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副業でもインボイス制度に登録する必要がある?これから始める人向けに分かりやすく解説

副業時のインボイス制度を表現する画像

副業を始めようと考えている方や、副業をスタートしたばかりの方の中には、「インボイス制度が自分に関係するのかよく分からない」という方も多いでしょう。しかし、インボイス制度は副業をするうえでも無視できない制度です。
本記事では、会社員が副業を行う際に「インボイス制度への登録は必要なのか?」が分かるよう、税理士監修のもと、制度の概要や副業におけるメリットとデメリットについて解説します。(2025年3月時点情報)

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インボイス制度の概要

副業時にインボイス制度を利用する際のイメージ

まず、インボイス制度とは何か、どのような事業者にとって重要なのかを確認しておきましょう。

インボイス制度とは

インボイス制度は、正式には「適格請求書等保存方式」と呼ばれています。2023年10月に導入され、消費税の仕入税額控除を受けるために「適格請求書(インボイス)」の保存が求められるようになりました。適格請求書を発行できるのは「適格請求書発行事業者」に限られ、この適格請求書を発行することで取引先は仕入税額控除を適切に行えるようになります。

今回の制度の重要なポイントは、「仕入税額控除を受けるためには、発行事業者がインボイス登録を受けていることが必須になった」という点です。取引先からすると、インボイスを発行できない未登録事業者との取引は消費税の負担増加につながる可能性があります。

課税事業者と免税事業者

インボイス制度を理解するうえで欠かせないのが、「課税事業者」と「免税事業者」の違いです。これは消費税法上の区分であり、副業を行う場合でも考慮が必要になります。

課税事業者とは、一定の売上高(個人は前々年、法人は前々事業年度の課税売上高が1,000万円)を超える事業者や、自ら課税事業者を選択した事業者が該当します。消費税を納める義務があり、仕入税額控除の適用を受けるために原則として取引先からインボイスを入手し、保存しておかなければなりません。

前々年の課税売上高が1,000万円以下の事業者は、自身で課税事業者を選択しない限りは免税事業者になります。免税事業者は消費税を納める義務がないものの、インボイス制度導入後はインボイスを発行できないというデメリットが生じることになりました。もし免税事業者がインボイスを発行したい場合は、課税事業者になる必要があり、結果として消費税の納税義務が生じます。

インボイス制度が副業に与える影響

取引先が課税事業者の場合、インボイスを発行できないと仕入税額控除を適用できず、取引先の消費税負担が大きくなります。副業でインボイス制度に注目が集まるポイントは、この点です。同じ条件の候補者がいた場合、消費税負担を抑えるためにインボイスを発行できる人を優先したいと考える可能性があるからです。

ただし、取引相手が免税事業者のケースではインボイス発行はあまり求められないでしょう。副業のスタイルや取引先の種類を見極め、インボイス制度との関わりを考えていくことが重要です。

インボイス制度開始に伴う経過措置

インボイス制度が始まってから一定期間は、適格請求書がない取引でも仕入税額控除が一部認められる経過措置が設けられています。具体的には、2023年10月1日から2026年9月30日までは80%、2026年10月1日から2029年9月30日までは50%まで仕入税額控除を受けられるという内容です。インボイス未登録事業者との取引による影響を緩和するための措置であり、課税事業者の税負担が軽減されます。

また、新たに課税事業者となる小規模事業者の消費税負担を軽減するための制度として、2割特例があります。2割特例とは、インボイス制度に対応するために登録を行った小規模事業者が、納付する消費税を簡易的に計算できる特例措置のことです。

通常であれば、売上に含まれる消費税額から経費の消費税額を差し引いて正確に計算しますが、2割特例では売上にかかる消費税額の2割を納めればよいため、税額計算や申告手続きの負担を軽減できるのが特徴です。2割特例の対象期間は「2023年10月1日から2026年9月30日までの日の属する各課税期間」となっています。

副業でもインボイス制度に登録する必要がある?

副業を行う場合、インボイス制度に登録する必要があるかどうかは「自身が課税事業者であるか免税事業者であるか」「取引相手が課税事業者か」の二点によって判断するのがよいでしょう。

自身が課税事業者の場合は「登録する必要がある」

もし副業の売上規模が大きく、すでに課税事業者になっているのであれば、インボイス制度に登録する必要があるといえます。課税事業者はもともと消費税を納める義務があるため、インボイスを発行するために必要な「適格請求書発行事業者」の登録を行っても、追加で負担が大幅に増えるわけではありません。

むしろ、インボイスを発行できるようになることで、取引先に安心感を与えられます。クライアントが課税事業者であれば、仕入税額控除を受けられることは大きなメリットであり、取引の交渉も進めやすいでしょう。

自身が免税事業者、取引相手が課税事業者の場合は「要検討」

副業の売上が1,000万円以下で免税事業者の方は、インボイス制度に登録することで消費税の納税義務が生まれます。そのため、インボイス登録によって税負担が増える可能性があります。一方で、登録しないことによるデメリットとして以下のような点も挙げられるため、よく検討することが大切です。

取引を敬遠される可能性がある

取引先が課税事業者の場合、インボイスを発行できない個人は取引を敬遠される可能性があります。なぜなら、インボイスを受け取れないと取引先は仕入税額控除を利用できず、結果的に負担する消費税が増えてしまうからです。同じ条件の候補者が複数いるなら、インボイス発行が可能な相手と契約したいと考えるのは自然でしょう。
特に競合が多い業界では、インボイスを発行できるかどうかによって取引の継続や新規契約の獲得に影響する可能性があります。

報酬を下げられる場合がある

インボイスを発行できないことで、取引相手から報酬引き下げの交渉をされるケースも考えられます。たとえば、仕入税額控除ができない分のコストを埋め合わせるため、消費税相当の金額を報酬からマイナスしようとするクライアントが出てくるかもしれません。一方的に引き下げを通知することは優越的地位の濫用として独占禁止法上問題となるおそれがあるため、一方的に引き下げられる可能性は低いですが、単価交渉の際に不利になる可能性はあるでしょう。

自身が免税事業者、取引相手が免税事業者や一般消費者の場合は「不要」

取引相手が免税事業者や一般消費者、もしくは簡易課税で消費税申告を行っている課税事業者の場合、インボイスの必要性はあまりないといえます。相手が仕入税額控除を適用しない、あるいは簡易課税で消費税申告を行っている課税事業者であれば仕入税額控除の適用にインボイスを用いないため、適格請求書の発行自体に大きな意味はありません。

たとえば、「副業でハンドメイド作品を個人向けに販売している」「個人を対象としたコーチングを行っている」といった場合、インボイス発行がなくても取引先に不利益が生じることはほとんどないでしょう。

副業でインボイス制度に登録するメリット・デメリット

インボイス制度へ登録する必要があるかを判断するためには、登録した場合のメリットとデメリットを理解することが欠かせません。

登録するメリット

インボイス制度に登録すると、課税事業者との契約交渉がスムーズになります。クライアントが仕入税額控除を受けられるため、商談や見積りの際に好意的に受け止められやすいでしょう。また、将来売上が増加した場合も、すでに登録が完了していればインボイス関連での新たな手続きが必要ありません。

登録するデメリット

インボイス制度に登録すると、免税事業者から課税事業者に変わることで消費税を納める義務が生じます。仕入税額控除を適用することで一部は相殺できるものの、税負担が増えることは間違いないでしょう。また、請求書への登録番号の入力や税務処理の手間が増える点もデメリットといえます。

副業でインボイス制度に登録しないメリット・デメリット

続いて、インボイス制度に登録しない選択をした場合のメリットとデメリットについても押さえておきましょう。

登録しないメリット

インボイス制度に登録しない場合、免税事業者として消費税納税義務がないため、手取り収入を維持できます。また、インボイス発行のための登録手続きや請求書への登録番号の記載が不要なため、副業の事務作業が簡略化され、本業との両立が楽になります。さらに、消費税に関する経理処理を行わなくてよいため、会計ソフトへの入力や納税手続きの負担も軽減されるでしょう。

登録しないデメリット

インボイス制度に登録しない場合、クライアントが課税事業者だと仕入税額控除を利用できずコストが増えるため、取引を敬遠されたり、報酬の引き下げを要望されたりする可能性があります。特にクラウドソーシングなどのオンライン取引では、インボイス対応を求める企業が増えており、副業の案件獲得や契約継続に不利になることも考えられるでしょう。

インボイス制度に登録する場合の手順

最後に、インボイス発行事業者になるための手順について簡単にまとめます。

課税事業者になる

インボイス発行事業者になるためには、まず課税事業者になる必要があります。そのため、「消費税課税事業者選択届出書」を税務署に提出しましょう。課税事業者になると消費税の申告や納付義務が生じるため、売上や経費に含まれる消費税を正確に把握して帳簿を整理し、手続きを行うことが求められます。仕入税額控除によって消費税の納税額はある程度減らせますが、経費が少ないビジネスモデルでは負担が増えることもあるため、自身の副業内容に合わせて事前にシミュレーションをしておくとよいでしょう。

ただし、2023年 10 月1日から2029 年9月 30 日までの日の属する課税期間中において、2023年 10 月1日後に登録を受ける場合には、適格請求書発行事業者の登録申請書に登録希望日を記載することで、その登録希望日から課税事業者となる経過措置が設けられています。この経過措置が適用される期間は「消費税課税事業者選択届出書」の提出は不要となります。

適格請求書発行事業者になる

課税事業者になったうえで適格請求書発行事業者になることで、インボイスの発行が可能となります。「適格請求書発行事業者の登録申請書」を税務署に提出し、発行事業者としての登録番号を取得しましょう。取得した登録番号や取引内容、消費税額などを請求書に適切に記載することで、取引先の課税事業者は仕入税額控除が可能となります。

まとめ

本記事では、会社員が副業を行う際に「インボイス制度への登録は必要なのか?」について、制度の概要や副業におけるメリットとデメリットを含めて解説しました。

副業においてもインボイス制度は無視できない制度であり、自身の売上規模や取引相手によって登録する必要があるかどうかを適切に判断する必要があります。登録することで消費税の納税義務が生じ、税負担や手間の増加につながるというデメリットはあるものの、取引先が課税事業者の場合は相手側の税負担軽減につながるため、契約内容や報酬の交渉を進めやすくなるかもしれません。

自身の副業内容に照らし合わせ、メリット・デメリットを踏まえてインボイス制度への登録を検討してみてください。

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安田 亮

公認会計士・税理士

1987年香川県生まれ、2008年公認会計士試験合格。大手監査法人に勤務し、その後、東証一部上場企業に転職。連結決算・連結納税・税務調査対応などを経験し、2018年に神戸市中央区で独立開業。

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