【社労士監修】フリーランスは国民健康保険の加入が必須?計算方法・手続き・節約術を徹底解説

フリーランスとして独立後、国民健康保険料の負担の大きさに戸惑いを感じている方も多いのではないでしょうか。会社員時代とは制度が変わり、保険料の計算方法や手続きが分からず、不安に思っている方もいるかもしれません。
本記事では、フリーランスが加入すべき国民健康保険について、会社員との違いから、保険料の計算方法、負担を軽減する方法、加入・変更手続きまで解説します。
フリーランスの国民健康保険:会社員との違いと加入の基礎知識

フリーランスとしてはたらく上で、国民健康保険は重要なセーフティーネットです。会社員時代とは異なる点も多いため、しっかりと理解しておきましょう。
フリーランスが加入する健康保険の種類とは?
フリーランスが加入できる健康保険には、主に以下の3つの選択肢があります。
国民健康保険(国保)
国民健康保険は、会社員や公務員などが加入する健康保険とは異なり、自営業者やフリーランスなど、特定の職域に属さない人が加入する公的医療保険制度です。都道府県および市区町村が運営しており、加入は義務となっています。なお、日本ではすべての国民が何らかの公的医療保険に加入することが法律で定められており、この仕組みを「国民皆保険制度」と呼びます。
任意継続被保険者(会社員時代の健康保険を継続)
会社を退職後、一定の条件を満たすことで、最長2年間、会社の健康保険(社会保険)に任意継続で加入できます。保険料は全額自己負担となりますが、国民健康保険と比較して保険料が安くなる場合もあります。詳細については後述します。
国民健康保険組合
特定の業種(医師、建設など)に従事するフリーランスの場合、それぞれの業界団体が運営する国民健康保険組合に加入できる場合があります。国民健康保険組合は、一般の国民健康保険よりも保険料が安く、給付内容が充実していることが多いです。加入条件は組合によって異なります。
どの健康保険に加入するかは、フリーランスにとって重要な選択です。国民健康保険が一般的ですが、自身の状況に合わせて、他の選択肢も検討することをおすすめします。
フリーランスの国民健康保険と会社員の健康保険
フリーランスの国民健康保険と会社員の健康保険には、いくつかの重要な違いがあります。
項目 | フリーランスの国民健康保険 | 会社員の健康保険 |
運営 | 都道府県及び市町村(特別区を含む) | 健康保険組合または協会けんぽ |
保険料の負担 | 全額自己負担 | 会社と従業員で折半 |
傷病手当金 | 原則なし(国民健康保険組合によっては独自に傷病手当金制度を設けている場合があり) | あり |
上記のように、会社員の場合は保険料を会社と折半する仕組みになっているため、同じ収入で比較した場合、自己負担額が少なくなる傾向があります。一方、国民健康保険は保険料を全額自己負担する必要があります。
また、病気やケガではたらけなくなった場合に支給される傷病手当金も、会社員の健康保険にはありますが、国民健康保険には原則としてありません(国民健康保険組合によっては独自に傷病手当金制度を設けている場合があります)。
これらの違いを理解した上で、国民健康保険に加入する際には、保険料の計算方法や、利用できる軽減制度などをしっかりと確認しておくことが大切です。
フリーランスが健康保険に入らない場合のリスクとデメリット
フリーランスとしてはたらく上で、いずれかの公的医療保険制度への加入は原則として義務です。会社員時代は会社が加入手続きを行ってくれていましたが、フリーランスになると自分で手続きを行う必要があります。しかし、「保険料が高いから」「手続きが面倒だから」といった理由で、加入をためらう方もいるかもしれません。
しかし、未加入のままにすると、医療費の全額負担や、保険給付の不支給、さらには保険料の遡及請求や延滞金、財産差し押さえといった深刻なリスクを負う可能性があります。
ここでは、フリーランスが国民健康保険に加入しない場合に起こりうるリスクについて詳しく解説します。
1. 全額自己負担での医療費支払い
国民健康保険に加入していない場合、医療機関を受診した際の医療費は全額自己負担となります。健康保険に加入していれば3割負担で済む医療費も、10割負担となると経済的な負担は非常に大きくなります。万が一、大きな病気やケガをしてしまった場合、高額な医療費を支払う必要が生じ、生活を脅かす事態にもなりかねません。
2. 保険給付の不支給
国民健康保険には、出産育児一時金や葬祭費などの給付制度があります。しかし、国民健康保険に加入していない場合、これらの給付を受けられません。万が一の事態に備えるためにも、国民健康保険への加入は不可欠です。
3. 過去に遡っての保険料請求
国民健康保険への加入を怠っていた場合、後から加入手続きを行った際に、過去に遡って保険料を請求されることがあります。これは、国民健康保険の加入が義務であるため、加入資格が発生した時点まで遡って保険料を支払う必要があるためです。滞納期間が長くなるほど、請求される金額も大きくなるため、早めに加入手続きを行うことが重要です。
4. 延滞金の発生
国民健康保険料を滞納した場合、延滞金が発生します。延滞金は、滞納期間に応じて加算されるため、放置すればするほど金額が膨らんでいきます。延滞金が発生すると、さらに経済的な負担が増すことになるでしょう。
5. 財産の差し押さえ
国民健康保険料の滞納が続くと、最終的には財産の差し押さえといった強制執行が行われる可能性があります。預貯金や不動産などが差し押さえられると、生活に大きな支障をきたすことになります。保険料の支払いが難しい場合は、放置せずに、まずは市区町村の窓口に相談することが大切です。
このように、国民健康保険に加入しないことには、経済的にも精神的にも大きなリスクが伴います。フリーランスとして安心してはたらくためには、国民健康保険への加入は必要不可欠である自覚を持ち、必ず加入手続きを行いましょう。
もし、国民健康保険料の支払いが難しい場合は、後述する軽減・免除制度の利用や、国民健康保険組合への加入を検討するなど、負担を軽減する方法を探してみましょう。
フリーランスが国民健康保険料の負担を軽減する方法
国民健康保険料は、フリーランスにとって大きな負担となることがあります。しかし、いくつかの方法を知っておくことで、保険料の負担を軽減することが可能です。ここでは、国民健康保険料の負担を軽減する方法を解説します。
国民健康保険組合への加入メリット・デメリットと探し方
国民健康保険組合は、特定の業種や職種に従事する人が加入できる組合で、一般の国民健康保険よりも保険料が安くなる可能性があります。国民健康保険組合は家族が多い世帯向けに、保険料の増加が緩やかで上限付きのケースが多く、人数が多いほど割安になる場合があります。
メリット
- 一般の国民健康保険よりも保険料が安い場合がある
- 独自の給付制度が存在する場合がある
- 同じ業種の仲間との交流ができる
デメリット
- 加入できる業種や職種が限られている
- 組合によっては、加入条件が厳しい場合がある
探し方
- 自身の業種や職種で検索してみましょう。例:「〇〇業 国民健康保険組合」
- 該当する組合の公式サイトで、加入条件や保険料を確認しましょう。
- 複数の組合を比較検討し、ご自身に合った組合を選びましょう。
退職後2年間の選択肢「任意継続被保険者制度」とは?保険料比較と手続き
会社を退職した場合、退職後2年間は、それまで加入していた健康保険(協会けんぽや健康保険組合)に任意継続被保険者として加入できます。
任意継続被保険者制度とは
退職後も、会社の健康保険に継続して加入できる制度です。最長2年間加入できます。
保険料比較
任意継続の保険料は、原則として在職中の保険料の2倍になります。ただし、上限額があるため2倍にならないケースもあります。
国民健康保険料と比較して、どちらが安いかは、退職時の年収や家族構成、お住まいの地域によって異なります。
一般的に、退職時の年収が高い場合や、扶養家族が多い場合は、任意継続の方が安くなる傾向があります。
手続き
- 退職後20日以内に、加入していた健康保険組合に「任意継続被保険者資格取得申請書」を提出します。
- 保険料を納付することで、任意継続被保険者となります。
国民健康保険料は社会保険料控除の対象(経費との違いも解説)
国民健康保険料は、全額が社会保険料控除の対象になります。確定申告の際に、社会保険料控除として申告することで、所得税や住民税を軽減できます。
経費との違い
国民健康保険料は、事業に必要な経費ではなく、個人の生活費とみなされるため、原則として経費にはなりません。しかし、社会保険料控除として所得から控除することで、税負担を軽減できます。
所得が低い場合の軽減・免除制度と申請方法(失業・災害時など)
所得が低い場合や、失業・災害などの特別な事情がある場合には、国民健康保険料の軽減・免除制度が利用できる場合があります。
軽減・免除制度
所得に応じて、保険料が減額されたり、免除されたりする制度です。
申請方法
- 居住している市区町村の国民健康保険窓口に相談しましょう。
- 申請に必要な書類を準備し、提出します。
- 審査の結果、軽減・免除が認められれば、保険料が減額または免除されます。
これらの方法を組み合わせることで、国民健康保険料の負担を軽減し、より安心してフリーランスとしてはたらけるでしょう。
【手続きガイド】フリーランスの国民健康保険:加入・変更手続きをステップで解説
ここでは、国民健康保険への加入・変更手続きの流れをステップごとに解説します。
健康保険切り替え手続きの流れと期限・必要書類
会社を退職してフリーランスになる場合、健康保険の切り替え手続きが必要です。原則として、退職日の翌日から14日以内に手続きをする必要があります。
手続きの流れは以下の通りです。
- 退職証明書または離職票の準備:退職したことを証明する書類が必要です。会社から発行される退職証明書、またはハローワークから発行される離職票を用意しましょう。
- 国民健康保険窓口への申請:お住まいの市区町村の国民健康保険窓口で加入手続きを行います。
- 必要書類の提出:以下の書類が必要になります。
- 退職証明書または離職票:退職日を確認するために必要
- 本人確認書類:運転免許証、パスポート、マイナンバーカードなど
- マイナンバー確認書類:マイナンバーカード、マイナンバー通知カードなど
- 国民健康保険料の支払い方法の選択:納付書払い、口座振替など、支払い方法を選択します。
期限を過ぎてしまうと、遡って保険料を支払う必要が生じる場合や、医療費が全額自己負担になるなどのリスクがありますので、早めに手続きを行いましょう。
国民健康保険の加入手続き
上記は健康保険の切り替え手続きですが、ここでは国民健康保険への加入手続きをより詳しく解説します。
- 住民票のある市区町村の窓口へ: 国民健康保険の加入手続きは、住民票がある市区町村の国民健康保険窓口で行います。
- 必要書類の準備
- 本人確認書類:運転免許証、パスポート、マイナンバーカードなど
- マイナンバー確認書類:マイナンバーカード、マイナンバー通知カードなど
- 所得を証明するもの:退職後の場合は不要な場合もありますが、念のため源泉徴収票などを持参すると良いでしょう。
- 国民健康保険加入の申請:窓口で申請書に必要事項を記入し、提出します。
今までのマイナカードはそのまま使用できますが、マイナカードがない場合は、資格確認証が交付されます。
引っ越し・結婚・出産などライフイベント発生時の国民健康保険の手続き
引っ越し、結婚、出産など、ライフイベントが発生した際には、国民健康保険の手続きが必要になる場合があります。
- 引っ越しの場合
転居先の市区町村で、転入の手続きと同時に国民健康保険の住所変更手続きを行います。転出元の市区町村で発行される転出証明書が必要になります。 - 結婚の場合
結婚相手が国民健康保険に加入している場合、同じ住所・世帯主であれば同一世帯として加入できます。国民健康保険窓口で手続きを行いましょう。結婚相手が社会保険に加入している場合は、条件を満たせばその社会保険の扶養に入ることが可能です。 - 出産の場合
出産育児一時金が支給されます。国民健康保険窓口で申請手続きを行いましょう。また、生まれたお子様を国民健康保険に加入させる手続きも必要です。
これらの手続きは、各市区町村によって異なる場合がありますので、事前に確認しておくことをおすすめします。
フリーランスの国民健康保険に関するよくある質問
Q1. フリーランスの国民健康保険料は経費にできますか?
国民健康保険料は経費として計上できません。しかし、確定申告の際に社会保険料控除として申告することで、所得税と住民税を軽減できます。国民健康保険料は全額が控除対象となります。経費にはできませんが、確定申告で控除を受けることで節税効果が得られます。
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Q2. フリーランスが家族を自分の国民健康保険の扶養に入れることはできますか?
国民健康保険には、会社員の健康保険のような「扶養」の概念がありません。そのため、家族もそれぞれ被保険者となり、保険料を納める必要があります。家族の人数も保険料を算出する際の計算対象となります。ただし、家族が他の健康保険に加入しており、その扶養である場合は国民健康保険に加入する必要はありません。
Q3. 国民健康保険料の納付方法にはどんな種類がありますか?滞納するとどうなりますか?
国民健康保険料の主な納付方法としては、以下のものがあります。
- 口座振替:指定した金融機関の口座から自動で引き落とされます。
- 納付書払い:市区町村から送付される納付書を使って、金融機関やコンビニエンスストアなどで支払います。
- クレジットカード払い:一部の市区町村では、クレジットカードでの支払いが可能です。
- コンビニ払い:一部の市区町村では、コンビニ払いでの支払いが可能です。
- 電子マネー:一部の市区町村では、電子マネーでの支払いが可能です。
国民健康保険料を滞納すると、督促状が送付され、延滞金が発生する場合があります。さらに滞納が続くと、財産の差し押さえなどの処分を受ける可能性もあります。納付が難しい場合は、早めに市区町村の窓口に相談しましょう。
Q4. フリーランスの健康診断はどのように受けるのがお得ですか?
フリーランスの場合、会社員のような定期健康診断の制度がないため、自分で健康診断を受ける必要があります。以下の方法でお得に受診できる場合があります。
- 国民健康保険の特定健康診査(特定健診):国民健康保険加入者は、市区町村が実施する特定健診を比較的安価で受けられます。
- 国民健康保険組合の健康診断:国民健康保険組合によっては、独自の健康診断を実施している場合があります。
- 自治体の助成制度:一部の自治体では、健康診断費用の助成制度を設けている場合があります。
加入している国民健康保険や、お住まいの自治体の情報を確認してみましょう。
フリーランスが国民健康保険と上手に付き合い、安心してはたらこう
本記事では、フリーランスにとって必須となる国民健康保険について、加入の基礎知識から保険料の計算方法、負担軽減策、手続きまでを徹底的に解説しました。会社員時代との違いや、未加入の場合のリスク、保険料が高すぎる場合の対処法など、フリーランスならではの疑問や悩みに寄り添った情報をお届けしました。
国民健康保険は、フリーランスとしてはたらく上で、万が一の病気やケガに備えるための大切なセーフティーネットです。保険料の負担は決して軽いものではありませんが、賢く制度を活用することで、負担を軽減し、安心して仕事に取り組めるでしょう。
(監修日:2025年6月12日)
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グッドライフ設計塾(https://goodlife21.com/)|社会保険労務士
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(1級FP技能士、CFP)キャリアコンサルタントの資格を持ち、幅広い知識を保有。開業して17年目で実務経験も豊富。全国社会保険労務士会連合会からの委託で全国の社労士対象のテキストを執筆したほか、協会けんぽのメルマガ記事の連載、日経新聞での退職年金ナビ連載などの実績あり。
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