UX(ユーザー・エクスペリエンス)デザインとは?成功事例や導入プロセスを解説します。
近年、新規事業開発のキーワードとして、UXデザインが注目を集めています。
製造業でサービタイゼーションという言葉が叫ばれるようになって数年が経ち、社会が予測不能な変化を繰り返す中で、消費の価値基準は少しずつ変化しています。
そのような状況下において、従来のビジネスモデルに限界を感じている方も多いのではないでしょうか。
とはいえ、新規事業の開発や既存ビジネスの変革に取り組もうとしても、UXやUXデザインというキーワードを理解できていない状態では、ユーザーに求められるプロダクトの実現は難しいでしょう。
本記事では、UXデザインの定義や必要性、主な実践プロセス、企業の活用事例をご紹介します。新規事業開発の一助として、ぜひお役立てください。
UX(ユーザーエクスペリエンス)デザインとは?
UXはUser Experience(ユーザー・エクスペリエンス)の略称であり、直訳するとユーザー体験という意味を表す語句です。このユーザー体験とは、製品やサービスの利用を通じて、ユーザーが得ることのできる全ての体験を指します。対象範囲は製品・サービスを知った瞬間から、利用を終了するまでのやり取り全般です。
UXデザインの意味
UXデザインとは、UXの仕組みを設計することを指します。一般的なデザインの印象から誤解されやすいキーワードですが、UXデザインの目的はサービスの外観を決めるというよりも、サービスを通じて得られる価値にフォーカスし、体験そのものをデザインしていくことにあります。
ユーザー体験は、売上に大きな影響を及ぼします。製品・サービスを通じてプラスの体験を得られなければ、継続的な利用は生まれません。つまり、UXデザインを通じて、ユーザー満足度の向上を目指すことは、エンゲージメントを高め、最終的に売上の安定化につなげることができます。
技術のコモディティ化によって、機能的な差別化が難しくなってきている現代において、UXデザインは競合優位性を高め、選ばれる理由をつくるために、重要なキーワードであるといえるでしょう。
UXとUIの違い
UIとは、User Interface(ユーザー・インターフェイス)の略称であり、ユーザーとサービスの接点を意味する語句です。
例えばオンラインショッピングというサービスとユーザーをつなぐものは、ECサイトです。UIはこのECサイト内に存在する「配色」「フォント」「画像」「ボタン」などの視覚的な要素全般を指します。
そのため、UXがユーザーの体験を意味するのに対して、UIはユーザーとの接点にフォーカスされた単語であり、UIデザインはユーザーとのタッチポイントの設計を表す言葉であるといえるでしょう。
UXデザインがビジネスで重要視される理由
ビジネスシーンにおいて、UXデザインが重要視される背景には、主に2つのポイントがあります。それは「テクノロジーの進化」と「消費者行動の変化」です。
テクノロジーの進化
昨今のデジタル技術の進化は著しく、AI・IoT・ビッグデータなどの高度なテクノロジーが誕生しています。これらの最新技術によって、顧客のニーズを多数派で考えるのではなく、1人ひとりの要望に向き合った取り組みが可能になりました。
一方で、新たなテクノロジーの誕生によって、製品のコモディティ化が進行し、機能・性能面での差別化が非常に難しくなっています。
消費者行動の変化
先述のコモディティ化で製品の機能面での差別化が難しくなったことで、消費者はモノの所有よりも、モノを通じて得られる体験を重視する傾向が強まっていきました。いわゆるモノ消費からコト消費へのシフトです。
さらにY世代と呼ばれるデジタルパイオニアや、Z世代と呼ばれるデジタルネイティブの成長により、SNSを起点としたクチコミが浸透しています。このクチコミでは機能性や効率性を重視したコストパフォーマンスだけではなく、製品・サービスを通じてどのような体験価値を得られたかまで記載されることが多く、購買を決めるうえでの重要な判断材料となっています。
これら2つの背景から、企業は売り切り型のビジネスではなく、購買後の体験までも意識したビジネス設計を求められるようになっています。この新たなビジネスを創出ために必要となるのが、最新テクノロジーによるインフラ基盤と、UXデザインによるサービス設計です。
そして、新たなビジネス創出を目指して、多くの企業がDX(デジタル・トランスフォーメーション)を通じて、変化に対する適応力を身に付けようとしています。
UXデザインのプロセス
UXデザインに用いられる思考法は、「デザイン思考」「リーンUX」「人間中心設計」「5段階モデル」など、多種多様なものがあります。
しかし、言葉こそは違うものの、いずれの思考法にも一定の共通点があります。それが「調査」「分析」「設計」「評価」の4項目です。今回はこの4つのプロセスでUXデザインを解説します。
調査
特定ユーザーの調査をもとに、仮説の発見や検証を行うための工程です。ユーザーが利用するプロダクトだけでなく、行動や感情にもフォーカスし、より多角的な視点で情報を収集していきます。「どのようなプロダクトを利用したいか」だけでなく、「何があれば利用したいか」「何がなければ利用を躊躇うのか」など、複数の視点でアプローチを行い、ユーザーの本質的な欲求や価値基準を理解することが重要です。
分析
調査で得た情報をもとに、ユーザーの行動原理を紐解き、価値観やニーズを理解するための工程です。ここで判明した要望に対して、カスタマージャーニーマップなどを用いて必要な体験シナリオを図式化し、その体験を実現するための要件を明確化していきます。
設計
必要な体験から導き出された要件をもとに、プロトタイプを設計・実装する工程です。プロダクト要件を満たすために必要な機能や方法を、ストーリーボードやLATCHなどを用いて分類・整理し、それらを設計に落とし込んでいきます。
評価
実装したプロダクトを実際にユーザーに体感してもらい、現状評価を知るための工程です。ユーザーテストを行う以外にも、質問調査や市場投入など、プロダクトを評価する選択肢は複数あります。
ユーザーのリアルな反応を知ることで、プロダクトの変更がどのくらい必要なのかを判断でき、新たなアイデアが生まれるきっかけにもなります。テストを通じてブラッシュアップを重ねていくことで、プロダクトがより良い状態へとアップデートされていくでしょう。
UXデザインの活用事例5選
ここではUXデザインの実践シチュエーションとして、4社の活用事例をご紹介します。
飲料メーカーの事例
A社がUXデザインを通じて取り組んだことは、スマホアプリを用いた自動販売機の店舗化です。
近年、コンビニやオンラインショッピングの普及に伴い、A社では自動販売機における役割の見直しが課題となっていました。これまでの自動販売機は存在するだけでドリンクが購入されていましたが、販売チャネルが多様化する現代においては、自動販売機での購買体験には独自性がありませんでした。
そこでA社は、専用のスマホアプリを自動販売機と接続し、ドリンクを購入することでスタンプが貯まる仕組みを構築し、ユーザーが獲得したスタンプ数に応じてドリンクチケットが発行するサービスを提供しました。
これにより、自動販売機でドリンクを購入することに独自の価値が生まれ、購買体験の再構築だけでなく、自動販売機の売上向上にも成功しています。
学習塾の事例
B社がUXデザインを通じて取り組んだことは、学習塾の体験価値の再定義です。
これまでの学習塾では、「成績を上げる」などのニーズが顕在化したユーザーを対象に、サービスを提供するスタイルが一般的でした。
しかし、学びという行動の多様化・複雑化によって、ユーザーが学習塾に求める価値は少しずつ変化しています。そのような状況下で、同社はニーズに対する一貫したサービスの提供に課題を抱えていました。
そこで同社は、アンケートやインタビューに加え、校舎や講座のエスノグラフィ調査の結果をもとに、カスタマージャーニーマップを作成し、ユーザーが求める潜在的なニーズを可視化しました。
また、顧客体験価値の実現に向けて、幅広いステークホルダーを招いてワークショップを開催して、多角的な視点でアイデアを収集しつつ、サービスブループリントでサービスの提供プロセスを見直すことで、コンセプトの刷新とオペレーションの改善を実現しています。
ユニフォーム企業の事例
C社がUXデザインを通じて作り上げたプロダクトは、自動採寸アプリです。
これまでの自動採寸は、あくまで服のサイズを測るという技術に限定されていました。しかし、その技術ではユーザーの認識違いやメーカーごとのサイズ感の相違などによって、ユーザーの体形にフィットするサイズを適切に提示することが難しいという課題がありました。
既存の技術を取り入れるだけでは、仮にユーザーが好みのユニフォームを見つけたとしても、サイズ違いで返品・交換の手間が発生する可能性は否めず、購買体験にも影響が出てしまいます。
そこで同社は、「自分自身の体形に合ったユニフォームを探す」というユーザーの行動原理をもとに、AIの画像認識を活用したアプリを共同開発しました。
このアプリによって、ユーザーの購買体験に付きまとうリスクを軽減するだけでなく、結果的に返品・交換に対応するスタッフの人件費や、生産コストの削減にも貢献しています。
住宅メーカーの事例
D社がUXデザインを通じて作り上げたプロダクトは、玄関ドアの自動開閉アプリです。
近年はバリアフリー化だけでなく、新型コロナウイルスの感染拡大による非接触が重要視されるようになりました。しかし、日本ではスライドドアの自動化が進む一方で、開くタイプとなるスイングドアの自動化が進んでいません。
一方、海外のホテルなどでは、ドアを開閉する専門スタッフが入口に立つ、あるいは自動ドアに変更しなければ法律に接触するため、ユーザーが自分自身の手でドアを開ける頻度が減少していました。つまり、海外ではドアの開閉が代理で行われることに対して、一定の価値があることになります。
D社はこのユーザー心理に着目し、玄関ドアの自動化に対するニーズを調査したうえで、アプリ開発に踏み切りました。このアプリを活用し、スマホやBluetoothレシーバーを活用したタッチレスな玄関ドアの開閉システムの実現に成功しています。
まとめ
本記事では、UXデザインの定義や必要性、主な実践プロセス、企業の活用事例をご紹介しました。
第四次産業革命の中で生まれたAI・IoTなどの高度なテクノロジーの存在や、新型コロナウイルス感染拡大などによる急激な社会構造の変化によって、ビジネスモデルを変革する重要度は日に日に高まっています。
特にコロナ禍に突入してから、国内でも多くの企業がDXを推進し、ITによるインフラ基盤を整え、既存ビジネスのデジタルサービス化に注力しています。そのデジタルサービスを設計するうえで、ユーザー体験にフォーカスしたUXデザインには、新規事業開発の突破口として期待が寄せられています。
ユーザーから求められるプロダクトを生み出すためにも、UXデザインを一度検討してみると良いでしょう。
この記事が気に入ったら「シェア」