デジタルディスラプションとは?意味や事例をわかりやすく解説
昨今、企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)はなくてはならないものとなっています。 その過程で発生するのが、デジタルによる破壊、つまりデジタルディスラプションです。デジタルに強みを持つ企業の参入により、既存のルールや実務内容が一新され、既存参入企業は撤退を余儀なくされる場合もあります。 本コラムでは、日本で起きているデジタルディスラプションの事例や、既存市場から追い出されないための方法などを解説します。 デジタルディスラプションとは? 「ディスラプション」とは、もともと「破裂」や「崩壊」を意味する言葉です。 またビジネスシーンにおけるディスラプションはデジタル技術によって発生することも多く、「デジタルディスラプション」と言われています。 デジタルディスラプションについて、総務省は令和3年版の情報通信白書にて以下のように定義しています。 デジタル・トランスフォーメーションは、自社にとどまらず、業界や社会全体を巻き込んだ破壊的変化を伴うことがある。このため、デジタル企業が市場に参入した結果、既存企業が市場からの退出を余儀なくされる事例が出ている。これをデジタル・ディスラプション(デジタルによる破壊)という。 ※引用:令和3年版 情報通信白書(総務省) つまり、デジタルディスラプションは、革命的な変化によって業界や社会の常識を破壊し、業界全体が扱う製品・サービスにも変化を与えるほどの影響力を持った事象であるといえるでしょう。 ディスラプションとイノベーションの関係 イノベーションには、破壊的イノベーションと持続的イノベーションの2種類が存在します。 破壊的イノベーションとは、技術革新や新しいアイデアによって、既存事業の業界構造を一気に変化させることを指します。市場の常識が塗り替わることで、これまでの商品やサービスの価値を相対的に下げ、新しい市場を作り出すのです。 例えば、ある企業は掃除機にAIを搭載することで、掃除をロボットに任せるという新たな選択肢を提示し、掃除機の価値基準を一新しました。このように既存の常識をイノベーションによって破壊する流れをディスラプションと呼びます。 一方、持続的イノベーションとはすでにある製品・サービスの価値を顧客のニーズに合わせて向上させていくことを指します。 例えば、自動車はモデルチェンジによって高性能化や低燃費化を実現しています。これは持続的イノベーションの代表例と言えるでしょう。技術改革により、エンジンやインストルメントパネル(計器盤)などを改良し、顧客満足度を高めています。 業界別デジタルディスラプション事例 デジタルディスラプションは、いつ起きても不思議ではない現象です。デジタルディスラプションでユーザーの潜在的なニーズを実現することで、市場のリーダーシップを獲得することもあります。 今まで、どのようなデジタルディスラプションが発生してきたのでしょうか。各業界別の事例を詳しく解説します。 自動車業界のデジタルディスラプション事例 自動車業界で発生したデジタルディスラプションの事例で注目されるのは、近年の技術改革とデジタルテクノロジーの導入によって登場した、カーシェアリングやライドシェアなどのサービスです。 これらのシェアリングサービスの促進によって、自動車を所有する必要性が薄れていき、カーシェア事業者にビジネスモデルを転換する販売店も増えてきています。 音楽業界のデジタルディスラプション 音楽業界のデジタルディスラプションの代表的な事例といえば、音楽のストリーミング配信です。これまでアーティストの音楽を聴くには、ショップでCDを購入するか、レンタルするという選択肢が一般的でした。 しかし、デジタル技術の発展から、インターネット上で音楽を配信できるサービスが生まれ、爆発的に広がっていきます。このサービスにより、ユーザーはわざわざ店舗に足を運ばなくてもインターネット上で音楽を購入できるようになりました。 さらに、ストリーミングサービスが生まれ、特定の音楽を都度購入するモデルから、サブスクリプション(定額課金型)で音楽を制限なく聴けるサービスが登場しました。 その結果、CDを含めた物理メディアの売上は減少し、音楽市場のあり方と勢力図が大きく変わったのです。 小売業界のデジタルディスラプション 小売業界のデジタルディスラプションは、ECショップの台頭です。本来のショッピングは、顧客が販売店まで足を運んで商品を選ぶという方法でした。 しかし、ECショップは店舗に足を運ばなくともインターネット上で商品を購入することが可能です。また、品切れによる機会損失が発生した際、足を運ぶ実店舗よりも労力が少ない分、顧客離れにつながる確率を下げることが期待できます。 現在では店舗で実際に商品を手に取って確認し、購入する商品を決めてから、より安価で販売されるECサイトで購入するというケースも増えています。テック企業が小売業界に参入し、デジタルディスラプションによる破壊的イノベーションを起こすことで大きな成長を遂げた例だといえます。 デジタルディスラプションが発生する理由 なぜ、デジタルディスラプションは発生するのでしょうか。その理由を把握することで、今後、企業がどのような対策をおこなうべきかが見えてきます。 人材不足 日本でデジタルディスラプションが発生する主な理由の1つとして、人材不足が挙げられます。新興国で労働力人口が伸びているのに対して、日本は少子高齢化が進行し、超高齢化社会に突入しています。これにより、日本企業は破壊的イノベーションにリソースを割くほどの余裕がないと考えられるのです。 それを裏付けるように、日本企業はDX化が遅れています。この課題を理由に、日本企業ではイノベーションが起こりにくい状態となっており、デジタルディスラプションに巻き込まれやすくなっているのです。 総務省の調査によると、DX化の課題の一番の理由が人材不足であるという調査がでています。 出典:令和3年版 情報通信白書(総務省) デジタルディスラプションによる影響をなくすためにも、DX人材の育成が急務といえるでしょう。 既存システムの壁 既存システムは今までのビジネスプロセスに合わせて構築されているため、それがDX推進の柔軟性を奪い、ビジネスプロセスを変えられないケースがあります。 また、長期利用で既存システムが老朽化・複雑化・ブラックボックス化している企業も多く、DX推進の障害となっています。DX化の遅れにより、競合他社の変革スピードについていけず、デジタルディスラプションの発生に巻き込まれることもあります。 DX化の目的が業務効率化に留まっている これまで破壊的イノベーションをおこしてきた企業の多くは、DXで新たな価値創造に取り組んでいました。 しかし日本企業では、DX化の目的を社内の業務効率化にのみ留めるケースが数多く見受けられます。DXの本来の目的は、組織や事業の変革であり、業務効率化のためだけではありません。持続的な競争優位性を手に入れるためにも、ビジネスプロセスを抜本的に見直し、変化の激しい時代に適応することが求められるのです。 DX推進が遅れていると、企業は激しい変化に迅速かつ柔軟に適応する準備が整っていません。だからこそ、デジタルディスラプションが発生した際、結果的に日本へのインパクトが大きくなってしまうといえるでしょう。 イノベーションのジレンマ 破壊的イノベーションを起こす企業は、既存の概念を破壊し、市場のあり方を一変させます。 一方で、既存事業で安定したシェアを誇る企業は、既存の事業を捨てて、新しい事業に変革することに躊躇します。その間に技術改革を起こした企業は成長し、追いつけない企業は衰退していきます。 デジタルディスラプションを乗り越えるために必要なこと デジタルディスラプションには、業界を再編させるほどの大きな力があります。多くの企業がDX化を実現していくなかで、次なるデジタルディスラプションはいつ発生してもおかしくありません。 では、デジタルディスラプションを乗り越えるためには、何が必要なのでしょうか。 新規市場を開拓する デジタルディスラプションを乗り越えるためには、今いる市場やその顧客に依存するのではなく、新しい顧客に目を向け、市場の新規開拓をおこなうことが有効です。 現在の市場をすぐに捨てるのではなく、既存の市場で収益をあげつつ、すでに企業が持ち得ているノウハウを活かし、別の市場に参入するのもひとつの選択肢といえるでしょう。 レガシーシステムから脱却する デジタルディスラプションを乗り越えるためには、レガシーシステムからの脱却も必要です。レガシーシステムとは、古くなったシステムを指す言葉です。 自社のサービスに合わせて使い込んできた既存のシステムは、非常に使いやすいはずです。しかし、使い込むうちにシステムにコードが継ぎ足されて複雑化し、処理速度などに影響が出ることに加え、運用・保守に負担がかかる場合もあります。この技術的負債は、ビジネスの競争力にも大きな影響を与えるでしょう。 既存システムを使い続けることで、自社の競争優位性が失われては意味がありません。だからこそ、レガシーシステムから脱却することが必要です。 客観的に現状を把握する ビッグデータをもとに、常に自社の客観的な現状把握をしておくことも、デジタルディスラプションを乗り越えるために必要です。 市場のトレンドや競合他社の動向などをデータとして収集し、自社を客観的に評価しましょう。 自社の現状評価や業界内の変化に目を向ければ、デジタルディスラプションが起こる前に、最低限の対処が可能になります。 まとめ 本記事では、デジタルディスラプションの意味や発生事例について解説してきました。 DX推進により破壊的なイノベーションが起こり、ユーザーの利便性は飛躍的に高まっていくでしょう。その一方で、イノベーションを起こしている多くが、デジタルに強い新興企業です。現在シェアが取れている企業であっても、DX化に対応できなければいずれデジタルディスラプションに巻き込まれます。重要なのは、デジタルディスラプションが発生した際、その変化に自社が対応できるよう、事前に対応策を準備しておくことです。 本コラムを参考にして、デジタルディスラプションに向けた対策に取り組みましょう。