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個人や多様なパートナーとの共創を推進。KDDI research atelierが先進生活者と挑む「未来のライフスタイル」の創造とは

KDDI総合研究所

KDDI総合研究所の調査・応用研究拠点として開設されたKDDI research atelier。KDDIグループのアセットを活用しながら、国内外の企業や研究機関と共創し、中長期的な社会・生活者の課題の解消と、生活者一人ひとりに最適化されたライフスタイルの実現を目指しています。

そんなKDDI research atelierが、2021年8月に始動したのが「FUTURE GATEWAY (フューチャーゲートウェイ)」です。FUTURE GATEWAYでは先進的なライフスタイルを実践している生活者を「t’runner(ランナー)」と呼称し、彼らとの共創を通して、一歩先をいくライフスタイルの実現に取り組んでいます。

今回はFUTURE GATEWAYの立ち上げに携わったKDDI 総合研究所の木村さん、t’runner としてプロジェクトを推進する澤村さん、溝端さんにお話を伺いました。

先進生活者と同じ目線で、未来を考える

――企業同士の共創は増えていますが、企業と個人の共創はまだ珍しいですよね。FUTURE GATEWAY始動の背景を教えてください。

木村:KDDI research atelierでは、2030年を見据えて“未来のライフスタイル”の提案と実証による社会課題の解決を目指しています。しかし我々が「2030年にはこうしたライフスタイルになる」と発信したところで、企業発想の枠を越えませんし、生活者に受け入れられるかも分からないという懸念がありました。そんな折、既に新しいライフスタイルを実践している先進生活者がいらっしゃると伺い、彼らとコミュニティをつくり、我々はサポート役として、共に未来のライフスタイルを創造したいと考えました。

――企業によるトップダウンではなく、個人とタッグを組む方法を選択されたんですね。

木村:10~20年前なら、個人は企業からの提案を受け入れざるを得なかったかもしれません。しかし今はインターネットの時代。選択の幅が広がりましたし、海外では既に個人の発想からライフスタイルが変化したり、サービスやプロダクトが生まれたりすることも増えています。日本もいずれそうなるだろうと思うと、先進生活者と同じ目線に立ち、企業として後押しすることが大事だと考えました。それがFUTURE GATEWAYのはじまりです。

――t’runnerのお二人が参画した経緯も教えてください。

澤村:前職のパーソルキャリア時代に、木村さんの構想を伺ったのがきっかけです。しかしパーソルグループ内には木村さんの要望に対応できるサービスやパッケージがなかったため、オーダーメイドで構築する必要がありました。そこで当時、事業企画部で新規事業を担当していた僕が、携わらせていただくことになったんです。

――構想を聞いた印象はいかがでしたか。

澤村:数あるインキュベーション・オープンイノベーションの取り組みのなかでも、木村さんの「個人と同じ目線で取り組みたい」という考えは他に類を見ないと感じ、とても共感したのを覚えています。プロジェクトチームを組成するにあたり、誰に声をかけるか考えたのですが、「先進生活者」から発想したときに、各分野の先端にいる同世代に声をかけるべきだと感じました。そこで集まっていただいたのが、市橋正太郎さん(移動型ライフスタイル「アドレスホッピング」を提唱。Address Hopper Inc.のCEO)、加藤翼さん(株式会社qutori CEO)、そして今隣にいる溝端さんです。僕を含めた4人のカルチャーが、これから参画いただくt’runnerの共感を醸成していくと思ったので、それぞれがプロフェッショナルとして自走しつつも、共通の思想をもてるようなチームを目指していました。

溝端:僕は加藤翼さん経由でお話をいただきました。これまで事業開発や空間デザインの仕事を通して、「人の可能性を最大化する場づくり」に取り組んできましたが、やれることに限界を感じていました。個人で取り組む場合は、短期的な売上を追う必要があったりソースが少なかったりするため、良いアイデアがあっても本当にやりたいことをやりきることは難しい。企業で取り組む場合も、様々なステークホルダーが絡むなかで魅力的なアイデアを形にするのは難しい。そう思っていたので「生活者と研究者を繋ぎ、2030年に向けて魅力あるライフスタイルの選択肢をつくる」というFUTURE GATEWAYの方針を聞いて、とても共感しました。共創によって人の可能性を最大化できるかもしれない、FUTURE GATEWAYでしかできないことがあるはずだと思い、参画を決めました。

澤村:副業や業務委託で最初のプロジェクトが走り出すときは、要件が固まった状態で渡される傾向にあります。でも今回はFUTURE GATEWAYという名前すらもなくて、「何をやるかから一緒に決めたい」というご相談でした。余白が大きいプロジェクトのほうが皆さんワクワクするというのは分かっていたので、3人には「目指す目標から一緒につくれるプロジェクトだから、ぜひ受けてほしい」と伝えました。

木村:私たちが動くと私たちの知っている人しか集まりません。しかし今回、澤村さんに主導いただいたことで、共感やつくりあげていくワクワク感を起点として、素晴らしい皆さんに集まっていただけたと思います。

アップサイクルで、唯一無二を手に入れる選択肢を

――多様なプロジェクトが立ち上がっていると伺いました。

澤村:移動式サウナ、都市近郊型農業に関するものなど、約20のプロジェクトが動いています。僕と溝端さんが参加しているものでいうと「ごみを捨てるという概念を捨てる」を原点とした「GOMISUTEBA (ゴミステバ)」というプロジェクトがあります。不要になったり使われなくなったりしたものに、デザインや技術力で新たな価値を加え、製品として生まれ変わらせる“アップサイクル”をご存知でしょうか。このプロジェクトでは、本来捨てられるはずだったものを3Dデータ化して素材として閲覧できるようにしたり、素材同士の組み合わせを補助するジョイントモジュールを考案するなどして、アップサイクルの一般化を目指しています。

溝端:僕自身ものづくりを通して廃棄もしてきましたが、ものの価値を改めて考えたときに、大量生産品から選択するのではなく、自分でほしいものをつくりあげるライフスタイルがあると良いなと考えていました。都市のなかに様々な素材が眠っているものの、使われないのはそれらを活かす手段がないからだと思います。もしそうならば、技術さえ揃えばアップサイクルが生活に浸透していくのではないかと考えました。

プロジェクトでは、実際に廃棄物処理場やリサイクルセンターを回ったり、戸越銀座商店街の皆さんにご協力いただいて、不用になった家具を回収したりしたんですよ。回収した家具をデジタルアーカイブ化したり、家具同士のマッチングに必要なジョイントモジュールを3Dプリンターでつくったりして、誰でも簡単に組み立てられるようなキットを考案しました。家具のアップサイクルは元々の形状を残しながら再構築するものですが、卵の殻や雑紙を素材に戻して、それを原料に3Dプリンターで新たにオリジナルデザインの製品がつくれないかというチャレンジもしています。そのときは3Dプリンターのメーカーに伺って、素材や配合について相談させていただきました。

アップサイクルは自分で素材を採集して、自分で組み上げて、自分で使う面白さがあると思います。本当に愛着があって唯一無二なものを手に入れる、そんな選択肢を増やしたいと思ってプロジェクトに取り組んでいます。

澤村:「まずやってみる」というのがFUTURE GATEWAYの面白いところです。「GOMISUTEBAなんだから、ごみ捨て場行こうよ」って(笑)。手探りのなかでも、まず動いてみることで課題が見つかると思っています。ジョイントモジュールも、プロジェクトを進めるなかで出てきた発想です。現場に行って、課題を見つけて、社会実装のハードル越えるためにはどうすれば良いかを考える。それを繰り返しながらプロジェクトを成長させていますね。

――プロジェクトは現場で進められていくんですね。

澤村:FUTURE GATEWAYは「社会実装」ということを言い続けているのですが、テクノロジーがテクノロジーのままで置かれたり、アイデアがアイデアのままで終わることを、できる限りなくしたいと考えています。アイデアはKDDI総合研究所をはじめとした企業と接続してこそ、活かされる。だからこそ机上の空論ではなく、現場に出て共創していくことに意味があるのではないでしょうか。

――木村さんは「GOMISUTEBA」プロジェクトをどうご覧になっていますか。

木村:アパレル分野ではアップサイクルの取り組みが広がりつつありますが、他ではなかなか実装が進んでいなかったので、面白い取り組みだと思っています。関心をもつ人は多いですね。このプロジェクトでは3Dプリンターを活用していますが、そこに3Dプリンターアートのクリエイターが参画してくれたりすると、たとえば“アップサイクラー”という新しい職種が生まれるなど、マーケットが広がる布石になると思うんです。そうなればアップサイクルの一般化が前進するだろうと思うので、ぜひそのあたりも考えながら、プロジェクトを加速させていきたいですね。

検証から社会実装へ。一般化の加速を目指して

――FUTURE GATEWAYでは先進生活者との共創によってプロジェクトが推進されていますが、企業と個人の共創の面白さや魅力はどこにあると感じていますか。

澤村:企業と個人の共創によって、一人では完結できない大きなことを成し遂げられる面白さがあると思います。個の力が小さいという意味ではありませんが、やはり一人では限界も早くきてしまうので、集まる必要が出てくるわけです。企業はそうしたときに旗揚げという役割を担えると思いますし、特に日本のレガシー企業には圧倒的な技術力やブランド力があるので、個人のアイデアと融合されることで社会を変えるような挑戦ができると思っています。

溝端:僕も澤村さんに近いことを考えていましたが、個人と企業が補い合いながら関係を築けるのは大きな魅力ですね。t’runnerを見ていると、特出するスキルもあれば、苦手なところもあるというように、スキルのバロメーターが良い意味で偏っている方が多いと感じます。僕のスキルバロメーターも偏っていると思っていますが、でもその偏りは強みでもある。だからこそ、その強みを発揮できるよう企業が支えていったり、パートナーシップを組んで相乗効果を生み出したりしていくことに共創の大きな価値があると思っています。

木村:個人と共創するのは決して簡単なことではありませんが、しかしそれでも一緒にやりたいと思うのは、すごく拡がりの可能性を感じるからです。最初にもお伝えしましたが、t’runnerと組むことによって、より良くより早く、先進的なライフスタイルを生活者の皆さんにお届けできると思います。また、副業者をはじめ より多様な個の力を取り入れていくほうが、企業としても新たな発見と出会えるとも感じています。今後はそうやって個人との共創をスムーズにできるような組織、社会が求められていくのではないでしょうか。

――ありがとうございます。共創の魅力を感じながら今後もプロジェクトが進むと思いますが、最後に今後の展望を教えてください。

澤村:FUTURE GATEWAYは、やはりコミュニティドリブンなので、コミュニティの成長を望んでいます。t’runnerの要素をもつ方は世の中にたくさんいて、そういう方は普段の生活のなかでも「もっとこうしたら良くなるのに」と課題や解決法に気づいているはずなんです。せっかくのアイデアを頭のなかで留めるのではなくて、FUTURE GATEWAYという場を活用して発信していただきたいと考えています。ぜひそういう方に参画いただいて、コミュニティを成長させていきたいですね。

またコミュニティの成長には、t’runner の盛り上がりだけではなく、企業との融合を広げることも欠かせません。FUTURE GATEWAYではライフスタイルの変革を目指しているので、KDDI総合研究所のみならず、食や美容業界など多様な企業に参画いただけるよう動いていきたいです。

溝端:現状はワークショップを実施したり、プロトタイプをつくって検証したりというフェーズですが、今後は実際に生活者を巻き込む実証実験に進んでいきたいです。新しいライフスタイルの提案なので、やはり見ているだけでは理解できないことも多いと思います。ご紹介したGOMISUTEBAプロジェクトのアップサイクルも、実際につくるに関わってもらうことで、理解が進むはずです。実証実験を繰り返すことで、新しいライフスタイルを実践するコミュニティを大きくしていきたいですね。

木村:市橋正太郎さんが実践しているアドレスホッピングも当時はすごくニッチな存在でした。でも、今では広がっていて、アドレスホッパーをサポートする企業団体も生まれていますよね。本当に良いライフスタイルであれば、浸透していきます。現状は一般化されるまでに時間がかかる傾向にありますが、そのサイクルをもっと短期化していきたいですし、そこにFUTURE GATEWAYが介在したいと考えています。

実は、この一般化の加速には、GOMISUTEBAプロジェクトのところで話した「アップサイクラー」のように、新たな職業が生まれたり、お金を稼げるようになるといった「経済」につなげていくことが重要と考えています。経済活動として成立できるようになると、市場が一気に広がり、一般化が進む。我々のプロジェクトもニッチなものが多いですが、FUTURE GATEWAY発の新しいライフスタイルが、一つでも二つでも魅力的な生活様式として皆様に自然と実践してもらえるよう、今後も取り組んでいきたいです。

取材後記

SNSにおける個人の発信が新たな流行を生んだり、多様性が重視されたり、働き方においても副業・兼業・フリーランスの一般化が進むなど、近年「個の力」を感じる機会が増えています。これだけ個人の活躍できる場が増えているため、今後は企業活動においても、FUTURE GATEWAYのように個人に向いた取り組みが求められていくように思います。

企業と個人の共創事例はまだ多いとは言えませんが、今後広がりを見せることによって、新たなマーケットが次々に誕生していくかもしれません。そんな未来への期待を感じるインタビューでした。

and HiPro編集部

パーソルキャリア株式会社

and HiPro(アンドハイプロ)は、「『はたらく』選択肢を増やし、多様な社会を目指す」メディアです。雇用によらないはたらき方、外部人材活用を実践している個人・企業のインタビューや、対談コンテンツなどを通じて、個人・企業が一歩踏み出すきっかけとなる情報を発信してまいります。

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