DX戦略とは?企業が推進する重要性や成功のポイントを解説!
経済産業省の「DXレポート(※)」によると、複雑化・老朽化・ブラックボックス化した基幹システム(レガシーシステム)は増加傾向にあり、仮に古いシステムが残り続けた場合、2025年以降、最大で年間12兆円の経済損失が生じると予測されています。こちらが俗にいう、「2025年の崖」です。
その一方で、DXレポートでは、レガシーシステムの刷新に不可欠なDX戦略を策定・導入することで、2025年〜2030年に実質GDPを130兆円押し上げる可能性がある点も試算されています。
上記より、今後の事業成長や損失に、「デジタル技術の活用・戦略的投資」が 大きな比重を占めていることがわかります。
また、「デジタル技術の活用・戦略的投資」は、市場での競争優位性の確保につながることから、日本経済のトレンドとして、DX戦略の策定を検討・着手する企業が増えています。
本コラムをお読みの企業担当者様におかれましても、DX戦略の策定を積極的に検討されている 方も多いのではないでしょうか。
ただし、DX戦略に着手するにあたり、「そもそも、DX戦略がなんなのかわかっていない」、「DX戦略策定後の進め方をわかっていないため、戦略を立てただけで終わりそう」「DX戦略の実施を通して、市場競争を勝ち抜くことができるか不安」といったお悩みを抱えている方も多いはず。
そこで本コラムでは、「DX戦略とはなにか?」からはじまり、効果的なデジタル技術の活用・戦略的投資に向け、DX戦略の策定の流れや成功に導くためのポイントなどについて、詳しく解説します。
※出典: DXレポート 〜ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開〜 」(経済産業省)
DX戦略とは?
DX戦略について、順を追ってご紹介します。
そもそもDXとは?
DXとは、デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)の略称です。
経済産業省が2018年に公開したガイドラインでは、DXについて、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義付けしています。
DX戦略とは?
上記のDXの定義より、DX戦略とは、市場での競争優位性を確立に向け、戦略を立案し、実行するプロセスであるといえます。DX戦略は、自社がDX推進を通して、事業目標やビジョンを達成するための、短期および中長期的なロードマップであると捉えると、イメージを持ちやすいでしょう。
DX戦略の必要性や推進する背景
DX戦略を推進する企業の増加には、どのような背景があるのでしょうか。以下4つの観点から解説します。
「2025年の崖」対策
冒頭でお伝えした通り、迫りくるレガシーシステム残存に伴う社会問題、「2025年の崖」に対処するためには、DX戦略をいち早く推進し、被害を最小化させた上で、 「デジタル競争の敗者」になるのを回避する必要があります。
また、「2025年の崖」を解消しない場合のリスクとして、IT予算に占めるレガシーシステムの管理維持費が約90%以上となり、攻めの事業投資を行えなくなってしまう恐れがあることも、DXレポートでは報告されています。いまや市場のプレーヤーとしてデジタル競争を勝ち抜き、持続的な事業成長を実現するためには、DX戦略は欠かせない経営ファクターとなっています。
データ喪失の回避
レガシーシステムの特徴として、長年に渡り、部分的なシステムの最適化を繰り返してきた結果、開発を行ったベンダーや自社企業が全体像を把握できないほど、システムが複雑化・老朽化・ブラックボックス化している点があげられます。
レガシーシステムが残り続けた場合、企業が培ってきた貴重なデータやノウハウが喪失する恐れがあることから、その事態を解消できるDX戦略の推進に大きな期待が寄せられているのです。
競争力の向上
DXの推進を通し、ビジネスモデルやサービスを変革させてきた企業と、何一つ対応を行わない企業では、市場での競争力に大きな差が生じるのは明らかです。
現状のままでは自社の優位性や競争力が低下し、市場から取り残されるという強い危機感を抱いていることも、企業のDX推進を加速させている理由の一つです。
コロナ禍によるユーザー行動の変化
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、巣ごもり需要が増えた結果、顕著な例としてオンライン上での購買行動が増加傾向にあります。
こうしたユーザー行動の変化に応えるべく、新しい製品・サービスが次々と市場でリリースされる中、安定した事業成長を実現させるためには、既存のビジネスモデルの変革が必要不可欠であり、その突破口として、DX戦略が市場で注目を集めています。
DXを取り入れるメリットとは?
DXを取り入れる主なメリットにつき、以下に解説します。
新しい価値の創出
現在、DXをはじめとする最新のデジタル技術を活用した製品・サービスが、次々と市場でリリースされています。
DXの活用を通して、各部署のデータやノウハウが、部署の垣根を超えてリアルタイムで共有できるようになると、これまで掘り起こせなかった事業課題や市場ニーズを発見しやすくなります。その結果、企業は新たな製品・サービスの開発が可能となり、市場において新しい価値を創出できるようになります。
競合との競争から脱却
仮にデータやデジタル技術を駆使したDX戦略の成功により、従来のビジネスモデルやマーケティング戦略、企業文化、組織体制などを変革できれば、より一層市場ニーズに応えられる製品・サービスの提供が可能になります。
多様化する市場ニーズに対応し、市場での競争優位性の確立を通し、競合との競争から脱却できる点も、DXを取り入れるメリットの一つです。
BCPの充実
BCPとはBusiness Continuity Planの略語であり、事業継続計画を指します。BCPの目的は、企業が不測の緊急事態(自然災害、感染症、テロなど)に直面した際に、ビジネスの機会損失を最小限に抑えることです。
仮に、DXの推進により、他部署の情報をリアルタイムで共有化できる体制が構築できていれば、コロナ禍のような不測の事態に直面した際も、リモートワークに切り替えるなどの柔軟な対応が可能になります。
戦略を成功に導く5つのポイント
DX戦略を成功に導くための5つのポイントにつき、以下にご紹介します。
DX戦略の目的を明確にする
DX戦略を実施する上では、DX戦略の目的を明確にすることが重要です。「解決すべき経営課題はなんなのか」、「どのような未来を実現すれば成功だといえるのか」、明確な課題設定と目標設定があってはじめて、ゴールへの詳細な道筋が見えてきます。目的のないDX戦略の推進は、組織に混乱をもたらし、かえって事業に影響を及ぼす恐れがあるため注意が必要です。
小さな変化から取り組む(スモールスタート)
打ち立てたDX戦略をいきなり全社規模で推進した場合、失敗時の代償も大きくなるため、小さな変化から取り組む(スモールスタート)ことをおすすめします。小規模でDXを段階的に進めることで成果のフィードバックを行いやすくなり、DXに関するノウハウや知見が社内に蓄積していくため、さらに大きな範囲でのDX推進が可能となります。
DX人材の確保に注力する
DX戦略の推進には、デジタル技術を自在に活用できるDX人材の確保が欠かせません。単にAIやIoTといった最新技術を扱えるだけでなく、その技術の活用を通し、組織やシステムを変革し、ビジネスを拡大させることが、DX人材に課せられたミッションです。
自社でDX人材が不足している場合は、コンサル会社や外部人材の活用または、自社社員をデジタル人材へと育成(外部講師を招いた研修やセミナーの実施など)の2種類があります。DX戦略の実現に向け、費用対効果も勘案の上、ベストな活用・育成手法を選択するようにしましょう。
顧客の声を集める
策定したDX戦略が市場ニーズに応えられていない場合、今後の更なるビジネス拡大は望めないため、DX戦略の見直しが必要になるケースがあります。そのような状況を防ぐための効果的な手法が、企業に寄せられる顧客の声を集めることです。
意見や要望、クレームといった顧客の率直な声を集めることで、「2021年度の市場ではどんなサービスが人気を博しているのか」といった最新の市場動向の把握にもつながり、自社製品・サービスの改善点も発見しやすくなります。
経営トップのコミットメントを得る
DX戦略を通した、従来のビジネスモデルやマーケティング戦略、企業文化、組織体制などの変革は、一部署で完結できるものではなく、将来の事業ビジョンに沿ったチャレンジとなるため、当然のことながら、戦略の実現には経営トップのコミットメントが必要不可欠です。
変革の実行には、多くの変化が求められることから、反対意見がつきものです。経営トップのコミットメントを得ることで、強いリーダーシップのもと、部署を越えた連携も図りやすくなり、スムーズなDX推進が可能になります。
戦略策定の具体的なステップ
以下、3ステップにわけ、戦略策定の具体的なステップをご紹介します。
ステップ1:自社のあるべき姿(To-Be)を明確にする
最初のステップで大切なことは、経営層と共にDX戦略の方向性を定義し、自社のあるべき姿(To-Be)を明確化することです。To-Beを明らかにせず、DX戦略を実行に移した場合、社員に導入の意義が伝わらず、不要な反発を招く恐れがあります。
社員の理解を得るためにも、DX戦略の実現を通し、どのような未来が描けるのか、自社にどんなメリットがあるのかにつき、イラスト付きの資料などを用いて端的に示すようにしましょう。
ステップ2:自社の現状の姿(As-Is)を分析し、独自の強みを探す
DX戦略の策定においては、To-Beを明確にするだけでなく、自社の現状の姿(As-Is)を分析する必要があります。なぜなら、As-Isの分析を通して自社の強みを見つけ、データやデジタル技術の活用により、その強みを拡大させていくことが、DX戦略の成功へとつながるからです。
ステップ2では、ビジネスモデルや市場シェア、サービス・製品の特徴、企業文化・風土などの観点から、市場での競争優位性を発揮できる項目を分析しましょう。
ステップ3:あるべき姿(To-Be)と現状の姿(As-Is)の差を埋める
前段で明らかにしたTo-BeとAs-Isに差がある場合、データやデジタル技術の活用により、差を埋める必要があります。その際の手順として、「デジタイゼーション」⇒「デジタライゼーション」⇒「デジタルトランスフォーメーション」の段階を踏むのが一般的です。
単に特定業務のデジタル化やビジネスモデルの変革だけではなく、市場での競争優位性を確立し、社会全体に影響を与えられる道筋を立てることができてはじめて、DX戦略と呼ぶことができます。
デジタイゼーション
業務効率化やコスト削減に向け、データやデジタル技術の活用を通して、自社の特定業務をデジタル化すること(例:紙ベースでの文書管理から、デジタルツールでの管理へ)。
デジタライゼーション
新たな事業価値や顧客体験の創出に向け、データやデジタル技術の活用を通して、自社のビジネスモデルを変革すること(例:DVDのレンタルサービスから、ストリーミングサービスで動画を配信するビジネスモデルへ)。
デジタルトランスフォーメーション(DX)
デジタイゼーションとデジタライゼーションの実現により、市場での競争優位性を確立し、社会全体に影響を与えること。
成功事例のご紹介
市場ではどのように、DXが導入されているのでしょうか。2つの成功事例をご紹介します。
某銀行の成功事例
DX導入前:
日々、寄せられる膨大な量の顧客の声を従業員の労働力などに頼り、整理・分類していたため、多くの人的リソースが割かれている状態。
DX導入後:
提携企業が開発したテキスト分析技術を導入し、整理・分類作業をAIシステムに代替したことで、業務の自動化・省人化に成功。人的リソースを他業務に割くことができるようになった結果、サービスの品質改善および、顧客満足度の向上を実現し、市場での競争優位性を確立。
某総合機械メーカーの成功事例
DX導入前:
悪化する労働力不足、人材の高齢化などといった建設業界が抱える課題に、自社事業やサービスで応えられていない状態。
DX導入後:
属人化・ブラックボックス化が進んでいた業務プロセス(調査、測量、施工管理など)を、DXの導入により、業務オペレーションを最適化できるICTソリューション開発に成功。プロジェクトの安全性と生産性の向上に寄与し、建設業界の課題解決へとつながるソリューションを市場に提供した結果、安定した事業成長を実現。
まとめ
本コラムでは、今後の事業成長や損失に「デジタル技術の活用・戦略的投資」が大きな比重を占めていること、また、DX戦略の策定においては、デジタイゼーションとデジタライゼーションの実現により、市場での競争優位性を確立し、社会全体への影響を視野に入れることが重要であるなどについて、詳しくご紹介しました。
前述の通り、新しい価値を創出し、競合との競争から脱却できる点は、DXを取り入れる大きなメリットになります。本コラムを今後のDX戦略の策定や事業成長にお役立ていただければ幸いです。
この記事が気に入ったら「シェア」