企業間の副業を推進する「相互副業プロジェクト」 〜実践企業から見た相互副業による効果とは?〜

明治ホールディングス株式会社
グループ人事戦略部 人事戦略グループ グループ長 大河内 淳
兼松株式会社
人事部 人材開発課 課長 塚本 達雄
左から、明治ホールディングス株式会社 大河内 淳 氏 、パーソルキャリア株式会社 鏑木 陽二朗、兼松株式会社 塚本 達雄 氏

プロフェッショナル人材の総合活用支援サービス「HiPro(ハイプロ)」は2024年5月22日(水)、事業戦略発表会を開催しました。

発表会の第一部では、「HiPro」編集長兼事業責任者の鏑木 陽二朗が登壇し、HiProの事業を振り返るとともに、企業間の副業を推進する「相互副業プロジェクト」を新たに発足したことを発表しました。

「HiPro」では、個人のスキルが一つの企業に留まらずさまざまな形で活かされ、個人と企業がともに成長する「スキル循環社会」の実現を目指しています。その一環として、2023年からはプロ人材のスキルを“ふるさと”に還元する「スキルリターン」プロジェクトを推進し、これまでに鳥取・山形・福岡・広島で取り組みを進めてきました。

一方、日本の副業市場をみると、副業人材を受け入れる企業はいまだ一部に限定されており、その背景には副業受け入れに対する“不安の壁”が存在することが明確です。そこで「HiPro」は、企業が抱える不安を取り除き、安心して副業人材を活用できる環境を用意することで、多くの企業にとって副業人材活用が当たり前になることを目指し、さらにははたらく個人がこれまで以上に自らの「はたらく」に対して主体性を持てるよう、企業間での副業を推進する「相互副業プロジェクト」に取り組みます。

「相互副業プロジェクト」に先立ち、2022年、パーソルキャリアを含む計23社では「キャリアオーナーシップとはたらく未来コンソーシアム」を発足。コンソーシアムの取り組みのひとつとして「企業間での相互副業実証実験」を実施しています。発表会の第二部では、相互副業の実証実験に参画した明治ホールディングス株式会社の大河内 淳氏、兼松株式会社の塚本 達雄氏をゲストに迎え、相互副業の実践に関するトークセッションを開催。相互副業による人材シェアリングの効果や取り組み事例について多様な意見が交わされました。

本ページでは、トークセッションの内容を詳しくご紹介します。

人材戦略の推進を目的に、相互副業に参画

鏑木:今回は、実際に「相互副業」に取り組まれた実績をベースに、さまざまなお話を伺えればと思っています。明治ホールディングス様と兼松様では、異業種間での人材シェアリングという取り組みかと思います。まずは自己紹介を簡単にお願いします。

大河内:明治ホールディングス グループ人事戦略部 人事戦略グループの大河内と申します。食品事業を行う株式会社明治の前身である明治乳業に入社し、現在は出向先の明治ホールディングスにて人材戦略全般を担う部署に所属しています。本日はどうぞよろしくお願いいたします。

塚本:兼松株式会社 人事部 人材開発課の塚本と申します。2007年に大手メーカーに入社し、これまでずっと人事の仕事をしてきました。2014年に転職で兼松に入社し、昨年より現在の採用・研修・人事評価といった業務を担当しています。

鏑木:ありがとうございます。さっそくですが、異業種間での相互副業となると、企業によって社員の持つ知識や経験、スキルのベースがそれぞれ異なるかと思います。なぜこの相互副業に取り組もうと思われたのか、教えてください。

大河内:ご存知の方もいるかと思いますが、明治ホールディングスはもともと明治製菓と明治乳業が統合してできた会社です。内部統合に注力してきた関係もあり、私も含め、内向きの人材が少し多いという肌感がありました。

一方、現在、人的資本投資の重要性が高まる中で、当社では人材戦略として多様性や外部競争性をテーマに掲げており、副業を含めてさまざまな取り組みを検討しています。そうした中、ニュースで相互副業の実証実験について知り、参画を決めました。

鏑木:参画にあたって、社内の雰囲気や反応というものはいかがでしたか?

大河内:実は、ほぼ勢いでやってしまったというところがあります。ただ、トライアルという位置づけだったこともありハードルが低かったこと、大企業の方が多く参画されており安心感があったことは大きかったと感じています。

鏑木:やはり「安心感」は大事なワードなのかもしれないですね。塚本様はいかがでしょうか。

塚本:当社では人的基本方針の中で「新たなポートフォリオ創出のための種まき」を掲げています。車両や食品、電子デバイスなど業界を亘るようにさまざまな事業を展開する中で、「新たなポートフォリオ創出のための種まき」を実現するためには、従業員にも業界を越えた幅広い経験をしてほしいというところが重要なテーマでした。

世の中の流れも考慮すると、人事としては副業解禁も選択肢の一つと考えていたところ、相互副業の実証実験という話を耳にしました。いきなり副業を解禁するとなると社内でもさまざまなハレーションが起きたり、ハードルが生じたりすると思いますが、まずは実証実験という形で効果検証も含めトライしてみたいと考え、参画しました。

鏑木:参画するにあたって社内の反応はいかがでしたか?

塚本:当社は今まで副業を大々的に解禁してこなかったという背景もあったため、経営陣の中でも「副業を本当に解禁していいのか」という議論や慎重な意見もありました。そうした中で、まずはトライアルであること、大手の企業との安心感あるスキームの中でできるという点から、理解を得ていきました。

鏑木:お2人のお話を聞いていても、「トライアル」「安心感」という2つのワードが重要だったようですね。いきなり本格的にというよりは「まずやってみる」ということ、さらに「安心できる環境でスタートする」ということがよかったのだと感じました。

「海外人財の採用戦略・オンボーディング施策立案」をテーマに副業を実施

鏑木:実際に相互副業を進めていく中でさまざまな出来事があったかと思います。今回は、兼松様から明治ホールディングス様に「海外人財の採用戦略・オンボーディング施策立案」をテーマに支援がなされたと思いますが、テーマの背景と取り組み内容について教えてください。

大河内:当社は「多様性」を人材戦略のテーマに掲げていますが、一部の取り組みに遅れがあり、特に外国籍の方の採用に課題を感じていました。今までは一括採用で応募いただいた中から外国籍の方を採用する傾向にありましたが、これからはより戦略的に進めていきたいと考えていたんです。その実現に向けて、知見をお持ちの企業の方に採用戦略やその後のオンボーディングの進め方を伺うとともに、施策の立案をお手伝いいただきたいと依頼しました。

鏑木:ありがとうございます。それを受けて兼松様がテーマに適した人材を紹介されたと思いますが、塚本様はどのように感じていましたか?

塚本:当社は商社として海外展開をしています。今回明治ホールディングス様に副業者として参画させていただいたメンバーは新卒で兼松に入社、海外赴任者や海外駐在拠点のサポートを担当し、その後自身でも中国の上海に2年ほど駐在をした人材です。現地でのスタッフ採用などを経験したのち、日本に戻ってからもグローバル人材の採用をしていましたので、その経験を評価いただいたのかなと思っています。

受け入れ企業は困りごとをピンポイントで解決、送り出し企業も帰属意識の高まりを実感

鏑木:双方のお話を伺って、とても「ピタッとはまる」と言いますか、課題に対して適した人材が見つかったように感じました。結果的にどのような成果につながったのか、教えていただけますか?

大河内:数社から話を伺う中で、兼松様では通常の採用枠とは別にダイバーシティの採用枠を設けられており、いわゆる外国籍の方や留学生を別枠で採用されていると知りました。ぜひ詳しく聞いてみたいと感じたのが兼松様に依頼を決めた理由です。副業者の方には大体週に一回程度来ていただき、打ち合わせを重ねてきたのですが、一番よかったのは実際に取り組まれてきたからこそ分かる悩みをはじめ、いわゆる“生きた情報”をシェアいただけた点ですね。今後実際に取り組みを始めていくうえで、とても参考になったと感じています。

鏑木:ありがとうございます。人材を送り出す側の兼松様から見たとき、どのような成果があったと感じていますか?

塚本:これまで自社の取り組みを当たり前に感じていましたが、明治ホールディングス様から「こんなことやっているんですね」などという反応をいただいたことで、「意外とすごいことをやっていたんだ」と、改めて会社として認識できたという点があります。またそれを通して、副業を行った社員の帰属意識も高まった点も成果として挙げられると思います。

個人としても副業として報酬をいただいているため、それに見合った貢献、それ以上の貢献ができているかという部分で、本人も悩みながら努力を重ねたと聞きました。市場の中で自分のスキル・能力がどのような位置づけにあるのかを客観的に見て、意識しながら取り組むことで、社員のスキルアップにつながるという部分でも成果があったと考えています。

鏑木:個人から見ると、自分のやっている仕事が市場から見たときにどの程度のレベルなのかを知る機会は少ないので、それを体感できる場としても有効だったということですね。

塚本:そうですね。今回副業に取り組んだのは新卒から兼松でずっと勤めてきた社員なので、市場と比べてどうなのかを知ったのは初めての経験だったと思います。

鏑木:明治ホールディングス様と兼松様ではお話しいただいたテーマ以外にも、さまざまな企業と複数のテーマで相互副業に取り組まれています。複数のテーマにおける外部人材の活用を考えたとき、相互副業にはどのようなメリットがあると感じていますか?

大河内:受け入れ側のメリットでいうと、コンサルタントに依頼するにしても何から手をつけていいのか分からないといったときに、「ライトな形で生きた情報をもらいながら壁打ちができる」「必要な知識やノウハウをピンポイントで狙いにいける」というのはとてもよかったと思っています。

鏑木:すべてをまんべんなくできる経験者ではなく、困っている箇所をピンポイントで解決できる人材といった狙い方ができたということですね。

塚本:私は今回、受け入れ側のほかに実際に自分が副業をする側も経験しています。受け入れ側としては、おっしゃる通り「コンサルティング会社にお願いするほどではないが、プロジェクトの推進にあたって現実的に困っていること」を、実務担当者や現場スタッフは抱えています。そうしたときに悩みごとや失敗事例を含めて他社の経験をシェアいただけるというところは、とてもメリットがあったと思っています。

自社にはない人材やノウハウの獲得に、相互副業という選択肢を

鏑木:「相互副業」を含めた今後の外部人材活用について、改めて展望を教えていただけますか?

大河内:(まだ社内で調整しているわけではないため)個人的な意見にはなってしまいますが、今回は限られた部署での実施だったため、受け入れ・送り出し含め、もう少し広く展開していきたいと思います。会社の外に出て自分や会社の立場を見ることはとても大事なことだと感じていて、副業を含めた「越境体験」を重ね、それが本業にも活かされるスキームを作れたらと考えています。

塚本:今回はまず実証実験としての参加だったので、効果の検証を含めて社内でしっかりと議論して、整理していきたいと思っています。今日は社外での副業について話しましたが、社内副業やグループ内で多様な経験を積むという部分も推進していきながら、当社に合った形を見つけていきたいと考えています。

鏑木:本日はお話を聞かせていただきありがとうございました。

体験談を伺って、やはり外部の人材や自社にはないノウハウをスピーディに獲得するという意味では、相互副業は有効な手段の一つになっているのではと感じています。引き続き、こういった体験をより多くの企業や個人の皆様に積んでいただけるよう、取り組みを進めてまいりたいと思います。

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