and HiPro [アンド ハイプロ]

プロ人材活用のリアルに迫る。 ~株式会社アイシンにおけるプロ人材活用とは~

株式会社アイシン
製品開発センター EV推進ラボ EV統括部 部長 梶原 基義

日本の「少子高齢化」「労働人口減少」に伴う人材不足が重要課題となる中、特に地域の企業では、必要なスキルや経験を持つ人材の確保が難しい場面は少なくありません。こうした状況を受け、人材確保の新たな解決策として、外部のプロ人材を活用する動きが生まれています。

「HiPro」では、個人が持つスキルがさまざまな企業で柔軟に活かされ、個人も企業も成長し続ける「スキル循環社会」の実現を目指しています。2023年6月に始動した「スキルリターン」プロジェクトは、都市部で専門的な経験を積んだプロ人材と地域企業をつなぎ、事業課題の解決を図るとともに、地域企業と経済の発展に貢献する取り組みです。鳥取・山形・福岡・広島・京都・秋田・愛媛に続き、今回新たに愛知でのプロジェクトをスタートしました。

2025年3月5日(水)には、愛知でスキルリターン発表会を開催しました。今回は、当日実施したトークセッションの様子をご紹介します。ゲストとして、プロ人材活用実績のある株式会社アイシン 製品開発センター EV推進ラボ EV統括部 部長の梶原氏を迎え、プロ人材活用について意見を交わしました。

先進領域の開発にあたりプロ人材を活用。

鏑木:トークセッションでは、プロ人材の活用に関して、具体的にどのようなプロセスや意思決定を経て活用に至ったのか、またその成果についてお話を伺います。まずはアイシンさんの事業内容について紹介をお願いします。

梶原:当社は、1965年設立の自動車部品メーカーです。2023年の売上高は約5兆円。グローバルに事業を展開し、20か国以上、約200社の拠点を構えています。グローバル従業員数は約12万人、海外売上比率は約50%です。

自動車部品メーカーといってもさまざまな領域がありますが、アイシンではオートマチックトランスミッションやハイブリッド向けトランスミッション、電気自動車向けのeAxleなど、「走る」領域を中心に扱っています。そのほか、電動パーキングブレーキや自動駐車の「曲がる・止まる」といった領域、パワースライドドアやサンルーフなど「安心・快適」の領域でも製品を展開しています。大きなテストコースを自社で持っており、自動車メーカーに近い視点で開発を進められるところが特徴です。私はその中で、現在EV統括部に所属しています。

鏑木:幅広い領域の製品群をグローバルに展開されているアイシンさんは、広く知られている企業かと思います。改めてご説明いただきありがとうございました。

事業を展開される中で、人材の確保においてはさまざまな課題があるかと思います。アイシンさんでは、具体的にどのような課題感をお持ちだったのでしょうか。

梶原:私は主にバッテリーEV向けの製品開発を行う部門に所属していますが、2022年5月にEV推進ラボという現在の組織が新設されました。これは、EV向けの商材において先行開発に特化することで、開発をより一層加速させようという狙いで生まれた組織です。

一方、当社は従来型自動車の技術領域に強みを持っている企業であり、バッテリーEVとなると考え方も技術領域もまったく異なります。電動化領域に強みを持つ人材は業界全体でも引く手あまたという状況の中、当社でも人材不足の大きな課題がありました。

鏑木:やりたいことが明確にある一方で人材は足りていないとき、まずはどのようなアプローチをされているのでしょうか。

梶原:最初に、自社にどのようなリソースがあるのかを整理します。技術者が何人いて、それぞれどのような技術領域やスキルレベルを持っているのかといった点です。そうすることで、どこが足りないのかが見えてきます。そこに対して補填を考えるわけですが、まずは公募制度などを活用して社内から集め、それが難しければ人事部門などと連携しながら新卒採用や中途採用で社外からも探します。ただ、今回の電動化領域では、なかなか思うようにいきませんでした。

社内からのリソースシフトも重要ですが、新規商材を開発するうえでは、バッテリーや車両そのもの、エネルギーマネジメントなど、これまで扱ってこなかった分野の知見が必要になります。そこで、外部のプロ人材の力を借りようという話になりました。

鏑木:まず社内を見て、それでも足りなければ採用を検討する。しかし、先進的かつ限られたスキルセットなので、採用も難しい。そこで「プロ人材活用」という手段に行き着いたという流れなんですね。

成果はプロジェクトの前進と人脈の広がり。

鏑木:人材の確保においては、これまで「雇用」を前提に考えるケースが多かったため、プロ人材活用について最初は抵抗を感じる方もいるかと思います。活用に踏み切られた背景はどのようなものだったのでしょうか。

梶原:やはり、既存のやり方だけでは時間がかかりすぎるという理由が大きいです。自社にないスキルを持った人材を育てるには、非常に時間やコストがかかります。それならば、外部の力を借りるしかないという結論に至りました。

鏑木:実際に活用を進められたとき、部門の方々の反応はいかがでしたか。

梶原:部門としては前向きでした。というのも、困っているのは現場なので、「そういうスキームがあるならぜひお願いしたい」という感じでしたね。社内の調整はいろいろと必要でしたが、少なくとも現場のメンバーは非常にウェルカムでした。

鏑木:私たちもさまざまな企業とお話しさせていただきますが、人材がいないことで施策を前に進められず、もどかしさを強く感じている現場や部門の方から直接相談をいただくことが多いです。

アイシンさんでは実際にプロ人材を活用されてみて、どのような領域でどのような成果が出たのか、お聞かせいただけますか。

梶原:たとえば、OEM目線が必要なプロジェクトにOEM出身のOBの方をお招きしたり、当社として知見が不足している領域に専門性を持つ方に参画いただいたりしました。成果としては、プロジェクトが前進したのはもちろんこと、同時にプロ人材の方が持つ「人脈」を活用できたことも大きかったです。「私はできないけれど、こういう人がいますよ」とご紹介いただいたことで、外部の方との新たな接点が増えたり、中途採用につながったりもしました。

鏑木:なるほど。「人脈の広がり」という面でも大きな効果があったのですね。ちなみに、プロ人材が参画するまでのスピード感はいかがでしたか。採用活動は長期化するケースもありますが、プロ人材の活用に関してはどのような印象を持たれましたか。

梶原:比較的スムーズに進んだ印象です。複数の候補者と何度か面談をさせていただきましたが、その後「この方が良い」と決まるまで、それほど時間はかかりませんでした。

計画的なプロ人材活用によって、得られるメリットは大きくなる。

鏑木:プロ人材を活用していく中で、何か課題は感じられたでしょうか。

梶原:一つは「定着」をどう考えるかという点が課題だと感じました。単発的に「この期間だけ来てもらう」という形で終わらせるのではなく、その後どう活かすのか。たとえば、1年、2年、3年という長いスパンで計画しながらフェーズごとに適したプロ人材を活用していく方が、最終的に会社としてメリットが大きいと感じました。

鏑木:確かにそうですね。単発で終わってしまうと、それ以上の成長や発展につながりにくい部分もあります。今後、梶原さんの部署や他部門では、こうしたプロ人材の活用は増えていきそうでしょうか。

梶原:私が所属しているEV推進ラボは先行開発を目的に設立されましたが、一定の成果が出たため今年度(2024年度)で一旦組織としては解消されます。しかし、新規商材の開発はまだまだ必要ですし、電動化領域も車に限らず、船や鉄道などモビリティ全般に拡大していく可能性があります。そうなるとやはり新しい領域の知見を持つ方の力が求められるため、引き続きプロ人材の活用も必要になってくると考えています。

鏑木:ありがとうございます。プロ人材を活用したことがない企業からは「具体的にどのように進めたらいいか分からない」というお声をよくいただきます。そのような企業にとって、今回のお話は非常に参考になったのではと思います。本日はどうもありがとうございました。

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