが、損害賠償に関するものです。クライアントから「本契約の履行に関連して甲に生じた一切の損害を賠償する」といった上限設定を交渉し、リスクを限定することが望ましいです。

このような条項に対しては、可能であれば「損害賠償額は本契約の委託料総額を上限とする」といった上限設定を交渉し、リスクを限定することが不可欠です。

また、準委任契約であるにもかかわらず「成果の発生を保証する」といった趣旨の文言が含まれている場合、契約の性質と矛盾します。準委任契約の義務はあくまで善管注意義務であり、結果を保証するものではないため、このような条項がある場合はクライアントへ確認しましょう。

副業禁止・競業避止義務の有無をチェックする

フリーランスは、複数のクライアントと同時に仕事を進めるのが一般的です。そのため、「競業避止義務」条項には細心の注意が必要です。この条項は、契約期間中および契約終了後、一定期間にわたって競合他社との取引を禁じるものです。

この条項が不当に広範(期間が長すぎる、競合の定義が曖昧、地理的範囲が広すぎるなど)である場合、フリーランスの営業の自由を著しく侵害し、死活問題に直結します。契約を締結する前に、条項の文言を精査し、自らの事業活動を不当に制限していないか確認しましょう。必要であれば、範囲の限定(例:「直接競合する特定の2社との取引に限る」など)についての交渉も検討しましょう。

知的財産の取り扱いや二次利用・実績掲載の交渉余地を確認する

知的財産権の扱いは、単なる法的な手続きではなく、フリーランスの価値と将来のビジネス機会に関わるポイントです。特に、制作した成果物を自身のポートフォリオに掲載し、「実績」として公開できるかどうかは、次の仕事に繋がる重要なマーケティング資産となります。

クライアントが秘密保持を理由に実績公開を認めない場合、フリーランスにとっての「機会損失」を意味します。この機会損失の対価として、より高い報酬を要求することは正当な交渉です。

逆に、実績公開を許可してもらえるのであれば、交換条件として価格面で多少の譲歩を提案することも戦略の一つとなり得ます。このように、権利の扱いは報酬と連動する交渉材料として活用されることもあります。

契約解除条項とその条件をチェックする

契約解除条項は、関係性が悪化した場合の「出口戦略」を定める重要な部分です。クライアント側が何らの理由なく、即時に契約を解除できるような一方的な条項は注意しましょう。

公正な契約解除条項には、少なくとも以下の要素が含まれているべきです。

  • 解除には相当な予告期間(例:30日前)を設けること
  • 契約が解除された場合でも、解除日までに完了した業務に対する報酬は全額支払われること

これにより、突然の契約打ち切りによって収入が途絶えるリスクを軽減できます。これらの条件が満たされていない場合は、修正を求めましょう。

フリーランスが契約書を作成する際の注意点

契約書を作成し、締結するプロセスは、フリーランスが自らのビジネスを主体的にコントロールするための重要な行為です。ここからは、フリーランスが契約書を作成する際の注意点を解説します。

テンプレートではなく実際の内容や条件に応じて調整する

インターネット上には多種多様な契約書のテンプレートが存在しています。しかし、テンプレートをそのまま流用すると、個別のプロジェクトが持つ特有のリスクや条件に対応できません。

したがって、契約書は必ずプロジェクトの実際の内容を反映するようにしましょう。一つひとつの条項を吟味し、必要に応じてカスタマイズすることが大切です。

テンプレートはあくまで骨格です。各プロジェクトに合わせて肉付けし、最適化する作業を心がけましょう。

想定されるトラブルを予想して作成する

フリーランスが契約書を作成する際は、想定されるトラブルを予想して作成することが大切です。

まずは、「このプロジェクトで起こりうる最悪の事態は何か?」と自問しましょう。そして、発生した際の対処法を定める条項を契約書に盛り込むことが大切です。

たとえば、「修正回数は2回まで」「仕様変更は書面による合意と追加料金を要する」といった条項が適切です。

わからないことはすぐに専門家に相談する

契約書は法律文書であり、一見すると些細な単語や言い回しの違いが、権利や義務に大きな影響を与えることがあります。

もし契約書の中に、意味がよくわからない条項や、解釈に迷う表現、あるいは一方的に不利だと感じる部分があれば、自己判断で済ませず、専門家に相談することも検討しましょう。

そのような場合は、速やかに弁護士などの法律専門家に相談することが賢明です。専門家による30分から1時間の相談費用は、不利な契約に署名してしまった場合に被る可能性のある損害と比較すれば、取るに足らない投資です。

プロフェッショナルとして、自らの知識の限界を認識し、必要な場面で外部の専門知識を活用する判断力もまた、重要なスキルの一つです。

フリーランス新法に対応した契約書がどうかも確認が必要

2024年11月1日に施行された「フリーランス新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)」は、フリーランスと発注事業者との間の取引関係に大きな変化をもたらしています。

これまで交渉の余地があった多くの項目について、発注事業者側に法的な義務を課すものです。フリーランスはこの法律を理解し、自らの契約書がその保護を最大限に活用できるものになっているかを確認する必要があります。

この法律の目的は、フリーランスの立場を強化し、より公正な取引環境を整備することにあります。フリーランスは単に「お願い」するのではなく、「法律上の要請」として、発注事業者に対して特定の対応を求めることが可能です。

以下に、従業員を使用している発注事業者がフリーランス新法に基づき負うことになる主要な義務をまとめました。

義務の種類

具体的な内容

適用される契約期間

取引条件の明示義務

業務内容、報酬額、支払期日などを、業務委託後直ちに書面または電磁的方法で明示しなければならない。

全ての期間

報酬の支払期日の設定・遵守義務

成果物等を受領した日から60日以内で、かつ、できる限り短い期間内に報酬の支払期日を定め、期日までに支払わなければならない。

全ての期間

発注事業者の遵守事項(禁止行為)

報酬の不当な減額、受領拒否、不当なやり直し要求など、フリーランスの利益を不当に害する7つの行為が禁止される。

1か月以上

育児介護等への配慮義務

フリーランスからの申し出に応じ、育児や介護と業務を両立できるよう必要な配慮をしなければならない。

6か月以上

ハラスメント対策に係る体制整備義務

ハラスメントに関する相談窓口の設置など、必要な体制を整備しなければならない。

全ての期間

中途解除等の事前予告義務

契約を中途解除したり、更新しない場合には、原則として30日前までに予告しなければならない。

6か月以上

募集情報の的確な表示義務

フリーランスを募集する広告等において、虚偽の表示や誤解を招く表示をしてはならず、情報を正確かつ最新に保たなければならない。

(募集時に適用)

この法律の施行により、フリーランスはこれまで以上に法的に保護されることになります。

自身の契約書が新しい基準に準拠しているか、またクライアントがこれらの義務を遵守しているかを常に意識することが、自らの権利を守る上で不可欠です。

出典:フリーランスの取引に関する新しい法律が11⽉にスタート!(中小企業庁)

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フリーランス契約書に関するよくある質問

フリーランスが契約書を取り扱う上では、多くの実践的な疑問が生じます。ここでは、特に頻繁に寄せられる質問に対して、法的根拠と実務的な観点から回答します。

Q1.契約書に実印や印紙は必要?

法律上、契約の成立に実印は必須ではありません。認印(いわゆる三文判)であっても、当事者の意思に基づいて押印されれば契約は有効に成立します。しかし、実印と認印では「証明力」に大きな差があります。

実印は市区町村に登録された印鑑であり、印鑑証明書と組み合わせることで、押印が本人によるものであることを極めて強力に証明できます。万が一、裁判で「この押印は自分のものではない」と相手方が主張した場合、実印であれば主張を退けることが容易です。

したがって、高額な取引や重要な契約では、リスク管理の観点から実印を使用することが推奨されます。

収入印紙は、契約書そのものの有効性とは関係なく、印紙税法という法律に基づいて課される税金です。紙で作成された契約書のうち、内容が「請負契約」に該当して契約金額が1万円を超えるもの、「継続的取引の基本契約書」に該当するものには、収入印紙を貼付する義務があります。一方で、「準委任契約」や形式を問わず全ての「電子契約」には収入印紙は不要です。

Q2.クライアントが契約書を用意してくれない場合は?

まず、フリーランス側から契約書を提示することを提案しましょう。その際は、以下のように、あくまで協力的な姿勢で切り出すのがポイントです。

「互いの認識を明確にし、スムーズにプロジェクトを進めるために、標準的な契約書の案を作成しましたので、ご確認いただけますでしょうか」

それでもクライアントが難色を示す場合は、取引相手として信頼性に注意が必要かもしれません。もし、それでも頑なに契約書の締結を拒否されるようであれば、仕事自体を見送るという勇気ある決断も必要です。

Q3.契約書がない状態で仕事を始めてしまったらどうする?

契約書を交わす前に業務を開始してしまった場合でも、できるだけ早く、合意内容を文書化する努力をすべきです。

手軽で有効な方法は、クライアントにメールを送り、これまでの合意内容を箇条書きで確認することです。

たとえば、「先日の打ち合わせ内容について、念のため以下の通り認識をまとめさせていただきました。お間違いがないかご確認いただけますでしょうか」という前置きと共に、業務範囲、報酬額、納期などを記載します。

クライアントから「内容に相違ありません」といった返信を得られれば、法的に有効な「合意の証拠」となります。正式な契約書ほど強力ではありませんが、口約束の状態よりは効果的です。

Q4.電子契約も紙の契約書と同じ効力がある?

適切に締結された電子契約は、紙の契約書と法的に同等の効力を持ちます。「電子署名法」という法律により、特定の要件を満たした電子署名が付された電子文書は、本人の意思に基づいて真正に成立したものと推定されることが定められています。

信頼できる電子契約サービスは、「電子証明書」による本人性の担保と「タイムスタンプ」による非改ざん性の証明という技術を用いています。これにより、いつ・誰が・どの内容の契約に合意したかを客観的に記録・検証することが可能です。

契約書について理解を深めて自分の仕事と生活を守ろう

本記事では、フリーランスが自身のビジネスを守り、成長させるための根幹となる「契約書」について、種類から作成プロセス、主要な条項、交渉術、そして最新の法改正に至るまで解説しました。

契約書は単なる法的形式ではありません。クライアントとの信頼を構築し、業務の成功を定義するとともに、万一の際には自身を守るための重要なツールです。請負と準委任の違いを理解し、プロジェクトの性質に合わせて適切な契約形態を選択することが欠かせません。

契約書のテンプレートを見直し、損害賠償の上限条項など、積極的に業務範囲について明確にしましょう。もし複雑な問題に直面した際は、一人で悩まずに専門機関に相談することも視野に入れましょう。

(監修日:2025年8月18日)

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【監修者】河野 冬樹 法律事務所アルシエン|弁護士

法律事務所アルシエン(https://www.kawano-law.net/ )|弁護士

弁護士として、主にクリエイターの方をメイン顧客とし、著作権、フリーランス法務、エンターテイメント法務などを取り扱っております。 情報発信にも力を入れており、Xのフォロワー数は1万人を超えております(@kawano_lawyer)。

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