【入門編】営業のDXはなぜ必要なのか?成功例・失敗例をそれぞれ解説
新型コロナウイルスによって社会構造が大きく変わったことで、オンライン化をはじめとする幅広いICT技術の導入を検討している企業も多いのではないでしょうか。 近年では基幹システムの刷新にはじまり、SFA、CRM、MAという多様なSaaSシステムで自社を変革し、生産性や収益の改善を行う取り組みが進んでいます。DX(デジタル・トランスフォーメーション)の一端を担うこの取り組みにおいて、営業組織ではどのようなDX化が必要なのでしょうか。 そもそも営業のDXとは何なのか なぜ営業にDXが求められるのか 営業のDXは何を目的とするのか DX化の具体例は何があるのか 成功例と失敗例のポイント 本コラムでは、上記5点を中心にご紹介します。 営業のDX(デジタルトランスフォーメーション)とは? 営業組織におけるDXは、データやデジタル技術を活用して顧客の購買行動を見直し、その情報に沿って自社の営業プロセスを再構築することで、営業活動の最適化をするための手段です。 特に近年はインターネットの普及によって顧客のニーズが多様化しており、購買行動にも幅広い選択肢があります。そうなると、従来の営業電話や訪問商談が通用しないケースも出てくるでしょう。これからの時代はデータから顧客のニーズを見極め、購入の熱量が増したタイミングで営業を仕掛けるのが重要といえます。 キーワードとなるのは「顧客起点」です。現在は少子高齢化をはじめとする社会問題を背景に、従来の売り切り型のビジネスよりも、顧客と中長期的な関係性を築き上げることに注目が集まっています。サブスクリプションビジネスもその1つで、顧客との信頼関係を築き、価値を提供し続けることで、安定した売り上げの獲得を目的としています。顧客との信頼関係を維持していくうえで、顧客情報のデータ化は欠かせません。 データ化による社内効果としては、SFA(営業支援システム)やMA(マーケティングオートメーション)ツールによる営業活動の効率化・標準化が期待できます。データを蓄積することで個々のパフォーマンス差を縮め、担当変更時の引き継ぎもスムーズに行えるでしょう。また、オンライン会議を導入することで、移動コストの削減にもつながります。 営業組織のDX化が必要な理由 営業組織においてDX化が求められる背景として、新型コロナウイルスや働き方改革が関係しています。 判断基準の変化 コロナ禍において、顧客の判断基準は変化しました。これまでは価格や歴史という面から商品・サービスの価値を判断していましたが、新型コロナウイルスであらゆる企業が危機的状況に陥ったことで、要望への柔軟性やスピード性のある商品・サービスの信頼性が高まっています。ESG投資と同じように、商品・サービス価値も有形から無形へと切り替わったといえるでしょう。 このことから顧客起点が重視されるようになり、営業組織のDX化が求められるようになりました。 オンラインでの営業活動への適応 新型コロナウイルス感染症の対策として、ビジネスでも重要視されているのが「非対面」です。現在では非対面の手段としてデジタル技術が着目されていますが、それは対面での商談をオンラインに切り替えるという部分的な話ではありません。架電からアポ獲得までの前工程や、後工程となる受注後の定期接点に対して、これまで以上にデータを活用していくことが重要です。 データの活用によって、「顧客ニーズの不明瞭性」「商談日時の遅延」「定期接点の薄さ」という対面営業で生まれがちな問題の解決も期待できます。ウィズコロナ/アフターコロナ時代において、DXによるデータの活用は企業の新しい武器をつくり、競争優位性を高めることにもつながるでしょう。 生産性の向上 従来の営業活動には、現場の人間でも見落としてしまう無駄が数多く存在します。超高齢化社会に突入した日本にとって、1人あたりの生産性は非常に重要です。DX環境の整備によって無駄なポイントを把握することで、業務効率を改善し、長時間労働の予防にも役立てることができます。 総務省の調査結果では、クラウドサービスやテレワークなどのICTソリューションを利用している企業のほうが、非利用企業よりも生産性が高いことが判明しています。 ※出典:平成30年版 情報通信白書(総務省)実際にグローバル市場を見ても、経済をけん引しているのはGAFAをはじめとする巨大なICT企業です。デジタル技術で生産性を高めたICT企業の台頭によって、既存の産業構造は大きな影響を受け、事業徹底を強いられた企業は数知れません。このようなデジタル・ディスラプション(デジタルによる破壊)に対応するためにも、企業の売上を支える営業組織のDX化は欠かせないでしょう。 営業体制における脱属人化 営業組織が属人化しやすい背景としては、営業個人の中にしか存在しない情報やノウハウにあります。顧客や案件の細かな情報から、経験則による判断基準・業務効率化に関わるものまで、内容はさまざまです。これらが適切に共有できないと、営業担当者の成果に差がでるだけでなく、引き継ぎが上手くできずに失客するというケースもあり得ます。 DX化によって全ての情報やノウハウがデータとして蓄積されるようになれば、代理対応や引き継ぎに手間取る心配はありません。また、商談録音や対応履歴を追えるようになることで、顧客のこれまでの言動を理解しやすく、受注予測も立てやすくなります。データによる見える化は、営業スキルの標準化にも役立てることができるでしょう。 営業DXの具体例 営業組織のDXでは、主に顧客の「獲得」「育成」「分析」という3つのポイントがあります。 効率的なリード獲得 これまでのリード獲得の手段は、飛び込み営業やテレアポなど、ある種の人海戦術が主流でした。ただし、この手法では多くの営業担当者が何時間にもわたって訪問や電話を続ける前提のうえで成り立っており、当然断られるケースもあります。そのため、成約率の面で考えてもコストパフォーマンスが悪い状態でした。 DXの世界では、営業担当者が手数をかける必要はありません。最初の環境づくりこそ時間を要しますが、デジタルマーケティング施策を進めることで、顧客のニーズや課題が明確化した状態で商談に臨むことができます。また、商談はオンラインで行うため、移動の時間とコストがかかりません。 さらにオンライン商談であれば、他拠点や他事業部を巻き込んだ打ち合わせがしやすく、より抜本的な話し合いの場が生まれやすいのも特徴です。資料と一緒に録音データも共有することで、顧客の上申もスムーズになるでしょう。 定期的な顧客育成 ウィズコロナ/アフターコロナ時代では、非対面でも顧客に振り向いてもらうための手法が重要になります。直接会話をしなくとも、見込み顧客の購買意欲を高めたり、既存顧客をファン化するには、DX化が欠かせません。 MA(マーケティングオートメーション)ツールを用いて、顧客の興味・関心や課題感に合わせて最適な情報を提供し続けることで、顧客のサービス利用・継続の確率が高まります。顧客が知りたいと思ったタイミングを逃さないため、メールや電話で顧客の予定を確認し、商談を行うのとはまるでスピード感が違います。ニーズに合わせて情報を自動で提供し、顧客が自分から動くように仕掛けていくのが、DX後の営業活動となります。 ツールによる顧客分析 顧客情報、企業情報、成約情報、案件進捗、商談履歴など、営業活動において、営業担当者が扱う情報は多岐に渡ります。これらの情報をデータ化し、SFA(営業支援システム)で一元管理することによって、営業担当者が必要な情報をスピーディに入手することができます。オフィスでも、出先でも、場所を選ばずに利用できるため、出張やテレワークでの活躍も期待できるでしょう。 営業DXで失敗しやすいポイント 総務省ではデジタル・トランスフォーメーションが失敗しがちな例として、「組織」「人材」「ICT活用」に問題があると挙げられています。今回はその3つの観点から、営業のDX化が失敗しやすいポイントをご紹介します。 目的が明確化できていない 組織面において、「何のためにDXを行うのか」という目的を明確にすることが大切です。「政府が推奨しているから」「競合他社のデジタル化が進んでいるから」などの表面的な理由では、DXが戦略的に行われず、結果的に中途半端な状態になり、時間やコストを無駄に浪費するリスクがあります。 SaaSサービスを1つ導入するにしても、「新たな販路開拓」「既存顧客のファン化」など、利用の目的はさまざまです。顧客に提供したい価値や社内に与えたい変化を整理していくことで、必要な選択肢が見えてくるでしょう。 DX推進チームが存在しない 人材面において、デジタルツールを扱うための研修制度が充実していないケースはよくあります。どれほど優れたデジタルツールを導入しても、営業担当者が扱えなければ意味がありません。推進チームにはデジタル人材もアサインし、社内研修、セミナー、勉強会を通じて営業担当者のスキルアップを支援していく必要があるでしょう。 また、DX推進チームの存在は、営業組織の意識改革にも大きく関わってきます。 旧態依然とした営業スタイルを続けている 営業担当者の知識や経験が共有できていない これまでに蓄積したデータが上手く活かせていない そのような課題も、DX推進チームが改革の必要性を客観的に判断し、営業部門とあるべき姿を話し合っていくことで改善が見込めます。必要に応じて外部人材(専門家・顧問)のアドバイスを得ることも重要です。 特に近年では社員のエンゲージメントがより良いCX(カスタマー・エクスペリエンス/顧客体験価値)の提供につながるというEX(エンプロイー・エクスペリエンス/従業員体験)の考え方が広まっています。ITリテラシーを高めるための教育やインフラ環境の整備など、DXを通じて社員の労働環境を改善していくことが、結果的に商品・サービスの価値を高めることにもつながるでしょう。 デジタルツールと営業プロセスが適合しない ICT活用において重要なことは、デジタルツール内でのデータ連携だけではありません。DXの目的に合わせてデジタルツールを選定し、営業プロセスを改善していくのがポイントです。 営業組織のDX化は、既存の営業プロセスとの親和性を重視されがちですが、その前提条件ではデジタルツールの利用幅に制限が生まれてしまい、DXで本当に実現したいことが困難になる可能性があります。そのため、デジタルツール利用を前提とした変革を意識しましょう。既存の営業活動をそのままデジタル化するのではなく、デジタルツールのできることや使い方を決め、ツールに合わせて営業プロセスを再構築しくことで、DXの目的をより実現しやすくなるでしょう。 また、管理職の意見だけでデジタルツールを決めてしまうケースもよく見受けられますが、実際に活用する社員の声は何よりも大切です。社員の声を蔑ろにすると、生産性が上がるどころか、現場での利用に抵抗感が生まれ、ツールそのものが徐々に利用されなくなってしまう事態にもなりかねません。 ※参照:令和3年 情報通信白書(総務省) 営業DXの導入事例 ここでは営業DXの成功例として、実際に企業が取り組んだ3つの事例をご紹介します。 DX推進チームによる横断的なデータ連携 A社ではデジタル領域に関する事業を複数展開していますが、全ての事業に対して技術的な支援を行う存在として、社内にDX推進チームが設立されました。 DX推進チームが各事業でそれぞれ蓄積されたビッグデータを集約し、AIやIoTなどの先端技術も使って、横断的なデータ活用を促したことが、成功の要因といえます。各部署を分散的に支援するのではなく、データ統合での全社的なDXに向けた動きが効果を出し、A社は増収・増益を実現しました。 営業組織の再編によるバリュー・プロポジションの改善 B社ではITの技術やトレンドを顧客に分かりやすく伝え、啓蒙する専門人材のポジションを独自で創設しました。特に複雑性がある、あるいは高額な商品・サービスにおいて、本ポジションの存在は効果を発揮します。本ポジションが営業の役割を超えて、顧客の技術的な課題や潜在ニーズを見抜き、適切にアドバイスしながら顧客と伴走するビジネスパートナーとして活躍することで、顧客と強固なリレーションを築くことが期待できます。 B社では営業職とエンジニア職から本ポジションの部隊が編成され、社内にインサイドセール部隊を別に持つことで役割を分担し、最適なソリューションを行うための環境づくりも行いました。 SFA/CRMによる受注率の向上 C社ではSFA(営業支援システム)やCRM(顧客関係管理システム)を活用し、インサイドセールスの強化をはかりました。インサイドセールスは従来の訪問営業をオンラインに切り替えるという単純な意味合いではなく、セールスの流れをデータで事細かに分析しつつ、データ活用を前提とした社内体制に変えることで、初めて成果を得られます。 SFAやCRMを使い、日々の活動状況や顧客情報を管理・蓄積・分析することで、顧客のニーズを正しく理解したうえでの提案を行い、良好な関係性の構築が期待できます。営業効率や生産性の向上にも役立つでしょう。 C社はリード獲得後のスピード性や定期接点に対して目標値を設定しつつ、Web問い合わせに適した提案研修などを通じて、デジタルマーケティングでのリード獲得からクロージングの実現を成功させました。 まとめ 今回は営業DXの概要から要件、目的、具体例、成功事例や失敗しがちなポイントをご紹介しました。営業組織のDX化は、生産性の向上、収益アップ、脱属人化など、さまざまなメリットがありますが、単に既存の業務をオンライン化するだけでは満足いく成果は得られないでしょう。 営業組織のDX化には、DXの目的を明確にし、DX推進チームの支援を受けながら、データ活用を前提に営業プロセスを再構築していく必要があります。企業によっては大規模な改革を要する可能性もありますが、下手の既存のやり方に執着すると、デジタルツールで得られる恩恵が減ってしまうことも十分にあり得ます。 デジタルツールの効果を最大化するためにも、営業組織の他に客観的な意見をくれる存在は非常に大切です。デジタルツールを上手に扱えれば、新規顧客の獲得や既存顧客の定着化、さらには働き方改革による従業員のエンゲージメント向上にも役立つでしょう。