ジョブローテーションのメリット・デメリットと導入の流れを解説
人材育成などの目的で、戦略的に職種や職場を変更する「ジョブローテーション」は、企業と従業員の双方にメリットがある制度です。一方で、教育コストが高くなるなどのデメリットもあるため、自社に導入するか迷う方も多いのではないでしょうか。
当コラムでは、ジョブローテーションの概要や人事異動との違いなどを詳しく解説します。向いている企業かどうか判断するポイントも紹介するので、ぜひ参考にしてください。
ジョブローテーションとは
ジョブローテーションの概要を解説します。人事異動との違いもあわせてチェックしましょう。
定期的に職場を異動・変更する制度のこと
ジョブローテーションは人材育成を目的とし、定期的に職種や職場を異動・変更する制度です。
一つの職種や職場を数年経験した段階で、部署を異動するか、部署を変えず異なる業務に携わるのが特徴です。従業員が多くの業務に触れることで、多様なスキルをもつ人材への育成につながります。
人事異動との違い
職種や職場を異動・変更するため、人事異動と混同する方もいるかもしれません。ジョブローテーションと人事異動の違いは実施の目的です。
従業員の役割や業務内容を変更するのは同じですが、人事異動は経営戦略をベースとした欠員補助や組織の活性を目的とする場合が多いです。たとえば、昇格や解雇などは人事異動に該当します。
一方、ジョブローテーションは人事戦略をベースとした人材育成を目的として配置転換が実施されます。
ジョブローテーションの目的
戦略的な職種や職場の変更には、複数の目的があります。自社に導入するかどうかの判断材料にするためにも、ジョブローテーションの効果・目的を理解しておきましょう。
幹部候補の人材育成
ジョブローテーションは、幹部候補の人材育成を目的におこなわれる場合があります。多くの職種や職場、業務内容を経験すると、業務に対する理解が深まるためです。さまざまな経験を通じて知見を広げることは、将来的に企業の中枢を担う幹部になったときにも役立てることができるでしょう。
新人教育と適正な配属の実現
効率良く複数の職種や職場を経験できるため、新人教育にも用いられます。多くの業務に触れることで、適性が見極められ、適材適所の配属が実現可能です。また、新人の能力開発だけでなく、モチベーションの維持にもつながるでしょう。
新人にとっては、自分がどの業務に合っているか適性を見つけるヒントになります。ジョブローテーションによって「どのようなキャリアを築いていきたいか」を考えるようになり、新人のキャリア形成がサポートにも寄与できるでしょう。
属人化の防止
ジョブローテーションには、業務の属人化を予防する役割もあります。一人の従業員が同じ業務に長く携わると、他の従業員が業務内容を把握しにくくなり、例えばその業務の担当者が退職した場合、業務の引き継ぎが膨大になりノウハウが継承されないなどのリスクがあります。
定期的に担当業務を変更し、特定の従業員しか理解していない業務を減らせば、属人化を防げるでしょう。
企業にもたらすジョブローテーションのメリット・デメリット
ジョブローテーションは、企業にどのようなメリット・デメリットをもたらすでしょうか。以下で詳しく解説します。
ジョブローテーションが企業にもたらすメリット
戦略的なジョブローテーションは、企業にさまざまな恩恵をもたらします。
従業員の適性を見極められる
ジョブローテーションを企業で導入・実施すると、従業員の適性を見極められるのがメリットです。また、ジョブローテーションを通じて、従業員の強みだけでなく弱みも明確になります。それぞれの従業員が力を発揮しやすい業務がわかれば、人員配置を最適化することができ、全体の業務効率を上げることも可能です。
新しいネットワークを構築できる
ジョブローテーションによる異動のたびにさまざまな従業員と交流が生まれるため、企業内で新たなネットワーク構築が可能です。今までかかわりがなかった人とコミュニケーションを取れることは、従業員にとってもプラスに働くことが期待できるでしょう。
従業員同士の関係性が深まると、部署間の連携が取りやすくなります。業務を円滑に進められるうえに、企業全体の雰囲気も良くなり、一体感が高まるかもしれません。
イノベーションが生まれやすい
ジョブローテーションによって、イノベーションが生まれやすくなるのも大きなメリットです。複数の部署や業務に携わると、知見が広がりやすくなります。特定の部署の経験しかない場合、新たな発想が生まれにくいかもしれません。その結果、イノベーションが起きにくく、企業全体の成長が鈍化しかねません。
しかし、ジョブローテーションで多種多様な経験を積めば、これまで思いつかなかったアイデアや課題に気付きやすくなるため、企業の更なる成長につながる可能性があります。
ジョブローテーションが企業にもたらすデメリット
ジョブローテーションが企業にもたらすデメリットを解説します。メリットだけでなくデメリットも把握することで、制度導入を決める際の判断がスムーズになるでしょう。
教育コストが高くなる
ジョブローテーションによって従業員の教育コストが高くなります。教育担当者を配置し、サポート体制を整える必要があるからです。異動のたびに教育が必要なため、受け入れる側の部署の生産性が一時的に低下する懸念もあります。
高度な技術や高い専門性は養成できない
ジョブローテーションは、高度な技術や高い専門性を身に付けた従業員の養成には適さないのがデメリットです。定期的に異動するため、一つの業務を極めることが難しいというケースがあるためです。ジョブローテーションはゼネラリストの育成には有効ですが、スペシャリストの養成には適さないでしょう。
転職・離職率が高まる可能性も
ジョブローテーションによって、転職や離職率が高まる可能性があります。従業員の中には、同じ業務を長期間経験したい人もいるでしょう。そのような人は、一定期間で職種や職場が変わると不満を抱く恐れがあります。
将来を期待して育成しても、従業員が離職してしまった場合、教育コストの損失は予想以上に大きくなります。制度の導入前には、従業員の意見にも耳を傾けることが大切です。
従業員にもたらすジョブローテーションのメリット・デメリット
ジョブローテーションによって複数の職種や職場に携わると、従業員にはどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。
ジョブローテーションが従業員にもたらすメリット
ジョブローテーションが従業員にもたらすメリットを詳しく解説します。
視野が広がる
ジョブローテーションにより、従業員の視野が広がります。複数の業務に携わると、新しい知識を身に付けられるためです。多くの人と交流を深められるのも大きな魅力です。人とのつながりが広がると、困ったときにはお互いに助け合うこともできます。複数の職種や職場で培った経験と広い視野は、キャリアアップにも役立つでしょう。
自分の適性を見つけられる
ジョブローテーションによって、従業員は自分の適性を見つけやすくなります。さまざまな職種や職場を経験すると、自分が本当にやりたいことを見つけるきっかけになるためです。
適性がわかると同時に、多くのスキルも身に付きます。ゼネラリストとして、あらゆる部署や業務に対応できる従業員になれるでしょう。
ジョブローテーションが従業員にもたらすデメリット
ジョブローテーションを実施することで、従業員がデメリットを被る恐れもあります。
専門性が身に付きにくい
ジョブローテーションを導入・実施すると、定期的に職種や職場が変更するため、従業員は専門性が身に付きにくいです。専門性を高めたい従業員にとっては業務に意義を見出せず、不満を抱く可能性もあります。
スペシャリストの育成を目指す場合、ジョブローテーションの導入は避けたほうが良いと考えられます。
ストレスの増大、モチベーションの低下
ジョブローテーションが、従業員のストレス増大やモチベーション低下につながるリスクもあります。ジョブローテーションを実施すると、従業員は異動のたびに新たな人間関係を構築し、業務を覚えなければなりません。そのためストレスを感じたり、成長を実感できないと感じたりする従業員が出てくる可能性もあります。
ジョブローテーションを導入する際は、従業員の意欲が低下しないようにサポート体制を整える必要があります。目的や必要性を適切に説明し、従業員が納得したうえで実施しましょう。
ジョブローテーションが向いている・向いていない企業
メリット・デメリットを踏まえ、ジョブローテーションが向いている企業と向いていない企業の特徴を紹介します。
ジョブローテーションが向いている企業
従業員数が多い大企業は、ジョブローテーションの導入に向いています。対象者を選びやすく、受け入れる側のサポート体制も整えやすいためです。
また、幅広い知識が求められる企業も、ジョブローテーションによる成果が得られやすいでしょう。部署や業務が多数存在する場合、従業員は多くのスキルを身に付けられます。
ジョブローテーションが向いていない企業
専門性の高いスキル・知識が必要な企業は、ジョブローテーションに向いていないといえます。ゼネラリストではなくスペシャリストを養成したほうが、業務効率が高まるためです。
従業員数が少ない企業も、ジョブローテーションの導入は避けたほうが無難です。小規模の体制で人材が頻繁に出入りすると、業務が立ち行かなくなることもあるため、生産性の低下が懸念されます。
ジョブローテーションの流れ
制度導入から実施までの具体的な流れを解説します。以下の順番に沿ってジョブローテーションを導入すると、スムーズに始められるでしょう。
1.対象者の選定
まずは、対象者を選定します。年齢や職務経歴などを分析し、ジョブローテーションで成果が得られそうな従業員を選びます。
対象者の意向や、キャリアに対する考え方などにも考慮が必要です。対象者と話し合う場を設け、実施する意義も丁寧に説明してください。
2.配属先・実施期間・目標の設定
各部署の希望や本人の意思を尊重し、配属先を選びます。実施期間や配属先で達成したい目標も定めましょう。実施目標を明確にすると、対象者のモチベーション向上につながります。
3.実施
準備が整ったら実施開始です。対象者が業務に集中できるよう、サポート体制を整えてください。目標への進捗状況や業務に対する意欲を対象者にヒアリングするなど、実施後も万全のフォローが求められます。
ジョブローテーションを成功させるポイント
制度を導入するだけでは、明確な効果を得られません。ジョブローテーションを成果につなげるためのポイントを解説します。
なぜやるのかを明確にする
職種や職場を異動する目的を明確にしましょう。目的があいまいだと、単に異動しているだけと変わらず、ジョブローテーションとしての成果は得られにくくなります。また、従業員のモチベーション低下につながるリスクもあります。
ジョブローテーションの対象者に、目的や意義を伝えることが必要です。目的を明確にして対象者に伝えたうえで、ジョブローテーションがうまく機能しているか定期的に確認しましょう。
定期的にエンゲージメントを確認する
ジョブローテーションを実施した際は、定期的に従業員のエンゲージメントの確認が重要です。面談や日々のコミュニケーションだけでは、対象者の気持ちを正確に把握することが難しいです。
対象者の本音がわからない状態のジョブローテーションは、過度なストレスを与えて早期退職につながる恐れがあります。ジョブローテーション継続の有無を判断するためにも、定期的にエンゲージメントを確認しましょう。
ジョブローテーションの導入事例
企業のジョブローテーション導入事例を3つ紹介します。成功事例を参考に、自社で導入するか検討してください。
運送業/A社の事例
運送業を営むA社は、入社後一定期間をジョブローテーション制度の対象にし、営業所や主管支店などの現場を経験するようにしています。
現場での経験は、顧客理解の促進やサービス改善や地域貢献につながるようなヒント得られる機会です。また、ジョブローテーション精度によって得た現場の経験は、後に事業企画やサービス企画などに携わった際も、活きてくると考えられています。
飲料製造業/B社の事例
飲料製造業のB社は、適材適所を重視しており、全社員一人ひとりが活躍できるようさまざまな人事施策を展開しています。会社や事業・部門をまたがっておこなわれるジョブローテーションも、一環としておこなわれているものです。
加えてさらなる適材適所を図るために、勤続年数に応じ社員全員を対象とした、人事との個別面談を定期的に実施する仕組みも整えられています。
まとめ
幹部候補やゼネラリストの育成に寄与するジョブローテーションには、新しいネットワークの構築やイノベーションの創出など、多くのメリットがあります。
一方で、導入方法によっては、従業員のモチベーション低下や早期退職につながる危険性もあります。あらかじめサポート体制を整えつつ、従業員の意向を尊重したうえで導入すべきかどうかを判断することが必要です。
ジョブローテーションの導入には、向いている企業と向いていない企業があります。自分の組織について振り返り、ジョブローテーション制度導入の必要性を考えてみてはいかがでしょうか。
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