【弁護士監修】フリーランスが結ぶ契約形態とは?主な種類や選び方・注意点を徹底解説

フリーランスとして独立したものの、契約に関する知識が曖昧で悩みを抱えている方は少なくありません。適切な契約知識を身につけることは、トラブルを未然に防ぎ、ビジネスを円滑に進めるために重要です。
本記事では、フリーランスが結ぶべき契約形態の種類と、それぞれの特徴、自身の業務に最適な契約の選び方について詳しく解説します。
フリーランスが結ぶ主な契約形態は?

フリーランスが企業と仕事をする際、多くは「業務委託契約」という形態を取ります。会社員が結ぶ「雇用契約」とは根本的に性質が異なるため、まずはその違いを正確に理解しておくことが大切です。
フリーランスは「業務委託契約」が一般的
フリーランスがクライアントと結ぶ契約は、一般的に「業務委託契約」と呼ばれます。これは、特定の業務を外部の専門家に任せるための契約を指す、実務上の広い概念です。
この業務委託契約には、後述する「請負契約」「準委任契約」「委任契約」の3つのタイプが含まれます。それぞれの性質は大きく異なるため、自身の業務内容やクライアントとの合意内容に応じて、どのタイプの契約を結ぶのかを明確化しておくことが重要です。
契約書を取り交わす際は、タイトルが「業務委託契約書」となっていても、その中身がどの契約形態に該当するのかを必ず確認しましょう。
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フリーランスの業務委託契約と会社員の雇用契約の違い
フリーランスの業務委託契約と、会社員が会社と結ぶ雇用契約との大きな違いは「指揮命令関係の有無」です。
雇用契約では、労働者は会社の指揮命令下で業務を遂行し、労働時間や場所について一定の拘束を受けます。その代わり、労働基準法などの法律によって手厚く保護されます。
一方、業務委託契約を結ぶフリーランスは、独立した事業者としてクライアントと対等な立場で契約します。そのため、業務の進め方や時間配分について、原則としてクライアントから具体的な指揮命令を受けません。自身の裁量で業務をコントロールできる自由がある反面、労働法による保護はなく、自己管理の比重が大きい点が大きな特徴です。
フリーランスが結ぶ主な契約形態「業務委託契約」の種類
業務委託契約は、その目的によって以下の3つに大別されます。
- 請負契約
- 準委任契約
- 委任契約
これらの違いを理解することは、自身の責任範囲や報酬の性質を明確にする上で重要です。
請負契約
請負契約は、「仕事の完成」を目的とする契約です(民法第632条)。契約で定められた成果物(マーケティング戦略レポート、事業計画書など)を期日までに納品し、その対価として報酬を受け取ります。
最大の特徴は、フリーランスが「契約不適合責任(旧:瑕疵担保責任)」を負う点です。納品した成果物に契約内容と異なる点や品質上の問題があった場合、クライアントから修正や代替物の提供、場合によっては損害賠償を請求される可能性があります。
成果物が明確に定義できるプロジェクト型の業務に適した契約形態です。
準委任契約
準委任契約は、「業務の遂行」そのものを目的とする契約です(民法第656条)。
請負契約と異なり、仕事の完成を約束するものではなく、専門家としての知識や経験を活かして、善良な管理者の注意をもって(善管注意義務)業務を処理することが求められます(民法第644条)。
月額報酬でマーケティング顧問を務めたり、特定の期間プロジェクトマネジメントを支援したりと、継続的なコンサルティング業務やアドバイザリー業務がこれに該当します。成果物の完成責任は負いませんが、プロフェッショナルとして適切な水準で業務を遂行する義務があります。
委任契約
委任契約も準委任契約と同様に「業務の遂行」を目的としますが、その対象が「法律行為」に限られる点が異なります(民法第643条)。
具体的には、弁護士に訴訟代理を依頼したり、税理士に税務申告を依頼したりする場合に用いられる契約形態です。マーケターやコンサルタントなど、一般的なフリーランスの業務が委任契約を結ぶケースはほとんどありません。
法律に関連する専門資格を持つ士業の専門家が結ぶ、特殊な契約形態と理解しておきましょう。
【比較表】請負・準委任・委任契約の違いを紹介
上記で解説した請負契約、準委任契約、委任契約の違いをそれぞれ表にまとめました。
項目 | 請負契約 | 準委任契約 | 委任契約 |
目的 | 仕事の完成 | 事務処理の遂行(法律行為以外) | 事務処理の遂行(法律行為) |
義務 | 成果物を完成させる義務 | 善管注意義務 | 善管注意義務 |
責任 | 契約不適合責任 | 業務遂行における債務不履行責任 | 業務遂行における債務不履行責任 |
報酬の対象 | 完成した成果物 | 業務の遂行 | 業務の遂行 |
主な職種例 | Webデザイナー、ライター、システム開発者 | コンサルタント、マーケター、アドバイザー | 弁護士、司法書士、税理士 |
【ケース別】フリーランスとしての業務に合った契約形態の選び方
理論を理解したら、次に自身の業務内容に照らし合わせて、どの契約形態が適しているかを見極めることが重要です。
ここでは、具体的なケース別に最適な契約形態の選び方を解説します。
成果物が明確なプロジェクトは「請負契約」
- 特定の市場に関する競合分析レポートを月末までに納品する
- 新規事業立ち上げのための事業計画書を3か月で作成する
上記のように、ゴール(成果物)と納期が明確に定義できる業務は、請負契約が適しています。この場合、報酬は成果物の納品と引き換えに支払われるのが一般的です。クライアントにとっては期待するアウトプットが手に入ることが保証され、フリーランスにとっては業務範囲が明確になるというメリットがあります。
ただし、前述の通り「契約不適合責任」を負うため、成果物の品質には細心の注意を払う必要があるでしょう。
継続的なアドバイザリー業務などは「準委任契約」
- 月1回の定例会に出席し、マーケティング戦略に関する助言を行う
- 半年間のプロジェクトにおいて、PM(プロジェクトマネージャー)として進捗管理や課題解決を支援する
上記のように、特定の成果物の完成ではなく、専門的な知見を活かして継続的に業務を支援する場合は、準委任契約が適切です。この形態では、業務を遂行した時間や期間に対して報酬が支払われることが多く、プロフェッショナルとして最善を尽くすこと(善管注意義務)が求められます。
業務範囲が曖昧になりがちなため、トラブル回避のためには、契約書で支援内容や業務時間を具体的に定めておくことが重要です。
弁護士や税理士など法律の専門家の場合は「委任契約」
前述の通り、弁護士・税理士・司法書士といった士業の専門家が、その資格に基づいて法律行為を代理・遂行する場合は、委任契約を結びます。たとえば、契約書のリーガルチェックを弁護士に依頼する、確定申告の手続きを税理士に依頼するといったケースです。
一般的なビジネスコンサルタントやマーケターが、この契約形態を選択することはほとんどありません。法律行為を伴うかどうか、という明確な線引きで判断されます。
フリーランスとして活動する上で、自身の業務が法律行為に該当しない限り、この契約形態を意識する必要は少ないでしょう。
【トラブル回避】フリーランスが業務委託契約をする際に特に注意すべきポイント
契約は、良好な関係を築くための土台ですが、内容に不備があると深刻なトラブルの原因にもなり得ます。特にフリーランスは、自身の身を自分で守らなければなりません。契約書にサインする前に、必ず以下の7つのポイントを精査する習慣をつけましょう。
なお、2024年11月に施行された「フリーランス新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)」により、発注事業者には業務内容の明示や一方的な報酬減額の禁止などが義務付けられます。
フリーランスとして自身の権利を守るためにも、クライアントがこうした法令を遵守する意識を持っているかを見極めることが大切です。
出典:2024年公正取引委員会フリーランス法特設サイト(公正取引委員会)
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指揮命令関係を疑われる「偽装請負」のリスクがないかを確認する
契約形態が業務委託であるにも関わらず、クライアントから業務時間や場所を細かく指定されたり、業務の進め方について具体的な指揮命令を受けたりしている場合「偽装請負」を疑われる可能性があります。
偽装請負と判断されると、クライアントは労働法の規制を逃れるために業務委託を悪用したと見なされ、フリーランス自身も税務上の問題や社会保険の加入資格などで不利益を被るリスクがあります。
契約書に指揮命令をうかがわせる文言がないか、また実際の業務においても独立性が保たれているか、常に注意が必要です。
成果物の著作権・知的財産権がどちらに帰属するかをチェックする
コンサルタントが作成した提案書、マーケターが考案した戦略プランなど、フリーランスの業務では多くの知的財産が生まれます。
契約書で著作権や知的財産権の帰属について明確に定めておかなければ、納品後に成果物を自由に利用できなくなったり、自身のポートフォリオとして公開できなかったりする可能性があるため注意が必要です。
原則として、作成した成果物の著作権は作成者であるフリーランスに帰属します。クライアントに権利を譲渡する場合は、その範囲(二次利用を含むかなど)や対価について、双方納得の上で合意形成を図ることが大切です。
競業避止義務の範囲と期間を確認する
フリーランスが業務委託契約を結ぶ際、特に注意したいのが「競業避止義務」の条項です。契約期間中または契約終了後に、同業他社での業務や類似サービスの提供を制限する内容を指します。
依頼主にとっては自社のノウハウ流出を防ぐ重要な規定ですが、フリーランス側にとっては活動の自由が制限される恐れがあります。
ここで確認すべきは、競業避止義務の範囲が広すぎないか、義務を負う期間が不当に長くないか(契約終了後も永久に続くなど)といった点です。過度な義務は将来の業務を不必要に制約する可能性があるため、現実的な範囲に設定されているかを慎重にチェックしましょう。
出典:競業避止義務に係る競争政策・独占禁止法上の考え方(公正取引委員会)
損害賠償責任の範囲と上限をチェックする
自身の過失によってクライアントに損害を与えてしまった場合に備え、損害賠償責任に関する条項は必ず確認が必要です。特に注意したいのが、賠償責任の範囲と上限額です。
「一切の損害を賠償する」といった上限が定められていない条項は、フリーランスにとって過大なリスクとなります。賠償額の上限を「委託料の〇か月分」や「損害が直接発生した取引の対価」など、具体的な金額で設定することがリスク管理の観点から不可欠です。
万が一の事態に備え、フリーランス向けの賠償責任保険への加入も検討しましょう。
報酬(金額・支払条件・支払時期)は妥当かをチェックする
契約の根幹である報酬については、曖昧な点を残してはいけません。特に以下の項目については、必ず明確にしておきましょう。
- 報酬の金額
- 計算方法
- 支払条件
- 支払時期
また、必要経費の負担についても、どちらがどの範囲まで負担するのかを事前に取り決めておくことで、後のトラブルを防げます。特に高額なプロジェクトでは、着手金の支払いを交渉するなど、キャッシュフローを安定させる工夫も重要です。
契約期間と更新・解除の条件は適切かを確認する
プロジェクトの期間が定められているのか、それとも長期的な関係を想定しているのかなど、契約期間は必ず確認しましょう。特に自動更新の条項がある場合は、更新を希望しない場合の通知時期や方法を把握しておく必要があります。
また、予期せぬ事態に備え、契約を中途解約できる条件も重要です。クライアント側だけでなく、自分からも契約を解除できる権利(報酬の支払いが遅延した場合など)が定められているかを確認し、一方的に不利な内容になっていないかを精査してください。
再委託は可能かをチェックする
業務の一部を他のフリーランスや協力会社に再委託する可能性がある場合は、契約書でそれが許可されているかを確認する必要があります。「書面による事前の承諾なく再委託を禁止する」といった条項が一般的です。
無断で再委託を行うと契約違反となり、信頼関係を損なうだけでなく、損害賠償を請求されるリスクもあります。将来的にチームで業務にあたる可能性がある場合は、契約交渉の段階で再委託の可能性についてクライアントと協議し、合意しておくことが望ましいでしょう。
【ステップで解説】フリーランスが業務委託契約を結ぶ流れ
契約内容の重要性を理解した上で、次は実際の締結プロセスを見ていきましょう。一つひとつのステップを丁寧に進めることが、円滑な取引の実現につながります。
ステップ1:業務範囲・報酬・納期などの条件を交渉する
契約の第一歩は、クライアントとの条件交渉です。担当者と打ち合わせを行い、以下のような契約の骨子となる部分をすり合わせます。
- 業務の具体的な範囲
- 期待される役割
- 成果物
- 納期
- 報酬額
- 支払条件
2024年に行われた厚生労働省の調査によると、発注者から取引条件を明示されなかった経験のあるフリーランスは44.6%です。

出典:フリーランス取引の状況についての実態調査(法施行前の状況調査)の結果(厚生労働省)
後の「言った・言わない」のトラブルを防ぐためには、口頭での確認だけでなく、議事録やメールといった形で合意内容を書面に残しておくことが不可欠です。この段階で曖昧な点をなくしておくことが、後のプロセスをスムーズに進める鍵となります。
ステップ2:合意内容に基づき契約書を作成する
交渉で合意した内容をもとに、契約書を作成します。一般的にはクライアント側が契約書のひな形(テンプレート)を準備するケースが多いですが、フリーランス側から提示することもあります。どちらが作成するにせよ、ステップ1で合意した内容が正確に反映されていることが大前提です。
自身で契約書を作成する場合は、弁護士などの専門家が監修したテンプレートを活用すると安心です。インターネット上で入手できるひな形をそのまま使用すると、自身の業務内容に合っていなかったり、法改正に対応していなかったりするリスクがあるため注意が必要です。
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ステップ3:契約書の内容を精査・確認する
提示された契約書、あるいは自身で作成した契約書案を、細部まで精査・確認します。
特に「【トラブル回避】フリーランスが業務委託契約をする際に特に注意すべきポイント」で挙げた7つの項目は、念入りにチェックしてください。
少しでも疑問に思う点や不利だと感じる条項があれば、遠慮せずにクライアントに質問し、必要であれば修正を依頼しましょう。専門的な内容で判断が難しい場合は、弁護士などの専門家にリーガルチェックを依頼することも有効な手段です。
ステップ4:双方合意の上で契約を締結する
契約書の内容について双方が合意したら、最終的な契約締結のステップに進みます。
従来の紙の契約書に署名・捺印する方法のほか、近年では電子契約サービスを利用してオンラインで締結するケースも少なくありません。
電子契約は、郵送の手間や印紙代を削減できるメリットがあります。どちらの方法で締結する場合でも、最終版の契約書を控えとして保管しておきましょう。契約書の控えは、将来万が一トラブルが発生した際に、自身の権利を守るための重要な証拠となります。
フリーランスの契約形態に関するよくある質問
ここでは、フリーランスの契約に関してよくある質問にお答えします。
Q1.業務委託契約書は必ず作成すべき?
業務委託契約書は作成すべきです。日本の法律では、一部の例外を除き、口頭での合意でも契約は成立します(民法第522条2項)。しかし、口頭での約束は、後になって内容の認識に齟齬が生じたり、トラブルが発生した際に合意内容を証明することが困難になったりします。
契約書は、双方の合意内容を明確にし、トラブルを未然に防ぐために重要です。また、万が一紛争になった場合には、自身の主張を裏付ける客観的な証拠となります。たとえ少額の案件や信頼関係のあるクライアントとの取引であっても、書面で契約を締結する習慣をつけましょう。
Q2.業務委託契約でも源泉徴収はされる?
業務の内容によっては、源泉徴収の対象となります。源泉徴収とは、報酬を支払う側(クライアント)が、所得税などをあらかじめ天引きして国に納める制度です。国税庁が定める源泉徴収の対象となる報酬には、原稿料・デザイン料・講演料のほか、弁護士や税理士など特定の資格を持つ人への報酬などが含まれます。
一方で、一般的なビジネスコンサルティング料などは、原則として源泉徴収の対象外です。ただし、業務の実態によって判断が異なる場合もあるため、事前にクライアントと源泉徴収の有無について確認しておきましょう。
出典:No.2792 源泉徴収が必要な報酬・料金等とは(国税庁)
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契約形態について適切な知識を身につけ、フリーランスとして活躍の場を広げよう
本記事では、フリーランスが結ぶべき契約形態について、網羅的に解説しました。
要点をまとめると、フリーランスの契約は業務委託契約が基本であり、その中でも「請負」「準委任」「委任」の3つを業務内容に応じて使い分けることが重要です。また、偽装請負や著作権、損害賠償といったトラブルを避けるため、契約書にサインする前には必ず内容を確認しましょう。
現在進行中の案件、あるいは今後提案する案件について、どの契約形態が適しているかを見直してみてください。そして、本記事で挙げた注意点を参考に、自身の契約書テンプレートを準備、あるいは見直してみるとよいでしょう。
(監修日:2025年10月9日)
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法律事務所アルシエン(https://www.kawano-law.net/ )|弁護士
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