ビジネス活用が進むブロックチェーン技術の動向
昨今、「ブロックチェーン技術の活用」について、あらゆる領域で注目を集めています。
そもそもブロックチェーン(blockchain)とは、複数のパソコン上で分散・自律しながら、データを自動共有する仕組みを指します。その有用性から、今後台頭することは理解しているものの、どのようにビジネスに活かせるかを知りたい方も多いのではないでしょうか。
当コラムは、ブロックチェーンの市場含む概要から、ブロックチェーンによって実現できること、実際の活用事例を知り、自社のビジネスに応用するきっかけを掴んでいただくことを目的としたコラムとなります。ブロックチェーンを活用した新たなビジネス創出のきっかけとして、お役立ていただければ幸いです。
ブロックチェーンの市場
経済産業省は、ブロックチェーン技術の展開が有望な事例とともに、その市場規模を資料として公表しています(※)。
当資料によると、ブロックチェーン技術によって与えられる影響は、以下5つのテーマで紹介されています。
- 価値の流通・ポイント化、プラットフォームのインフラ化
- 権利証明行為の非中央集権化の実現
- 遊休資産ゼロ・高効率シェアリングの実現
- オープン・高効率・高信頼なサプライチェーンの実現
- プロセス・取引の全自動化・効率化の実現
また、上記5つの市場規模合計は、67兆円にも上るとされています。
※出典:我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備(ブロックチェーン技術を利_したサービスに関する国内外動向調査/経済産業省)
ブロックチェーンの普及に向けて政府が動く
同資料では、ブロックチェーンの有用性から、「_間における社会実装を促進するため、実証事業の_援や、政府_らも実証していくことで広くブロックチェーン技術の有_性を周知する」としています。
ブロックチェーンは産業構造そのものを変える可能性を秘めているだけでなく、昨今のトレンドワードとなっている「Web3」の実現にも欠かせないことから、今後ブロックチェーンの普及に向けて、実験、行政ルールの変更や法改正などが行われることが予測されます。
ブロックチェーンとは
ブロックチェーン技術の仕組み
ブロックチェーンは、ビットコインの開発を筆頭として、一般にも広く周知されるようになりました。そのため、「送金システム」や「仮想通貨」などを連想する方も多いと思います。ただし、先述の通り、ブロックチェーンはあくまでもビットコインを提供するうえで活用された技術であり、データベースとして理解いただく方が賢明といえます。
ブロックチェーンの特徴
ブロックチェーンの最大の特徴は、システム管理者そのものが個々に分散していることにあります。参加者が自律して取引を管理していることから、以下のような強みを持ちます。
データの改ざんが困難
ブロックチェーンの仕組みとして、定期的に発生した取引を「ブロック」という塊にまとめます。各ブロックは「ハッシュ値」というものによって、チェーンのように関連付けられており、仮にひとつのブロック改ざんを試みようとすると、他すべてのブロックも「ハッシュ値」に整合性を取りながら変更しなければなりません。また、すべてのブロックを書き換えたとしても、新しいブロックを生成するには、多大な計算処理が必要です。この点から、ブロックチェーンの改ざんは大いに困難だといえます。
システムの安定性が高い
もうひとつ、各システムが分散していることで、システムダウンが起こりにくいというメリットがあります。各取引履歴が全体で共有されており、仮に参加者の誰かが何らかの理由でダウンしてしまっても、他参加者が記録を保持し続けるため、システム全体がダウンしにくい構造となっているのです。
ビジネスに応用されるブロックチェーン技術
ここからは、ブロックチェーンの技術発展によって、ビジネス上で実現できる事象をご紹介します。
スマートコントラクト(契約自動化)
スマートコントラクトとは、「契約の自動化」を指します。
ブロックチェーン以外にもスマートコントラクトの考え方は活用されていますが、ここでいうスマートコントラクトは、送金業務の自動化や分散型取引所、投票システムや国際貿易プラットフォームなど、金融領域を問わず、多様なビジネスに応用できます。また、ブロックチェーンの活用によって承認プロセスのシステム化などを実現することも可能です。当項目は、冒頭で紹介した、経産省が掲げたブロックチェーンによって影響を与えるテーマのうち「プロセス・取引の全自動化・効率化の実現」に該当します。
トレーサビリティ(履歴追跡)
トレーサビリティは「追跡可能性」と訳され、モノやサービスの流通経路から廃棄段階までを追跡できる状態のことを指します。
ブロックチェーンの特徴である「データ分散管理」によって、各工程や、市場に出回った後の製品の行先など、あらゆるシーンにおいてトレーサビリティが可能となります。さらに、履歴に残された情報を改ざんすることも困難なため、信用性の担保もひと役担います。このことから、トレーサビリティにおいても、ブロックチェーン技術の応用が進んでいます。
トークナイゼーション(トークン化)
ビジネス上におけるトークンは「暗号資産」や「仮想通貨」と同義として扱われます。
たとえば、土地や純金などの資産や、デザイン等の作品物、身近なモノであれば図書券や切符など、あらゆるモノの引渡請求権をトークン化することで、有形無形を問わず、インターネット上での取引を可能とします。ブロックチェーン技術は、こうした各トークンの価値を可視化し、管理するうえで活用されているのです
セルフソブリンアイデンティティ(自己主権型ID)
セルフソブリンアイデンティティ(SSI)は、デジタルアイデンティティ(デジタル化された属性情報)の管理を自らに取り戻すことを目指した動きを指します。デジタルアイデンティティは企業や政府等の運営するID基盤によって提供されていますが、個人情報が一か所に固まることで、データ流出等の問題が発生するリスクもあります。
SSIは、こうした問題を解決するために活用されています。ブロックチェーン技術に基づき、SSIは改ざんのないIDとして機能するのです。
ブロックチェーンの分類
ブロックチェーンには、いくつかの参加形態があります。それぞれについてご紹介します。
パブリック型
参加者全員で管理する種類のブロックチェーンです。暗号資産の多くが、当形態によって運用されています。管理・取引には誰でも参加することができ、管理者には通常報酬が与えられます。ただ、合意形成・取引には時間がかかるため、その点は難点ともいえます。
プライベート型
パブリック型と比較して、参加には管理者の承認が必要となる種類のブロックチェーンです。パブリック型では個人情報の公開先がフリー(参加者全員)となってしまうため、セキュリティ面に不安が残る一方、プライベート型では承認という形をとることで、公開先を限定できます。そのため、特に信頼性の高いブロックチェーンといえます。また、取引もスピーディに行える利点があるため、企業や金融機関からも注目されています。
コンソーシアム型
プライベート型の中でも、複数の組織で管理する形態をコンソーシアム型と呼びます。通常のプライベート型と他特徴は合致していますが、管理者が単体の組織か、複数の組織かで呼称が変化します。
ブロックチェーンの進化とビジネスへのつながり
ブロックチェーンは、ビジネスモデルの進化に伴い、別の名称がついています。名称の変遷とともに、活用されている領域についてご紹介します。
ブロックチェーン1.0:金融領域(仮想通貨)
ブロックチェーン1.0は、仮想通貨であるビットコインの中核技術として生み出された、最初のブロックチェーン技術です。紙幣や硬貨など、物質としてのみ成立していた「おカネ」の概念を、デジタル上で成立させた技術として、注目を浴びました。ブロックチェーンによって、世界中の誰もが、仮想通貨という概念を生み出すことができるようになったのです。
ブロックチェーン2.0:金融や法律分野に応用
その後、ビットコインの仕組みを金融・法律領域でも応用できないかと開発された技術が、ブロックチェーン2.0です。ブロックチェーン2.0は「おカネ」の概念に加えて、金融・法律の概念を組み込み、通貨以外の取引・権利も記録として管理できるようになりました。当技術によって、先述のスマートコントラクトを実現しました。
ブロックチェーン3.0:非金融分野×暗号資産領域における利用
金融や法律領域外でも活用することを目的として、生み出されたのがブロックチェーン3.0です。当技術によって、登記や特許等の公的な記録や、投票などにも適用できるようになりました。
なお、名称は数字の大きさによって区分されていますが、「数字が大きくなる=技術が優れている」という訳ではなく、それぞれによって得手不得手が存在します。
国内におけるビジネス分野の最新活用事例
教育分野の活用事例
初めに、教育分野における活用方法の一例をご紹介します。
ブロックチェーンでは先述の特性から、デジタル上で、個々の持つパーソナルな情報に資産としての価値を付与できる側面があります。そこで、今までは学校や塾に紐づいていた「学習・成績」のデータを個人に結びつけることで、多様な活用方法を見出すことが可能となります。
たとえば、ブロックチェーンを活用し、成績を情報資産として扱えるようになれば、学習履歴の改ざんが難しくなります。結果として、デジタル上でも成績証明書の真正性が確保されるため、受検者側は安全に成績証明書を管理することが可能となります。
加えて、ブロックチェーンでデータのアクセス権設定による公開範囲を設定すれば、個学校間での成績や日常の学習態度を、適切な関係者に限定し共有できます。ブロックチェーンによってセキュリティも担保されているため、信用性の高いデータとして共有し活用することが可能です。
また、APIとアプリケーションを連携すれば、直接ブロックチェーンを触らずともアクセスできるようになります。
自動車分野の活用事例
MaaSやスマートシティ等を筆頭とし、市場にはモビリティに関するワードが浸透しはじめています。これらを実現するために、多くの企業は「移動」にまつわるあらゆるデータを収集・蓄積し、活用しようと試みています。
例えば、自動車の走行距離を活用するうえで、ブロックチェーンは大いに役立ちます。走行距離を適切にデータとして計測し活用できれば、中古車の買い取りや、損害時の保険料算出などに活用の用途を見出せます。しかし、これらをセキュリティの観点なくデータとして扱った場合、データ削除や改ざんによって不正に利益を得ることも容易にしてしまいます。
そこで目を向けられたのが、ブロックチェーンの技術です。ブロックチェーンは「改ざんの履歴」が残るため、容易に改ざんできない特性があることをすでにご紹介しましたが、この特性を利用し、ブロックチェーン技術を組み込むことで、改ざんの事前防止を図ることが可能です。
また別の観点では、開発側として保有している知的財産権データを、デジタル上の資産として保管するうえでブロックチェーンに期待が高まっています。各ブロックチェーン間にタイプスタンプを残すことで、データの存在時期から存在している順序、改ざん履歴がないかを証明することが可能です。また、複数国のタイムスタンプを残せば、グローバルな環境下でも高い証明性を保てるようになります。
物流業界の活用事例
物流業界でも、品質や安全性、透明性担保を目的として、ブロックチェーンの技術活用が着目されています。
従来ではトラック内での管理情報、すなわち車内の温度や湿度、動態など、輸配送時の状況はトラックの空間のみでとどまっている情報であり、外部から把握・管理することが難しい状況でした。しかし、ブロックチェーンを活用すれば、これらのデータを一挙に確認・管理でき、外部の関係者も共同で確認できるようになります。
結果として、輸配送の状況をより透明度高く提示することが可能となり、信頼性の向上にもつながります。
また、輸配送以外にも、受発注・決済情報、所有権など、製造から顧客の手元に届くまでの情報も管理下に加えることで、サプライチェーン上で生じる情報を一元管理できる利便性を兼ねそろえることも可能です。
航空業界の活用事例
航空業界でも、実証実験としてブロックチェーンを活用したサービスが展開されています。
現在、渡航時には新型コロナウィルス検査の陰性証明書が必要となりました。証明書をデジタル化し、アプリ内に保持することで、非接触でスムーズに証明書を確認することが可能です。当技術によって、まん延状況から日々渡航要件が変動している中でもスムーズな渡航を実現しています。
この証明書の信頼性担保に活用されているのが、ブロックチェーン技術です。実証段階ではありますが、時代のニーズに即していることから、実用化された際の影響は大きなものとなるでしょう。
まとめ
「仮想通貨」からはじまったブロックチェーン技術。その盤石なセキュリティ性や、情報の透明性が高く評価され、今では有形資産を無形資産として変換したり、不透明だった一連の情報を可視化したりと、金融領域の他あらゆる領域において、大いにその価値を発揮しています。
加えて、AIやIoTなどの組み合わせによってさらなる価値発揮も期待されています。ブロックチェーンが元々備えているセキュリティの強固さに、Aiによる自動予測や、IoTによる複数デバイスデータの接続が加わることで、その用途がより広がることが想像できるのではないでしょうか。
また、昨今のトレンドワードとして挙がっている「Web3」実現の観点でも、ブロックチェーンは必要不可欠です。そもそも「Web3」とは、ブロックチェーン上で築かれるインターネットを指します。従来のインターネットでは、GAFAをはじめとする大手企業が、利用情報などのパーソナルな情報を独占的に把握している状態であり、プライバシーの観点や情報漏洩のリスクが高まっている点が指摘されていました。ブロックチェーンによる「Web3」は、こうした問題を解消できる手段であり、注目が高まっています。以上の経緯から、ブロックチェーンは今後ますます注目が高まる技術であり、新たなビジネスを生み出すうえでのヒントとなることは間違いありません。
また一部では、Web3推進が日本の経済成長を大きく成長させるポテンシャルを秘めていることから、政府も今までにかけていた規制や税制を改正するのではないか、との見解も出ており、今後もその動向には大いに注目すべきといえるでしょう。
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