需要が加速する、プロ人材活用 ~秋田県におけるプロ人材活用とは~
少子高齢化に伴い日本全体で労働人口の減少が進む中、特に地域の企業では必要なスキルを持った人材の確保が難しい場面も少なくありません。そこで、新たな解決策として注目されているのが、副業・フリーランスのプロ人材の活用です。
「HiPro」では、個人の持つスキルがさまざまな企業で柔軟に活かされ、個人も企業も成長を続ける「スキル循環社会」の実現を目指しています。2023年6月にスタートした「スキルリターン」プロジェクトは、都市部で専門的な経験を積んだプロ人材と地域の企業をつなぎ、地域企業・経済の発展に貢献することを目指す取り組みです。これまで鳥取・山形・福岡・広島・京都で取り組みを行っており、今回新たに秋田でのプロジェクトをスタートしました。
2024年9月25日(水)には、秋田でスキルリターン発表会を開催。今回は、当日実施されたトークセッションの様子をご紹介します。ゲストに秋田県産業労働部 地域産業振興課長の辻田氏、秋田県プロフェッショナル人材戦略拠点 マネージャーの菊地氏、株式会社宮腰デジタルシステムズ 業務部次長の辻田氏を迎え、秋田県を取り巻くプロ人材活用の実態について意見を交わしました。
人材確保が最大の課題となる中、プロ人材の活用が有効な選択肢に
鏑木: 「需要が加速する、プロ人材活用」 をテーマに伺っていきます。まずは、秋田県を取り巻く人材に関する現状についてお話をお聞きしたいと思います。
辻田(秋田県産業労働部):秋田県では、新型コロナウイルス感染症の流行が落ち着き、個人消費の回復などで景気が上向いてきたと思っていた矢先、ウクライナ危機に端を発するエネルギー価格の高騰、また最近では為替の急変動による原材料価格の高騰などが起きており、県内企業を取り巻く環境は非常に厳しくなっています。
そうした中で、秋田県内の企業からよくお話を聞くのは、最大かつ喫緊の課題が人材確保であるというものです。ご存じの通り、秋田県は高齢化率が全国一位※であり、若年人口が大きく減っている状況です。中小企業の人材確保は、非常に難しいものになっているといえます。
秋田県としましても、人口減少対策を最大の課題と捉えて取り組んでいるところです。産業労働部では、プロフェッショナル人材戦略拠点を平成27年に設立し、県内企業の生産性向上に役立つようなプロ人材の獲得を支援しています。
特に、企業の生産性向上に向けて昨今欠かせない存在となっているデジタル人材は、非常にニーズが高まっています。しかし、フルタイムで雇用するとなると移住を伴う転居が難しかったり、首都圏と地域の賃金格差の問題があったりと、フルタイムでの雇用に踏み切れない中小企業は少なくありません。
そうした中で、必要なプロフェッショナルの能力をピンポイントで活用できる「副業・兼業のプロ人材」に対する関心が非常に高まっています。プロフェッショナル人材戦略拠点でも、副業・兼業のプロ人材の活用に力を入れて支援しているところです。
鏑木:ありがとうございます。やはり人材難というところが地域における共通のテーマなのだとお見受けしますが、実際にプロ人材を活用された企業では、どのような課題に対してプロ人材を受け入れているのでしょうか。代表的なテーマはありますか。
辻田(秋田県産業労働部):プロ人材を活用する取り組みとしては、たとえばデジタル化を推進できる人材を受け入れて生産性の向上を図ったり、SNSを使ったマーケティングや販売戦略が得意な方を受け入れて戦略を立てたりと、地域ではなかなか獲得が難しい人材をピンポイントで活用している事例が挙げられます。
鏑木:ありがとうございます。人材難という課題の解決に取り組む中で、生産性はとても大切なキーワードになるかと思います。生産性向上に向けたアプローチとして、外部人材の活用、プロ人材の活用という手段が有効な選択肢になりそうだという印象はありますか。
辻田(秋田県産業労働部):その通りです。実際に、プロ人材を活用することで大きく生産性を向上させた企業も出てきています。
鏑木:秋田県を取り巻く人材に関する現状を踏まえて、次は具体的な取り組み事例について伺っていきたいと思います。
※「令和6年版高齢社会白書 4 地域別に見た高齢化」(内閣府)
企業を訪問しニーズを見つける。プロ人材の活用は急増中
鏑木:秋田県のプロフェッショナル人材戦略拠点ではどのような活動をされているのでしょうか。
菊地:プロフェッショナル人材戦略拠点は平成27年に発足し、秋田県の拠点は同年12月に立ち上がりました。プロフェッショナル人材戦略拠点は全国47都道府県中45道府県に設置されており、秋田県では公益財団法人あきた企業活性化センター内に拠点を置き活動しています。
プロ人材活用までの流れを説明しますと、まずは当拠点のサブマネージャーが企業を訪問し、直接経営者の方とお話します。さまざまな経営課題について議論を重ね、人材面で解決できる課題があれば、それを人材ニーズと捉え、私たちから人材ビジネス事業者に取りつないでいきます。
具体的には、全国に40社近くある人材ビジネス事業者の方々に企業の人材ニーズに関する情報を共有し、マッチするプロ人材を探してもらいます。その後、候補に挙がったプロ人材の中から企業が選定し、活用を進めていくというアプローチです。
秋田県内の企業におけるプロ人材活用の件数は、拠点の立ち上げ当時はまだ少なかったものの、ここ数年はかなり伸びてきています。特に、副業・兼業人材の活用を開始した3年ほど前から、急激に数字が伸びてきました。
実際の取り組み事例をご紹介します。1つ目は、湯沢市で味噌や醤油の醸造を行っている有限会社石孫本店さんの事例です。海外に向けた「昔ながらの醸造を伝える蔵」という点の情報発信、また蔵案内のマニュアル化を副業のプロ人材を活用することで推進しました。2つ目は大仙市で精密板金加工業を営むMEP株式会社さんです。生産管理システムと会計管理システムのソフト導入、そして工場の業務効率化に向けたDX推進を副業のプロ人材の活用によって進めていきました。
鏑木:お話にあった通り、プロ人材活用の件数が大きく伸びていると思いますが、特に増えているテーマや課題にはどのようなものがありますか。
菊地:やはり売上拡大が一番多いですね。たとえば、「販路を拡大したい」、なかでも「ECをやってみたい」「(BtoBの企業が)BtoCをやってみたい」というところから生まれる課題が多いように感じています。
鏑木:全国的にも、これまで対面販売でサービスを提供していた企業が新型コロナウイルス感染症の流行を経て、「ECなど新しいビジネスモデルを作りたいが、なかなか社内にノウハウがない」「外部からの人材確保も難易度が高い」というところでご相談が増えているようです。秋田県内でも、同様の流れになっているということですね。
菊地:本年は県から「首都圏副業・兼業プロ人材獲得促進事業」を受託し、パーソルキャリアさんに再委託するという形で「秋田de副業マッチング交流会」というイベントがスタートしました。首都圏在住のプロ人材を活用して秋田県内企業の経営課題解決を図るというテーマのもと、2023年10月に東京・京橋に開設した「秋田県あきた暮らし・交流拠点センター アキタコアベース」に集まってもらい、副業人材と企業のマッチングを行っています。「秋田de副業マッチング交流会」の第1回目は2024年8月に実施され、今後も2024年10月、2025年1月に開催予定です。地方の副業・兼業に関心のある方は、ぜひご参加いただければと思います。
鏑木:「秋田de副業マッチング交流会」の第1回目は大盛況だったと聞きました。非常に多くの方が秋田県内企業の支援に興味を示されたということで、第2回目以降もしっかりとお手伝いさせていただければと思っております。
プロ人材の支援を受け、「グリーン調達」への対応を社内で完結できるまでに成長
鏑木:ここからは、実際にプロ人材を活用された企業のお話を伺えればと思います。株式会社宮腰デジタルシステムズの辻田さん、よろしくお願いします。
辻田(宮腰デジタルシステムズ):よろしくお願いします。宮腰デジタルシステムズは、産業用デジタル印刷機と加工機の設計・製造・出荷・メンテナンスを一貫して行っている企業です。印刷機のみならず、印刷物に穴を開けるなどの加工機まで製造しているのは、世界でも類を見ない会社であると自負しています。私の所属する業務部には、日々、社内のさまざまな相談事が舞い込んできます。今回プロ人材にご支援いただいたグリーン調達についても、業務部が担当部署になっています。
鏑木:外部のプロ人材を活用するという選択肢が当たり前とはいえない中で、宮腰デジタルシステムズさんでやってみようと考えた背景を教えていただけますか。
辻田(宮腰デジタルシステムズ):当社はOEM事業を行っており、EU市場・北米市場への輸出が多くあります。EUや北米に輸出するとなると、RoHSやTSCAといった化学物質管理などに関する規制に対応する必要がありますが、同領域についての知見がない状況でした。OEM先から資料を要求された際には、社内で手探りで対応してきたものの、どうしても手詰まりになることが多かったんです。そこで、「グリーン調達に関して知見や経験がある方をなんとか見つけて、教えてもらおう」と考えたところが始まりです。
鏑木:詳細まで詰めて依頼内容を決めるというよりは、率直に「助けて」というようなイメージでしょうか。
辻田(宮腰デジタルシステムズ):その通りです。「我々では知見がないので、何とか助けてください」という状況でした。
鏑木:まずは「助けて」という漠とした状態から始まったということですが、その後具体的にどのような業務をプロ人材の方に依頼されたのか、そしてその結果何が得られたのかについても教えていただけますか。
辻田(宮腰デジタルシステムズ):依頼業務は、管理化学物質に関するエンドユーザーへの対応を「社内で完結できる状態にする」を目標としました。グリーン調達に関する調査資料のデータベース化も視野には入れていましたが、少なくとも社内で対応を完結できる状態にはしておきたいという考えで、基礎知識のインプットや実務へ落とし込むためのサポートを依頼しました。
鏑木:プロジェクト全体を一任するというよりは、社内でその業務に対応できる状態を作るというところが狙いだったということですね。
辻田(宮腰デジタルシステムズ):そうですね。社内で私含め3名がプロ人材からの支援を受けましたが、そのうちの一人は、最終的に自部門の講師を担当できるレベルまで知識を身に付けたので、その結果に驚いています。
鏑木:プロ人材活用の満足度としてはいかがでしたか。
辻田(宮腰デジタルシステムズ):大満足です。ご支援いただいたプロ人材の方の人となりも非常によかったですね。社内にまったく知見がない中で、どんな初歩的な質問にも丁寧に答えていただけたので非常に助かりました。
鏑木:地域や企業に想いのある方がサポートに入ると、上から一方的にアドバイスするというより、企業の皆様と一緒に動いていくという取り組みになることが多いですね。そのあたりが良かったのかもしれません。
辻田(宮腰デジタルシステムズ):おっしゃるように一方的なアドバイスを受けるなど、私たちが完全に受け手になってしまうと身に付かないだろうと考えました。抱えている問題点や知りたいことをまずは社内で整理し、プロ人材の方に伝えておく。そのうえで、Web会議を行い、事前に伝えた質問や疑問への回答を含め講習をしていただくというスタイルで進めていました。
鏑木:今回のプロジェクトに参画されたのは、首都圏の方だと伺いました。対面でもやりとりされたのでしょうか。
辻田(宮腰デジタルシステムズ):埼玉にお住いの方でした。対面でも数回やりとりをしましたが、ほぼWeb上でのコミュニケーションでした。
鏑木:Web上でうまくやりとりができるものでしょうか。そのあたりも、プロ人材の活用を検討されている地域の企業が不安に感じるポイントかなと思います。
辻田(宮腰デジタルシステムズ):まったく問題なかったです。ただ、先ほどもお伝えした通り、事前の準備が大切になるかと思います。単に「教えてください」というスタンスでは、教える側も何を教えていいのか分からないはずです。企業側で何が課題なのかを洗い出して、コミュニケーションを取れたのが良かったのだと思います。
鏑木:外部のプロ人材を活用する上で一つの課題となるのが、「リモート」でのやりとりだと感じています。現地まで毎日・毎週来てもらうとなると対応できない方が多くなる中で、リモートをうまく組み合わせていくことで、距離に関係なく専門性を活かせるようになるのだと改めて実感しました。
本日は、秋田県を取り巻く環境と、その中でのプロ人材活用の取り組み、さらに宮腰デジタルシステムズさんにおけるプロ人材活用事例についてお話を伺いました。皆様、本日はありがとうございました。
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