and HiPro [アンド ハイプロ]

プロ人材活用のリアルに迫る。~ゆずりは工務店におけるプロ人材活用とは~

株式会社ゆずりは工務店
代表取締役 楠元 高広
パーソルキャリア株式会社 鏑木 陽二朗・株式会社ゆずりは工務店 楠元 高広 氏

全国的に人手不足が深刻な課題となる中、特に地域の企業においては、必要とするスキルを持った人材の獲得が容易ではありません。そうした中、雇用という従来の手法に捉われない、新たな解決策として「プロ人材」の活用に注目が集まっています。

「HiPro」では、個人が持つスキルがさまざまな企業で柔軟に活かされ、個人も企業も成長を続ける「スキル循環社会」の実現を目指しています。2023年6月からは「スキルリターン」プロジェクトと称し、都市部で専門的な経験を積んだプロ人材と地域の企業をつなぎ、地域企業・経済発展に貢献する取り組みを開始しました。これまで鳥取・山形・福岡・広島で取り組みを行っており、今回新たに京都でのプロジェクトをスタートしています。

2024年7月4日(木)には、京都でスキルリターン発表会を開催しました。今回は、当日実施したトークセッションの様子をご紹介します。ゲストに株式会社ゆずりは工務店の代表取締役 楠元氏を迎え、プロ人材活用の実態について意見を交わしました。

プロ人材という新たな選択肢で、新規事業に必要な人材の獲得を実現

(ゆずりは工務店の事務所)

鏑木:最初に、ゆずりは工務店さんがどのような事業を展開されているのか、ご紹介いただけますか?

楠元:2020年に創業し、まずはリフォーム事業から始めて、翌年には新築の注文住宅事業もスタートさせました。2023年からは、事業再構築補助金の補助事業として古民家再生にも取り組んでいます。

鏑木:ありがとうございます。ゆずりは工務店さんでは、事務所も古民家を再生した建物を活用されているんですよね?

楠元:はい。創業前、私が会社員のときから、ゆくゆくは地域再生や古民家再生事業に取り組みたいという想いを持っていました。事業として展開するのは将来的だとしても、取り組みの一つとして古民家を改装して活用したいと考え、私たちの事務所も古民家なんです。

鏑木:格好いい事務所ですね。早速、「プロ人材を活用してみてどうか」という点をお伺いする前に、「人材獲得に関する当時の課題感」について教えてください。人材獲得には採用をはじめさまざまな手段がある中で、ゆずりは工務店さんではどのような課題を感じていたのでしょうか?

楠元:まずは新規事業として古民家再生を始めるにあたって、新たに人材を採用しようと考えましたが、創業してまだ3年程というもあり、費用面で採用に大きくコストをかけるのは難しい部分がありました。今回取り組んだ京都・南山城村の古民家再生プロジェクトでは、当初自分たちで調べて進めようとしていたのですが、社内のリソースに限界があり、本業の工務店事業に支障が出てきてしまったんです。どうしようかと悩んでいたときに、プロ人材の活用のお話を聞き、ご縁をいただいたという経緯です。

鏑木:プロ人材の活用に至るまでには、採用などの手段もご検討されたんですね。

楠元:そうなんです。採用サイトを運営している企業などからもさまざまな提案をいただいたのですが、やはり費用の面で難しいという結論に至りました。

鏑木:人材獲得の方法にはさまざまな選択肢があったと思うのですが、今回副業という形でプロ人材の活用を選択された背景について、もう少し詳しく教えていただけますか?

楠元:取引先のメインバンクから「プロ人材の活用について興味はあるか」というお話をいただき、ちょうど困っていたところだったので、お話を伺うことになったんです。概要を聞いて、プロ人材であれば、大きなコストをかけずに少額の予算でも、スキルを持った人材とマッチングできる点に魅力を感じました。

ただ、最初は当社の規模でプロ人材を活用することに少し抵抗がありました。社内でも「社長は何を言っているのだろう」といった反応でして、プロ人材がプロジェクトに参画することを理解してもらうのは難しかったです。しかし、当社にない知識やアイデアを第三者の立場からアドバイスいただけるというのは大きな魅力で、必要性を強く感じていました。

オンラインでも「チームの一員」としての関係性を構築

鏑木:さまざまな企業様とお話をさせていただく中で、プロ人材を活用されていない企業様の多くは、「使ったことがないからよくわからない」「副業プロ人材の受け入れって実際どうなのだろう」という社内の反応があり、なかなか活用に踏み切れないという声をお聞きします。先ほども少し話していただきましたが、プロ人材に対する当初の懸念としては、具体的にどのようなものがあったのでしょうか?

楠元:やはり「非対面で面談し、活用を決定する」という点は、私自身少し抵抗がありました。取引先などとは、コロナ禍の影響もあり、オンライン会議システムを使ってコミュニケーションを取ることがありました。しかし、今回は共に新規事業をつくりあげていく一員と考えていたので、やはり最初は「コミュニケーションをうまく取れるのか」という点が気になっていました。

鏑木:仕事の進め方として、実際に不都合や、やりづらさもあったのでしょうか?

楠元:最初はお互いに少し気を遣う感じで始まりました。今もオンラインで進めていて、プロ人材の方と直接会ったことはありませんが、さまざまな意見をいただきながら、やりとりをさせてもらっています。関係性の構築は一からでしたが、現在プロジェクトの開始から3ヶ月経過しまして、今では「チームの一員」という感覚を持っていただけているのかなと感じています。

プロ人材の提案により、「情報発信の重要性」を再認識

​(プロジェクトで取り組んだ、古民家ワーケーション施設「ゆずりはの森」の内観)

鏑木:実際にどのような業務をプロ人材と協業されているのか、具体的な内容についてもお伺いさせてください。

楠元:古民家の再生は本業の工務店事業の得意とするところですが、再生後、ワーケーションもできる民間の簡易宿泊所として運営するにあたっては、お客様を集めるためのアプローチが必要になります。それをどのような方法で実現していくかという部分が一番の悩みでした。そこで、プロ人材の方からは「まずは施設のコンセプト・キャッチコピーを決めましょう」「プレスリリースを発信しましょう」という提案をいただきました。施設が山の方にあるという立地も考慮すると、さまざまな情報を発信して認知度を向上させる必要があるだろうと考えてくださり、実際プレスリリースの作成にも携わっていただいています。

鏑木:プロ人材の方からの提案は、社内では元々アイデアとしてあったものなのでしょうか?

楠元:社内では出てこなかったアイデアをたくさんいただいています。例えば、プレスリリースによる情報発信というのは工務店事業では普段取り組むことがありません。簡易宿泊所を経営するのであればそういった取り組みも大事だというのは、提案をいただかなければ社内ではなかなか出てこない意見だったと思います。

鏑木:会社として「よいものを作る」というところを大事にされている中で、作ったものをどう使うか、打ち出していくかというのは、自社だけで対応するには難しい部分があったのだと思います。その意味で、プロ人材の知見・ノウハウが活かされたわけですね。

プロ人材の参画がプロジェクトを加速させる

鏑木:今後の展望として、プロ人材などの「雇用とは異なる、人材活用」についてどのようにお考えですか?

楠元:現在プロ人材にお願いしている領域に加えて、施設の運営開始後の販促活動という部分で新しい取り組みを予定しており、また違う分野に強みを持つプロ人材の方をご紹介いただきたいと、今まさに相談させてもらっているところです。

鏑木:違う分野でも活用を検討されているのですね。一例目の活用の際には社内の反応として「大丈夫だろうか?」という声もあったとのことでしたが、二例目については、どのような受け止められ方をされているでしょうか?

楠元:そうですね。実際にプロ人材の方とやりとりをしているのは、私と社内スタッフ1名だけなので、社員全員がすべてを認知しているわけではないのですが、プロ人材の方が作成された資料を目にする機会もあり、「外部の人材が入る」ことでプロジェクトが進行していることは共通認識としてあると思います。そのうえで、次も別の領域でプロ人材にお願いしようと話をしています。

鏑木:社内メンバーにもプロ人材活用の有効性は感じていただけているわけですね。最後に、古民家ワーケーション施設「ゆずりはの森」が8月にプレオープンとお聞きしていますが、今後の展望を教えていただけますか?

楠元:当初からの目標であった地域再生・古民家再生の取り組みは、「あるものを利用して再生していきたい」という理念を掲げてやっています。「ゆずりはの森」は、築100年の古民家を再生した施設です。通常の工務店業務であれば、取り壊して建て替えるのがビジネスの観点からは一番手っ取り早く、利益も出ます。ただ、大きな梁が使われていたり、今では買えないような大きな柱があったりと古民家ならではの魅力があり、手を加えればまだまだ使える。空き家は社会課題にもなっていますので、今後も自治体の方と一緒になって、空き家問題の解決に取り組んでいきたいと思っています。

鏑木:すばらしい取り組みですね。今回はお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

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