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リアルを仮想空間で再現する「デジタルツイン」概要と活用事例

デジタルツイン

デジタルツインとは、インターネットを介して現実世界の環境を仮想空間に再現する技術です。“デジタルツイン”という言葉自体は、工学の分野でシミュレーション技術の一つとして古くから取り扱われています。

近年、製造業や建築業ではデジタルツインが導入されており、IoT技術を用いて現実世界のデータをリアルタイムで取得し、高精度なデジタル空間を再現しています。リアルタイムにシミュレーション、分析をすることで業務改善やコスト削減などにつながるため、さまざまな分野での活躍が期待されているのです。

本コラムでは、デジタルツインについて活用事例も参考にしながら解説します。自社への導入を検討している方は、ぜひ参考にしてください。

デジタルツインの概要

デジタルツイン

総務省は、デジタルツインの仕組みに関して、次のように表現しています。

インターネットに接続した機器などを活用して、現実空間の情報を取得し、サイバー空間内に現実空間のかん境を再現することを、デジタルツインと呼びます。

※引用:デジタルツインって何?(総務省)

デジタルツインとは、収集したデータを双子のようにコンピューター上で再現する技術です。現実世界で収集した膨大なデータを仮想空間に再現することで、現実に近いシミュレーションが可能になり、製品の製造工程やサービスの改善に有効な手段となります。

デジタルツインの効果

デジタルツインは、現実世界をリアルタイムに仮想空間に構築し、モニタリングやシミュレーションを可能にするもので、業務の効率化が図れます。

例えば、自動車エンジンの状態をデジタルツインによって監視・シミュレーションをおこなえば、故障する予兆がある部品を交換できます。またメンテナンスの時期や箇所を把握できるため、予知保全が可能です。

製造業や建築業の設計段階に導入すると、試作品を製作せずに仮想空間でシミュレーションできるため、開発時間の短縮やコスト削減が期待できます。

デジタルツインとメタバースの違い

デジタルツインとメタバースのおもな違いは、仮想空間の再現方法です。

◇デジタルツイン

  • 現実世界をありのままで仮想空間に再現
  • アバターを必要としない

◇メタバース

  • 仮想世界であり、現実とは関係がなくともよい
  • アバター(仮想空間上のユーザーの分身)を介して仮想空間に参加

デジタルツイン・シミュレーションとの違い

デジタルツインとシミュレーションの違いとして、おもに2つの観点が挙げられます。

  • 再現方法
  • リアルタイム性

デジタルツインは現実世界をありのまま仮想空間に再現する仕組みですが、シミュレーションは仮想空間に再現するということに限りません。現実世界で物理的な模型を製作し再現することもあります。

また、デジタルツインは、IoTなどの技術と組み合わせて現実世界の情報をリアルタイムに収集します。シミュレーションは、人があらかじめ仮説を立てて結果を解析し、さらに検証するなど時間がかかるものです。そのため、必ずしもリアルタイムな情報収集が可能ではありません。

デジタルツインを支える代表的な技術

デジタルツインを支える代表的な技術には、以下があります。

  • IoT(Internet of Things)
  • 5G(5th Generation)
  • AI(Artificial Intelligence)
  • CAE(Computer Aided Engineering)
  • AR(Augmented Reality)
  • VR(Virtual Reality)

IoT

IoT(Internet of Things)は、あらゆるモノをインターネットに接続して相互にデータを送受信する技術のこと。

生産現場に設置したカメラやセンサーからデータを取得し、インターネットを介してデジタルツインに反映されるため、高精度に現実空間を再現できます。

遠隔地からモノの状態を把握し操作できるIoTは、デジタルツインの実現に必要不可欠な技術です。

5G

5G(5th Generation)とは、第5世代移動通信システムのこと。 5Gには、超高速・低遅延・多数同時接続の3つの特徴があります。

4Gと比較すると、通信速度はおよそ20倍、遅延はおよそ10分の1、同時接続台数はおよそ10倍(理論値)になるとされています。

デジタルツインでは、膨大なデータを送受信します。5Gを活用するからこそ、遅延やラグを起こすことなく、デジタルツインに必要な膨大なデータの通信が可能になるのです。

AI

AI(Artificial Intelligence)は、人工知能とも呼ばれます。機械学習やディープラーニングなどによって膨大なデータを学習させ、そのなかからある事象の特徴を自動的につかめるようにしたものです。その結果、AIは高精度な分析や予測が可能に。

デジタルツインでは、画像の解析やサイバー空間に再現したモデルの分析などに活用されています。

CAE

CAE(Computer Aided Engineering)は、仮想空間でシミュレーションや解析を実行する技術です。製造現場においては、早くから活用されていました。

デジタルツインでは、サイバー空間に再現したモデルに対してシミュレーションを行う際に活用されます。

AR・VR

AR(Augmented Reality)は拡張現実、VR(Virtual Reality)は仮想現実と呼ばれ、仮想空間を視覚的に体感できるようにする技術です。

ARとVRによって、サイバー空間に再現したモデルをよりリアルに視覚化し、体感できるようになります。

デジタルツインを活用するメリット

デジタルツインを活用するメリットとしては、以下があります。

  • コストダウン
  • 業務効率化
  • トラブル改善
  • 設備保全
  • アフターサービスの充実

それぞれ解説します。

コストダウン

現実世界での製品開発は、完成までに繰り返し試作を行う必要があります。そしてそれには時間や人員、材料費といったコストがかかっていました。

しかしデジタルツインでは、仮想空間で試作品のシミュレーションができます。これにより、材料費や人件費をかけずに検証が可能です。 また、現実世界での施策と比べ、より細かなシミュレーションができます。

そのため、完成までのプロセスを最適化しやすく、開発期間の短縮につながるメリットもあります。

業務効率化

製造業や建築業など専門性の高い現場作業では、これまで現地に行くことが欠かせないと考えられていました。

デジタルツインを活用すれば、離れた場所からでもリアルタイムで現地の状況を確認し、指示を出すことが可能に。現場に経験の少ないスタッフしかいなくても、遠隔地から届いた指示をもとに迅速に対応できるため、結果的に業務効率化につながるでしょう。

トラブル改善・設備保全

デジタルツインの活用は、トラブル改善や設備保全につながります。

従来の生産設備では、生産現場のオペレーターからの異常報告により原因調査を開始していました。しかし、生産設備にデジタルツインを活用すると、設備の稼働状況をリアルタイムで把握し、早急にトラブルの改善が可能です。

またAIと組み合わせると、トラブルが発生する兆候をリアルタイムに検知し、より効率的な設備保全が実現します。

アフターサービスの充実

デジタルツインの活用により、アフターサービスが充実します。

製造業では、製品を出荷したあともデジタルツインを介して顧客の使用による製品の状況や消耗具合を把握することで、適切なタイミングで消耗品交換の提案や点検の案内が可能です。また、製品に取り付けたセンサーによって稼働状況を把握することで、ユーザーの使い方や耐久性のデータを収集・モニタリングできます。

これらのデータをAIに分析させることで、適切な検査時期の把握が可能になり、故障時期を予測してメンテナンスを提案できるようになります。

デジタルツインの活用事例

ここでは、実際にデジタルツインを活用した業務改善などの事例を紹介します。

テクノロジーやサービスにおける都市開発の事例/A社

A社は世界での車両販売台数もトップクラスの大手自動車メーカーです。

・概要

自動車業界全体として、IoT接続や自動運転、シェアリングへの移行に加え、ガソリンエンジン駆動から電動モーターで駆動する電動化(EV/PHEV)へのシフトが進んでいます。 このような自動車業界の流れから、車に対するニーズが“所有”から“利用”へシフトしています。

これまでの自動車販売だけで利益を維持していくことは、難しいと考えられ、企業としての変革が求められている状況でした。

そのような背景からA社は、先進的技術を活用して都市や地域の機能・サービスを効率化・高度化することに。都市がもつさまざまな課題解決を目指す“スマートシティ”の実現を進めています。

同時に、快適性や利便性を含めた新たな価値を創出する都市・地域の構築も推進しています。

・取り組み内容

デジタルツインの活用法としては、いきなり実在のスマートシティを作るのではなく、デジタル環境(バーチャル環境)でリアルなスマートシティと同様なものを設計してバーチャルモデルを作成。それからスマートシティの設計開発をしました。

・結果

デジタルツインの技術を活用することで、スマートシティの実現に向けて的確なまちづくりシミュレーションが可能になりました。

街のインフラは一度建設してしまうと、簡単には修正できません。デジタルツインの技術によってシミュレーションを何度も繰り返し行うことで、実際の運用における課題を発見し、より良い街づくりを支えました。

3D都市モデル整備・活用・オープンデータ化の事例/国土交通省

・課題

近年、世界では3D都市モデルを始めとするデジタル技術を用いて街づくりをDX化し、新たなソリューションを実現しようという取り組みが増えています。そうした動きは世界では珍しくないものの、日本では遅れが生じていました。

・取り組み内容

国土交通省は、日本でも3D都市モデルを大きく普及させることを目的に、3D都市モデルの整備や活用を進めるプロジェクト“PLATEAU”を推進しています。オープンデータ化によって、誰もが国内の3D都市モデルをデジタルツインとして活用できるようになりました。

・結果

2021年には全国56都市の3D都市モデルのオープンデータ化を完了。公開された3D都市モデルを地方自治体や民間企業、研究者などが活用し、街づくりや防災対策などに向けた実証実験が進められています。

製造業のDX化に成功した事例/B社

B社はグループ全体で、コーヒー飲料や茶系飲料、炭酸飲料、酒類、特定保健用食品など幅広く製造・販売しています。

・課題

安心・安全の実現のため、厳しい品質管理とともに、商品のサプライチェーン全般におけるさまざまな問い合わせに対し、素早い対応・説明が求められています。また、近年急速に進むデジタル化の進展に伴い、最新のデジタル技術を活用した工場経営や業務改善も求められていました。

・取り組み内容

工場で、商品の安全・安心の追求、働き方改革の推進、工場経営の高度化を達成するべく、デジタルツインの機能を持ち合わせたIoT基盤が構築されました。

工場に構築されたIoT基盤は、製造工程の生産設備・機器以外に、調達・製造・品質管理・出荷などのシステムもIoT基盤に集約。そして、収集・統合したデータを紐付けて素早く活用できるようにしたことが大きな特徴です。

・結果

製品の製造工程に関するデータはIoT基盤に集約し、そこから得られる情報を利活用することで工場内の見える化に成功しています。不良品の発生時、従来であれば原因特定にある程度の時間を要していたケースも、IoT基盤の導入により数分で済むようになりました。

まとめ

デジタルツインの詳細や導入のメリットを、事例を交えながら解説しました。

製造業や建築業において、すでにデジタルツインは導入されていますが、IoTやAIなどの技術の発展により、今後はさらに幅広い分野での活用が期待されています。

自社のビジネスモデルや経営戦略をよく認識したうえで、デジタルツインが活用できるかどうか検討してみましょう。その際には、ぜひ本コラムを参考にしてください。

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