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リカレント教育とは?仕事に必要な知識や技能を学び直す重要性

リカレント教育

私たちが社会の変化に対応していくには、知識・スキルの継続的なアップデートが必要です。

そのような背景から、社会人になってからの学び直しを意味するリカレント教育という言葉が注目されています。

国の制度としても、文部科学省を中心に社会人やリカレント教育のニーズに応えるためのプログラムが実施されています。しかし、リカレント教育を推奨している日本企業はまだ少なく、導入が進んでいない状態です。

今回は、リカレント教育の概要や現状、重要視されている背景を紹介するとともに、企業がリカレント教育を導入するメリットも解説します。スムーズに導入するためのポイントや実際にリカレント教育を導入している企業例も紹介しますので、企業の経営や人事を担っている方はぜひ参考にしてみてください。

リカレント教育とは、学び直しという意味

リカレント教育

リカレント(recurrent)には繰り返す、循環するという意味があります。リカレント教育とは、社会進出後も必要なタイミングに合わせて教育を繰り返すことです。

日本では小学校や中学校の義務教育期間や高校、大学などの学校生活を終えると、教育により学ぶ機会はほとんどありません。しかし、社会状況のめまぐるしい変化に対応していくため、社会人にとっても学ぶ機会の大切が注目されるようになりました。

リカレント教育の目的

リカレント教育は、国でも厚生労働省・経済産業省・文部科学省でそれぞれ制度化され、推奨されていますが、取り組みの目標は異なります。

共通しているのは、国民1人ひとりのキャリアアップやキャリアチェンジを支援し、企業競争力向上に役立つリカレントプログラムの開発・展開に取り組むことです。どの機関でもリカレント教育の目的は共通しています。

リカレント教育で学ぶのは、就労で活かされる知識や技能

リカレント教育では、資格の取得やビジネスに関する知識を得るため、主に自身の仕事に関連した内容を学びます。例えば、MBA(経営学修士)や社会保険労務士などの資格、経営学や法律などの科目、外国語や内部監査に関するスキル・知識を学ぶ人もいるでしょう。

経営から法務や財務、ITやマーケティング、語学など、リカレント教育を通して学ぶ内容・分野は人によってさまざまです。自分のありたい姿や目指すキャリアに必要な内容を選びます

リカレント教育の歴史

リカレント教育が世界に広まるきっかけとなったのは、1969年にスウェーデンの文部大臣であるオロフ・パルメ氏による提唱です。社会人が義務教育を終えたあとでも、生涯にわたって労働と労働以外の活動(余暇・趣味など)を交互におこなう考え方として、世界中で広く認知されるようになりました。つまり、世界で知られているリカレント教育は、労働に必要な学習に限ったことではありません。

その後、リカレント教育は世界経済や社会状況などの影響を受け、概念や理念を変容しながら、各国に浸透していきます。日本では2010年代の後半から注目されるようになりましたが、世界と日本ではリカレント教育の概念に多少のズレがあるのが実情です。

日本でのリカレント教育と生涯学習の違い

リカレント教育は必要なタイミングで学び直しを行うことです。リカレント教育の対象は労働にとどまらず、労働以外の余暇や趣味のための学習も含まれます。

しかし、現在の日本では、リカレント教育と生涯学習は別ものとして扱われています。リカレント教育は、労働に必要なスキルや知識を身に付けるための学習、生涯学習はカルチャーセンターで学ぶような趣味や教養に関する学習を含めたあらゆる学習のことです。生涯学習の一部にリカレント教育があるとイメージするとわかりやすいかもしれません。

リカレント教育が重要視されている背景

昨今、世界でリカレント教育が注目されている背景は、平均寿命の変化や技術革新など複数の要素にあります。

平均寿命の変化による人生100年時代の到来

これまでの日本では、人生は教育・仕事・引退の3つが時間軸に沿って流れる“単線型”として考えられてきました。

しかし、平均寿命が伸び、人生100年時代と呼ばれるようになりました。少子高齢化社会が進んだ影響で、働きながら将来のキャリアを見つめ直し、新たな段階に挑戦するマルチステージ型が求められるようになります。

定年退職後の再雇用やライフイベント後に仕事復帰ができるよう、何歳でも知識やスキルを身につけられるリカレント教育が求められるようになりました。

インターネットやIT技術などの技術革新による市場の変化

インターネットやIT技術といった技術革新により市場変化は大きく変化し、日本古来の仕事の仕方やスキルでは通用しない場面が増えました。例えば、AI技術やDX(デジタルトランスフォーメーション)などの新しい概念に対する理解や対応には、知識や経験をアップデートするため新たな学習が不可欠です。

今後も、技術革新による新しい技術や、今まででは考えられなかったような概念が次々と出てくるでしょう。そんな技術の登場やそれにともなう市場変化にスピード感をもって対応していくため、働きながら教育を受けられるリカレント教育は重要です。

雇用形態の変化・雇用の流動化

今やキャリアアップを目的とした転職は一般化し、昔と比べて副業や兼業をしている人も増えています。フリーランスとして活躍する人や、新卒一括採用を取りやめる企業が増えるなど、いわゆる働き方・雇用のあり方が変化してきています。

ビジネスパーソンは学びの機会を増やすため、企業は優秀な人材が流出することを防ぐため、働きながらでも新しい分野を学べるリカレント教育が求められるようになりました。

人材不足の解消

企業における人材不足もリカレント教育が求められるようになった背景の1つです。前述したとおり、少子高齢化が進んでいる現在の日本では、労働力不足は深刻な社会問題です。一方、人生100年時代といわれているとおり、定年退職後でも再雇用やキャリアアップを目指す方が増えています。

リカレント教育によって、ブランクのある方や定年退職した方を戦力にすることは、企業の人材不足解消に役立つでしょう。

日本でのリカレント教育の現状と課題

日本では、企業内での研修によって、必要なスキルや知識を習得することが一般的でした。しかし、リカレント教育の必要性が見直されてからは、省庁や大学でも新たな制度やプログラムが実施されるようになっています。

リカレント教育の現状

文部科学省では社会人や企業がリカレント教育をスムーズにおこなえるよう、日本の各大学・高等専門学校と協力し、職業実践力育成プログラム(BP)認定制度を展開しています。国に認定されている課程の数は2022年12月時点で390以上あり、仕事に必要なスキルや知識を幅広く習得可能です。

大学教育とは違い社会人の学び直しが目的で、企業に勤めている社会人でも受講しやすいように休日や夜間に開かれています。

また、国が展開しているプログラムとは別に、独自でリカレント教育推進のための制度を整備している大学も増えています。例えば、社会人を対象とした大学および大学院への編入や夜間大学の整備などがあげられるでしょう。実際に、社会人の大学入学も増えています。

※出典:職業実践力育成プログラム(BP)認定制度について(文部科学省)

リカレント教育をおこなう課題

国や大学がリカレント教育やそれにともなう制度の導入を進めている一方、企業や従業員にとってはまだ課題が多く、うまく活用できていないのが現状です。具体的には、以下のような課題があげられます。

企業のリカレント教育に対する課題

  • 従業員を大学に入学させるための制度や職場環境が整備されていない
  • 資金を調達できない
  • プログラムを従業員に周知できていない

従業員のリカレント教育に対する課題

  • 勤務時間が長くて学習の時間が確保できない
  • どうやって自分に合うカリキュラムを探せばよいのかわからない
  • 上司や同僚の理解を得られない

これらの課題がクリアにならない限り、企業でのリカレント教育の導入は難しいといえます。

リカレント教育を導入するメリット

リカレント教育の導入は、企業・従業員それぞれにメリットをもたらします。

企業側のメリット

企業側のメリットとして考えられるのは、以下のとおりです。

  • 生産性が上昇し、業績改善できる
  • 従業員のモチベーションが向上する

それぞれ詳しく解説していきます。

生産性が上昇し、業績改善できる

従業員が仕事に関するスキルや知識を身につければ、生産性の上昇が期待できます。チームや組織全体の生産性が上昇すれば、業績の改善にもつながるでしょう。リカレント教育による従業員の知識・スキルの習得は、企業としてのDX推進にも有効です。

従業員のモチベーションが向上する

従業員1人ひとりが知識やスキルを活かして企業に還元すれば、従業員の働きがいにつながります。リカレント教育による生産性の向上や業績の改善は、従業員のモチベーション向上にも効果的といえるでしょう。

従業員側のメリット

一方、リカレント教育の導入は従業員にとってもメリットが多いです。

スキルアップし、専門性が高い職種につける

社会人になると、学びの機会は多くありません。しかし、リカレント教育が企業に導入されれば、働きながらスキルアップを目指せます。近年、技術革新により専門性の高い知識が求められるようになりましたが、リカレント教育は知識の定期的なアップデートにも役立つでしょう。

年収アップにつながる

専門的なスキルや知識を習得すれば、年収アップも目指せます。実際、内閣府が2018年に発表した年次経済財政報告では、自己啓発を実施した人と実施しなかった人では、2〜3年で10万円以上の年収差となる結果が出ています。

※出典:平成30年度 年次経済財政報告(内閣府)

企業がリカレント教育を導入する方法

リカレント教育の導入は企業・従業員ともにメリットが多い反面、準備が不足すると正しく機能しません。リカレント教育をスムーズに導入するための準備や方法を紹介します。

1.従業員の学習環境を整える

まずは、従業員の学習手順を整えることが大切です。社内で教材やカリキュラムを用意すると時間や工数がかかりますが、国や外部企業が提供している学習ツールの使用で簡単に環境を整えられます。

文部科学省でも、社会人の学びを応援するポータルサイト「マナパス」を提供しています。導入段階で多額の初期費用をかけたくない場合は、無料で学べるオンライン講座もおすすめです。

2.社内の評価制度や休暇制度を整える

リカレント教育で高いスキルや知識を習得しても企業に正しく評価されなければ、キャリアアップや年収アップを目指して他社に転職してしまう可能性もあります。リカレント教育の導入と同時に、それに沿った評価制度を整えましょう。

また、リカレント教育の制度を導入しても、学習の時間が得られなければ利用する従業員は増えません。

できるだけ多くの従業員の理解を得るためにも、評価や休暇に関する決まりごとやルールを事前に制度として落とし込み、従業員に説明しておきましょう。

3.実施の対象とその目的を明確化する

企業がリカレント教育を導入する目的は、従業員のスキルや知識を向上させ、生産性向上や業績改善を行うことです。誰を対象として何のために実施するのか、明確にする必要があります。

例えば、特定業務をおこなう社員にはスキル向上のため業務に直結した学習内容を、管理職や中堅社員にはキャリアパスを見越した発展的な学習内容がおすすめです。対象や目的の明確化によって、従業員が自身に適切な学習を選ぶことにもつながります。

リカレント教育で活用できる給付金・助成金

リカレント教育の導入にはコストがかかりますが、給付金や助成金の活用によって費用に関する導入課題を解決できます。学びやすい環境整備のために国が用意している給付金・助成金を紹介します(2023年1月時点情報)

人材開発支援助成金

人材開発支援助成金は、厚生労働省が実施する8つのコースに分かれた助成金制度です。

  • 特定訓練コース
  • 一般訓練コース
  • 教育訓練休暇付与コース
  • 特別育成訓練コース
  • 建設労働者認定訓練コース
  • 建設労働者技能実習コース
  • 障害者職業能力開発コース
  • 人への投資促進コース
  • 事業展開等リスキリング支援コース

いずれも正規雇用の従業員が仕事に関する専門的知識や専門的技能を身に付けることが目的です。

※出典:人材開発支援助成金(特定訓練コース、一般訓練コース、教育訓練休暇等付与コース、特別育成訓練コース、人への投資促進コース、事業展開等リスキリング支援コース)(厚生労働省)

教育訓練給付金

教育訓練給付金は、厚生労働大臣が指定する教育訓練を修了した際に、受講費用の一部が支給される制度です。働く人々の主体的な能力開発やキャリア形成を支援し、雇用の安定と就職の促進が目的です。レベルに応じて、以下の3種類が用意されています。

  • 専門実践教育訓練
  • 特定一般教育訓練
  • 一般教育訓練

英語検定やITパスポートなどの資格取得を目指したコースから、より専門的なスキルや知識に対応したさまざまな講座が用意されており、内容に応じて20〜70%の助成が受けられます。

※出典:教育訓練給付制度(厚生労働省)

高等職業訓練促進給付金

高等職業訓練促進給付金は、ひとり親の方が、国家資格や民間資格の取得を目指して修業する期間に生活費を支援する制度です。生活費の負担軽減や容易な資格取得を目的としていて、訓練期間中に月額7.5万円〜最大14万円が支給されます。

※出典:高等職業訓練促進給付金のご案内(厚生労働省)

リカレント教育を導入している企業例

実際にリカレント教育を導入している企業もあるため、ご紹介します。

IT業界/A社の事例

IT企業A社では、リカレント教育推進の一環として、退職後6年間であれば復帰可能とする制度を実施しています。転職や留学などの理由で企業を一度離れた従業員でも、いわゆる出戻りが可能に。その期間で得た知識やスキルを持って戻ってくることで、組織としての成長も目指しているそうです。

デジタルエンターテイメント業界/B社の事例

デジタルエンターテイメントサービスを提供するB社では、従業員のスキルアップを目的として、さまざまな制度を福利厚生として提供しています。例えば、社内で英語を学べる英会話教室や、ビジネス書や自己啓発本の購入費用を補助する制度など。福利厚生として学びの場を提供し、リカレント教育で学んだことを日々の業務に役立てるだけでなく、従業員自ら学びの場を得られているそうです。

まとめ

本記事では、社会人になっても自分の仕事や経験に合わせて必要な教育を受け続けるリカレント教育について解説しました。市場の変化や技術革新、少子高齢化による労働力不足などを背景に、日本でもリカレント教育に対する注目が高まっています。

しかし、リカレント教育を導入している日本の企業はまだまだ少なく、さまざまな課題があるのも見逃せません。リカレント教育の導入を成功させるためには、国の制度や助成金制度などの活用、そして導入前に目的を明確化したうえでの制度化が大切です。国が提供している学習ツールなどもうまく活用しましょう。

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