商品開発にウェルビーイングの視点を。人生100年時代を迎える今、カンロが取り組む新たな機能性ブランドとは
近年注目を浴びる「ウェルビーイング」。身体的・精神的・社会的に満たされた状態にあることを意味する概念であり、個人のウェルビーイングはもちろん、コミュニティ全体や社会全体におけるウェルビーイングもあると考えられています。
ウェルビーイングは企業でも重視されつつあり、日本においては健康経営から発展したHR領域におけるウェルビーイング施策に取り組む企業が増えています。一方、個人がウェルビーイング実現のために自発的に利用できる商品は、まだまだ未成熟な領域といってよいでしょう。
そのようななか、個人のウェルビーイング実現に目を向けたのが、カンロ株式会社です。
カンロは2022年9月に「糖から人生100年時代のWell-being(ウェルビーイング)をサポートする」をブランドパーパスに掲げた、新しい機能性ブランドを発足。第一弾商品として「ハーバルグッド」を発売しました。
創業100年以上の老舗企業が、なぜ個人のウェルビーイング実現に目を向けたのか。ハーバルグッドを要する機能性ブランド立ち上げの背景や企画開発の経緯、商品のこだわりなどを、機能性ブランド開発プロジェクトリーダーの加藤応視さんに伺いました。
ウェルビーイングが人生100年時代を支える
――2022年9月に「糖から人生100年時代のWell-being(ウェルビーイング)をサポートする」というブランドパーパスを掲げた新しい機能性ブランドが誕生しました。新たに機能性ブランドを立ち上げた経緯からお伺いさせてください。
カンロでは「素材を活かす」と「機能性」という二つの開発指針を掲げています。「素材を活かす」に関しては「カンロ飴」「金のミルク」ブランドをはじめ多くの方に愛される商品が育っていますが、「機能性」を謳う商品に関しては市場定着が難しい状態が続いていました。
しかしながら、カンロにはこれまで培ってきた技術力や開発力がある。そこで、カンロのノウハウを最大限に活かし「カンロを代表する機能性ブランドをつくる」をミッションに、マーケティング本部長の指揮のもと、プロジェクトチームが発足されました。
プロジェクトチームのメンバーは社内横断。それぞれがプロフェッショナルであることはもちろん、特定の思考に縛られることのないよう、多様性も意識しながら総合力のあるチームを編成しました。
――企業におけるウェルビーイング施策は、従業員のモチベーション向上といったHR領域におけるアプローチが中心です。そのため「個人のウェルビーイング実現をサポートする」という発想は新鮮に映りました。新しい機能性ブランドにおいて、ウェルビーイングの視点を取り入れた経緯をお聞かせください。
前提として、今回のプロジェクトチームの取り組みは、これまでの機能性商品の開発とは異なる手順で進められています。従来、機能性商品を開発する際は機能性関与成分が先にあり、それに付随する形で商品を開発していました。しかし今回はブランドの立ち上げのため、ブランドとして何を成し遂げたいのかというパーパスを定めることが、最初の問いでした。
機能性ブランドとはいえ、単に機能性をアピールするだけでは、お客さまは商品を自分ごととして捉えにくいはずです。そこで、ブランドパーパスを考えるにあたっては以前より挑戦したいと考えていた「機能性を通じて社会の課題を解決する」という視点を盛り込むことにしました。誤嚥を防ぐユニバーサルデザインのキャンディなど、さまざまなアイデアが出るなか、ウェルビーイングも一つの案として挙がりました。
人生100年時代が目前に迫る現代では「いかに豊かに生きるか」が課題といわれており、充実して生きるための価値観として、ウェルビーイングが関心を集めています。「人生100年時代」という言葉を提唱した書籍『LIFE SHIFT』でも同様のことが述べられていたため、概要は理解していたものの、プロジェクトチームとしてウェルビーイングを学べば学ぶほど、その重要性を痛感していきました。
「人生100年時代をいかに豊かに生きるか」という社会課題に対し「ウェルビーイングをサポートする」という発想であれば、機能性ブランドとしてカンロが力になれるのではないか。プロジェクトチームで話し合った結果そう考えるに至り、ウェルビーイングをブランドパーパスに取り入れることに決めました。
――ウェルビーイングは新型コロナウイルスの流行をきっかけに、個人の関心も集めています。
その通りです。プロジェクトチームが発足したのは2020年。まさに新型コロナウイルスが猛威を振るう真っただ中の始動でした。当時は多くの方が健康に不安を感じたり、暗いニュースに気が滅入ったり、リアルで人と会える喜びを再認識したりと、思いもよらない日常の変化に直面していたと思います。
私たち自身もそうした状況に陥ったことで、実体験としてもウェルビーイングの重要性を感じました。その経験は「機能性ブランドでウェルビーイングを実現したい」と強く思わせた、一つの要因だったかもしれません。
商品づくりを後押しする、共同開発
――2022年9月、新しい機能性ブランドが誕生。第一弾として「ハーバルグッド」が発売されました。商品について教えていただけますか。
ハーバルグッドは「ハーブキャンディでウェルビーイングな毎日をサポートする」をコンセプトに掲げた、新たな機能性表示食品のハーブキャンディです。「ハーバルグッド いたわるザクロ&ローズヒップ」にはプラズマ乳酸菌を配合し、健康な人の免疫機能の維持をサポート。「ハーバルグッド 整えるアロエ&ヨーグルト」にはガラクトオリゴ糖を配合し、腸内でビフィズス菌を増やすことで腸内環境を改善します。そのうえで、ただ機能性関与成分を配合するだけではなく、カンロが培った味づくりの技術を活かし、毎日続けやすい味わいを実現しました。
日本はまだまだコロナ禍だと言わざるを得ませんし、急速に変わりゆく社会情勢のなかで、ストレスを抱えている方も多いと思います。仕事に家事に忙しい40~50代女性をメインターゲットに商品開発をしていますが、ウェルビーイングな毎日を過ごしたいと考える方には、ぜひ幅広く試していただけたら嬉しいです。
――商品に使われているハーブは、カンロで長く研究されてきた領域ですね。
ウェルビーイングをサポートする商品として、機能性を担保していることはもちろん、カンロが発売する意味付けを適切に行いたいと考えていました。カンロはのど飴のパイオニア企業としての自負があり、ハーブ研究に真摯に向き合ってきた歴史があります。培ってきたノウハウとウェルビーイングを掛け合わせることで、のどを潤す飴というハーブキャンディの枠を超えた、新しい価値を届けたいと考えました。また、お客さまにとっても慣れ親しんだカンロのハーブキャンディであれば、受け入れていただきやすいのではないかとも考えています。
――ウェルビーイングと商品は、どのように関連付けていったのでしょうか。
ウェルビーイングは狭義の「健康」と捉えられがちですが、実はさらに幅広く、広義の「幸せ」として受け止められる言葉であると勉強していくなかで気づきました。「健康の実現」が目的の場合、医薬品に勝るものはありません。しかし「幸せの実現」を目指すのであれば、キャンディも十分に関連付けられると思いました。
たとえば、美味しいと感じて心が満たされることもその一つと考えられます。また、人にあげることでコミュニケーションが生まれたり会話が盛り上がったりすることも、ウェルビーイングにつながっていくといえるのではないでしょうか。
お菓子が元々もつ強みに加え、身体的健康をサポートする機能性が盛り込めれば、よりウェルビーイングの実現をサポートできる商品になるのではないかと考え、開発を進めていきました。
――機能性については、免疫ケアと腸活サポートの2つですね。この機能にした意図を教えてください。
ウェルビーイングの実現は、日々を元気に充実して過ごす、その積み重ねによるものです。では、どのような機能があれば、毎日の元気と充実を支えられるだろうか。そのような視点で機能性を検討していきました。
さまざま候補があるなかで目を付けたのが、免疫ケアと腸活サポートです。免疫も腸も目には見えないため、なかなか意識しにくいものではありますが、いずれも健康の基盤ともいえる重要な要素です。商品を通じて免疫ケアと腸活の大切さを謳い、機能性を通じて健康をサポートできれば、日々を元気に充実して過ごすサポートになると考えています。
――ありがとうございます。免疫ケアを謳う「ハーバルグッド いたわるザクロ&ローズヒップ」では、キリンホールディングス様と共同開発されています。経緯を教えてください。
キリンホールディングス様とは、以前より「プラズマ乳酸菌」を使った共同開発を実施しており、過去にはプラズマ乳酸菌を配合した「ピュレグミiMUSEプラズマ乳酸菌」という商品も発売しています。
昨今の環境変化に伴い、再度「免疫機能」を謳える機能性表示食品の開発に本格的に取り組みたいと考え、キリンホールディングス様と共同開発することになりました。
――共同開発を通して、どのような成果が得られましたか。
キリンホールディングス様はプラズマ乳酸菌を本当に深く研究されています。共同開発を通じてプラズマ乳酸菌の関連知識を学べたことは、今回の商品開発を後押ししただけではなく、今後にも活かせる大きな収穫になりました。
もちろん我々もキリンホールディングス様にカンロがもつノウハウ・知見をお伝えしてきました。共同開発は、互いが得意とする分野の知識や経験をシェアすることで、双方が成長できる良い機会だと捉えています。また、共同開発を通じて社外コミュニケーションの輪も広がっており、今後新たなビジネスチャンスにつながっていくのではないかという期待感もあります。
――素晴らしい成果が得られていますね。キリンホールディングス様以外にも、他社との共同開発は活発に行われているのでしょうか。
素材の研究では、企業に留まらず大学などとも協力して進めています。また、一部の部署にはなりますが、インキュベーション施設にも参画し、他社との共創で新しいことができないかと模索する動きも生まれています。少しずつではありますが、他社との交流によって新しい創造に挑戦する機会は増えつつあるように思いますね。
ウェルビーイングが当たり前の社会を目指して
――「ハーバルグッド」の開発にあたってはご苦労もあったのでしょうか。
機能性表示食品ゆえの難しさはありました。たとえば工場の生産条件、成分検査のスキーム、行政への届け出などです。多くの部署に協力を仰がなければ進められないフェーズも多々ありましたので、そのあたりは通常商品にはない苦労だったと思います。
また、機能性表示食品と謳う以上、免疫ケア・腸活サポートは決して妥協できません。だからといって美味しくなければお客さまに継続して選んでいただけない。機能性と美味しさ、その両方を追うという点でも、難しさはありました。
さらに今回は、機能性表示食品に適した販路の新規開拓も行いました。販路開拓は従来の商品開発プロジェクトチームでは前例がないものの、私自身の過去の経験やメンバーの能力をフル動員、関係各所や役員の協力も得ながら、販路の開設にいたっています。
――「ハーバルグッド」はいくつもの壁を乗り越えて発売された商品なのですね。多くの方に届くと良いですね。最後に今後の展望をお聞かせください。
人生100年時代が目前に迫る社会のなかで、機能性商品に対するニーズはさらに高まっていくと考えています。このたび発売した「ハーバルグッド」のブランド育成はもちろん、これからもウェルビーイングをテーマにさらなるラインナップを拡大することで、当社の企業パーパス「Sweeten the Future 心がひとつぶ、大きくなる。」を実現していきたいです。
また、この企業パーパスをもとに策定された「Kanro Vision 2030」には、重点戦略の一つとして「事業領域の拡大」が掲げられています。私たちの立ち上げたこのブランドが、事業領域拡大の一翼を担う存在となり、ゆくゆくはプロジェクトチームから新しい事業部にしたいという目標も持っています。
――ウェルビーイングをテーマにしたラインナップの拡大は、日本のウェルビーイング浸透の後押しとなるかもしれません。
そうなったらとても嬉しいですね。社会を動かすことは容易ではありませんが「ウェルビーイングが当たり前の社会」を目指して、微力ながら貢献したいと考えています。
取材後記
企業での取り組みも増えてきたウェルビーイングですが、一人ひとりが自身のウェルビーイング実現を目指そうとしなければ、ウェルビーイングが当たり前の社会は訪れないように思います。そう考えると、個人がウェルビーイング実現のために自発的に利用できる商品やサービスは、今後需要が高まる領域のように感じます。
需要が高まる領域とはいえ、やみくもな参入はリスクを伴うでしょう。目的を明確にし、自社の課題や強みを理解したうえで取り組むことが必要だと考えます。適宜、第三者の力も借りながら、各社それぞれのウェルビーイングを考えてみてはいかがでしょうか。
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