ビジョン策定にとどまらず、「全社浸透」にも寄与。プロジェクトがもたらす新たな化学反応とは

活用テーマ:経営戦略
利用サービス:HiPro Biz
JFEケミカル株式会社
- エリア:東京都
- 業種:メーカー(素材・化学・食品・化粧品・その他)
- 企業規模:100人以上1,000人未満

JFEケミカル株式会社 取締役常務執行役員 経営企画、経理・財務担当
福島 功 氏

「HiPro Biz」登録プロ人材
中谷 真紀子 氏

「HiPro Biz」登録プロ人材
南賀 哲也 氏
プロ人材活用の背景と効果
- 課題
- パーパス(存在)とビジョン(ありたい姿)から逆算した長期事業戦略の策定を目指し、ビジョンを具現化する社内プロジェクトを始動したものの、ボトムアップによるビジョン策定は会社初の試みであり、実際にプロジェクトチームを動かすための知見やノウハウなどが不足していた。
- 効果
- プロジェクトチームのファシリテーターとしてプロ人材を迎え、メンバー間でのワークショップの実施やアンケートによる会社全体を巻き込んでのプロジェクトを進められた。結果としてビジョン策定だけでなく、ビジョンの全社的共有や浸透まで踏み込んで寄与することができた。
中期計画よりも長期ビジョンを重視、今やるべきことは「会社全体で未来を考えること」

JFEケミカル株式会社はJFEグループの一角をなす石炭化学メーカーで、製鉄工程で生まれる副産物(コールタールなど)を活用した高付加価値の素材を生み出している。タール蒸留能力は世界有数、独自の精密化学品技術を有し、資源循環型のビジネスモデルが強みだ。
脱炭素化社会を見据えた技術開発を積極的に推進している同社は、現状に甘んじず新たな局面を切り拓いていくためにも長期ビジョンが必要であると判断し、2024年にビジョン策定に着手した。一般的なトップダウンでの進め方をとらず、社員が描く10年後の「ありたい姿」をビジョンに投映させることを目指し、ビジョン策定のプロジェクトチームを立ち上げた。
しかし、こうしたプロジェクトは会社初の試みであり、専門的な知見や経験を持つ人材が社内にいなかった。そのため外部人材の活用に活路を見出し、「HiPro Biz」にプロ人材として登録する中谷 真紀子氏、南賀 哲也氏をプロジェクトに迎えることになった。経営理念策定などで豊富な実績を持つ両氏と共に進められた本プロジェクトは、社員の意見を存分に活かしたビジョンの策定にとどまらず、通常は策定後の課題となる「ビジョンの全社的浸透」にも寄与することができた。そのプロジェクト活動はどのように進められたのか、両氏に加え、JFEケミカル側の担当者となった福島 功氏を交えお話を伺った。
福島 功氏(以下、敬称略) 今回のプロジェクトは、「変動の激しい経済環境を予測して中期計画を立てることよりも、長期的視野に立った戦略の策定の方が今の自分たちには重要だ」という経営判断から始まりました。10年先、社員一人ひとりが「こうなっていたい」というビジョンを描いて長期経営計画に落とし込み、その途中に中期計画もあるという考え方です。さらに、ビジョンは社員たちによるプロジェクト活動で構想していこうと、社内の各部署から若手~中堅の社員22名を集めてチーム編成しました。
ただ、当社には理念策定のような業務経験を持つメンバーは在籍していません。メンバーは本務と兼ねてプロジェクトに参加する形ですし、マンパワー不足であることは明らかでした。何より、こうしたプロジェクト自体、会社として初めての試みでしたから不安もありました。そのため外部の専門人材に参画してもらおうという考えは当初からあり、「HiPro Biz」のサービスに協力を求めました。当社では、以前から事業部や研究所などで「HiPro Biz」のサービスを活用していて、私も「何かありましたら」と日頃から情報交換をしていました。今回のようなプロジェクトは、まさに最適だろうとご相談し、中谷さんと南賀さんをプロ人材としてお迎えすることになりました。
中谷 真紀子氏(以下敬称略) ご依頼の内容をうかがい、まず「ボトムアップでビジョンを作っていく」ユニークなプロジェクト、という印象を持ちました。ビジネス環境が大きく様変わりするなか、よりどころとなるビジョンをみんなで考え、社員自身がはたらき甲斐があって誇りを持てるような会社を作っていきたいというお話を福島様から伺い、プロジェクトに対しての思いの強さが伝わってきました。同時に石炭化学メーカーという立場でありながら、ハードだけでなくソフトの部分も大事にし、柔軟な考え方をされている点にも、とても魅力を感じました。
福島 確かに柔軟な考え方というのは、それまでの当社にはあまりなかったことです。新しく就任した社長自身に「現状を打破したい」という強い思いがあり、未来に向かうビジョンは会社全体で描いていこうと、ボトムアップの形になりました。また、忙しい本務があるなかでプロジェクトに参加する社員たちが、「やらされる」のではなく「やりたい」と思えるような、『楽しんでもらえる活動』にしたいと考えていましたので、中谷さんたちの経験や実績、人柄も含めてマッチしていたと思います。
中谷 どういうものを作ったらお客様に喜んでいただけるか、あまり型を決めずに、一緒に一つずつ作っていくようなスタンスでの伴走が私たちの特色でもあるので、そこをうまく合致させられればと考えていました。また、今回のようにアウトプットの決まっていないプロジェクトは、企業側の思いの強さが成果につながることが多く、そういった面でもぜひお役に立ちたいと思いました。
やらされるのではなく、「楽しめるプロジェクト」にしたい

福島 ご依頼した時点でプロジェクトチームの組成は済んでいました。そこから、どう進めばいいのか、どういう形でゴールするのか、具体的には何も見えていない状況だったので、プロジェクト全体のディレクションやファシリテーション、アドバイスなどを中心にお願いしました。原則的に月に2回、対面またはオンラインでMTGを行いながら進めていきました。
そうしたなか、プロジェクトメンバーを集めてのキックオフMTGを対面でのワークショップ形式で開催したのですが、当日、最初の議題となった、プロジェクト名が決まっていく過程を目の当たりにし、プロ人材の方の専門性を実感しました。ワークショップをファシリテーションしてもらうなかで、メンバー間でのアイデアの盛り上がりをうまく引き出してもらいました。振り返るとこのプロジェクトの性格がこの時点で決まったのだと思います。
南賀 哲也氏(以下、敬称略) 先ほど福島様のお話にもあったように、本務があってお忙しいメンバーの方々が「楽しめるプロジェクトにしてほしい」というご意向でしたので、「ワクワクする」「自分事化できる」といった点をキーワードに活動を進めました。キックオフMTGを会議形式でなくワークショップ形式で実施したのもそこに狙いがあります。当日のゴールは、プロジェクトチーム名の決定で、グループに分かれてアイデア出しをしていきました。
福島 グループでの話し合いだけでは、なかなか一つにまとまったものになりません。そこを集約していく過程がプロ人材ならではのものだと思いました。決まった名称は、『ありたい未来を本気で描くプロジェクト』、通称『ありプロ』です。当初はプロジェクトの名称として決めたものだったのですが、1年間『ありプロ』の名前で活動し、広く社内に浸透していったので、最終的には『ありたい未来に本気で挑むプロジェクト2035』と文言を一部変え、ビジョンそのものの正式名称としました。
南賀 プロジェクト名はメンバーの一体感の醸成や社内周知をしていく上でとても重要です。その『ありプロ』として、次の段階で取り組んだものが、自分たちの会社の「ありたい未来」について社員全体の思いを聞くことでした。社員の方々は何を大事にされて、どんな考えで仕事をしているのか、会社に受け継がれているDNAのようなものを浮かび上がらせ、ビジョンを具体化するためにアンケートを展開しました。
中谷 一般的にアンケートというと、社内でミニマムに取ることが多く、私たちもそのくらいの小さな範囲での展開を想定していましたが、メンバーの方から「もっと全社的に広く声を聞きたい」という意見が出て、全社員に加え関係する社外の方まで範囲を広げアンケート協力していただくことになりました。
福島 社員だけでなく取引先の方や親会社の方、協力会社の方など対象をかなり広げました。できるだけ多くの方々の意見を聞きたい、「外からの見られ方」も知りたい、というメンバーの意思を尊重してのものでした。かなりボリュームのあるアンケートでしたが、回答率は70%程度にもなり、積極的な意見や提案がたくさん寄せられました。
南賀 『ありプロ』というプロジェクト名を掲げてのこのアンケートは、「今、こんなプロジェクトが動いているんだ」と多くの方々に周知することにもなりました。
中谷 全社を積極的に巻き込んでいくプロセスは、ここから始まったと思いますね。
福島 アンケートの作成や依頼、回答のまとめなどはメンバーがオンラインで行い、内容を集約したところで、あらためて対面でのワークショップを行いました。
南賀 アンケートの実施やメンバー同士の連携など、オンラインでのコミュニケーションは、プロジェクトの窓口となる事務局の方々がうまく下地を作ってくださったことで、より円滑な進行につながりました。
福島 問題は、集約したアンケート内容を「ビジョンという形にどう昇華させるか」でしたが、そこのファシリテーションは、まさにお二人の知見と経験があってのものだと思います。メンバー間だけで、自分たちが大事にしたい言葉をキーワード抽出しても、どうしてもありきたりで現状課題的な文言の並びになってしまいます。そこをお二人に誘導してもらい、ワクワクするビジョンに昇華できたところがブレークスルーでしたね。
南賀 ビジョンに「らしさ」や「新しさ」を出すため、「ビジョンとはどういうものか」を整理しました。その上で「JFEケミカルらしさとは何か?」など解像度を高めた言葉を選び、手触り感のあるものにすることを目標にしましたが、メンバー間だけでは本業の仕事の関係もあり、どうしてもロジカルに考え過ぎる傾向があると感じました。メンバー同士でアイデアを出し熟議しても「これだ」という方向にまとまるとは限りません。そういうときは、考え直す時間を作って仕切り直しながらプロジェクトを前に進めていきました。
今回は、ロジカルに固まる思考を飛躍させ、より直感的な発想へ導くために、メンバーの方々に「この会社の10年後のありたい姿」を思い思いのビジュアル表現で描いてもらいました。ここは今回のプロジェクトで工夫した点の一つでしたね。
中谷 メンバーの方々が普段やったことのない手法でしたが、発想豊かなビジュアル案が想像以上に出てきました。このチャレンジの実践のために、福島様をはじめプロジェクトに関わる皆さんが主体的に動いてくださったことがプロジェクト成功の一つのカギだったと思います。
会社全体でプロジェクトを後押し、さらなるステージへ

福島 約1年のプロジェクト活動を終え、2025年に当社の長期ビジョンを正式に発表しました。石炭化学メーカーらしいロゴのアイデアも含め、すべてプロジェクトチームの手によって作り上げたものです。当初、お二人に依頼した、「やらされる」のではなく「やりたい」と思えるような、楽しんでもらえるプロジェクト活動にしたいというテーマは十分に達成されたと思います。
また活動の副産物としてでき上がったプロジェクトの「テーマソング」も、プロジェクトメンバーが自ら興味を持ち、手を挙げて作詞作曲してできたものです。プロジェクト発の「テーマソング」の存在感は社内でも大きく、応募した社外コンテストの決勝会場には120人ほどの社員が詰めかけ、プロジェクトの認知度がさらに高まりました。結果として、新ビジョンの正式発表時点で、社内での認知度はほぼ100%近くにまで高まったと思います。
中谷 企業のビジョン策定における一般的なプロセスでは、主体となる事務局が1年ほどかけて策定し正式に公表した後、そこからさらに「いかに社内に浸透させるか」というフェーズに移るプロセスが一般的です。そこで初めてボトムアップの動きを取り入れ、社内共有の活動をスタートさせるケースが多いのですが、今回のプロジェクトでは、ビジョンの策定だけでなく「共有」や「浸透」についても並行して前に進めることができました。これまでも同様のビジョン策定のご支援を多々実施してきましたが、策定当初の段階から社員をここまで巻き込めた例はあまりありません。
南賀 トップダウンできれいな言葉にまとめてしまうというより、関わる人を増やし、社員一人ひとりが「自分事として」向き合えるようにすることこそ、皆が納得するビジョン策定につながるだろうとプロジェクト当初から意識していました。
福島 私たちとしてはプロジェクトの過程で気付かされることがたくさんありました。他社のご支援もされているプロ人材の方から、当社のこともよく知っていただいた上で当社について客観的に言及してもらえることは、得難い機会だと改めて感じました。
実はお二人にはビジョンの発表後も支援を継続してもらい、2年目は会社ビジョンを踏まえた個人としてのビジョンを策定する『マイプロジェクト』活動を進めていきました。
南賀 『マイプロジェクト』活動もワークショップをメインにし、今度は全社員が対象なのでワークショップを社員の方にファシリテートしてもらえるパッケージを作りました。
福島 今度も私たちの発想にはない遊び心のあるツールの使用を提案してもらい、ファシリテーターになる社員を「ありプロナビゲーター」として募るところから始めました。ナビゲーターが各部署でワークショップを開き、個人のビジョンを作る思考を深めていきました。
南賀 社員のみなさんには、1年目のプロジェクト同様、「ワクワク」しながらワークショップに参加してもらいたかったですし、「ワクワク」がよい形で循環させられたと思います。
福島 会社の新しいビジョンは、「TEAM CHEMISTRY」を合言葉に掲げ、会社全体に化学反応を起こしたいという思いがビジョンの骨格になっていますが、このプロジェクト自体がまさに化学反応を起こすものでした。外部からプロ人材のお二人が入り、「触媒」として存在したからこそ、大きな化学反応が起こせたのだと思います。


これまで海外事業管理、グループ会社管理、人事・労務、海外駐在などに従事してきた。2022年よりJFEケミカル株式会社にて、経営企画部門の責任者として、各事業部の取りまとめや全社経営計画の立案、各種プロジェクトを主導している。

リクルート入社後、人事・組織開発に従事しワークス研究所を兼任。江崎グリコにて経営企画・人事の両面から働き方改革やDE&Iを推進。リクルートHDを経てPeople Treesを共同創業。大手製薬企業のグローバルタレントマネジメント責任者を経て2021年に独立。人的資本経営の支援や、経営と従業員を繋ぐ仕組み作りを強みとする。IMD EMBA 2026在籍中。

大学卒業後に大手食品メーカーに入社し、マーケティング・広報・IR・経営企画・人事・海外駐在、リスクマネジメントや周年事業など幅広い部門・プロジェクトに従事して2023年に独立。人事領域×コーポレートコミュニケーション領域の施策の推進により、従業員エンゲージメントの向上、企業ブランディング、楽しくてはたらき甲斐のある職場づくりに貢献したいと活動。People Trees合同会社 パートナー。






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