グリーン成長戦略とは?14の重要分野について詳しく解説
カーボンニュートラル(温室効果ガスの排出を「全体としてゼロ」にすること)を2050年までに達成するために、「グリーン成長戦略」が策定されました。現在は、グリーン成長戦略の達成のために企業の参画が求められており、国によって具体的な計画提示や多様な支援がなされています。 当コラムでは、グリーン成長戦略について解説し、カーボンニュートラル社会実現に向けて特に重要とされる14の分野それぞれの具体的な計画を解説します。企業や社会全体の動向に影響を及ぼすグリーン成長戦略の詳しい内容を知りたい方は、ぜひ参考にしてください。 グリーン成長戦略とは グリーン成長戦略とは、カーボンニュートラルを達成するために作られた国の政策のことです。日本では、2050年までにカーボンニュートラルを目指すと宣言されていますが、その達成は容易ではありません。産業構造を根本から変革する必要があります。 環境を保護するカーボンニュートラルな社会実現を目指しつつ、同時に経済を成長させていくには、企業の協力が必要です。グリーン成長戦略の中には、目標達成に向けた大胆な投資や、イノベーションの開発をする企業への支援政策が記載されています。 さらに、「経済と環境の好循環」を生み出すために必要な、成長が期待できる14の産業分野における具体的な実行計画がまとめられています。 グリーン成長戦略策定の背景 日本は2020年に「2050年カーボンニュートラル」を宣言し、国を挙げて産業構造や社会経済の変革を目指すことになりました。そうした大きな目標達成のために作られたのが、グリーン成長戦略です。 地球温暖化対策を経済成長の制約だと考えず、積極的に対策に取り組むことで変革をもたらし、次の大きな成長につなげていくチャンスと捉える時代にシフトさせるという狙いがあります。 カーボンニュートラル実現のための取り組みは、日本だけではなく世界的に行われています。2022年10月時点で、年限付きのカーボンニュートラルの実現を表明している国・地域は合計で150以上にも及んでいます。 ※出典:「令和4年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2023)」/経済産業省資源エネルギー庁 カーボンニュートラルとは カーボンニュートラルとは、二酸化炭素など温室効果ガスの排出量を全体としてゼロにすることを指します。「全体として」とは、温室効果ガスの排出量を抑えて吸収量を強化することで、プラスマイナスゼロにするという意味です。 2017年時点で日本はCO2排出量の多い国として5位にランクインしており、国を挙げての積極的な対応が求められています ※出典:「2050年カーボンニュートラルの実現に向けた検討」(経済産業省) 社会全体としてカーボンニュートラルを実現するには、非化石電源の拡大や脱炭素化された電力による電化、合成燃料などを利用して脱炭素化を進めることが必要です。 排出量を削減するために克服すべき課題は多々あり、再生エネルギー活用のためのコストの削減、水素インフラの整備などが一例として挙げられます。 一方、温室効果ガスの吸収量を上げるための取り組みとしては、バイオ炭の農地投入やブルーカーボンの創出などが挙げられ、農林水産分野を中心に進められています。 ※参考:「2050年カーボンニュートラルの実現に向けた検討」(経済産業省) ※参考:気候変動に対する農林水産省の取組(農林水産省) グリーン成長戦略の実行計画について カーボンニュートラルの実現に向けて社会変革を起こすためには、民間企業の前向きな挑戦が欠かせません。そこで政府は、民間企業が挑戦しやすい環境を作るため、具体的な見通しや高い目標を掲げました。 成長が期待される14の重要分野で、企業の資産を投資に向かわせるための目標が設定されています。その実行計画として、2050年までの具体的な工程表が以下のとおり提示されました。 研究開発フェーズ:政府の基金+民間の研究開発投資 実証フェーズ :民間投資の誘発を前提とした官民協調投資 導入拡大フェーズ:公共調達、規制・標準化を通じた需要拡大→量産化によるコスト低減 自立商用フェーズ:規制・標準化を前提に、公的支援が無くとも自立的に商用化が進む ※出典:「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」(経済産業省) このグリーン成長戦略は、日本の国際競争力を強化しつつ、自立的な市場拡大につながるような具体策を検討していくことが意識されています。 政府が支援するグリーン成長戦略の具体的な施策 政府は、企業ニーズをカバーしたさまざまな企業支援や政策も用意しています。具体的には、以下のようなものです。 ● 10年間で2兆円のグリーンイノベーション基金を創設 ● カーボンニュートラル投資促進税制の創設 ● 多排出産業向け分野別ロードマップ策定/計画実行のための長期資金供給の仕組み・成果連動型の利子補給制度の創設 ● 新技術の需要を創出する規制改革/市場形成を見据えた国際標準化への取り組み ※参考:「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」(経済産業省) また、大学などの教育・研究機関と連携し取り組みの強化が進んでいる点も注目です。たとえば、民間企業・大学・研究機関・行政庁の若手有志による「グリーン成長に関する若手ワーキンググループ(若手有志の私的研究会)」の設置などが挙げられます。 グリーン成長戦略の14の重要分野 グリーン成長戦略の14分野について、2050年までのそれぞれの目標や今後の取り組み、生活におけるメリットなどを解説していきます。 1.洋上風力・太陽光・地熱 洋上風力市場は大量導入・コスト低減が現実的な再生可能エネルギーであることから、グリーン成長戦略の主力になりうるといわれています。2030年までに1,000万kWを、2040年までには3,000万〜4,500万kWを洋上風力の導入目標とし、国内外から投資を呼び込んでいます。 太陽光は2030年を目途に次世代太陽電池の開発が推進されています。商業施設や家庭の壁面に設置可能な水準を目指しており、実現すれば電気料金の節約につながります。 地熱も、次世代型の地熱発電技術の開発推進が進められおり、科学データの収集、温泉法など法制度の見直しによる開発の加速を目指しています。 2.水素・燃料アンモニア 水素は、カーボンニュートラルのキーテクノロジーとされ、発電や輸送など幅広い分野での活躍が期待されています。2030年に水素導入量が最大300万トン、2050年には約2,000万トンに達することを目標としています。 燃料アンモニアは燃焼してもCO2を排出しない燃料であり、水素社会への移行期において、主力となる脱炭素燃料だといわれています。国際的なサプライチェーンを構築し、東南アジア等への展開を中心とした世界のアンモニア供給の主導権を握ることが目標です。 3.次世代熱エネルギー 次世代熱エネルギー分野は、2050年までに都市ガスをカーボンニュートラル化することを目標としています。具体的な取り組みとしては、水素とCO2から合成される「合成メタン」の直接利用が考えられており、実現のためにも合成メタンの安価な供給が期待されています。 合成メタンは、既存インフラ・既存設備の活用が可能です。仮に新規インフラ投資ですべての設備を改修する場合、費用は約20兆円規模となり、年間14,000円の国民負担が見込まれます。現在の都市ガスの原料である天然ガスを合成メタンに代替すれば、それが不要になる計算です。 4.原子力 脱炭素技術の選択肢として実用段階にある原子力について、今後はさらに安全性が向上した小型炉(SMR)開発の着手が期待されています。 また、次世代原子炉といわれる高温ガス炉において、2030年までに大量かつ安価なカーボンフリー水素の製造実現に必要な技術開発が行われる予定です。 5.自動車・蓄電池 自動車・蓄電池産業では、2035年までに新車販売の乗用車を電動車100%にすることを目指しています。 それに向けた取り組みとして、公共用の急速充電器3万基を含む充電インフラ15万基を設置し、2030年までには現在のガソリン車並みの利便性を実現するのが目標です。 国民の生活との関わりでは、電動自動車によって移動の安全性や利便性が向上し、さらに電動車を“動く蓄電池”として活用すれば、災害時のリスク低減にもつながることが期待されています。 6.半導体・情報通信 半導体・情報通信産業では、2040年までのカーボンニュートラル実現が目標です。グリーンデータセンター(環境への影響を最小限に抑えながら最適なエネルギー効率を実現したデータセンター)の国内立地により、自動運転や遠隔手術といった新しいデジタルサービスを実現します。 また、次世代パワー半導体の実用化によって、電気料金負担が軽減することも期待されます。 7.船舶 船舶産業では、ゼロエミッション船(温室効果ガス排出ゼロの船舶)の実用化に向け、LNG・水素・アンモニアなどのガス燃料船開発を推進する取り組みがなされています。 当初は、2028年までのゼロエミッション船の商業運航実現が目標でした。しかし、現在は予定を前倒しして、実証事業を2025年に開始することを目指しています。さらにLNG燃料船の高効率化のために低速航行や風力推進システムと組み合わせ、CO2排出量の削減率86%を達成することが目標です。 8.物流・人流・土木インフラ 物流・人流・土木インフラ産業では、電動車の普及や建設機械の動力源の見直し、ドローン物流の実用化などを推し進めます。 さらに、グリーンインフラによって、海水貯留・浸透等の防災・減災や、人々にとって健康でゆとりのある生活空間の形成を目指します。また、グリーンインフラの実現によって都市の緑化が進むことで、ヒートアイランド対策にもなります。 MaaS(従来の交通サービスに自動運転やAIなどのテクノロジーを掛け合わせた次世代交通サービス)の社会実装など、まちづくりと連携した公共交通サービスの実現は、高齢者に高い利便性をもたらすでしょう。 9.食料・農林水産業 食料・農林水産業では、生産力向上と持続性の両方をイノベーションで実現させるため「みどりの食料システム戦略」という新たな政策方針を策定しました。この戦略に基づき、サプライチェーン全体において、カーボンニュートラル実現に向けた革新的な技術・生産体系の開発を推進しています。 具体的には、次世代有機農業の技術の確立や、農林業機械や漁船における電気化・水素化技術の確立などの取り組みが期待されます。 10.航空機 航空機産業では、2030年までに電動化向けの技術の確立を目指しています。また、水素航空機の本格的な導入に向けた、コア技術の研究開発や水素供給のインフラ整備の計画もされています。 電動航空機の普及により、環境への配慮だけでなく、騒音が低減されることで乗客の快適さや空港周辺住民の暮らしやすさの向上も期待されます。 11.カーボンリサイクル・マテリアル カーボンリサイクルとは、CO2を資源として有効活用する技術のことで、カーボンニュートラル実現にあたって重要な技術です。 カーボンリサイクルの普及が進めば、消費者の環境配慮意識や、長寿命などのニーズに合わせたコンクリート製品や建築物の提供が可能になるとされています。 12.住宅・建築物・次世代電力マネジメント 住宅・建築物は一度建築すると長期的にストックされるため、喫緊で取り組むべき分野とされています。 具体的な取り組みとしては、住宅における省エネ基準適合率向上に向けた規制的措置の導入検討や、非住宅・中高層建築物の木造化推進などです。また、2050年までに住宅やビルのゼロエネルギー化を実現することで、一般家庭やビルオーナーが負担する光熱費の節約を目指します。 13.資源循環関連 資源循環関連では循環経済への移行を進め、温室効果ガスの排出量を2050年までに全体としてゼロにすることが目標です。廃棄物からエネルギーを効率的に回収し、発電や熱、バイオガスとして利用する取り組みがすでに進んでいます。 今後、さらなる技術の高度化や低コスト化が推進されることで、安定的な電力や熱の供給、廃棄物処理施設の防災拠点化が実現されるでしょう。 14.ライフスタイル関連 ライフスタイル関連では、市区町村規模で温室効果ガスの排出分布を測定する大気モデルの開発や、排出量の変化を時間単位で把握するシステムの構築が推し進められ、地球環境ビッグデータが利活用されるようになります。 その結果、脱炭素化のさまざまな取り組みが実際の効果測定によって評価され、実装や普及に向けた動きに役立つことが期待されます。 デジタル化やシェアリングによって、国民それぞれがカーボンニュートラルで快適な生活の実現に向かっている点にも注目です。 ※引用/参考:「グリーン成長戦略(概要)」(経済産業省) まとめ グリーン成長戦略が策定された背景や国による具体的な施策、目標達成に向けて特に重要視される14分野について解説してきました。 2050年までのカーボンニュートラル社会実現に向けた取り組みは世界的に行われており、各分野で高い目標が掲げられています。今後も国によるさまざまな支援がなされ、より多くの企業が参画していくでしょう。 当コラムを参考にグリーン成長戦略の大枠を把握し、カーボンニュートラル社会の実現に向けた取り組みを行ってみてはいかがでしょうか。