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【弁護士監修】フリーランスの競業避止義務はどこまで有効?契約書の注意点や無効になるケースを解説

フリーランスの競業避止義務のイメージ

「競業避止義務の条項は、どこまで守る必要があるのだろう?」
「この契約にサインしたら、他の仕事が受けられなくなるのでは?」

フリーランスとしてキャリアを築く際、クライアントとの契約書に記載された「競業避止義務」の文言に、戸惑いや不安を感じる可能性があります。クライアントの重要な情報を扱うプロフェッショナルであるほど、この義務の負担が大きくなる可能性が高いです。しかし、その有効性には一定の限界があり、すべての条項が認められるわけではありません。

本記事では、フリーランスが知っておくべき競業避止義務の基本や、契約の有効性を判断する具体的な基準を解説します。不当な契約から身を守るための実践的な対処法も紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。

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そもそも競業避止義務とは

競業避止義務とは、特定の事業において、クライアントと競合する企業ではたらいたり、自ら競合する事業を立ち上げたりすることを禁止する義務を指します。クライアントが持つ独自のノウハウや顧客情報、技術といった「正当な利益」を保護するのが主な目的です。

もともとは企業の従業員に対して退職後に課されるケースが一般的でしたが、近年では業務委託契約においてフリーランスに課される場面も増えています。

契約書にこの条項が含まれている場合、フリーランスは契約期間中および契約終了後の一定期間、特定の競合行為を制限される点に注意が必要です。

フリーランスにも競業避止義務は関係する?

結論から言うと、フリーランスにとっても競業避止義務は大いに関係があります。特に、専門性の高い業務を担うハイクラスなフリーランスほど、クライアントの事業の根幹に関わる機密情報に触れる機会が多いため、この義務を課される可能性は高まります。

HiProの「副業・フリーランス人材白書2025」によると、企業がフリーランス人材に業務を依頼しなかった理由として、約15%が「情報漏洩・ノウハウ流出のリスクが高い」と回答しました。

出典:副業・フリーランス人材白書2025(HiPro)

このデータは、企業側がフリーランスからの情報流出を現実的なリスクとして捉え、その対策として競業避止義務を重視していることの表れです。したがって、フリーランスはこの義務を単なる形式的な条項と捉えず、その意味とリスクを正しく理解した上で契約に臨む必要があります。

フリーランスの競業避止義務の有効性を判断する5つの判断基準

契約書に競業避止義務の記載があったとしても、すべてが有効とは限りません。

有効性は「クライアントが守るべき利益」と「フリーランスの職業選択の自由」とのバランスを考慮して、以下の5つの基準から総合的に判断されます。

フリーランスの競業避止義務の有効性を判断する基準は、以下の5つです。

  • 守るべきクライアントの正当な利益が存在するか
  • 制限される期間・場所・業務範囲が合理的か
  • フリーランスの活動を過度に制限していないか
  • 十分な代償措置(報酬の上乗せなど)が講じられているか
  • 独占禁止法上の「優越的地位の濫用」にあたらないか

以下、それぞれ具体的に解説します。

守るべきクライアントの正当な利益が存在するか

まず大前提として、競業避止義務によって守られるべきクライアントの「正当な利益」が存在する必要があります。これは、誰でもアクセスできるような一般的な知識や技術ではなく、その企業独自の営業秘密や、特別な顧客との関係性などを指します。

たとえば、あるマーケティングコンサルタントが、クライアント企業で独自開発された、非公開の市場分析フレームワークを使用して業務を行っていたとします。このフレームワークは企業の競争力の源泉であり、保護されるべき「正当な利益」と判断される可能性が高いでしょう。

単に「競合の売り上げに貢献させたくない」といった漠然とした理由だけでは、正当な利益とは認められにくいのが特徴です。

出典:競業避止義務契約の有効性について(経済産業省)

制限される期間・場所・業務範囲が合理的か

競業避止義務の有効性を判断するうえで、制限の「合理性」は重要な要素です。制限が不必要に広範囲に及ぶ場合、その条項は無効と判断される可能性が高まります。

無効になりやすい制限は、以下のとおりです。

期間

契約終了後、数か月から長くとも1〜2年程度が合理的な範囲とされることが多く、5年や10年といった長期間の制限は無効とされやすいです。

場所

事業内容にもよりますが、日本全国や全世界といった広すぎる地理的制限は、合理性を欠くと判断される傾向にあります。

業務範囲

「一切のコンサルティング業務を禁止」といった広範囲なものは無効となりやすい傾向があります。

これらの範囲が広すぎると、実質的にフリーランスの活動を大きく制約しかねないため、厳しく判断されます。

出典:競業避止義務契約の有効性について(経済産業省)

フリーランスの活動を過度に制限していないか

競業避止義務は、日本国憲法で保障されている「職業選択の自由」を制約する側面を持っています(日本国憲法第22条)。

そのため、条項がフリーランスの活動を過度に制限し、その専門性を活かして生計を立てることを著しく困難にするような場合は、公序良俗に反し無効と判断されることもあります。

たとえば、特定のニッチな分野を専門とするアドバイザーに対して、その分野の業務を全面的に禁止するような契約は、そのフリーランスがキャリアを継続することを困難にさせます。

このような一方的な不利益を課す条項は、有効性が否定される可能性が高いでしょう。

出典:日本国憲法(e-Gov法令検索)

十分な代償措置(報酬の上乗せなど)が講じられているか

競業避止義務という制約を課す見返りとして、クライアントからフリーランスに対して十分な「代償措置」が提供されているかも重要な判断基準です。代償措置とは、具体的には通常の業務委託料に上乗せされる金銭的な報酬(補償金)などを指します。

この代償措置は、競業避止義務を受け入れることによってフリーランスが失う機会(逸失利益)を補填するためのものです。契約書において、この義務に対する対価であることが明確に示されており、その金額が合理的な水準でなければなりません。

単に全体の報酬額が高いというだけでは、代償措置とは認められない場合もあるため注意が必要です。

出典:競業避止義務契約の有効性について(経済産業省)

独占禁止法上の「優越的地位の濫用」にあたらないか

発注者であるクライアントが、受注者であるフリーランスに対して取引上優越した立場にある場合、一方的に不利益な条件を押し付けると独占禁止法上の「優越的地位の濫用」にあたる可能性があります。

特に、クライアントが「この競業避止義務を飲まなければ契約しない」と、交渉の余地なく不合理な内容の条項を強制するようなケースは注意が必要です。

フリーランス側が契約を締結するために受け入れざるを得ない状況で、客観的に見て過度な制約を課す契約は、独占禁止法違反として無効になる可能性があります。

出典:競業避止義務に係る 競争政策・独占禁止法上の考え方(公正取引委員会)

フリーランスに競業避止義務違反が問われるケース

競業避止義務契約が有効と判断された場合、どのような行為が「違反」とみなされるのでしょうか。ここでは、具体的な3つのケースを解説します。

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クライアントの機密情報を利用して酷似したサービスを提供する場合

典型的な違反ケースは、クライアントの業務を通じて得た機密情報や営業秘密を不正に利用し、競合するサービスを展開することです。

たとえば、ある事業戦略コンサルタントが、クライアントの非公開の顧客データや販売戦略を基に、酷似した事業計画を競合の会社に提案し、実行するような場合が挙げられます。

これは、クライアントの競争優位性を直接的に毀損する行為であり、義務違反に該当する可能性が高いと考えられます。

クライアントの顧客や従業員を引き抜く場合

契約終了後に、元クライアントの主要な顧客や中核となる従業員に接触し、自身のビジネスに引き抜く行為も、競業避止義務違反とみなされることがあります。たとえば、契約終了後にクライアントのキーパーソンであったマネージャーに独立を積極的に勧めて共同で新会社を設立し、主要取引先を不当に取り込む行為と評価されうるようなケースが該当します。

クライアントが築き上げてきた顧客基盤や組織体制という資産を侵害する行為と評価され、違反とみなされる可能性が高いです。

契約期間中に、直接的な競合他社で同様の業務を行う場合

契約期間中に、クライアントの直接的な競合企業と並行して契約し、類似の業務を行うことも、契約内容によっては違反となる可能性があります。

たとえば、マーケティングアドバイザーとして契約している期間中に、ライバルである会社のマーケティング戦略立案も請け負う場合が挙げられます。クライアントの戦略に関する情報が、意図せず使われるリスクがあるため、契約で禁止されていることが多いです。

ただし、競合関係にない異業種のクライアントであれば問題とならないのが一般的です。

フリーランスの競業避止義務契約が無効になる可能性があるケース

一方で、フリーランスに過度な負担を強いる競業避止義務は無効と判断される可能性があります。公正取引委員会が公表している「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」でも、優越的地位の濫用に関する考え方が示されており、以下のケースは無効となる可能性が高いです。

以下、どのようなケースが無効になるかについて詳しく解説します。

出典:フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン(公正取引委員会)

代償措置(報酬の上乗せ)がない、または不十分な場合

契約終了後の競業行為を制限することは、フリーランスの営業の自由を奪うことに他なりません。そのため、その制約に対する明確な金銭的対価(代償措置)が支払われていない場合、その義務は無効と判断される可能性が高いです。

前述の「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」でも、契約終了後に義務を課すことは、その対価が支払われない限り、独占禁止法上問題となり得ることが示唆されています。

報酬総額の中に代償措置が含まれていると主張されても、その内訳や計算根拠が不明確であれば、十分な対価とは認められにくいでしょう。

制限の範囲(期間・業務内容・地域)が広すぎる場合

フリーランスの活動を不必要に広く制限する条項は、その合理性が欠けるため無効になる可能性が高いです。

「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」においても、一方的に不利益を与えるような契約内容は問題視されています。

たとえば、契約終了後5年といった長期間の制限は、フリーランスのキャリア形成を著しく阻害するため、無効と判断されやすいです。また、「マーケティングに関する一切の業務」のように、専門分野全体を対象とする包括的な禁止は、過度な制限と見なされやすいす。また、「日本国内全域」といった広範囲の地理的制限も、不合理と判断される場合が多いでしょう。

フリーランスが不当な競業避止義務から身を守るための対処法

不利益な契約を回避し、自身のキャリアを守るためには、受け身ではなく能動的に対処することが重要です。ここでは、具体的な3つの対処法を紹介します。

契約書にサインする前に必ず内容をチェックする

基本的かつ重要な対策は、契約書に署名・捺印する前に、隅々まで内容を精査することです。特に「競業避止義務」「競業の禁止」「秘密保持」といった見出しの条項には注意深く目を通しましょう。曖昧な表現や、少しでも疑問に思う点があれば、安易に署名するのは避けましょう。

「どの企業が競合にあたりますか?」「どこまでの範囲を指しますか?」といったように、クライアントに具体的な内容を確認し、双方の認識をすり合わせることが不可欠です。

条項の削除・範囲縮小・期間短縮の交渉をする

契約書の内容に納得できない場合は、妥当性を踏まえて条件調整を検討しましょう。フリーランスはクライアントと対等なビジネスパートナーであり、契約内容について交渉する権利があります。

条項自体の削除や、以下のように制限を緩和するよう交渉するとよいでしょう。

「期間を1年から半年に短縮していただけないでしょうか」
「禁止される業務範囲を、より具体的な〇〇の領域に限定してください」

不当な義務を課された場合はすぐに専門家に相談する

もし、一方的に不当な義務を課されそうになったり、契約違反を盾に不当な要求をされたりした場合は、一人で抱え込まずに速やかに専門家へ相談しましょう。法律の専門家は、契約内容の有効性を客観的に判断し、クライアントとの交渉を代理で行ってくれます。

不利な立場に置かれていると感じたときこそ、専門家の知見を借りることが、問題を深刻化させずに解決へと導く鍵となります。

フリーランスの競業避止義務に関するよくある質問

ここでは、フリーランスの競業避止義務に関して多く寄せられる質問にお答えします。

競業避止義務に一度サインすると変更はできない?

一度有効に成立した契約内容を後から一方的に変更することは、原則としてできません。変更するには、クライアントとの再交渉と、双方の合意が必要になります。

しかし、もし契約内容が前述の判断基準に照らして無効である可能性が高い場合は、その旨を主張して交渉する余地はあります。とはいえ、契約後の交渉は困難を伴うことが多いため、サインする前に交渉することが重要です。トラブルを避けるためにも、契約締結は慎重に行いましょう。

業務委託契約終了後も競業避止義務は有効?

競業避止義務の条項は、多くの場合、業務委託契約が終了した後も有効になるように設定されます。そのため、契約書に「契約終了後〇年間」といった記載があれば、その期間中は義務が継続します。

ただし、その有効性は、これまで解説してきた通り、制限の期間、範囲、代償措置の有無などによって厳しく判断されます。

契約終了後の義務だからこそ、その内容がフリーランスのキャリアを不当に縛るものでないか、より慎重に確認することが大切です。

適切な知識を身につけ、不当な競業避止義務から自身のキャリアを守ろう

本記事では、フリーランスを取り巻く競業避止義務について、その有効性の判断基準から具体的な対処法までを解説しました。

競業避止義務は、クライアントの正当な利益を守るために必要な場合もありますが、その一方でフリーランスのキャリアを不当に制限するものにもなり得ます。

契約書に記載されている条項が本当に合理的で有効なものなのかを冷静に見極める視点を持つことが大切です。まずは、現在やり取りしている契約書や過去の契約書を一度見直し、競業避止義務の条項がどのように記載されているかを確認することから始めてみましょう。

(監修日:2025年10月9日)

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【監修者】河野 冬樹 法律事務所アルシエン|弁護士

法律事務所アルシエン(https://www.kawano-law.net/ )|弁護士

弁護士として、主にクリエイターの方をメイン顧客とし、著作権、フリーランス法務、エンターテイメント法務などを取り扱っております。 情報発信にも力を入れており、Xのフォロワー数は1万人を超えております(@kawano_lawyer)。

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