健康経営とは|注目される背景や認定制度、導入のメリットについて解説
持続可能な成長を目指す企業において、「健康経営」という概念が注目されています。「従業員の健康は、企業の生産性や競争力に直接的に影響する」という認識のもと、経営戦略の一環として健康経営の導入に踏み切る企業が増えてきました。
本記事では、健康経営の定義や注目されている背景、認定制度の概要、導入のメリット、具体的な導入手順などをまとめて解説します。また、企業がどのように健康経営を導入し実践しているかについても、具体的な事例を交えてご紹介します。健康経営に関心がある経営者や企業担当者の方は、ぜひ参考にしてみてください。
健康経営とは
健康経営とは、従業員の健康管理や健康増進の取り組みを経営戦略の一環として捉え、実践することを指します。
健康経営では、従業員の健康づくりを「コスト」ではなく将来的なリターンが期待できる「投資」と捉えます。企業が従業員の健康維持や増進に積極的に取り組むことで、従業員のモチベーションや生産性の向上、ひいては業績や企業価値の向上につなげられるとする考え方です。
具体的な取り組みとして挙げられるのは、従業員向け健康診断の充実化、メンタルヘルスケアの強化、健康増進プログラムの提供、職場環境の改善などです。従業員の健康リスクを早期に発見し、改善をサポートすることで、仕事へのモチベーションや生産性を高めることが可能とされています。
優れた取り組みを行う企業に対して認定制度を設けるなど、政府としても健康経営の拡大や推進に向けて取り組みを強化しています。今後はさらに重要性を増し、企業経営に不可欠な要素となっていくでしょう。
健康経営が注目される背景
健康経営が注目される背景には、少子高齢化による生産年齢人口の減少と企業における従業員の高齢化があります。
生産年齢人口の減少は、企業に深刻な人材不足をもたらす問題です。限られた人材で業務を進める必要があることから、長時間労働が常態化し、結果としてメンタルヘルスの問題や生活習慣病の増加を引き起こすリスクがあります。また、従業員の高齢化は病気や怪我による欠勤の増加、それに伴う生産性の低下などにもつながるかもしれません。ただでさえ人材が不足するなか、既存従業員のパフォーマンス低下が続けば、企業業績は大きく悪化しかねません。
そうした状況に陥らないためにも、既存の従業員の心身の健康を守り、はたらきやすい環境を整えることは、企業業績の維持や改善にもつながると考えられるのです。
健康経営の認定制度
政府による健康経営の認定制度として、ここでは以下の3つをご紹介します。
- 健康経営銘柄
- 健康経営優良法人
- 健康経営優良法人(ホワイト500・ブライト500)
健康経営銘柄
健康経営銘柄は、東京証券取引所の上場企業のなかから健康経営に積極的に取り組む優れた企業を認定する制度です。健康経営の取り組み実績を公表することで、長期的な視点で企業価値の向上を図る会社との認知が向上し、投資家にとっての魅力が増すとされています。
選定に際して重視されるのが、毎年8~10月に行われる「健康経営度調査」です。調査結果に基づいて業種ごとに優良企業が選定され、翌年3月に発表されます。
参考:健康経営銘柄(経済産業省)
健康経営優良法人
健康経営優良法人認定制度は、健康経営において優れた取り組みを行っている大企業や中小企業などの法人を表彰する制度です。健康経営を実践する企業を「見える化」することで、従業員や求職者、関係企業、金融機関などからの社会的な評価が高まるとされています。
健康経営優良法人には、「大規模法人部門」と「中小規模法人部門」の2つがあります。大規模法人に期待されているのは健康経営の考え方を普及・拡大するためのトップランナーとしての役割、中小規模法人に期待されているのは地域における健康経営の拡大に向けた発信などです。
認定されると「健康経営優良法人」ロゴマークの使用権が与えられ、企業のブランディングやマーケティング活動に利用できます。
参考:健康経営優良法人認定制度(経済産業省)
健康経営優良法人(ホワイト500・ブライト500)
健康経営優良法人のなかでもとくに優秀な上位500社は、大規模法人部門では「ホワイト500」、中小規模法人部門では「ブライト500」として認定されます。ホワイト500・ブライト500にはそれぞれ専用のロゴマークがあり、健康経営に取り組む企業として効果的なアピールが可能となっています。
参考:健康経営優良法人認定制度(経済産業省)
健康経営を実践するメリット
健康経営の実践は、企業と従業員に次のようなメリットをもたらします。
- 従業員満足度の向上
- 生産性の向上
- 社会的評価の上昇
- 就職先や転職先としての魅力アップ
- 健康保険料の負担軽減
各メリットについて詳しく見ていきましょう。
従業員満足度の向上
健康経営の取り組みにより、従業員が心身ともに健康にはたらける環境が整います。その結果、従業員満足が向上する可能性は高いでしょう。
たとえば、労働時間の適切な管理やメンタルヘルスケアの充実、快適なオフィス空間の整備などは、従業員のストレスを軽減し、はたらきやすさを向上させるものです。また、健康診断の徹底とそのフォロー、生活習慣病予防策の実施などは、従業員の心身の健康を支えます。健康経営の取り組みは従業員満足度を高め、離職率の低下にもつながります。
生産性の向上
従業員の健康増進は、生産性の向上にもつながります。
従業員の健康状態が維持や改善されることで、欠勤や休職の減少といった直接的な効果に加え、従業員のモチベーション向上も期待できます。ストレスが適切に管理され、十分な休息が保証された環境では、従業員の満足度が高まり、より献身的に業務に取り組みやすくなるでしょう。個々の業務効率が高まるのはもちろん、チームや企業全体のパフォーマンスにもプラスの影響を及ぼします。
社会的評価の上昇
健康経営は、さまざまなステークホルダーからの社会的評価の向上にも寄与します。
健康経営の取り組みを公表することで、従業員の健康管理を大切にするという企業の姿勢を示せます。その結果、取引先や顧客、地域社会からの信頼獲得につながるでしょう。社会的評価が高まれば、より有利な環境でビジネスを推進できるはずです。
就職先や転職先としての魅力アップ
健康経営を実践する企業は、就職や転職を考える求職者にとっても魅力的な選択肢の一つです。
長時間労働の是正やメンタルヘルス対策など、社員の心身の健康を大切にする姿勢は、求職者の高い関心を集めます。働き方改革が進む昨今、残業や休日出勤が少ない職場環境の魅力は増しています。ワークライフバランスを重視しながら長くはたらき続けられる環境は、多くの求職者にとって理想的だといえるでしょう。
健康保険料の負担軽減
健康経営は、健康保険料負担の抑制にもつながります。従業員の健康に対する意識が高まることで、疾病の予防や早期発見につながり、結果として医療費の負担が減少します。医療費の削減は、企業が支払う健康保険料の金額に影響するため、経費削減への寄与も期待できるのです。
健康経営の導入手順
ここからは、健康経営を導入するための具体的なステップを見ていきましょう。以下の4ステップで解説します。
- 健康経営の導入を宣言する
- 組織体制を整備する
- 制度や施策を導入する
- 取り組みを評価し、改善を図る
1.健康経営の導入を宣言する
健康経営の取り組みを開始するには、まず経営層による宣言が必要です。自社が健康経営に取り組むことを、経営理念や方針のなかで明文化し、社内外に示します。
経営者は「なぜ従業員の健康が大切なのか」「健康経営により何を目指すのか」を具体的に述べ、社内に浸透させていく必要があります。経営理念や中期経営計画などに健康経営の方針を盛り込み、企業としての意思を明確に示すことが大切です。
2.組織体制を整備する
健康経営を推進するためには、組織体制の整備も必要です。専門の部署を設けたうえで必要な専門家や従業員を適切に配置し、健康経営の実践に向けた体制を整えます。
専門部署の設置が難しい場合は、既存の部署内で健康経営の担当者を任命する方法もあります。社内のさまざまな部署と連携して施策を進められるよう、担当者には一定の裁量権を持たせるとよいでしょう。また、各部署に担当者を置き、企業全体に取り組みが浸透するようはたらきかけるといったアプローチも効果的です。
3.制度や施策を導入する
組織体制が整ったら、自社の健康課題を把握し、具体的な目標を定めましょう。そして、目標を達成するための具体的な制度や施策を導入します。
たとえば、職場のストレスレベルの高さが課題なら、ストレスマネジメントプログラムや運動促進プログラムの導入などを検討します。また、従業員の健康意識を高めるため、健康関連のワークショップやセミナーを開催するのも有効です。経営トップが率先して実践し、各人に行動変容を促すことが重要です。
4.取り組みを評価し、改善を図る
施策を実施したら、その効果を検証し、さらなる改善を図ります。取り組みの成果をデータとして集計し、目標との乖離を確認します。効果が出ていない場合は原因を突き止め、改善策を検討しましょう。PDCAサイクルを回しながら健康経営の取り組みを強化していくことで、従業員の健康意識は着実に高まっていくはずです。
すべての施策が最初からうまくいくわけではありません。短期間での成果を求めるのではなく、継続的な取り組みとして改善を重ねることが大切です。
企業による健康経営の導入事例
ここでは、健康経営の理解を深めるため、実際に取り組みを行っている3社の導入事例をご紹介します。
- 数値目標を掲げて従業員の健康改善を推進
- アンケートに基づく健康施策の実施
- 個人カルテによる生活習慣の見直し促進
数値目標を掲げて従業員の健康改善を推進
健康器具業界のA社では、健康経営の推進にあたって数値目標を設定し、従業員の健康改善に取り組んでいます。
健康診断やストレスチェックなど重点施策ごとに定量的な目標を設定したうえでモニタリングを行い、施策の効果を検証しています。目標未達の場合はデータをもとに課題を抽出し、分析、改善に向けた施策を検討して実施します。健康づくりのPDCAサイクルを回し続けることで、従業員の健康改善を着実に前進させているのです。
アンケートに基づく健康施策の実施
自動車業界のB社の健康保険組合では、従業員一人ひとりが直面する健康課題に寄り添い、それぞれのニーズに合わせた施策を提供しています。
はたらきやすい職場環境を目指す取り組みとして、従業員に対して毎年アンケートを実施し、その結果をもとに健康課題や悩みに応じた施策を計画し、実施しています。従業員の声に耳を傾け、よりはたらきやすい職場にすべく日々改善を図っているのです。
従業員からの直接的なフィードバックに基づき施策を立案する方法は、多くの企業にとって参考になる事例だといえます。
個人カルテによる生活習慣の見直し促進
セキュリティ業界のC社が実践するのは、全社員の健康カルテを作成し、個人に合わせた健康改善を支援する取り組みです。
各従業員の健康状態を継続的にモニタリングし、必要に応じて個別の対策を講じます。食事の時間や量、睡眠時間などを従業員自身に記入してもらうことで、生活習慣を見直すきっかけとしています。
まとめ
本記事では、健康経営の定義や注目される背景、認定制度の概要、導入のメリット、具体的な導入手順などをまとめて解説しました。
健康経営の取り組みは、従業員満足度や企業の社会的評価の向上、健康保険料の負担軽減など、企業にさまざまなメリットをもたらします。現代の企業が直面する人手不足や従業員の高齢化への対策としても、健康経営はより重要な取り組みになっていくでしょう。
効果が表れるまでには一定の期間を要するため、中長期的な視野で計画的に取り組み、改善を図る姿勢が大切です。
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