なぜなぜ分析とは?正しいやり方で業務効率アップを目指す
なぜなぜ分析は、問題の根本原因を究明する分析手法の一つです。起こった問題に対して「なぜ?」を繰り返すことで根本的な原因を明らかにし、解決策や改善策の提示、再発防止などに活用します。
組織や部署を統括する人のなかには、現場のミスやトラブルによる生産性の低下に悩んでいる人もいるでしょう。なぜなぜ分析を活用すると、業務効率の改善や生産性の向上が実現する可能性があります。
本記事では、なぜなぜ分析を行なう際の正しい手順や注意するポイント、活用事例などを解説します。
「なぜなぜ分析」とは
なぜなぜ分析とは、問題が起こった際にその根本原因を究明するための分析方法です
具体的には、起こってしまったミスやトラブルに対し、複数回にわたって「なぜ?」と問いかけていきます。表面的には見つかりにくい根本原因を明らかにするため、解決策の提示や再発防止に有効とされています。
なぜなぜ分析はトヨタが発案
なぜなぜ分析は、トヨタ自動車が確立した「トヨタ生産方式」に含まれます。トヨタ生産方式の基本思想は、業務の無駄をなくし生産効率を向上させることです。なぜなぜ分析もその一つとして、製造業をはじめさまざまな現場で活用され、成果を上げています。
なぜなぜ分析で得られる効果
なぜなぜ分析の実施による効果は、次のようなものがあります。
まず、根本原因の特定と解決策の模索が挙げられます。繰り返し「なぜ?」を問い続けることで根本的な原因を明らかにすることができるため、一時的ではない恒久的な解決策や、再発防止策に至ることができます。
また、なぜなぜ分析は、分析の過程や結果が可視化されるため、初めての人でも簡単に取り組むことができます。結果が明らかになることで、組織内の業務プロセスへの理解が深まります。これは従業員の問題解決能力の向上にもつながり、現場環境の改善や業務効率の向上に役立ちます。
なぜなぜ分析の正しいやり方とポイント
続いて、なぜなぜ分析のやり方について、重要なポイントも含めて解説していきます。なお、なぜなぜ分析は個人でも行うことができますが、組織で行なう際には複数人での実施が推奨されています。
1:問題を具体的に設定する
なぜなぜ分析に着手するにあたっては、まず問題の設定が不可欠です。重要なポイントは、具体的に設定することです。
例えば、業績が下がっているという問題の原因を分析したい場合、「業績が下がったのはなぜか」という漠然とした問題の設定では、答えも曖昧になりがちです。そこで、「いつ(〇月〇日)と比較して●%下がったのはなぜか?」など、日時や数字を詳細に設定します。
他にも、納期の遅れが発生した件を分析したいのであれば、「〇日で約束をしていたのに、〇日遅れたのはなぜか?」と設定します。問題の設定が具体的であるほど、解決策の方向性が明確になります。
2:なぜ?を5回繰り返す
続いて、設定した問題に対し、「なぜ?」を用いて分析を行ないます。具体的には、前の答えに続けて「なぜ?」と問い続けていきましょう。例えば「不良品を出荷してしまった」という問題を分析したいのであれば、「不良品を出荷してしまったのはなぜ?→検査で見落としがあったから→見落としがあったのはなぜ?」と質問を続けながら問題を掘り下げていくイメージです。
なぜなぜ分析では、一般的に「なぜ?」を5回繰り返します。ただし、この数字はあくまでも目安であり、明確な原因がわかるまで行なうとよいでしょう。
また、「なぜ?」に対して複数の原因が考えられる可能性もあります。上記の例でいえば、「不良品を出荷してしまったのはなぜ?→検査で見落としがあったうえに、最終確認を怠っていたから」となります。この場合、「検査で見落としがあったから」と「最終確認を怠っていたから」に問題を枝分かれさせ、それぞれに対してさらに「なぜ?」と問いかけます。
3:問題の原因を明確にする
「なぜ?」を繰り返すことで、根本原因を明らかにします。なぜなぜ分析は個人の責任を追及するのではなく、問題の根本的な原因を明らかにするための手法です。問題の原因を掘り下げていく際には、組織全体に着目することを心がけましょう。
個人に焦点を当ててしまうと、感情や推測で分析をしがちになり、根本原因にたどり着けないからです。
仮に個人のミスに思える問題であっても、組織の仕組みやプロセスを意識して分析を行なうことで、組織としての解決策が見えてきます。
4:解決策を導き出す
根本原因が明確になったところで、解決策を立てます。具体的には以下の方法が有効です。
- 設定した問題に関係する情報を集める
- 専門家に意見を求める
- 複数の解決策を提示する
解決策の例としては、「生産ラインの設備の改装」など費用がかかるものから、「作業工程を変える」といったシステムの変更などが挙げられます。このように複数の解決策を提示したうえで、それぞれの効果やメリット・デメリットを評価し、適切な解決策を選ぶようにします。
5:解決策は実行可能なものかチェックする
解決策の実行には、予算や人員など現場の資源も必要です。そのため、解決策の設定には現場での実行可能性も十分に検討しましょう。実行不可能な提案をしてしまった場合、時間やコストの無駄になるだけでなく、現場の作業停止のリスクが生じます。
解決策を実行したあとは、本当に問題が解決できたかを確認します。費用対効果や将来的な見通しも含め、検証を行なうとよいでしょう。あらかじめ指標を設けておくと、解決策の有効性が判断しやすくなります。
なぜなぜ分析を行なう際の3つの注意点
なぜなぜ分析を行う際に不備があると、原因の究明もうまくいきません。ここでは、なぜなぜ分析を行なう際の注意点を3つ解説します。
個人に焦点をあてない
「なぜ?」を繰り返す過程で、個人に過度にフォーカスしないよう気を付けましょう。
例えば「不良品を出荷してしまった」という問題に対して、「誰が」に重点を置いてしまうと、その当事者だけが「なぜ?」と問われるようになります。たとえ「〇〇さんがマニュアルを熟知していなかったから」という原因が見つかったとしても、別の誰かが同じミスを起こすリスクは排除できません。
また、一見すると個人のミスであっても、実は組織としての問題が隠れていることもあります。なぜなぜ分析は、担当者も気付けなかった職場の欠陥を発見し、改善できるという特徴があります。そのため、個人ではなく組織の仕組みやプロセスに問題がある可能性を視野に入れ、「なぜ?」と問いかけていくことが重要です。
具体的に分析する
先述でもお伝えしたように、一般的に「なぜ?」の繰り返しは5回とされていますが、回数には目安で必ずしも規定はなく、重要なのは根本原因を明らかにすることです。
その際の注意点として、「なぜ?」の回答に複数の原因をまとめて含めないようにしましょう。例えば「なぜ遅配が起こったのか?」に対して「配送に時間がかかったから」という回答は、適切ではありません。この回答では、配送にかかった時間の原因が複数含まれており、問題の所在が明確でなく、次の「なぜ」も曖昧になります。
このような場合は、「準備に〇時間かかったから」「〇〇部門での対応に時間がかかったから」など問題を枝分かれさせて考えると、明確な原因を見つけやすくなります。原因自体は複数になっても問題ないため、枝分かれさせた一つずつに対して「なぜ?」を実施しましょう。
問題の設定を曖昧にしない
問題の設定を曖昧にしないことも、注意すべき点です。
悪い例を挙げてみましょう。例えば「現場の生産率が上がらない」だけだと、生産率の低下による影響が理解しにくく、具体的な答えも得られません。その場合、「どの部門のどの工程で作業遅れが発生しやすく、数ヵ月に一度は納期遅れがあるか」など、問題の所在を明確にするとよいでしょう。
問題の設定を曖昧にしないためには、現場で起きている事実の把握も重要です。例えば、配達の遅れがあった場合、いつ、どこで、どのくらいの遅れが発生したのか、関与していた従業員は誰かなど、詳細なデータを事前に収集しておきます。
このように全体像を把握しつつも、分析の際には問題を全体化しないよう注意が必要です。なぜなぜ分析は、個々の内容に焦点をあてて進めることで、適切な解決策や改善策の発見につながりやすくなります。
【活用事例】さまざまな場面で活用されているなぜなぜ分析
最後に、なぜなぜ分析の活用事例を紹介します。
一般事務での事例
自治体の事務業務における事例です。給付金の手続きにおいて、支給遅延が発生しました。なぜなぜ分析による結果は以下のとおりです。
なぜ1 | なぜ2 | なぜ3 | なぜ4 | 根本原因の特定 |
担当者が支払処理をしていなかった | 担当者がシステム以外の支払い方法を理解していなかった | 担当者は、上司から支払方法の詳細を説明されていなかった | 担当者が支払方法のマニュアルを理解しているかについて、上司からの確認がなかった | 上司から部下の適切な指示や確認の不足 |
上司が支払い完了の確認をしていなかった | 上司は振り込み実施予定日を指示しており、支払いが完了していると思い込んでいた | 支払処理に対する管理体制が整っておらず、係内で進捗状況を共有できていなかった | 過去に同様の事案がなく、発生しうる事案として想定されていなかった | 給付金等の支払い完了までの進捗状況について、管理体制の不備 |
なぜなぜ分析の結果、この事例における根本原因は以下の2つであることがわかりました。
- 上司から部下への適切な指示や確認の不足
- 給付金等の支払い完了までの進捗状況について、管理体制の不備
一見すると担当者のケアレスミスに思える事例でも、繰り返し「なぜ?」と問いかけてみると、仕組みに欠陥があることがわかります。
このように表面的には見えにくい根本原因が特定されると、具体的な解決策の提示が可能になります。例えば1に対する解決策としては、事務手続きマニュアルの確認や、処理の確認徹底などが挙げられます。2に対する解決策としては、未処理リストの作成や、進捗状況の管理・共有などの仕組みの改善を行うことが考えられるでしょう。
まとめ
なぜなぜ分析は、起こった問題に対して「なぜ?」を繰り返すことで、根本原因を探る分析方法です。深層にある原因を見つけることで、適切な解決策や改善策、再発防止策などを講じられるようになります。
なぜなぜ分析は「トヨタ生産方式」の一つで、初心者でも取り組みやすい点が特徴です。現在では多くの企業や自治体などで採用され、成果を上げています。
「企業や部署でミスやトラブルが多く、業務効率が低迷している」「職場環境を改善して生産性の向上を図りたい」という方は、なぜなぜ分析の正しい手順を知り、採用することをおすすめします。
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