熊本県内企業におけるプロ人材活用 ~かねくら株式会社、株式会社フジバンビの活用を知る~

人材不足が深刻化する中、特に地域の企業では、必要なスキルや経験を持つ人材の確保が難しい場面は少なくありません。こうした現状を受け、人材確保の新たな解決策として、外部のプロ人材を活用する動きが生まれています。
「HiPro」では、個人が持つスキルがさまざまな企業で柔軟に活かされ、個人も企業も成長し続ける「スキル循環社会」の実現を目指しています。2023年6月に始動した「スキルリターン」プロジェクトは、都市部で専門的な経験を積んだプロ人材と地域企業をつなぎ、事業課題の解決を図るとともに、地域企業と経済の発展に貢献する取り組みです。これまで全国8府県でプロジェクトをスタートさせ、今回新たに熊本でのプロジェクトをスタートしました。
2025年7月1日には、熊本でスキルリターン発表会を開催しました。今回は、当日実施したトークセッションの様子をレポートします。ゲストとしてプロ人材活用実績のある県内企業、かねくら株式会社 代表取締役の反後氏、株式会社フジバンビ 代表取締役社長の松本氏を迎え、プロ人材活用の経緯、成果など生のお話をお聞きしました。
ECサイトの売上伸長/自社製品の賞味期限延長にあたり、プロ人材を活用。

鏑木:ここからのトークセッションでは、実際にプロ人材を活用された経験のある企業にご登壇いただき、「熊本県内企業におけるプロ人材活用」をテーマに、かねくらさん、フジバンビさんが実際にどのように活用し、どのような成果を得られたのか、お話を伺います。まずはゲストのお二人から、自己紹介と企業の説明をお願いいたします。
反後:皆様、こんにちは。かねくら株式会社の代表を務めています、反後人美と申します。当社は創業75年を迎え、私は3代目です。当社ではオーガニック商品に特化した「ピュアリィ事業」やオーガニック不動産事業を展開しており、会場(熊本城ホール)から歩いて10分ほどのところで、築145年の古民家を再生活用したオーガニックショッピングモールを運営しています。また、2015年にくまもと環境賞、2016年には環境大臣賞(地域環境保全功労者表彰)を受賞しました。
鏑木:オーガニック商品を扱う「ピュアリィ事業」、そしてオーガニック不動産事業と、オーガニックに特化した事業を展開されていらっしゃるのですね。ご説明いただきありがとうございました。では、続きましてフジバンビさん、よろしくお願いいたします。
松本:皆様、こんにちは。株式会社フジバンビの松本でございます。当社は、熊本市北区で菓子製造業を営んでおりまして、主に「黒糖ドーナツ棒」というお菓子を作っています。本当に熊本県の皆様には応援していただいており、おかげさまで2023年のジャパン・フード・セレクション金賞などを始め、さまざまな賞を受賞させていただきました。今後もより安全で、よりおいしいお菓子を作っていきたいと思っています。本日はよろしくお願いいたします。
鏑木:熊本県で多くの人に親しまれているお菓子を製造・販売されているということで、ご説明いただきありがとうございました。さて、一つ目のテーマは「なぜプロ人材を活用しようと思ったのか」です。人材の確保にはさまざまな手法がありますが、その中からどうしてプロ人材の活用に至ったのか。その背景を伺えればと思います。
反後:熊本は2016年に熊本地震を経験し、その後にコロナ禍もありました。また、働き方改革などで労働環境も変わっていく中、当社でも人材の確保に長く悩み苦しんできました。当時はECサイトの売上伸長に関する経営課題がありましたが、社内にそれを解決できるスキルを持った人材はおりませんでした。そうした中、やはり熊本県内だけではなく、もっと広い範囲や視野で人材を求めたいと思ったのがきっかけです。
鏑木:フジバンビさんはいかがでしょうか。
松本:当社はお土産を中心に販路を築いてきましたが、新型コロナウイルスの大きな影響を受けました。その後、一般のお菓子市場へ進出しましたが、今度は賞味期限の課題が出てきました。現在の黒糖ドーナツ棒の賞味期限は120日、その他のドーナツ棒は90日です。お土産の場合はこの期限で問題ありませんが、一般のお菓子市場に出ますと、賞味期限は大体180日、6か月くらいが当たり前です。他社の商品と比べても賞味期限が短いため、「そこが課題ですね」と小売店の方からご指摘を受けていました。そこで今回、賞味期限の延長に取り組もうとなった時、専門性の高い人材の力を借りたいと思い、プロ人材の方にお願いしました。
鏑木:お二方とも、当時抱えていた課題の解決に向け、プロ人材を活用されたというお話がありました。人材採用の手法と比較をした場合、プロ人材活用はどのような違いがありましたか?
反後:今回、活用してみてよかったことは、とにかく成果が出るまでが早かったという点です。当時、実店舗の売上はコロナ過の影響を受けており、ECの売上を早く伸ばす必要に迫られていました。参画いただいたプロ人材のスキルはかなり高く、目標達成に向けて何に取り組むべきかという知見や改善の経験が豊富にあり、人間性も素晴らしい方でした。たった3か月という短い期間ではありましたけれど、プロ人材のおかげで成果をあげることができました。
鏑木:スピードというのは、本当によくいただくお言葉です。正社員雇用の場合は、どうしても入社までに要する時間が長い傾向にありますが、プロ人材活用はプロジェクトに参画するまでのスピードが早いので、その分成果が出るまでの時間も短くなる傾向にあります。プロ人材を受け入れる企業はまだ少ない一方で、プロジェクトに参画したいプロ人材は多く、一つの案件にたくさんの方が応募されることもあります。今回はそういった点でお役に立てたのかと思います。
プロジェクトをうまく進めるために、プロ人材の「人柄」がポイント。

鏑木:次のテーマは、「どのような人材にどのような業務を依頼したのか」です。先ほどのお話でも少し触れていただきましたが、改めましていかがでしたでしょうか。
反後:ECの売上を伸ばしたいという経営課題がありましたが、社内でスキルを持っているものがいませんでした。また、ECについて指導を仰ぎたいと、教育してくれる方も採用を含めだいぶ探しましたが、時間がかかる一方で、よい出会いには恵まれませんでした。かたや、世の中はどんどん進んでいってしまい、(当社の事業が)追い付けなくなってしまいますので、それならばと思い切ってプロ人材の方をご紹介いただくことに決め、最初に手を挙げてくださった方にすぐにご依頼しました。参画いただいたプロ人材には、ECサイトの改善や強化、当社のECサイト担当者への教育などを主に支援いただきました。
鏑木:フジバンビさんはいかがでしたでしょうか。
松本:当社の中にも、商品開発や品質保証を担当するメンバーはおりますが、賞味期限の延長に伴う試験方法をより慎重に再評価するためは、専門性の高い人材の力が必要でした。ただ、社員として採用するとなると、当社の規模ではコスト面で厳しいところがあります。そういった背景からプロ人材の活用を決め、今回は大手菓子メーカーで品質保証のご経験がある方に参画いただき、「賞味期限設定における試験方法の再評価」というピンポイントな業務をお願いしました。
人選にあたっては、「優しい人」というのがキーポイントです。どんなに専門性が高くても、どうしても上から目線で指導されてしまうと「しんどいな」という気持ちが生まれてしまいますが、今回は本当に優しい方に来ていただいてよかったと思います。
鏑木:人柄が大切なポイントだったということですが、実際に業務を依頼してみて社内の反応はいかがでしたでしょうか。フジバンビさんの場合は、高い専門性が求められるテーマであることに加え、賞味期限を延ばすという課題は社内でも一大テーマになると思います。そうしたプロジェクトに関わっていただくことに関して、社員の皆様はどのような反応でしたか。
松本:今までの賞味期限の設定は自社で行っていて、きちんと実行してきたつもりでしたが、果たしてそれが適切なものなのか。社員たちも、専門的な知見を持つ方に自分たちの行ってきたことを確認してもらいたいというところがあり、プロ人材活用の理由として受け入れていました。
鏑木:雰囲気や文化の違いなどで、コンフリクトというか、外部の人材を受け入れることによって社内で衝突が起こる、といった結果を想像されている方もいらっしゃると思います。そのあたりはいかがでしたか。
松本:そういったところも踏まえて、「優しい人柄」であることがそもそも人選のポイントだったと思います。専門的知見も大事ですけれど、お人柄を基準にさせていただきました。
鏑木:かねくらさんではいかがでしたか。人柄はやはり大事でしたか。
反後:その通りだと思います。当社がお世話になっているプロ人材も人間性の面でも素晴らしい方です。熊本ではなく関東在住の方でしたが、当社がポップアップショップの出店で東京に行くとすぐに来てくださり、熊本にも一度お見えになりました。ECサイトでは生鮮食品を扱っており、私たちは必ず産地へ出向きますが、そこにも一緒に来ていただきました。そういったコミュニケーションを経て、もともとご依頼予定だったEC領域のみならず、「事業全体をしっかりサポートする態勢が必要である」と、最初の段階で支援の幅を広げることを決めてくださり、パートも含めた従業員全員が非常に心を打たれました。
その後、オンラインでミーティングを重ねましたが、プロ人材がミーティングでお話してくださる言葉は、従業員を鼓舞してくださる内容ばかりでした。おかげさまで、社内の雰囲気もあっという間によくなりました。
鏑木:社員の皆さまがプロ人材を受け入れ、上手く連携していくためには、実際に事業を見て知っていただき、関わっていただくことが一つのポイントになるのだと、改めて感じさせていただきました。
貢献意欲の高いプロ人材を活用し、ピンポイントで課題を解決する。

鏑木:最後のテーマに移ります。「プロ人材との協業による成果と今後の展望」です。実際にご活用された経験を通してどのような成果が得られたのか。また、今後のプロ人材の活用・協業についてどのような展望を描かれるのか。こういう場面で活用したい、あるいはこういうところを直してほしいといったご意見も伺えればと思います。
反後:おかげさまで当社は、ECの出荷件数が倍に伸びました。当社は農産物などの生鮮食品を扱う関係上、在庫管理や受発注業務に専門性が求められます。大変なことも多々ありますが、そういった仕事に関しても、数字が伸びたおかげで社内のモチベーションが上がっています。よい方向に向かっていると思います。
鏑木:今後に関して、また違うテーマでプロ人材の活用を検討することはありますか。
反後:もちろんです。今回成果をお話したプロ人材には今も継続してご依頼していますし、経営課題はまだ他にもありますので、ぜひまた活用させていただきたいと考えています。
鏑木:フジバンビさんではいかがでしょうか。
松本:今回、プロ人材に来ていただいたことによって、当社の賞味期限の確認の仕方が適切であると評価いただきました。それをもって、この秋から出る商品につきましては賞味期限90日を120日に延長して販売させていただくことになりました。今後、安全を担保しながら賞味期限を延長できるようになったあかつきには、輸出にもチャレンジしたいと思っています。その折には、当社にはノウハウがないので、またプロ人材にサポートいただければと考えています。
鏑木:実際にご活用されたお二人から、これからプロ人材を活用する企業、あるいは活用するか迷われている企業に、もし一声かけるとするならば、おすすめのポイント、あるいは気を付けた方がよいポイントも含めてアドバイスをいただければと思います。
反後:プロ人材の方々は、報酬だけが目当てで来られているとは思えません。「自分のスキルを活かして、企業や世の中に貢献したい」という方がほとんどだと感じましたので、ぜひ活用なさってみてください。
松本:正直に申しますと、報酬が安くすむのは大きいと考えます。社員として採用すると無期雇用が前提ですが、今回は3か月、ピンポイントで課題にあたってもらいました。報酬を抑えながらも、課題を解決できることが、プロ人材活用のよい点だと思います。
鏑木:今、プロ人材として活躍したい方が非常に増えてきていますが、活躍できる場や機会はまだ少ない状態です。その一方で、経営課題を抱え、その課題にアプローチできる人材が確保できずに困っている企業はたくさんいらっしゃいます。今日のお二人のメッセージを踏まえ、当社も精一杯ご支援していきます。本日はありがとうございました。
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