新規事業の立ち上げに活用したいフレームワーク22選
将来的な持続的発展に向けて、新規事業の開発を目指す企業は多く存在します。しかし、開発において参考とすべき前例が少ない場合、新規事業を考えるうえで迷うことも少なくないでしょう。
当コラムは、このようなケースでも汎用的に活用できる「フレームワーク」をご紹介します。新規事業を生み出す上で、ぜひ参考としていただければ幸いです。
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新規事業の立ち上げにフレームワークを活用するメリット
フレームワークとは?
直訳すると「枠組み」となります。広義では、問題解決や意思決定を行うとき、その基盤となる特定の規則や構造、アイデア、テンプレートなどを指します。
当コラムで示す「フレームワーク」とは、新規事業を立案するうえで、一定の成功・失敗経験をもとに確立された「考え方のひな形」として理解いただくとよいでしょう。
フレームワークを活用するメリット
ゼロから新規事業を考えることと比較して、「生産性向上」「成功率向上」を図れます。
仮に知見ゼロの状態から新規事業を考えると、どのように進めればよいか分からず迷ったり、目途が立たないがゆえに如何様にも立案できるものの、その成功率については未知数だったりします。
一方フレームワークは、先人がゼロから新規事業を考えた経験・知見をもとに、一種のメソッドとして確立したものだと捉えられます。そのため、フレームワークを活用してアイデアを絞り込めば、ある程度新規事業をどのような方向性に導くべきかの指標にでき、かつ考えるときの迷いが減る分、工数の削減にもなり効率的に進めることができます。
新規事業開発の流れ
ここでは、新規事業を考えるステップの一例をご紹介します。
市場調査・分析
市場調査・分析は、どの市場で事業を展開すればより成功するか、他社と競り負けない土壌の目途をつけるために行います。
具体的には、「アンケート」や「インタビュー」などで市場ニーズを直接探る方法や、市場属性を洗い出すために「定量的なデータ」を収集する方法などがあります。
新規事業のアイデアを考える
市場調査で集めた情報をもとに、市場が抱える課題を探り、その課題を解決するためのアイデアを考えます。
この時は今までの慣習にとらわれず新しいアイデアが柔軟に生み出せるよう、一旦マネタイズ・規模の観点は除き、アイデアの数を多く出すことに専念しましょう。
またあわせて、この段階では企業側がやりたいことに意識が偏りやすいため、顧客目線(本当にそのアイデアは、顧客が必要とする・欲しがるアイデアか?)に立つことも忘れずに行いましょう。
事業内容・ビジネスモデルの構築
仮のアイデアをたくさん発案した後は、どのアイデアが事業化できるかを考えます。
アイデアが市場ニーズに沿っているか、競合優位性は確立されているか、収益性・実現性(コストや技術力など、実現可能なリソースは用意できるか)を念頭に考えていきましょう。
また可能であれば、事業化する前にプロトタイプ(試作)として、実際の顧客となりえる対象者に、アイデアについての印象をヒアリングしてみるのもひとつの手です。
結果として、十分な事業化が実現できそうであれば、事業計画へ落とし込みます。
修正・改善の実行
事業計画の決裁が取れたら、新規事業の本格的なリリースに向けて施策を打ちます。
ただし、事業をリリースして終わりではありません。実際に新規事業に対する反応を見て、市場の声が想定と異なっていたり、反響が得られなかったりするケースもあります。
常に市場動向をチェックしながら、事業をブラッシュアップし続けることが大切です。
市場調査・分析に役立つフレームワーク
以下からは、先述の「ステップ」ごとに、活用できるフレームワークをご紹介します。
PEST分析
対象となる市場環境が、自社事業にどのような影響を与えるかを分析するためのフレームワークです。「PEST」とは、以下4つのワードの頭文字であり、それぞれについて調べることで、市場環境や影響を把握できます。
- Political(政治的視点)
- Economical(経済的視点)
- Social(社会的視点)
- Technological(技術的視点)
市場分析にあたって、自社内では掌握できない「マクロ環境」を把握することは非常に大切です。PEST分析のフレームワークは、この「マクロ環境」を把握することを目的として活用します。
3C分析
3C分析も、対象となる市場の中で、自社を取り巻く外部環境を把握するためのフレームワークとなります。3Cの「C」はそれぞれ、以下3つのワードの頭文字です。
- Customer(市場・顧客)
- Competitor(競合)
- Company(自社)
3C分析では、事実や定量的な情報をベースに、市場顧客の環境や属性、考えられる競合、自社の強み・弱みを抽出し、事業に与える影響や、各「C」の相関性、自社の立ち位置などを分析します。
SWOT分析
外部環境と内部環境の「プラス面」と「マイナス面」をそれぞれ洗い出すフレームワークです。「SWOT」はそれぞれ、以下4つのワードの頭文字です。
- Strength(強み/内部環境のプラス面)
- Weakness(弱み/内部環境のマイナス面)
- Opportunity(機会/外部環境のプラス面)
- Threat(脅威/外部環境のマイナス面)
SWOT分析は、外部環境の変化が流動的であるとき、とくに価値を発揮します。3C分析では環境を構成する要素に対して分析を行うため、大きく環境が変化した時、分析効果が意味をなさないという側面があります。SWOT分析では、自社視点から外部環境との相関性を分析するため、流動的な環境でも活用しやすい側面があります。
ポジショニングマップ
自社の強み・弱みから、他社との差別化ポイント・立ち位置を洗い出すフレームワークです。
「価格」「機能性」「デザイン性」など、市場での成功に必要となりそうな要素を2つピックアップし、それぞれを縦軸と横軸として設定します(関数グラフの「座標軸」を思い浮かべると、完成図がイメージしやすいでしょう)。
その後、競合と予測できる既存企業がマップのどの位置に設置されそうか、先述のフレームワーク(PEST分析や3C分析、SWOT分析など)やリサーチによって推定し、マッピングします。競合他社を複数置くことで、自社事業がどのあたりの要素を備えれば市場に評価されやすいかが可視化され、戦略を考えやすくなります(競合他社が周りに少ない位置=ブルーオーシャン)。
VRIO分析
事業を構成する自社の経営資源について、価値や競合優位性を洗い出すフレームワークです。「VRIO」はそれぞれ、以下4つのワードの頭文字です。
- Value(経済価値)
- Rareness(希少性)
- Imitability(模倣可能性)
- Organization(組織体制)
4つの要素は事業を成功させるうえで必要不可欠と言われており、どれかひとつでもかけている場合、「不足している事象をどう補填するか」を検討すべき状態だといえます。
アドバンテージ・マトリックス
事業や、展開を検討している業界の競争環境を分析する手法です。競合要因と優位性、それぞれ大小を基準に、「特化型事業」「規模型事業」「分散型事業」「手詰まり型事業」の4タイプの内、自社がどのタイプに分類されるかを確認します。属する事業・業界のタイプによって、とるべき戦略の方向性を洗い出すことが可能です。
STP分析
市場顧客の細分化から、狙うべき顧客の選定、自社の立ち位置を複合的に把握・判断するフレームワークです。「STP」はそれぞれ、以下3つのワードの頭文字です。
- Segmentation(市場顧客の分類)
- Targeting(顧客の選定)
- Positioning(自社の立ち位置)
今までにご紹介したフレームワークを活用し分析していると、おのずと「STP」それぞれの要素が可視化されていることでしょう。STP分析で改めて総合的に自社の環境を整理することで、次項のフレームワークをより有意義に活用できます。
新規事業のアイデアを考えるのに役立つフレームワーク
SCAMPER(スキャンパー)
思いついたアイデアを有用的に広げるためのフレームワークです。「SCAMPER」はそれぞれ、以下7つのワードの頭文字です。
- Substitute(代替性/他のもので置き換えられないか?)
- Combine(結合性/他のものを組み合わせてみるとどうか?)
- Adapt(応用性/過去のアイデアを活用してみるとどうか?)
- Modify(修正通/構成する要素を一部変えてみるとどうか?)
- Put to other uses(転用性/他の用途はどうか?)
- Eliminate(削減/製品から取り除けるものはないか?)
- Reverse・Rearrange(逆転性・再編成/反対にしてみたり、並べ替えてみるとどうか?)
上記の7項目を、アイデアと接続し試してみることで、思いがけない新たなアイデアが生まれるかもしれません。当フレームワークは、アイデアの「量」を生み出すうえで、非常に有用的といえます。
マンダラート
「マンダラート」も、発想を広げるためのフレームワークです。はじめに3×3の9つのマスを書き、真ん中のマスにテーマを記入します。その後、テーマに関するアイデアを周囲に書き込み、発想を拡大します。
さらに拡大したい時は、周囲に書き込んだ8つのテーマを軸に、別のマンダラートを作成してみるのもよい打ち手です。この場合、計72のアイデアを生み出せます。
ペルソナキャンバス
ペルソナとは、志向性やライフスタイルなど細かな設定を加え、リアリティを持たせた架空の人物像のことです。新規事業の顧客を考えるうえで、ペルソナを考えることは必要不可欠ですが、その時に活用できるフレームワークとなります。
ペルソナの「願望」や、受けている「制約」など、ペルソナを取り巻いていると想定される項目を埋める形で制作します。単なる属性に留まらず、ペルソナのニーズも踏まえて微細に人物像を描ける点が特徴的です。
カスタマージャーニー
カスタマージャーニーとは、購買前から購買後まで、顧客体験を視覚化するフレームワークです。
カスタマージャーニーは、顧客視点での体験と、自社視点での体験、2軸から顧客体験を微細に洗い出して作成し、事業の方向性や戦略の打ち出しを検討します。
カスタマージャーニーを検討するうえでは、先述で検討した「ペルソナ」が大いに役立ちます。ペルソナの視点で、どのような体験が生まれるかを考え作成しましょう。
事業内容・ビジネスモデルの構築に役立つフレームワーク
ビジネスモデル・キャンバス
事業を構成する要素を可視化し、事業の全体像や各要素の関係性を把握するためのフレームワークです。以下9つの要素を、手順に沿って埋めていきます。
- 顧客
- 価値提案
- チャネル
- 顧客との関係
- 収入
- キーリソース
- 主要活動
- キーパートナー
- コスト
当フレームワークは、新規事業立案のシーンだけでなく、既存事業の改善でも活用できます。
9セルフレームワーク
3×3の計9セルを表として作成し、ビジネスモデル構造を可視化するフレームワークです。
縦軸に「Who」「What」「How」のビジネスコンセプトを3枠、横軸に「顧客価値」「利益」「プロセス」の要素を3枠設定し、両社が交わるセルをそれぞれ記入します。
当フレームワークも、事業の基礎概要を把握するうえで役立ちます。
4P分析
企業側の視点から、どのように事業を提供していくか、販促のための戦略を考えるフレームワークです。「4P」はそれぞれ、以下4つのワードの頭文字です。
- Product(商品・サービスの価値)
- Price(価格)
- Place(販売場所)
- Promotion(販促手法)
自社の立ち位置を明確にした後、その立ち位置に沿って各項目を記入し、他企業との差別化が図れているかを確認します。
4C分析
顧客側の視点からどのように事業を提供していくか、販促のための戦略を考えるフレームワークです。「4C」はそれぞれ、以下4つのワードの頭文字です。
- 価値(Customer Value)
- コスト(Cost)
- 利便性(Convenience)
- コミュニケーション(Communication)
「4C」と類似していますが、双方は視点が企業か顧客かで相違しており、各項目はそれぞれ先ほどの「4C」と対になっていることがお分かりいただけるかと思います。
「4P」のみで事業をとらえると、企業からの一方的な思惑に留まってしまうため、顧客から見たときにニーズを満たしていない事態に陥りやすくなります。顧客視点での「4C」を「4P」と織り交ぜ検討することで、より確度高く、戦略を描けるようになるのです。
5フォース分析
自社を取り巻く脅威の要素から、事業環境を分析・考察するためのフレームワークです。5つの脅威は、以下要素が挙げられます。
- 業界内の競争状態
- 業界への新規参入者
- 売り手の交渉力
- 買い手の交渉力
- 代替品の脅威
5つの要素を「十」の字を書くように並べます。センターに「業界内の競争状態」を設置し、その左右に「売り手・買い手の交渉力」、センターの上下には「新規参入者・代替品の脅威」を設置することで、5つの要素の対比構造を可視化できます。センターから見て左右は「業界における力関係」を表し、利益のあげやすさを把握する軸となります。上下は「業界の収益性」を表し、自社の取り分をどの程度確保できるかを把握する軸となります。
計画の実行と改善に使うフレームワーク
MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)
事業で実現したい世界観やありたい姿、方向性を可視化するフレームワークです。
「ミッション・ビジョン・バリュー」の名の通り、以下3つの要素で構成されています。
- Mission(使命/事業が成し遂げるべきこと)
- Value(価値/事業が提供する価値)
- Vision(理想/事業が目指す理想のあり方)
事業推進時にプロジェクトメンバーへ提示することで、事業をどのように進めるべきかの指標となり、モチベーションの向上や問題発生時の判断軸として活用できます。
PLCサイクル
今後の市場を予測するうえで、分析参考とするためのフレームワークです。
製品や市場における成長から衰退までの一連は、「導入期」「成長期」「成熟期」「衰退期」の4つで表せます。
既存で成功した製品や市場について、各フェーズに何があったかを可視化することで、どのような施策を経て成功したのか、あるいはどのような経緯で衰退したのかを把握できます。
直接自社の新規事業予測に活用する場合、よほど精密な市場分析を行わないと予測は難しいですが、既存事業や他社事業の成功・失敗の要素を把握するうえでは活用しやすいフレームワークといえるでしょう。
ECRS
生産性など、事業推進における業務効率化を図るためのフレームワークです。「ECRS」はそれぞれ、以下4つのワードの頭文字です。
- Eliminate(排除)
- Combine(結合と分離)
- Rearrange(入替えと代替)
- Simplify(簡素化)
事業運営における状況と、各ワードを照らし合わせることで、現状の課題点に対する解決策を洗い出すことが可能となります。
バリューチェーン分析
事業のコストや、価値(強み・弱み)を把握するためのフレームワークです。バリューチェーンを構成する要素は、大きく分けて以下2つに分類でき、それぞれを構成する要素は計9つです。
- 主活動…購買物流、製造、出荷物流、販売・マーケティング、サービス
- 支援活動…全般管理、人事・労務管理、技術開発、調達活動
どのプロセスで、どのような価値が生み出されているかを洗い出すことで、事業の訴求点を把握できます。
PDCA
事業の品質向上を図るフレームワークです。「PDCA」はそれぞれ、以下4つのワードの頭文字です。
- Plan(計画)
- Do(実行)
- Check(測定・評価)
- Action(対策・改善)
当フレームワークは、継続的に活用することが前提です。すなわち、「Plan」から「Action」を検討して終わるのではなく、「Action」から次の「Plan」を立て、継続的に活用することで、はじめてポテンシャルを発揮します。
AARRR
サービスの成長段階を可視化するフレームワークです。「AARRR」はそれぞれ、以下4つのワードの頭文字です。
- Acquisition(獲得/顧客の獲得導線)
- Activation(活性化/顧客が好ましい体験を得ているか)
- Retention(継続/顧客が継続利用しているか)
- Referral(紹介/顧客が周りに勧めているか)
- Revenue(収益/顧客の行動がマネタイズされているか)
こちらもPLCサイクル同様、事業の成功・失敗要因を洗い出すうえで利便性の高いフレームワークです。また、当フレームワークを新規事業の成長予測に活用する場合は、なるべく定量的なデータで可視化することが求められます。
まとめ
新規事業を立案するフェーズから運用・改善に至るまで、各ステップで有効的なフレームワークをご紹介しました。
なお、はじめて事業を検討する際、いきなりすべてを網羅して活用することは大変だと思いますので、まずはスモールステップから活用してみることを推奨します。
たとえば、まずは身近な業務などでフレームワークを活用することで、生産性が改善されるかもしれませんし、事業立案に必要な経営的視点も着実に身に着けられるでしょう。少しずつ慣らしながら、事業の開発・推進に向けて、うまくフレームワークを活用していただければ幸いです。
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