スタートアップの成長を後押しするプロ人材〜福岡市のスタートアップがプロ人材と共に事業成長を遂げる〜

福岡スタートアップ・コンソーシアム 兼 62Complex株式会社
代表取締役(62Complex株式会社) 橋本 司
株式会社ヤマップ
人事マネージャー 内海 良介
福岡スタートアップ・コンソーシアム 橋本氏、パーソルキャリア株式会社 鏑木氏、株式会社ヤマップ 内海氏

近年、日本においては労働人口が減少し、年々人材獲得の難易度は高まっています。

こうした現状を解決する打ち手の1つとして、「HiPro」では、個人が持つさまざまな経験やスキルが1社に留まることなく、必要とする企業や組織で柔軟に活かされ、個人と企業が相乗的に成長する「スキル循環社会」の実現を目指しています。「スキル循環社会」の実現に向け、2023年6月から、都市部で専門的な経験を積んだプロ人材と地域の企業とをつなぎ、地域企業・経済発展に貢献する「スキルリターン」プロジェクトを開始しました。これまでに第一弾を鳥取、第二弾を山形で実施しています。

そして2023年12月に、第三弾として福岡でのスキルリターン実施を発表。「HiPro」は、プロ人材が持つ専門性の高いスキルやノウハウを福岡のスタートアップへ還元(リターン)することで、課題解決、および更なる成長に寄与したいという想いから、福岡での取り組みをスタートしました。

2023年12月14日(木)に、福岡でスキルリターン発表会(第一部)とトークセッション(第二部)を開催。今回は、トークセッションの様子を紹介します。ゲストに、福岡スタートアップ・コンソーシアム 兼 62Complex株式会社 代表取締役の橋本氏、株式会社ヤマップ 人事マネージャーの内海氏を迎え、「スタートアップの成長を後押しするプロ人材〜福岡市のスタートアップがプロ人材と共に事業成長を遂げる〜」をテーマに意見を交わしました。

即戦力の「プロ人材」は、副業への関心が強い

鏑木:「プロ人材」について、まずは簡単にご説明できればと思います。プロ人材は、高い専門スキルを持つ人材や経営層・管理職などの要職に就いている人材を表す言葉として使用しています。具体的には、CXOと呼ばれる各領域のスペシャリストや高度マネジメント層はもちろん、現場のマネジメント層、そのほか高いスキルを持った専門人材などが当てはまります。

続いて、プロ人材の属性を年収別に見てみます。当社が展開する「HiPro Direct」に登録されている方を調査したところ、約7割が年収600万円以上という結果でした。(2023年9月時点)年収の高さを即戦力性の目安とするなら、即戦力の人材は副業に関心を示す傾向が強いといえます。

また、プロ人材市場についてですが、正社員の採用市場と逆の構造になっているというのが一つのポイントです。正社員の採用は、求人数に対し人材が少ないため人材獲得競争が激化しています。一方、プロ人材の市場は「副業・兼業を望む個人」に対して「外部人材を活用する企業」は少なく、1割程度に留まるのが現状です。

つまり、プロ人材を活用したい企業にとっては、数多く存在する「副業・兼業を望む個人」のなかから即戦力性の高い人材を獲得するチャンスだといえます。

多くのスタートアップが直面する、人材獲得の壁

鏑木:ここからは福岡市における「スタートアップを取り巻く環境」について教えていただけますでしょうか?

橋本:2012年のスタートアップ都市宣言が一つのきっかけとなり、福岡市のスタートアップ企業が増えている実感があります。スタートアップの裾野は広がっており、開業率も政令指定都市のなかでは福岡市がトップです。

鏑木:福岡市のスタートアップが増えていくなかで、浮かび上がってくる課題などはありますか?

橋本:スタートアップの数が増えてくると、抱える課題も難易度が上がっていきます。私は、スタートアップの課題は「ヒト」と「カネ」に集約されると考えているのですが、今回のテーマである「ヒト」に関しては、たとえばエンジニアやCXO人材の不足、海外人材をどのように活用するかなどが挙がってきます。また、スキルを持った方にいかにスタートアップに来てもらい、能力を発揮してもらうかといった点も、今後の課題になってくるのではと考えています。

鏑木:株式会社ヤマップの人事マネージャーである内海さんからも、スタートアップとして抱えている課題についてお聞かせいただけますでしょうか?

内海:橋本さんからお話があった通り、まさに「ヒト」に関する課題に直面してきました。当社には幸いCXOはいたものの、エンジニアの採用が大きな課題となっていました。プロダクトやサービスをアップデートしていくうえで、ハイクラスのエンジニアが必要になってきますが、なかなか求める人材を確保できていませんでした。以前は福岡での勤務が可能なエンジニアに限定して採用を行っていましたが、人材獲得の難しさからエリアを拡大して探したり、海外人材の活用に踏み切ったりと、「ヒト」の課題に関しては試行錯誤してきました。

鏑木:お二人のお話から、「ヒト」はスタートアップにおいて大きな課題となっていることが分かります。

橋本さんが在籍されている福岡スタートアップ・コンソーシアムでは、スタートアップを支援する取り組みをされていると思います。具体的な内容について教えてください。

橋本:福岡スタートアップ・コンソーシアムの役割は、スタートアップにフォーカスし、スポットライトを浴びてもらうことだと考えています。たとえば、2023年の8月にはさまざまなスタートアップを集め、課題についてディスカッションするイベントを行いました。スタートアップが抱えている課題の共有や、スタートアップ自身の認知度向上につながる取り組みだったと考えています。

また「ヒト」以外の部分では、スタートアップが融資を受ける環境が整っていないという「カネ」の問題もあります。課題解決に向け、金融機関の方々にもご協力いただきながら融資ワーキンググループを開催。福岡のスタートアップが融資を受けるためにはどうすればよいのか、ディスカッションをしました。

鏑木:幅広い取り組みをされていますね。

ご自身で経営されている62Complex株式会社においては、人材獲得についてどのような取り組みをされていますか?

橋本:先ほどの鏑木さんの話を聞いていると当社は少し変わった会社なのかもしれませんが、社員数に対する副業・フリーランス人材の割合が300%を超えています。サービスのデザインや営業戦略の立案など、事業の中核となる部分をハイクラス層の副業・フリーランスの方にお任せしているのが特徴です。

鏑木:社員数に対してプロ人材の割合が300%というのはすごいですね。

橋本:もちろん、良いところ・悪いところがあります。たとえば、経験を持ったプロ人材であるため即戦力になってくれるという魅力がある一方、社内にどのようにノウハウを蓄積していくかは難しいと感じており、解決策を模索しているポイントでもあります。

プロ人材の活用が、事業成長の鍵に

鏑木:ここからは、スタートアップにおけるプロ人材の活用というテーマで、株式会社ヤマップの内海さんにお話を伺っていきます。まず、これまでの企業としての成長の軌跡と、そのなかでの人材獲得について教えてください。

内海:当社は2013年にスタートし、現在11期目を迎えています。社員は100名を超え、組織運営の課題にも直面してきました。先ほどお話ししたエンジニアの獲得だけでなく、事業を推進するためのプロ人材の獲得に苦戦してきました。

鏑木:人材獲得で実際に苦労したことや大変だったことを教えていただけますか?

内海:印象に残っているのは、やはりエンジニアの採用です。当社は福岡を拠点に活動していくなかで、できればエンジニアの方にはオフィスに出社していただき、直接コミュニケーションをとりながら一緒に開発を進めていきたいという思いがありました。そのため、福岡で勤務できる方を対象として採用を行ってきました。

しかし、福岡だけでは十分なエンジニアを確保できず、対象エリアを拡大。4年前には東京オフィスを開設し、福岡と東京の二拠点体制となりました。ただ、東京には大手企業やメガベンチャーなどが数多く存在しており、優秀なエンジニアの取り合いになっています。

これらを踏まえ、2022年の夏には「居住地フリー」という制度を設けました。日本全国どこにいてもはたらけるようにしたことで、人材募集へのエントリー数は1.7~1.8倍程度に増加。出社が難しいエリアに居住している人材を採用したり、既存の人材が別の地域に移住したりといったことが可能になり、人材獲得の壁を乗り越える一つの分岐点になったと感じています。

鏑木:面白いですね。リモートワークが浸透したことで、地元の企業だけが採用の競合ではなくなりました。別地域にある企業でも、リモートワークができあれば、福岡の優秀な人材を求めることがあり、競合になる可能性があります。

複雑化し、難易度が高まっている「人材獲得」について、今後の成長のために現在取り組んでいることを教えてください。

内海:当社では、EC事業やその他の新規事業を会社の成長につなげようという動きがあり、それぞれの取り組みに精通した専門人材の獲得が必要になっています。しかし、必要なスキルを備える人材だったとしても、正社員としてスタートアップに入社するのはハードルが高いと感じかもしれません。

そのため、まずは副業やフリーランスなど業務委託という形で接点を持つことで、ハードルを下げるようにしています。そして、実際に業務を行うなかで、当社と個人の方の双方で、お互いがフィットするかどうかを見極め、フィットするようであれば正社員化も視野入れていく取り組みを進めています。

鏑木:ありがとうございます。

「ジョブ型」という言葉があるように、副業・フリーランスの方をジョブ単位で活用する企業が増え始めていると感じています。正社員として全領域に携わってもらうのではなく、特定の領域・テーマで専門性を発揮してもらうはたらき方です。

今後、このようなジョブ型の人材活用が進んでいくことになるのでしょうか?

内海:まさにそうだと思います。当社では業務を切り分けたうえで採用を行っており、ピンポイントで必要な人材を活用するのは効率が良いと考えています。個人から見ても、業務範囲が明確に定められていることは、メリットだと思います。

過去には業務委託として参画いただいた方から正社員化を希望されるというケースもありました。企業と個人の双方にとって、業務委託がカルチャーフィットを見極めるための良い機会になっていると感じます。

鏑木:一般的な企業においては、営業・マーケティングなど職種をベースに業務を割り振ると思います。そのなかで、ジョブをベースに業務を切り出すことの難しさはありますか?

橋本:個人的には、いわゆるアメリカ型のジョブ型の人材活用は割り切りすぎているように感じます。日本の終身雇用には課題が多数あるものの、良い部分もあります。今後、日本式のジョブ型の人材活用が求められるのではないかと感じます。

ジョブの切り出しという観点では、業務を依頼する相手に合わせて「広く切る」「細かく切る」といった調整をうまくできるかどうかが、今後の活用拡大を左右するといえそうです。たとえば、ジュニアクラスの方には、細かく丁寧に業務を切り分けることが必要ですし、ハイクラス人材に対して細かく指示をしてもうまく能力を引き出せないケースが多いため広く切るといった、バランス感覚が重要になります。

また内海さんのお話にもあった通り、まずは業務委託で相性を確認し、その後に正社員として採用するというパターンは今後増えていくのではないかと考えています。

鏑木:ありがとうございます。

企業側でのプロ人材の活用が広がっていない点は課題だと感じます。プロ人材活用に踏み切れない一因として、業務の切り出し方が分からないという意見も多いのが現状です。

スキルリターンプロジェクトではプロ人材の活用について豊富な事例を広く発信し、業務の切り出し方の参考にしていただければと思っています。また、「HiPro」自体が業務の切り出しのお手伝いまで可能なサービスです。課題のある企業様は気軽にご相談いただき、一緒に業務の切り出し方を検討できればと思っております。

改めまして、本日はありがとうございました。

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