フリーランスは開業届なしでも業務できる?提出の判断基準や確定申告への影響を解説

フリーランスを開始したばかりの方や、副業を本格的に進めようと考えている方にとって、開業届を提出すべきかどうかは判断に迷いやすいポイントです。
本記事では、開業届を出さなかった場合のリスクや、提出するメリット、判断の目安やタイミングなどをわかりやすく解説します。
フリーランスが開業届なしで業務をするとどうなる?

フリーランスとして副業を始めたばかりの人にとって、「開業届を出していないけれど、仕事を受けてもよいのか」という疑問はよくあります。
ここでは、開業届なしで業務を始めた場合について、詳しく見ていきましょう。
開業届なしでも業務可能
開業届を提出していなくても、フリーランスとして業務を進めることは可能です。開業届はあくまで「税務署に自分が事業を始めたことを伝える届出」だからです。
たとえば、開業届を提出せずに、副業としてイラスト制作の依頼を受けたり、Webライターとして報酬をもらったりしても契約・納品・報酬受け取りは問題なく行えます。
また、取引先から請求書や領収書の提出を求められる場合も、「個人名+住所」での発行が可能です。屋号や事業用の口座がなくても、仕事は成立します。
開業届なしでもペナルティはない
開業届を出していなくても、ペナルティを受けることはありません。
開業届は、提出することで制度上の利点を享受できる選択肢の一つです。青色申告などの特典を利用したい人が、自主的に出すものとされています。
ただし、開業届を提出していないと、以下のような制度上の利点を十分に活用しにくい場合があります。
- 補助金・助成金、公的支援の申請が難しくなる場合がある
- 屋号付き銀行口座やクレジットカードの開設ができない場合がある
- 金融機関との取引条件や評価に影響する可能性がある
- 「事業としての活動」として認識されにくく、所得区分が雑所得と判断される可能性がある
開業届の有無が直接の罰則にはつながりませんが、制度の活用や信用面でのメリットを得やすくするためには、提出しておくとよい。
開業届と他制度(確定申告・経費)の関係は?
「開業届を出していないと、確定申告や必要経費の扱いに支障があるのでは?」と不安に感じる人は多いです。実際には、開業届を出していなくても必要な手続きや登録は可能です。
ただし、制度ごとに判断ポイントが異なるため、それぞれの関係性をしっかり整理しておきましょう。
フリーランスは原則確定申告が必要
フリーランスとしてはたらく場合、原則として確定申告が必要です。開業届を提出しているかどうかにかかわらず、課税所得が基礎控除など各種控除を超える場合に課税が発生するためです。一方で、年間所得がこれらの控除額を下回る場合や事業所得が赤字のときは、確定申告は不要になります。
ただし、住民税の申告が必要になるケースもあるため、市区町村の案内も確認してください。
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開業届なしでもインボイス登録は可能
開業届を出していなくても、インボイス制度への登録は可能です。登録の条件に「開業届を提出しているかどうか」は含まれていません。
ただし、開業届を出していないと、税務署側が事業開始のタイミングを把握できません。今後のやり取りや証明書の発行などで不便になる場合もあります。
制度上は問題なく登録できますが、長期的には開業届を提出した方がスムーズです。
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フリーランスが開業届を出さない場合のデメリット
開業届は出さなくても業務自体は始められますが、実は出さないことで損をする場面もあります。節税の機会を逃したり、信用面で不利になったりすることもあるため注意が必要です。
ここでは、開業届を出さないことで生じる代表的なデメリットを具体的に解説していきます。
事業所得ではなく雑所得になる可能性
雑所得か事業所得かは、取引の継続性や独立性など主に「事業性」の有無で判断されます。開業届を出していないと、事業性の証明が難しくなり、結果的に雑所得と判断されるリスクがあります
雑所得扱いになると、青色申告の対象とならず、税務上のメリットを受けられない可能性があるため注意が必要です。事業として活動する場合は開業届を提出しておきましょう。
ただし、開業届を提出したからといって自動的に事業所得になるわけではなく、活動内容や継続性に応じて判断される点には注意が必要です。
就労証明・助成金申請で不利になる可能性
開業届を出していない場合、就労証明や助成金・補助金の申請で不利になるケースがあります。公的な証明書や手続きの際、開業届の写しを求められることがあるためです。
例としては以下のような場面があります。
- 保育園の入園申請(就労証明が必要)
- 国や自治体の補助金・助成金の申請
- 社会保険や年金の手続きでの職業証明
- 賃貸契約や住宅ローンの収入証明(開業初年度は特に注意)
事業の実態があっても、開業届を提出していないことで証明が不十分とされ、「助成が受けられない」「審査に通らない」といった可能性があります。
開業2年目以降は、確定申告で事業所得を証明できるため、開業届がなくても信用は得られます。ただし、開業1年目は申告書がまだないため、開業届が事業者としての公式な証明となります。今すぐ必要でなくても、将来の手続きを見越して早めに提出しておくと安心です。
フリーランスが開業届を出すメリット
開業届は「出さなくても仕事はできる」とよく言われますが、実は出すことで得られる制度的なメリットは多いです。節税や信用面での効果もあり、長期的には損得に差が出ます。
ここでは、開業届を出すことで得られる代表的な3つのメリットを紹介します。
屋号名義の銀行口座を開設できる
屋号付きの銀行口座を開設するには、開業届の提出が前提になります。開業届に屋号を記載しておけば、その屋号名義での口座開設が可能です。
屋号名義の口座は、業務用とプライベートの支出を分けるために便利です。入出金を整理しやすくなり、確定申告のときに帳簿の確認もスムーズに進みます。
業務とプライベートの線引きを明確にしたい場合は、開業届を出しておくと管理が楽になるでしょう。
保育園などの就労証明に使える
開業届は、保育園の入園や認可外保育施設の補助申請のときに「はたらいている証拠」として活用可能です。フリーランスには会社の在職証明がないため、開業届の写しが公的な証明書になります。
特に自治体によっては、入園申し込みにあたって「就労証明書または開業届の写し」を提出するように求められる場合があります。
開業届を出していないと、「実際にはたらいているか」の証明が難しくなるでしょう。面談や追加書類が必要になり、申請が不利になるおそれがあります。
フリーランスとして育児との両立を目指すなら、開業届の提出は欠かせません。
小規模企業共済や国の補助金制度を使える
開業届を出していれば、「小規模企業共済」や各種の国の補助金制度に申請できるようになります。どちらも事業者向けの制度のため、開業届がないと申請ができません。
小規模企業共済は、フリーランスや個人事業主向けのいわば退職金制度です。毎月1,000円から積み立てられ、将来的にまとまった資金を受け取れます。また、掛金は全額を所得控除にできるため、節税にもつながります。
補助金制度については、「IT導入補助金」や「ものづくり補助金」などがあり、条件を満たせば支援が受けられます。ただし、どの制度も「個人事業主であること」が前提となっています。
資金面の安心と制度活用を考えるなら、開業届は提出するとよいでしょう。
フリーランスは開業届を出すべき?判断基準を解説
フリーランスとして継続的に収入を得る予定があるなら、開業届は出しておきましょう。制度の活用や信用面での優位性を得られるためです。
開業届を出すかどうかの判断は、「収入の金額」「継続性」「社会制度の利用予定」の3つを目安にするとわかりやすくなります。
以下のいずれかに当てはまる人は、開業届の提出を前向きに検討しましょう。
- 年間20万円以上の利益を見込んでいる
- 継続的に事業として活動する予定がある
- 保育園や補助金の申請予定がある
開業届を出すことで将来の選択肢が広がります。条件がそろってきた時点で早めに提出しておくと安心です。
フリーランスが開業届を出すタイミングはいつ?期限は?
「いつ出せばいいのか分からない」「出しそびれたら損をするのでは?」と不安に感じる人も多いです。実際、開業届には提出の目安があり、早めに出しておいた方が有利になる場面もあります。
ここでは、開業届の提出タイミングと期限について解説します。
開業から1か月以内に提出する必要がある
開業届は原則「開業日から1か月以内」に提出することが定められています。
ここでいう「開業日」とは、初めて仕事を受注し、実際に業務を開始した日のことです。その日から1か月以内に、所轄の税務署へ開業届を提出しましょう。
開業届の提出は、フリーランスとして正式に事業を始めたことの証明になります。開業1年目のうちは開業届の提出の有無が確定申告や社会的信用にも関わるため、忘れず期限内に提出しましょう。たとえ
今後の節税や制度活用を見越して、業務開始後はできるだけ早めに提出しておくと安心です。
開業届は「さかのぼって」の提出が可能
開業届は、開業日を過去の日付にして提出することも認められています。いわゆる「さかのぼって提出する」ことが可能です。
たとえば、2024年4月からライターとして副業を始めたにもかかわらず開業届を出していない場合、2025年1月に「2024年4月1日開業」として開業届を提出できます。
ただし、青色申告の特典を受けたい場合は、提出の遅れが不利にはたらくことがあります。開業日をさかのぼっても、青色申告承認申請書の提出期限は原則として「その年の3月15日まで」となっているためです。
過去の活動を整理してなるべく早めに届出を出すことが、トラブルを防ぐポイントになるでしょう。
フリーランスが開業届を出す際の注意点
開業届を出すこと自体は難しくありませんが、提出によって影響を受ける制度もあります。特に、扶養や保険、会社との関係などは事前に確認が必要です。
ここでは、見落としやすい注意点を3つに絞って紹介します。
配偶者の扶養に入っている場合は健康保険組合の条件を確認する
配偶者の扶養に入っている人は、開業届の提出によって扶養の資格を外れる可能性があるため注意が必要です。健康保険組合は、扶養条件として「収入の金額」だけでなく「事業をしているかどうか」も見ています。
扶養のままでいたい場合は、次の3点を確認しておきましょう。
- 自分が加入している健康保険組合の扶養認定基準
- 年間収入の見込み
- 開業届の提出が影響するかどうかの事前相談
会社を退職したばかりの場合は提出のタイミングを検討する
会社を退職した直後に開業届を出す場合は、退職後の社会保険・雇用保険に影響が出ることがあります。特に注意したいのは、失業保険の受給条件です。
ハローワークでは、失業保険の受給者に対して「就職活動をしているかどうか」「自営業を始めていないか」をチェックします。開業届を出していると、「自営を開始している=就職の意思がない」と判断され、失業保険の給付が受けられなくなる可能性があります。
以下のような人は、特に注意が必要です。
- 雇用保険の給付を申請中または予定している
- 退職直後に独立を考えている
- ハローワークでの手続きが完了していない
手元に開業届を残す場合は電子申告を選択する
フリーランスが開業届を提出する際、「控え(自分用の写し)」を手元に残したい場合は、電子申告(e-Tax)による提出が必要です。
令和6年までは、税務署の窓口に開業届とその写しを持っていけば、写しに税務署の受領印を押してもらえました。しかし、令和7年1月からは、窓口では写しに受領印を押してくれません。一方で電子申告(e-Tax)の場合、送信したデータの印刷や、受信通知の印刷を控えとして保存できます。
「開業届の控え」が必要な場合は、電子申告(e-Tax)を選択しましょう。
出典:令和7年1月からの申告書等の控えへの収受日付印の押なつについて(国税庁)
フリーランスとして開業届を出すか悩んでいる人によくある質問
開業届について調べると、情報が複雑で不安になることもあります。ここでは、フリーランス初心者によくある質問に対して、わかりやすく答えます。
Q1.開業届なしでも経費計上はできる?
開業届を出していなくても、事業としての実態があれば必要経費の計上は可能です。事業かどうかは届出の有無ではなく「継続性」「営利性」「独立性」などの観点で判断されます。
Q2.開業後に何年経っても開業届は提出できる?
開業後に時間が経っていても、開業届は提出できます。提出に「時効」はなく、遅れて提出したからといって罰則はありません。
提出書類に記載する「開業日」は本人の自己申告によって決められるため、過去の日付を設定して出すことも可能です。
開業届は将来のために提出する価値がある
フリーランスは開業届を出していなくても業務を始めることは可能です。ただし、確定申告や必要経費の扱いなどに関係する制度面では、開業届の有無が大きな差につながる場合があります。
迷っている場合は、まず自分のはたらき方や収入の見込み、制度をどこまで活用したいかを整理してみましょう。そして、必要に応じて税務署や専門家にも相談しながら、自分にとって損のない選択をしてください。
開業届は、将来の可能性を広げるための第一歩になります。少しずつ準備を進めて、自信を持ってフリーランスとしての一歩を踏み出しましょう。
(監修日:2025年7月8日)
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山本聡一郎税理士事務所(https://nagoya-soutax.com/)|税理士
山本聡一郎税理士事務所 代表税理士。1982年7月生まれ。名古屋市中区錦(伏見駅から徒歩3分)にてMBA経営学修士の知識を活かして、創業支援に特化した税理士事務所を運営。クラウド会計 Freeeに特化し、税務以外にも資金調達、小規模事業化持続化補助金などの補助金支援に力を入れている。
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