不動産業界のDXの重要性とは? 進め方やおすすめのシステムを紹介
不動産業界では、人手不足や非効率な業務の見直しのために、AIやWebシステムの導入などによるDX推進が取り組まれています。本コラムでは、不動産業界のDXに関する内容を解説し、推進のメリットや推進に役立つシステムも紹介します。
不動産業界におけるDXの実態
不動産業界はアナログ文化が根強く、顧客管理や書類手続きが紙媒体でやり取りされている状況が続いていました。
しかし、近年不動産業界でも業務効率の改善や顧客満足度向上のために、DXを推進する企業と今後取り組む予定の企業が増えていると考えられます。
国土交通省のDX施策が影響する不動産業界
不動産業界におけるDX推進は、一企業による取り組みだけではありません。
国土交通省では、社会の激しい状況変化に対応するべく、インフラ分野においてもデータとデジタル技術を活用していこうと「インフラ分野のDX推進本部」を設置してDX化を推進しています。
国土交通省が主導するDX施策の中でも、特に不動産業界へ影響を与える取り組みには以下のようなものが挙げられます。
- 3D都市モデルの整備・活用・オープンデータ化の推進
- 水害リスク情報の3次元化と災害リスクの明確化
- AI・ロボット等革新的技術のインフラ分野への導入
※出典:第4回国土交通省インフラ分野のDX推進本部 資料2 主な施策の進捗(国土交通省)
また、2019年に国土交通省は「不動産業ビジョン2030」を策定し、これからの不動産業界のあり方を提言しました。
不動産業ビジョン2030では不動産業を「国民生活、経済成長等を支える重要な基幹産業」としたうえで、今後の発展も期待する旨が書かれています。
加えて、今後は官民一体となり必要な取り組みを推進することが不可欠としました。民の役割には「AI、IoT等新技術の有効活用」も挙げられています。ここからも、国土交通省・不動産業界からデジタル技術の活用によるDX推進を求められていることが読みとれるでしょう。
※出典:不動産業ビジョン2030〜令和時代の『不動産最適活用』に向けて〜(概要)(国土交通省)
不動産業界でDXを推進するメリット
不動産業界でDXを推進するメリットとしては、以下が挙げられます。
- 業務効率化による生産性向上
- 人手不足問題の解消
- ビジネスモデルの創出に役立つ
- コスト削減 ・顧客満足度の向上
業務効率化による生産性向上
不動産業界にDXを導入すると、業務効率化が飛躍的に進みます。たとえば物件情報や帳票の作成などの業務が自動化できれば、事務作業にかかる時間の大幅な削減が可能です。
時間に余裕ができると、お客様からの問い合わせへの対応や確認作業の時間を増やせます。つまり、売上に直結するコア業務に集中できるようになるのです。また、手作業によるデータ入力はミスも起こりやすいため、業務を自動化することはヒューマンエラーの防止にも効果的です。
DXにより業務効率化が進むことは、企業全体の生産性の向上につながるでしょう。
人手不足問題の解消
人手不足問題も、DXを推進することで解消につながります。
たとえば、物件の査定などの専門スキルをもった従業員にしかできない業務は特定の従業員に集中してしまい、個人の負担が重くなりがちです。そういった場合でも、AIを利用した価格査定システムを活用して担当できる従業員を増やせれば、経験豊富な従業員の負担を軽減でき長時間労働の防止や離職率の低下につながるでしょう。
限られた人員で効率的に仕事を進めるためにも、DXの利用が推進されています。
ビジネスモデルの創出に役立つ
DXの推進はビジネスモデルの創出にも役立ちます。
DXを推進し業務効率の見直しが進めば、新たなビジネスモデルや付加価値の創出にかけられる工数を捻出しやすくなるでしょう。新たなビジネスモデルや付加価値を創出できれば、競合優位性の獲得も期待できます。
コスト削減
コストを削減できることも、DX推進によるメリットのひとつです。不動産企業では従来、膨大な数の物件や顧客情報をアナログで管理をしていたため、管理に使用する印刷用の紙などの事務用品のコストが大きい傾向にあります。
たとえば、契約書の管理をクラウドサービスで行えば、紙やインクなどを使わずにデータを保存でき、事務用品を管理する手間や管理庫などのスペースも不要になるなど、さまざまな面でコスト削減につながります。また、データ入力も自動化すれば、従業員の業務量負担の軽減も期待できるでしょう。
顧客満足度の向上
不動産業界にDXを取り入れることは、顧客満足度の向上にもつながります。
2017年10月には不動産賃貸取引、2021年3月には不動産売買取引時にオンラインによる重要事項説明(IT重説)がそれぞれ解禁されたことは、不動産業界の方々にとっては記憶に新しいでしょう。これにより、お客様は店舗に足を運ばずとも、契約に必要な手続きを進められるようになりました。
多忙なお客様や遠方にお住まいのお客様でも、時間帯や場所を問わず対応可能になったことから、お客様の利便性向上につながりました。
不動産業界のDX推進における課題
不動産業界のDX推進に関する課題には以下が挙げられます。
- 手探り状態での導入による不安
- 自社に適したツールの選定が困難
手探り状態での導入による不安
DXを取り入れるデメリットのひとつに、手探り状態での導入による不安があります。不動産業界でDXが推進されるようになってからまだ日が浅いこともあり、DXに関する知識やノウハウが不十分であることは、課題の一つといえるでしょう。
一方、不動産業界での使用を想定したITツールが登場しはじめ、大手不動産企業を中心にDXが進んでいます。DXを推進する際は、自社の問題点などを明確化し、他社での取り組み事例を参考にすると良いでしょう。
自社に適したツールの選定が困難
不動産業界に限ったことではありませんが、自社に合ったツールの選定が難しいことも、DX推進時に見られる課題です。DX推進に役立つツールには、アプリやWebシステムなどさまざまな種類があります。
現場のニーズに適したツールを選ぶ必要がありますが、どのツールを使えばニーズを満たせるのか判断できない企業が多いのも実情でしょう。アナログな手法が根付いてしまっていることで現場責任者も経営者もアプリやシステムを使い慣れず、どれだけ業務にプラスになるのかわからないことがあります。
また、経営者の方針だけで進めてしまうと現場が混乱しかねません。そのため、ツールの選定は開発企業との連携や社内での合意をとりながら、慎重に行いましょう。
不動産業界におけるDX推進のポイント
不動産業界のDX推進のポイントは以下のとおりです。
- 不動産テックに精通する
- DXの推進体制を整える
- DXの目的を明確化する
- 必要なシステム費用・人件費を払う
不動産テックに精通する
「不動産テック」とは不動産とテクノロジーを組み合わせた造語で、不動産業界がテクノロジーを活用することによって、新しいサービスを創出したり、従来の商習慣を変えたりすることを指します。
不動産業界では新技術が次々と生み出されています。近年耳にすることも増えてきた「オンライン内覧」は、不動産テックの一つです。
不動産テックに精通し新しい情報を得ることは、DXの推進にも非常に役立つでしょう。国内外の不動産テックの動向には、常にアンテナを張っておくことをおすすめします。
DX推進体制を整える
不動産DXを推進するためには、事前に組織の体制を整えておく必要があります。なぜなら、現場の体制が整っていないままDXを推進しようとすると、現場が混乱する可能性があるからです。
DX推進の先進国とされるアメリカでは、戦略を立てて全社的にDXに取り組んでいる企業が多くあります。また、経営者・IT部門・業務部門の協調が十分とれていると認識している企業が多いことも特徴の一つです。
効果的にDXを進められるよう、社内組織の見直しを図りましょう。
DXの目的を明確化する
DXの推進にあたり、目的を明確にしておくことが不可欠です。なぜなら、DXの推進に集中しすぎてしまうと、本来の目的を達成できなくなる可能性があるからです。
DXの導入はあくまで手段のため、本来の目的を見失ってはいけません。DX推進に役立つツールを導入する前に「何のために導入するのか」を明確にして、従業員と共有しておきましょう。
必要なシステム費用・人件費を払う
業務効率化と経費削減を目的にDXを推進する場合でも、システム費用や人件費は削りすぎないように意識しましょう。 DXを推進するには、各種データの収集と整理、DXを経営計画に反映するための知見が求められます。同時に、DXに向けたシステム設計や要件定義を行える人材の獲得も欠かせません。
このように、DX推進にはさまざまな職種の連携が必要とされることから、適切な予算配分と人員配置を意識してください。
おすすめのDX推進システム
不動産業界でおすすめのDX推進システムは以下のとおりです。
- セキュリティマネージドサービス
- MA(マーケティングオートメーション)
- BI(ビジネスインテリジェンス)
- ローコード開発プラットフォーム
- チャットボット
それぞれのDX推進システムを紹介します。
セキュリティマネージドサービス
セキュリティマネージドサービスとは、情報の安全性を確保し情報の漏えいや改ざんなどのリスクから守るために、パートナー企業にセキュリティ管理と運用を委託することです。
たとえば、ハッキングにより個人情報などの機密情報が外部に流出した場合、企業の信用が損なわれ顧客を失いかねません。セキュリティ管理は重要ですが、より強固なセキュリティが求められる昨今、システム部門の負担は大きくなる一方です。
適切にパートナー企業を選び委託できれば、自社の負担を抑えながらセキュリティ強化が担保できます。
MA(マーケティングオートメーション)
MA(マーケティングオートメーション)は、マーケティング活動を自動化できるツールのことです。製品によっても違いはありますが、たとえばリードの管理機能やスコアリング機能、メール作成・配信機能、レポーティング・分析機能などを備えています。
メール作成・配信機能では、見込み客に営業メールを送信する場合、テンプレートから文面を作成し自動更新された配信リストの顧客に宛てて送信できます。人手を使わずにメールが送れるため、効率的な営業活動が可能です。
BI(ビジネスインテリジェンス)
BI(ビジネスインテリジェンス)とは、企業やそれぞれの部署で保有している莫大な量の情報を収集・蓄積し分析するツールです。
不動産業界では、土地情報の有無や情報の詳細さが営業時に重視されています。そのため、土地所有者や仲介業者などから共有された土地情報をBIで管理すれば、必要なタイミングで知りたい情報を確認しやすくなります。
ローコード開発プラットフォーム
ローコード開発プラットフォームとは、専門的なプログラムスキルがなくてもアプリやシステムが開発できるプラットフォームのことです。
少ないコードで開発が可能なため、一般従業員がローコード開発プラットフォームを使用して業務効率化アプリを開発することも可能です。
ローコード開発プラットフォームを活用すると、社内でも比較的簡単に要件に合わせたシステム開発が実現できるため、人件費や外注費の削減に貢献するでしょう。
チャットボット
チャットボットとは、チャット(会話)をロボット化することで、顧客(従業員)とのコミュニケーションを自動化できるツールです。従来のオペレーターが対応する体制では、問い合わせ件数が増加するとオペレーターの負担も増えます。
しかし、基本的な質問対応をチャットボットに代替すれば、オペレーターを通さなくても解決できるため、業務効率化が進み人件費を削減できます。チャットボットは、音声だけでなくテキストや動画を使用して案内できるため、視覚的に理解しやすい対応が実現できるのも強みです。
まとめ
不動産業界のDXの概要やメリットや課題のほか、DX推進に役立つシステムを紹介しました。
不動産業界ではアナログな文化が根強く残っており、長時間労働や人手不足の問題などの課題が山積みです。そのため、DXを推進して企業の生産性を高めることはもちろん、業務の効率化を進めて業界としてはたらきやすい環境を構築する必要があります。
不動産業界のDX化はまだスタートしたばかりのため、今後競合との差別化を図るために迅速に取り組むことが重要なポイントとなります。本コラムも参考にしながらDXを推進し、生産性の高い組織を目指してみてはいかがでしょうか。
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