and HiPro [アンド ハイプロ]

スキル起点での人材獲得の現在地

慶應義塾大学大学院/山形大学
経営管理研究科 講師/客員教授 岩本 隆

プロフェッショナル人材の総合活用支援サービス「HiPro(ハイプロ)」は、2025年5月22日(木)、事業方針発表会を開催しました。

第一部では、「HiPro」事業責任者の鏑木 陽二朗が登壇。「採用」と「副業・フリーランス人材活用」の垣根を超えた、スキル起点で企業と個人がつながる社会の実現に向けた取り組みの開始を発表しました。

取り組みの詳細は、特設サイトをご覧ください。
https://hipro-job.jp/brand/action1/ 

少子高齢化に伴う労働力不足、人材獲得競争の激化により、副業やフリーランスなど多様なはたらき方が注目されている一方で、副業・フリーランス人材を活用したことのある企業は3割未満※にとどまっています。副業・フリーランス人材の活用が進まない背景には、伝統的なメンバーシップ型雇用、流動的な職務によるスキル定義の難しさがあり、企業が求める人材とマッチングしにくい状況にあることが挙げられます。人口減少の時代においては、依頼したい業務単位で求める人材と出会う「ジョブ型」の有効性が提唱されていますが、一方、これまでメンバーシップ型が当たり前だった多くの企業にとっては、依頼したい業務単位でジョブを切り出すことは容易ではありません。

そこで「HiPro」は、職種を「業務」や「タスク」レベルにまで細分化したジョブコードを開発しサービスに実装。2025年6月には、ジョブを600種から3000種に拡張し、これまで以上に、スキル起点で精度の高いマッチングの創出を目指します。

発表会の第二部では、「スキル起点での人材獲得の現在地」と題して、日本の人的資本経営、HRテクノロジー領域研究の第一人者である岩本 隆氏を迎えてお話を伺いました。ジョブコードの内容も踏まえながら、スキル起点での人材獲得について、世界と日本の現状、社会全体における見通しなどについて、意見を交わしました。

本ページでは、第二部トークセッションの内容をご紹介します。

(※)HiPro「副業・フリーランス人材白書2025」

世界各国では「スキル標準」が活用されるなか、日本でも「スキル標準化」の動き。

司会:第二部は「スキル起点での人材獲得の現在地」と題しまして、トークセッションを行います。ご登壇いただくのは、慶應義塾大学大学院経営管理研究科 講師、 山形大学 客員教授 岩本 隆様です。岩本先生は、人的資本経営の第一人者であり、スキル起点での組織マネジメントにも言及されて、メディアでのインタビューや講演も幅広く行われています。本日は専門家の立場から、今後の人材獲得戦略やスキル視点での人材獲得についてお話を伺います。引き続き鏑木執行役員も参加いたします。

一つ目のテーマは、「労働人口が減少する中での世の中の潮流」です。第一部でスキル起点での人材獲得の有効性について話がありましたが、世の中の潮流はどのようになっているのでしょうか?

岩本:米国では2000年頃から人材争奪戦が始まり、特にプロ人材の争奪戦になっている状況がありました。もともと米国ではフリーランス人材が多かったのですが、コロナ禍を経てさらに増えました。数年後には、はたらく人の半分がフリーランスになるといわれているほどです。

フリーランス人材を活用する際には、スキルレベルまでジョブを細分化することが重要になるため、現在さまざまな国で「国としてのスキル標準」を作って活用し始めています。日本にも「デジタルスキル標準」を皮切りに、「GX(グリーントランスフォーメーション)スキル標準」などがあり、今年に入ってからは、内閣府が「宇宙スキル標準」を発表しました。そういった標準を作って、企業を越えて使える「スキル標準」を構築していく動きがあります。

また、スキルは細かく分けると数億、数十億というかなりのビッグデータになりますが、昨今進化するAIなどのテクノロジーを用いてスキルの可視化やスキルの習得支援などを行う「スキルテック」が成長してきています。海外では2018年頃から、日本でも最近になってスキルテックのクラウドアプリが出てきており、スキル標準においてテクノロジーが活用できるようになったことが大きなトピックとしてあります。

司会:欧米ではそこまでスキル起点での人材獲得が進んでいるのですね。鏑木さん、先生のお話を受けていかがでしょうか。

鏑木:まさに、スキル標準については日本も今拡大している最中だと思いますが、日本は他国と比べて遅れているというより、日本型にどう整えるかが難しくもあり、重要なのだと思いました。

スキルを言語化する習慣がない日本で、「ジョブコード」を構築。

司会:では、二つ目のテーマに移ります。「スキル起点での人材獲得が進まない理由、日本における課題」について岩本先生にお話いただきたいと思います。

岩本:私は今、経済産業省が策定した「デジタルスキル標準」を社会実装する活動をしていますが、「デジタルスキル標準」が作られたことで、スキル起点での人材獲得も、随分進み始めている印象です。

ただ、そもそも日本にはスキルを棚卸しする習慣がありません。私は米国の大学院を修了しましたが、米国の学生は子どもの頃から、どういう授業を受けて何が身に付いたかを全部棚卸ししています。履歴書も非常に分厚く、受けた授業や使った装置まで書いてある。日本でそんな履歴書を出したら「もっとシンプルに」と言われるかもしれませんが、米国にはそういう習慣があるということです。

米国は企業もジョブ型雇用です。ジョブディスクリプションを明確にし、ジョブからロール(役割)、ケイパビリティ(仕事を実行する能力)に落とし込み、それをさらに分解するとスキルになります。日本はそもそもジョブ型ではなく、企業も個人もスキルの言語化やマネジメントが習慣化されていないことが大きく影響している気がします。

司会:確かに日本ではスキルの言語化がまだ進んでいないと実感します。とはいえ、求めるスキルの言語化はなかなか難しいと思います。鏑木さん、「HiPro」でもさまざまな企業のサポートをされていると思いますが、具体的に取り組まれていることを教えてください。

鏑木:ジョブコードの構築に力を入れています。企業の皆さまからは「どの仕事を任せたらいいのかわからない」「どう仕事を切り出せばよいのかわからない」といったご相談を多々受けています。依頼する業務の基準になるジョブコードを創ることによって、業務をジョブ単位で細分化し、人材を探しやすい状態を作りたいと考えています。

司会:ジョブコードによって、企業と個人のマッチングがとてもスムーズになりそうですね。

鏑木:そうなるように頑張っています。

労働人口問題を考える上でも、内部人材と外部人材をシームレスにつなぐ戦略は重要。

司会:最後に「スキル起点で人材獲得することの意義、有効性」については、どのようなことが考えられるでしょうか。

岩本:副業やフリーランスといったプロ人材の活用を進めることが日本企業の経営課題としてある一方で、国としてもさまざまな労働人口問題を抱えています。労働人口問題は、2024年問題、2025年問題、2030年問題などさまざまありますが、他国と比べて深刻さが増しており、社会全体として人材の最適配置をしなければなりません。そのため、もし大企業などにお勤めでさらに力を発揮したいという方がいれば、どんどん外に出て、さまざまな企業で活躍していただくことが日本社会全体で見ても重要です。

企業の視点で見ても人材争奪戦は始まっています。採用する、つまり雇用として人材を獲得することがなかなか難しい中で、副業・フリーランス人材を活用していくことが、求められていくのではと思います。

また、社内の人材に対しては、人材データを活用してタレントマネジメントを行っていますが、外部の人材、つまりは副業・フリーランス人材に対しても、そういったマネジメントが必要です。実際、海外では既にフリーランス人材に対するマネジメントプラットフォームの活用が伸びています。内部の人材と外部の人材をシームレスにつなぎ、「この人は外部だから」「内部だから」と区別することなく、プロジェクト遂行に必要な人材を求めることは、戦略的に非常に重要になってきます。

司会:日本においても、はたらく方の大半がフリーランスという時代が来るのでしょうか。

岩本:そうですね。これから、定年退職した方がフリーランスとしてマーケットにたくさん出てくることがまずあります。加えて、従来、妊娠・出産を経た女性は主婦になる方も多かったと思いますが、そういった方々がフリーランスを選択し始めることが考えられます。昨年、フリーランス新法が施行されたことで、フリーランスというはたらき方が選択しやすくなると、かなりの人材が新たにマーケットに出てくるのではないかと推測しています。社会全体においても、より多くの方がはたらくことで、日本経済の成長につながっていきますので、これからさらに加速していくのではないでしょうか。

司会:ありがとうございます。鏑木さんはいかがでしょうか。

鏑木:企業の皆さまが「人材が足りない」と感じるのは、おそらく従来の人材獲得手法である「雇用」を前提とした場合であり、人材獲得の選択の幅を広げると、またその状況は変わるように思います。外部のプロ人材、あるいはシニアの方々、今まで社会参加が難しかった方々も、新たな仕組みの中で活用できるようにしていくと、人材不足の課題は解決につながっていくのではないかと思います。

岩本:そうですね。そういった人材活用も当たり前になればいいと考えます。

司会:岩本先生、大変貴重なお話をありがとうございました。鏑木さん、第二部全体を通していかがでしょうか。

鏑木:改めてですが、人材の獲得においては、雇用だけでは難しい、また外部人材だけでも難しい状況です。「人材をどう獲得するか」より「どう活用するか」にスコープをあて、選択肢を広げることが、結果として人材獲得の選択肢を広げることにもなるのではないかと考えます。

司会:本日はありがとうございました。

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