社外との協働でつくりあげる、新たな商品開発の形。創業の地・広島で躍進する「Calbee Future Labo」の想いとは

カルビー株式会社

オープンイノベーションや外部人材の活用など、社外との協働が注目される今。その流れに先駆けて、数年前から取り組みをスタートさせているのが、カルビー株式会社です。

2016年4月、カルビーは創業の地・広島に、新たな開発拠点として「Calbee Future Labo」を開設。カルビーの新たな柱となるヒット商品の創造をミッションに、「圧倒的顧客志向」の理念のもと、社外との協働による商品開発を行っています。

数多くのヒット商品を世に送り出してきたカルビーが、新たなアプローチで挑戦を続ける理由とは。立ち上げの背景、協働の成果や想いを、リーダーを務める樋口謹行さんに伺いました。

生活者の声から紡ぐ、圧倒的顧客志向の商品開発」

――ポテトチップス、かっぱえびせん、フルグラ…。カルビーにはヒット商品が多くあります。ノウハウと実績を兼ね備えた既存の研究開発本部があるにもかかわらず、Calbee Future Labo(以下、CFL)が設立されたのはなぜですか。

カルビーには今おっしゃっていただいたような「柱」といえるブランド商品がいくつもあります。しかしそれらはいずれもロングセラー商品であり、実はここ数年、新たな柱が生まれていない状況でした。最後に柱といえる商品を発売したのが、2006年の「Jagabee」。つまりCFLが開設されるまでの10年間、新たな柱が生まれていないという危機感がありました。

もちろん研究開発本部のスタッフは新商品開発に日夜取り組んでいます。しかし急速な時代の変化など、さまざまな要因によって、思うような結果につながらない。そこで、新たなアプローチで商品開発に挑める場所を設けようと、CFLが立ち上げられたと聞いています。

――「圧倒的顧客志向」や「社外との協働」といった特長的なコンセプトは、どのように決まったのですか。

CFLの準備段階から「社外に開き、新たな視点や技術を取り入れていく」という方針は考えられていたようです。創業の地・広島に開設したのも、東京本社や宇都宮のR&Dセンターから物理的に離して、既存の文化や手法を超えた自由な発想で取り組める環境をつくりたかったためです。3人の立ち上げメンバーのうち、私以外の2人を食品業界未経験の方にしたのも、既成概念にとらわれないようにするためと聞いています。

ただ、それ以外は何も決まっておらず、ヒット商品をつくるというミッションはあるものの「どうやって進めるかは自分たちで考えなさい」と言われていました。立ち上げメンバーの中で唯一のプロパー社員だった私も、当時はまだ新卒3年目。正直不安でいっぱいでしたね。

CFLが開設した4月、ホワイトボードを買ってきて、CFLの方針や大切にしていきたいことを皆で議論するところから始まりました。3人しかいない。ノウハウも知識も食品業界へのコネクションもない。その状況でどうすればヒット商品をつくりだせるかと話し合いを重ね、到達したのが「自分たちだけでどうにかしようとするのはやめる。社外の人に手伝ってもらおう」「お客さまを知るために生活者の声を聴こう」という2つの考えでした。

後に現在のコンセプトにつながっていきますが、当時はまだ漠然としていて。考えているだけでは確信が持てないと、実際に生活者に話を聴きにいくことにしました。

――どのように話を聴きにいったのですか。

インタビューの形をとりました。最初に行ったのは「食に関するインタビュー」で、以前からつながりのあった広島県庁の方に協力いただき「お昼に何を食べていますか?」「なぜそれを選びましたか?」といった質問をしました。実際に話を聴くことで漠然としていたコンセプトの解像度が上がる一方、ヒット商品をつくるという視点で考えたときに「この内容では新しいものが生まれそうにない」という違和感もありました。

従来通りに食領域だけに目を向けていては新しい価値は生まれない。皆で議論し進めていくなかでその考えに辿り着き、そこから視野を広げてライフスタイル全般を尋ねる形式に変更しました。

変更後の手法は、事前に一週間の生活記録を書いていただき、それを基に質問するというもの。朝起きてから寝るまでの行動を紐解くことで、本人も気づかない潜在的なニーズを探っています。少しずつ掘り下げることで、日常にある不満や、解決できないと思っていた悩みを顕在化させる。そして、その不満や悩みに応える商品をつくりだすことが、私たちの目指す新しい価値だと考えています。

インタビューをはじめアンケートや試食など、商品開発に向けて共に活動してくださる方々をCFLサポーターと呼んでいるのですが、そうした生活者の皆さんに、日ごろから多くのアイデアをいただいています。

――樋口さんの後ろにある付箋の一つひとつに生活者の声が書いてありますね。商品発売にいたったものはありますか。

『にゅ~みん』は、睡眠に課題を抱える人が多数いる一方で、改善のための行動を起こせている人が少ないという気づきから生まれました。

すでに睡眠の質を改善する商品は多数販売されているにもかかわらず、改善への行動が起こせないのには、必ず理由があるはずだと深掘りしていきました。そこで考えたのが「水で飲む錠剤タイプの商品は、トイレが近くなるから使いにくい」「ベッドに入ってから飲み忘れに気づくから続かない」といったように、商品使用に対して何かしらの課題があるのではないかという仮説です。

ならば、課題を一つずつなくしていこうと商品開発を開始。結果として、水なしで摂取できるフィルム型の商品になりました。

――カルビーにはスナックやシリアルという印象が強いため、フィルム型には意外性があります。

インタビューから得た気づきをもとに課題やニーズを深掘り、それに応える商品をつくる。それがCFLの一つのスタイルだと考えています。もちろん、課題やニーズの最適解がスナックやシリアルならつくりますが、そうでないならスナックやシリアルに固執はしていません。

また、最適解がカルビーの得意領域でない場合は、技術や専門性をもつ社外の企業を探し、製造をお願いしています。

――企画だけではなく、製造の場面でも社外の力を借りているのですね。

得意なところにお任せしたほうが早く安くできる。結果として、お客さまにより良い商品をお届けできると思いますし、ひいては企業価値の向上にもつながると考えています。

外の声が、既成概念を取り払う

――CFLサポーターのほか、地元大学とも連携していますね。

インタビューは「2000名に話を聴こう」と当時のリーダーが決めました。しかし、さすがに3人では手が足りない。そこで、広島工業大学と県立広島大学の協力のもと、学生たちに授業の一環として手伝っていただくことになりました。

また学生たちとは、一年の集大成として「商品企画発表会」を実施しており、そこで発案されたアイデアが『のせるん♪』として販売にいたっています。

『のせるん♪』は初めてフルOEMでつくった商品です。東北から九州に至るまで、さまざまな会社にお願いして回ったのですが「カルビーがつくる必要ある?」なんて言われたりして、話を聞いていただけないことも。最終的に九州のとある企業さんに「その課題面白いですね! ぜひ一緒に解決したいです!」と言っていただいて製造パートナーに決定しました。アイデアから製造まで社外と協働してつくりあげた、思い出深い商品の一つです。

――そのほか、企業との協働はいかがでしょうか。

『にゅ~みん』では睡眠の質測定を行うスタートアップ企業と連携し、フィルム状の形態がもたらす効果について研究を進めています。他にも自動車メーカーや半導体メーカー、電子・機械業界の企業など、異業種の会社にも多数お越しいただきました。

――一見すると、食品業界とは結び付きにくい企業・業界です。どのように交流されていますか。

現時点で何につながるか分からなくても「ちょっと話しませんか?」というスタンスでお声かけいただいたり、私たちからご連絡したりすることが多いですね。

社外との交流が増えて気づいたのは、他業界にとっての当たり前は、我々にとって斬新だということ。たとえば、素早くリリースしてどんどんブラッシュアップしていく「アジャイル開発」は、IT業界では当たり前です。しかし、試作から販売までに一定時間を要するのがスタンダードである食品業界から見れば、驚きの手法でした。

直接的な協業につながらなくとも、新しい考えや手法を学ぶことには意味がある。また、他を知ることによって、かえって食品業界で重視したいことが見えてくることもあるので、「食」にとらわれず幅広い企業・業界との出会いを大切にしています。

――CFLサポーター、大学、企業とさまざまな形で社外と協働されています。社外との協働にはどのような価値があると感じていますか。

既成概念を取り払ってもらえることでしょうか。

CFLでは広い視野で商品開発を目指していますが、それでも私たちだけで議論していると、いつのまにか視野が狭まってしまいます。そうしたときに社外とつながると、先ほどのアジャイル開発のように「そういう考えもあるのか」と凝り固まったものが解けて、既成概念を取り払ってもらった感覚になりますね。

私はCFLに異動する前、研究開発本部に所属していたのですが、研究・開発の領域はどうしても専門的な会話になりがちですし、コミュニケーションをとる相手も限られる傾向にある。専門性を磨くために必要な環境だと理解する一方、新しい価値を生むには、自分たちとは異なる考えに触れ、刺激を得ることも大切だと思います。

――既成概念を取り払う必要性は、どの業界でも求められる要素かもしれません。

そうですね。視野が狭い状態は自覚症状がないものです。だからこそ、業界・職種に限らず、どこにいても意識的に社外の方と話す場をつくることが大事だと思います。

――ありがとうございます。一方で、協働の難しさをどこに感じますか。

パートナー企業との関係構築の難しさは感じますね。

たとえば製造の工程。OEMは、ともすれば「つくってください」「つくりました」という関係に陥りがちですが、その状態では私たちが提示した以上のものは生まれないと思っています。単なる“依頼”ではなく、お互いがプロとして意見を出し合い、より良いものを一緒につくりあげていくような、“協働”を目指したいのですが、上手くいかないケースも多々あります。

――より良い関係を築くために、意識していることはありますか。

「なぜやるのか」を相手に伝え、共感を得ることを意識しています。

新規事業の類は、うまくいくかどうか分からないことがほとんど。だからこそ「面白そう」や「この人と一緒にやりたい」と共感してもらうことが重要だと考えています。しかし、ただ伝えれば良いというわけでもありません。想いを言葉に宿して、きちんと自分の言葉で伝えないと、人の心は動かせないと思うんです。

共感が得られれば、2つの異なる企業が一緒に取り組む仲間になれます。そのような関係が築けると、スピーディに動けますし、商品のクオリティも上がる。そして何よりやっている本人が楽しくなって、結果的により良いものをお客さまに届けられると考えています。

変化を起こすスイッチに

――オープンイノベーションや外部人材の登用など、社外との協働に取り組む企業が増えてきました。近年の動向をどのようにご覧になっていますか。

今でこそオープンイノベーションの成功事例として取り上げていただくようになりましたが、私たちは決してオープンイノベーションをやろうとして集まったわけではありません。お話したように、3人だけではどうにもならないというのが前提にあって、ヒット商品をつくるためにどうあるべきかと考え続けた結果、手段として社外との協働を選んだに過ぎません。

オープンイノベーションや社外の協働は、あくまで手段です。手段が目的にすり替わらないよう注意すべきだと、自戒の念も込めて考えています。

自分たちには今どのような壁があるのか、壁を超えるためには何をしなければいけないのか、今までと何を変える必要があるのか。社内で話し合い、目的を明確にするのが先で、社内と社外のどちらでやるべきかの検討は後。順番を間違えてはいけません。

CFLも開設から時間が経つにつれ、課題のフェーズが移り変わってきました。「これまで通りのやり方で良いのか」は常々話し合っており、変化に応じて最適な手段を選んでいきたいと考えています。

――今後、CFLの方針や手法が変わることもありますか。

ずっと同じやり方ではないかもしれません。それでも、社外との関わりはこの先もずっと大切にしたいと考えています。

CFLは、本社からある程度切り離された“出島”のような場所。そういった環境だからこそ、本社では出会うことが難しい、地元・広島の経営者・スタートアップ企業・異業種の新規事業担当者などと、深い結び付きが持てるのだと思います。しかし、そこで得られる価値を私たちだけが享受しているのはもったいない。最近は本社のマーケティング部からも「サポーターの声を聴きたい」という依頼がくるようになりましたが、少しずつ輪を広げて、カルビー全社に還元できるようアクションを起こしたいと考えています。

――ありがとうございます。最後に、今後の展望をお聞かせください。

カルビーの前身となる会社では、キャラメルや羊羹をつくっていたと知っていますか。戦後、カルシウムやビタミン不足が叫ばれるなか「食で健康を届けたい」という創業者の想いのもと、瀬戸内の小えびを使ったスナック「かっぱえびせん」が生まれ、今の業態に進化していきました。もしスナックが理念を体現する一つの手段であるならば、カルビーは決してスナックの会社ではなく、この先もずっとスナックをつくり続けるとは限らないと思っています。

現代の人が「カルビーは昔キャラメルつくっていた」と聞いて驚くように、もしかしたら、この先何十年か後に「カルビーは昔ポテトチップスつくっていた」と聞いて驚くような世界が待っているかもしれません。そう考えるとワクワクしますし、「食で健康を届ける」という軸さえブレなければ、カルビーはさらに変化できると考えています。

私たちCFLは、そのスイッチになりたい。小さな組織だからこそ身軽にチャレンジし、カルビーの変化を後押ししていきたいですね。

取材後記

商品について尋ねた際「本当に一つひとつエピソードがあって…どれから話そうかな」と迷われている姿が印象的だった樋口さん。商品に対して、そして一緒につくりあげてきた社外の仲間に対して、深い想い入れがあるのだと伝わってきました。

一方、本文でも触れた通り「社外との協働は手段」と冷静な言葉も。安易に飛びつくのを良しとせず、適切に活用するからこそ価値があるのだと、改めて教えてくださったように思います。

and HiPro編集部

パーソルキャリア株式会社

and HiPro(アンドハイプロ)は、「『はたらく』選択肢を増やし、多様な社会を目指す」メディアです。雇用によらないはたらき方、外部人材活用を実践している個人・企業のインタビューや、対談コンテンツなどを通じて、個人・企業が一歩踏み出すきっかけとなる情報を発信してまいります。

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