営業戦略の立て方と進め方の具体例、分析に役立つフレームワークを解説
企業の業績の向上には、中長期的な営業戦略が必要です。そして、効果的な営業戦略を立てるには、戦略の立て方を把握するだけでなく、適切な進め方で実践する必要があります。
当コラムでは、営業戦略の概要と営業戦術の違い、営業戦略の立て方、効果的な進め方を解説し、さらに営業戦略に役立つ分析方法やフレームワークも紹介します。
営業戦略とは
営業戦略の目的を踏まえ、営業戦略と営業戦術の違いを把握しましょう。
営業目標達成のための方針・計画
営業戦略とは、営業目標を達成するために必要とされる中長期的な方針、営業活動の計画を指します。
企業の売上の向上には、時間や人員など限られたリソースを最大限に活用しなければなりません。どのターゲットにどの製品を売るかなど、目標達成に向けた方針となるのが、営業戦略です。
営業戦術との違い
営業戦略とともに使われるケースの多い言葉として「営業戦術」があります。営業戦術とは、営業戦略の達成に向けておこなわれる具体的なアクションや施策のことです。営業戦略は売上目標達成のための計画、営業戦術は営業戦略達成のための施策という違いがあります。
たとえば「売上を前年比10%増やす」という目標は営業戦略です。その達成に向けて、シェア拡大のためにより具体的な施策を立てるのが営業戦術です。
このように、営業戦略と営業戦術は密接な関係にあります。
営業戦略の立て方
営業戦略の立案は、以下の手順でおこないましょう。
目標を設定する
先述の通り、営業戦略は営業目標を達成するための方針・計画です。そのため、まずは中長期的な目標を設定する必要があります。
目標は、具体的な数値を用いて設定することが大切です。たとえば「○か月後までに契約数を○件にする」「一年後には売上を前年対比○%にする」などのように、進捗を定量的に確認できると良いでしょう。
市場調査・競合の分析
営業戦略を立てる前は、商材の市場調査、競合他社の経営戦略の分析、さらに顧客の環境や動きなどの分析が必要です。市場や顧客の状況を調査・分析すると、どのような戦略をとると良いかが明確になります。
市場調査では、自社商材の市場が競争のないブルーオーシャンか、競合の多いレッドオーシャンかを確認しましょう。どちらに該当するかで、必要な施策が変わります。また、営業戦略の方針を定めるために、市場の動きも合わせて調査してください。
競合他社の分析では、自社商材と他社商材の価格や強み、他社がどのような戦略で顧客を獲得しているのか、シェア率などを分析します。ただし、自社商材の競合先を決めるのは、購入を検討する顧客です。そのため、顧客の購買行動も分析すると、営業戦略のシナリオが練りやすくなるでしょう。
営業活動の現状把握
営業活動の現状把握では、営業状況を数値化した定量的な分析と、顧客目線の定性的な分析をおこないます。
営業状況を数値化した定量的な分析とは、営業活動の仕事量を集計して工数などを数値化することです。たとえば、電話・訪問の回数や所要時間、1社や1日あたりにかける営業時間、営業コスト、売上額などを数値化します。
営業状況を数値化したら、分析に取りかかりましょう。分析結果から営業の強みや改善点を把握でき、営業の実力が明らかになります。
一方、顧客目線の定性的な分析は、顧客との会話内容や対応、クレームなどが対象です。顧客目線での意見収集に加え、営業がどのような商談をおこなっているかを把握・分析します。
営業活動における課題の明確化
市場の環境と営業状況の分析結果をもとに、営業課題を洗い出します。市場の環境とは、企業の力では解決できない社会情勢も含まれます。
ターゲットとなる顧客の増減に合わせて適した営業ができているか、顧客のニーズを満たしているか、営業プロセスが効率化できているかなど、多角的な視点で課題を洗い出してください。
コアコンピタンスの把握
コアコンピタンスとは、他社には真似できない、自社だけがもつ強み・特色という意味合いで使われる言葉です。営業戦略を練る際は、他社との差別化を図るべくコアコンピタンスにもとづいて立案します。
コアコンピタンスを把握することで自社の強みを活かす営業戦略が明確になり、市場で優位な状況を作れます。
営業戦略の進め方の具体例
次は、営業戦略の進め方について確認しましょう。
1.戦略を具体的な戦術に落とし込む
営業戦略を実現するために、具体的な戦術を立てます。中長期的な営業目標に合う、実行可能な戦術を決めましょう。
そのために、まずはどのようなことに注力するのか方向性を定めます。営業目標を達成する方法は一つではないので、たとえば「新規顧客獲得に重点を置くプランに変更する」「失注案件をもとに営業プロセスを改善する」など、どの方向に力を入れるかを定めていきましょう。
繰り返しになりますが、営業戦略と営業戦術は密接な関係にあります。戦術が不明確だと、準備が不十分な状態で営業戦略を進めることになるので注意しましょう。
2.KPIを設定する
KPIとは「Key Performance Indicator」の略で、重要業績評価指標を意味します。目標の達成度を評価する指標であり、現在の営業状況を把握し、今後の予測を立てる際に用いられます。
営業目標の達成には複数の要素が絡むため、要素ごとにKPIを設定すると、全体の進捗状況の把握と管理が可能になります。KPIを設定する代表的な要素には、売上達成率、新規獲得顧客数、見込み顧客獲得数などがあります。
主要なKPIの設定後は、データを追うだけでなくKPIの進捗の可視化も必要です。KPIが可視化できたら、PDCAサイクルに沿って戦術の評価・改善をおこないましょう。設定したKPIと実際の数値にズレが生じたら、営業目標の修正や戦術の見直しが必要です。
3.見込み客を育成する
見込み客を獲得するために、自社製品の認知や興味付けをおこないます。自社製品について深く知らない見込み客は意外に多いため、その前提で念入りに対応策を練りましょう。同時に、見込み客のリストアップもおこなっておくのがおすすめです。
4.実際に売り込みをする
ターゲットとなる見込み客に対してクロージングし、自社製品やサービスを実際に売り込みます。クロージングの成功には、見込み客のニーズや悩みの解消を意識した提案が必要です。
また、見込み客への売り込みだけでなく、顧客維持の施策も欠かせません。単なる顧客からリピーターになると、製品の感想・使用感をヒアリングできる対象になります。さらに、自社製品を再び購入してもらえる可能性も高まります。
5.効果を検証する
営業戦略は立てたら終わりではなく、効果検証と定期的な戦略の見直しが不可欠です。KPIの進捗確認と同時に、PDCAサイクルを回して効果検証をおこないましょう。
市場や競合他社の状況など、自社を取り巻く環境は流動的です。他社に後れを取れば自社の存続に影響が及ぶ可能性もあります。そのため、PDCAサイクルをこまめに回して問題を早期発見し、必要に応じて営業戦略・戦術を改善してください。
営業戦略に役立つ分析方法・フレームワーク
営業戦略を立てる際に有用な、代表的な分析方法・フレームワークを紹介します。
3C分析
3C分析とは、Customer(市場・顧客)、Competitor(競合相手)、Company(自社)の3つのCを分析し、事業計画やマーケティング戦略を導き出す方法です。
市場や顧客については、市場規模や市場の成長性、顧客ニーズなどを分析し、ターゲット層を明確にします。競合相手については、事業規模、製品やサービス、獲得シェア、強み、弱み、自社との違いなどを分析しましょう。自社については、売上や市場シェアなどの強みを分析し、その結果をもとに自社が打つべき施策や戦略を立案します。
3C分析をおこなえば、客観的な視点で自社の状況を分析し、顧客のニーズを把握したうえで、自社の強みを活かす営業戦略が考えやすくなります。
SWOT分析
SWOT分析とは、自社や自社製品の強み・弱みなどの内的要因、市場の動きや競合に関する機会・脅威などの外的要因を、プラス面とマイナス面に分けて分析する方法です。
SWOTとは「強み・弱み・機会・脅威」の英語から頭文字を取ったもので、以下の要素が該当します。
- Strength(強み/内的要因):自社の知名度、価格、品質、ブランドとしての魅力
- Weakness(弱み/内的要因):他社と比較した際の自社の弱点や欠点
- Opportunity(機会/外的要因): 市場の拡大、競争優位、法律による制限緩和など
- Treat(脅威/外的要因):市場の縮小、競争激化、法律による制限強化など
4つの要素をかけ合わせて分析することで、確度の高い戦略立案が可能です。また、内的要因と外的要因に分けることで、事業のセーフラインとリスクラインが把握できるようになります。
4P分析
4P分析とは、Product(製品)、Price(価格)、Place(流通)、Promotion(プロモーション)の項目を他社と比較し、自社の強みと弱みを分析する方法です。各項目で分析する内容は次の通りです。
- Product(製品):他社製品と比較して、ターゲット顧客のニーズに沿っているか、アフターサービスは充実しているか、デザインが優れているか
- Price(価格):適正な価格か、他社とどれほどの価格差があるか
- Place(流通):店舗の立地はターゲット層に合っているか、他社と店舗数の差があるか
- Promotion(プロモーション):市場に認知される販促方法か、ターゲット顧客の購買意欲を生むかどうか
4P分析によって企業目線で自社の強みと弱みが把握できるため、ターゲット層に届く施策を検討できるでしょう。
MECE
MECE(ミーシー)とは、Mutually(相互)、Exclusive(重複しない)、Collectively(全体)、Exhaustive(漏れなく)の頭文字からなる言葉です。営業戦略を立てる際に、漏れや重複がなく、わかりやすい状態にする考え方を表します。
解決したい営業課題の規模が大きく、かつ複雑な要素が絡んでいる場合、その状態のまま解決策を練るのは困難です。MECEを活用すると、課題を細かく分解でき、最適な解決策を考えやすくなります。
また、営業戦略で新規顧客の開拓に取り組む際は、MECEで分解するとリソースを効率良く活用できます。
ランチェスター戦略
ランチェスター戦略とは、弱者と強者の視点から分析をおこなうことで、自社に適した戦略立案を可能にする方法です。
もとは戦争の戦略立案に用いられ「弱者の戦略」とも呼ばれていました。ビジネスにおいては、業界のシェア2位以下の企業が上位企業に迫る際の分析方法として用いられています。
ランチェスター戦略は、一騎打ちや接近戦を想定した「第一法則」と、広域戦の「第二法則」で構成されます。第一法則の戦闘力は「武器効率×兵力数」、第二法則は「武器効率×兵力数の二乗」で計算します。
シェア1位の企業になるには、開発力や資金力、人材などの経営資源が必要です。しかし、一騎打ちのような限られた市場であれば、質を高めていくことでトップシェアになれる可能性があります。
ランチェスター戦略は、特に中小企業に有効とされています。
パレートの法則
パレートの法則とは「80:20の法則」とも呼ばれ、経済統計から発見されました。全体の数値のうち、2割の要素が8割を生み出すとされる法則です。企業の利益の例として、「全体のうち2割のリピーターによって、売上の8割が作られている」といったものが挙げられます。
パレートの法則は、リソースの配分を効果的におこなうために活用できます。たとえば、売上貢献度が高い既存顧客の2割にリソースを集中し関係強化を図ることで、既存顧客のすべてにアプローチした場合と比較して、効率良く営業活動ができます。
ただし、残りの8割をないがしろにして良いというわけではありません。注意が必要です。
まとめ
企業の売上向上のために営業戦略を立てるには、市場や競合の調査、営業活動の現状把握、営業課題の明確化、コアコンピタンスの把握などが必要です。
営業戦略を立てたら、KPIの設定や見込み客の獲得、クロージング、効果検証をおこないます。ただ、営業戦略は一度立てたら終わりではないため、PDCAサイクルを回して、営業戦略の効果検証と定期的な戦略の見直しを繰り返してください。
さまざまな分析方法やフレームワークを活用し、自社の強みや弱み、顧客ニーズに合わせた営業戦略を立てましょう。
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