【2023年】日本の金融業界が抱える課題と展望|進むDX化の事例も紹介
現在の金融業界は、さまざまな課題を抱えています。それらの解決を目指す形で、金融業界は今後大きな変化を遂げていくでしょう。
このコラムでは、金融業界の現状と課題、今後の展望などを紹介しつつ、金融業界内で注目を集めているDXの導入方法や具体的な導入事例まで紹介します。課題と展望から今後の事業戦略を考えるヒントを見つけてみてください。
金融業界の現状と課題
現在の金融業界はどのような状態で、どのような課題を抱えているのでしょうか。課題を理解することで、今度の展望も把握しやすくなるでしょう。金融業界の現状と課題について、代表的なものを3つ紹介します。
収益性を高められるか
日本の金融業界の中で銀行・金融機関は、収益性をいかに高められるか、という課題を抱えています。欧米に比べて日本の銀行の利益率は低く、特に地方銀行の場合は顕著です。
日本の地方銀行は2016年にマイナス金利政策が導入されて以来、預金金利が引き下げられない中で貸し出し金利も低下した結果、収益が低下しています。
このような状況を改善しようと、政府や日本銀行はさまざまな制度の創出・法律の改正に着手していますが、根本的な問題の解決に向かっているとは言い難い状況です。
競合企業の増加
競合企業が増えていて競争が激化している点も、金融業界が抱えている課題の一つです。特に金融業界以外からの参入が顕著で、IT企業が自社のデジタル技術を駆使して金融ビジネスを展開するケースが急増しています。フィンテック企業の台頭やネット銀行の増加などが代表例です。
また新規参入企業の増加に伴い、顧客のニーズも多様化していることが、この課題を深刻化している要因として挙げられます。競合企業が急増している現状の中で、いかに柔軟に顧客ニーズを満たすサービスを展開できるかが、金融業界で生き残れるかどうかの明暗を分ける状況になっています。
DX化の推進状況に差がある
金融業界の中でも、DX化の推進状況に差が出ている状況も見逃せません。 日本の金融業界は、他業界に先駆けてDX化に着手しました。しかし当時のシステムでは、セキュリティを維持するために外部システムとの連携を想定していませんでした。その体系は長らく固定化され、古いシステムを使い続けてしまったことが、金融業界のDX化の妨げになった原因です。
近年、徐々にDXに着手・実施する金融機関が見られるようになりました。金融庁が2022年6月に発表した「金融機関のITガバナンス等に関する調査結果レポート」では、金融機関のデジタルシフトに関し、以下のように記しています。
金融庁では、2019 年6月に IT ガバナンスの論点を公表し、これに基づき金融機関との 対話を進めている。IT ガバナンスの論点を公表した当時、デジタル技術で業務プロセス 全体の効率化を図るデジタライゼーションが進展し、利用者の様々なニーズに対応したワンストップサービスなど、ビジネスモデル変革の動きが見られ始めていた。
しかしながら、金融業界はその他の業界に比べDX化の推進に大きな差が出ています。金融庁は同レポート内で、金融機関のDX化の取り組み状況を4つの世代に分けて説明しました。
このレポートによると、メガバンクはデジタルサービスを展開できる程度の第3世代(DX サービス化段階)に到達しつつあるといえる一方、多くの地方銀行はいまだ第1世代(DX 始動段階)にある状況です。さらに、第3世代に到達しつつある金融業界の中で比較的DX化が進んでいるメガバンクも、マーケティングの裾野を広げるほどインパクトのある活用をできていません。
出典:金融機関のITガバナンス等に関する調査結果レポート(金融庁)
今後DX化を進めるためには、経営陣によるリーダーシップ、新たな挑戦を許容する企業文化の養成、DX人材の育成などが重要なポイントになるでしょう。
「2025年の崖」から考える金融業界の今後の展望
現在、日本企業の多くが「2025年の崖」に直面していますが、金融業界でも同様です。「2025年の崖」とはどのようなものを指すのでしょうか。また、「2025年の崖」が、今後の金融業界にどのような影響を与えるのでしょうか。それぞれを紹介します。
「2025年の崖」とは
「2025年の崖」という言葉が初めて使われたのは、2018年に経済産業省が発表した「DXレポート」です。こちらのレポートで、「日本企業全体でDX化を推進しなければ、2025年以降5年間で、最大で年間12兆円規模の経済損失が生じる可能性がある」と発表されました。
出典:DXレポート〜IT システム「2025 年の崖」の克服と DX の本格的な展開〜(経済産業省)
昨今、国際的にどの分野でもDX化が進んでいます。しかし、いまだに古いシステムを利用し続ける企業が少なくありません。古いシステムはDX化したものと比較して、スペックやセキュリティ面が劣ります。したがって、既存のシステムを利用し続けると、DX化が進むほかの国々との競争力が落ちビジネスの機会損失につながり、結果的に最大で12兆円もの損失が生じる可能性を示唆しています。
金融業界も例外ではなく、2025年の崖に直面する可能性が高いためDX化が急務となっているのです。
金融業界はDX化が進む
前述の通り、金融業界ではメガバンクを中心にDX化が進んでいる一方で、地方銀行など規模が比較的小さい銀行ではDX化が進んでいるとは言い難い状況です。しかし、クラウドの導入に精力的な銀行が増えています。
クラウドとは、インターネットを媒介し、必要な際に必要な分だけサービスが受けられる形態を指します。日本銀行の発表によると、都市銀行・信託銀行のクラウド導入率は100%です。コスト削減や新規サービスの導入のため、金融業界、特に銀行でDX化の推進に不可欠なクラウドの導入が進んでいる側面もあります。
出典:平成30年版 情報通信白書のポイント(総務省)
日本の金融業界は「いかに収益性を高めて競争力を高められるかがポイント」と紹介しました。そのような課題を解決できるのがDXです。デジタルシフトすることにより業務の生産性や正確性が上がり、収益性・競争力を高められるからです。
したがって、今後は金融業界全体でよりいっそうDX化が進んでいくと考えられます。
金融業界でDXを取り入れる方法
金融業界において、DX化が重要なことは理解できたと思います。しかし、どのようにDXを取り入れていくかも非常に重要です。ここからは、金融業界でDX化を進める3つの方法を紹介します。
クラウドの導入
DX化の推進の前段として、まず実践しやすいのがクラウドの導入です。クラウドを導入するメリットのひとつに、コスト削減がしやすくなるという点が挙げられます。
クラウドを導入することで、サーバーの管理やメンテナンスを行う人員が不要になるため、サーバー管理のための人件費を削減することが可能です。また、これまでアナログで行っていたファイルやナレッジの共有がクラウド上で簡潔に行えるようになり、作業効率が上がることで作業時間短縮によるコスト削減も期待できます。
このように、コストを減らすといったわかりやすいメリットがあるため、関係部署や企業経営者を説得しやすく、DXの第一歩を踏み出せるでしょう。
また、前述のとおり、すでにクラウドを導入している金融機関は少なくありません。同業他社の導入事例があるという観点からも、導入ハードルが低い施策の1つといえるでしょう。
さらに、クラウドを導入することで、新たなサービスを展開できる可能性も広がります。事実、すでに保険業界でデータ分析機能のあるクラウドを導入し、保険料を算出するサービスを展開しているケースもあります。今後、金融業界では、コスト削減はもちろん、新しいサービスを提供するためにクラウドを導入するケースが増加していくでしょう。
AIなどの最新技術の導入
AIなどの最新技術を導入することも、DX化を進める有効な手段です。
金融業界は定型業務が多くAIやRPA※を導入することで、そのような業務の効率化を図れます。また、正確かつ迅速なデータ分析が可能になりマーケティング活動に活かせるなど、メリットも多いです。
※ロボットによる業務自動化のこと
金融業界でAI・RPAを導入することで、以下のような業務に活用できます。
- 顧客対応の自動化
- 書類のデータ化による管理や分析の簡素化
- 顧客の借り入れ状況を学習させ、融資審査の自動化・標準化
AIやRPAは大量のデータを集積し、迅速かつ正確に分析したり、作業したりすることが得意です。反対に、集めたデータをどのように活用するかは、AI・RPAが苦手としている分野であり、人間の介在余地が大きい部分です。
人間が介在すべき部分に注力することで、より成果の出やすい体制構築につながるでしょう。
IoTの活用
IoTを活用することで、サービスの向上につなげられる可能性があります。IoTは「Internet of Things」の略語で、「モノのインターネット」と表現されます。オフラインのものがインターネットを通じてサーバーやクラウドサービスに接続され、相互に情報交換ができる状態です。
IoTを活用することで、これまでには実現が難しかったサービスも提供可能になります。たとえば保険業界の場合、自動車をインターネットに接続することで運転の傾向を把握し、保険料を適用する新サービスが注目を集めました。また、ウェアラブル端末から顧客の健康データを回収し、健康状態に合わせた割引などを行うサービスにも活用されています。
このようにIoTを活用し新しいサービスを提供し、顧客満足度を向上させることでLTV※の向上も期待できるでしょう。今後は保険業界だけでなく、金融業界全体でIoTを活用したサービスが増えていくと想定されます。自社サービスの中で、インターネットに接続することで新しいサービスを提供できるものがないか確認してみましょう。
※「顧客生涯価値」という意味で、ある顧客が自社と取引を開始してから終了するまでの期間に、自社にどれだけの利益をもたらしてくれるかを表した数値のこと
金融業界のDX推進事例
ここまでの内容を踏まえ、金融業界ですでにDX化を推進している企業の例を紹介します。
保険会社/A社の事例
保険商品を扱うA社は、AIを活用したビジネスモデルを確立しました。
A社は事業上のさまざまな課題をAIやデータで解決できる組織を目指し、投資先の企業と共同してAIを活用したプロジェクトを推進する中核となる組織を立ち上げ、AIの全社的導入を進めています。
その成果として、AIを活用した新サービスを導入することで、これまで人間が行ってきた業務をAIに任せられるようになり、業務の効率化に成功しました。また、AIを活用した新サービスを導入することで顧客の利便性を向上させ、顧客満足度の向上も図っています。
A社は今後AIを活用し、さらなる革新的な商品、サービス開発に取り組んでいく予定です。
銀行/B社の事例
B社は、金融業界の中で積極的にDX化を推進している銀行の1つです。近年では、デジタルを活用し企業変革を促す事業部を設立したことで話題になりました。
DX化推進事例の1つに、デジタルサービスの提供が挙げられます。スマートフォンの普及に伴い、銀行に足を運ぶ顧客が減る一方で、ネット決済を好んで利用する人が増加しました。しかし、銀行で直接お金のやり取りをしたい顧客も一定数存在します。そのようなさまざまなニーズに対応するため、従前通りの対面での接客を希望する顧客向けの店舗に加え、手軽に利用可能なセルフ型の端末を設置する店舗を配置しました。
このことで、顧客一人ひとりに最適なサービスを提供できるようになっただけでなく、大幅な業務量の削減による生産性の向上も実現しました。
今後は、これまで集積したデータを活用し、新事業や新サービスの企画、開発に着手していくことを検討しています。
まとめ
金融業界は、収益性が低い、競合企業が増加している、DX化の推進状況に差があるなどの課題を抱えています。「2025年の崖」問題もあり、このような現状・課題の解決策として注目を集めるのがDX化です。
金融業界でDXを推進するためには、クラウドの導入、AIなどの最新技術の導入、IoTの活用などさまざまな方法があります。紹介した保険会社や銀行の事例のように、今後、金融業界の中でもDX化を進める企業が増えていくでしょう。
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