米国発ボード3.0とは? 新たな取締役会モデルの概要や日本の状況を解説
近年、米国発の概念であるボード3.0が、日本企業の間で注目を集めています。
現在の日本で提唱されているボード2.0は、モニタリング・ボードと呼ばれる取締役会モデルで、独立性の高い社外取締役が中心となって事業を進めていくものです。
しかし、昨今は事業環境の移り変わりが速いためボード2.0では対応しきれず、その限界が指摘されています。
そうしたなか、新たな取締役会モデルであるボード3.0について、どのような概念のモデルなのかわかりにくいと感じている方も多いのではないでしょうか。
本記事のポイントは、ボード3.0の概要と、これまでの取締役会モデルの概要とそこからボード3.0へと進化した背景です。また、ボード3.0における日本の状況についても解説します。
ボード3.0とは
ボード3.0(Board 3.0)とは、米国のロナルド・ギルソン教授(スタンフォード大学/コロンビア大学)と、ジェフリー・ゴードン教授(コロンビア大学)が共同で公表した論文にもとづく、新たな取締役会モデルを指します。
ボード3.0は、従来の社外取締役のなかに長期投資家をはじめプロの投資家を加えて、企業の経営戦略を策定する取締役会モデルです。
従来のボード2.0は、独立した非常勤の社外取締役が企業経営を第三者視点で監督することに重点を置いていました。しかし、ボード2.0の特徴でもある独立性が原因で、情報不足・リソース不足・モチベーションの低下を招くこととなりました。その結果、事業環境の変化の速さにうまく対応できないという問題が指摘されるようになります。
そこで、長期投資家が取締役として戦略の策定・遂行にも参画し監督することで、ボード2.0が抱えていた弱点を払拭するボード3.0に注目が集まっています。
それでは、これまでにどのような取締役会のモデルが存在したのか、簡単にご紹介します。
ボード1.0の特徴と課題
ボード1.0はアドバイザリー・ボードとも呼ばれ、社外取締役にはCEOと親しい弁護士や銀行家が就任し、経営の執行に対する助言に重点を置いていたのが特徴です。
一方、課題としては、経営陣による不正会計や違法献金スキャンダルなどの違法行為を察知できず、また抑止力をもたない点が挙げられます。
ボード2.0の特徴と課題
ボード2.0はモニタリング・ボードとも呼ばれています。経営陣から独立した非常勤の社外取締役が監督として就任し、第三者視点での企業経営の監督機能に重点を置いた取締役会を開きます。
独立性がある反面、情報不足・リソース不足・モチベーション低下に陥りやすい構造であり、急速な事業環境の変化に対応しきれないという点が課題としてありました。
ボード3.0に進化する背景
取締役会のモデルは、先述のようにCEOの親しい友人などから助言をもらう形式のボード1.0から、社外取締役による第三者視点の監督を主眼としたボード2.0へと変化しました。
数年前から海外ではボード2.0の限界説が広まっており、従来のモニタリング・ボードの弱点を克服し、戦略の策定および監督機能を再興すべくボード3.0の議論が活発になっています。
ガバナンスシステムに明確な正解はありません。しかし、時代背景や企業が直面する課題に合わせる形で、進化していく必要があると考えられます。
ボード2.0の3つの限界
これまで主流だったボード2.0に限界説が出ているのはなぜでしょうか。もう少し詳しく見ていきましょう。
情報不足
社外取締役が多いため取締役会の開催頻度が少なく、得られる情報が常に乏しい状態です。そのため、経営戦略を評価するための有用な情報が不足しています。
リソース不足
独立取締役は非常勤であることから、組織内で自分の手足のように動かせるチームや人員をもっていません。そのため、得られた情報の分析などができず、企業の経営戦略を判断しがたい状態にあります。
モチベーションの低下
独立取締役は、ほとんどが非常勤かつ固定報酬制です。さらには、キャリア終盤で就任するケースが多く、企業価値向上へのモチベーションが上がりにくいという傾向があります。
アクティビティズムの興隆
2000年代以降になると、米国では株主アクティビズム(株主行動主義)が繁栄しています。
株主アクティビズムとは、株主が投資先の企業価値を高める目的をもって経営陣への提言など、さまざまな行動を起こすことを指します。米国では、取締役会が株主から提案を受けることは珍しいことではありません。
しかし、自前の分析リソースをもたないボード2.0の取締役会では、潤沢なリソースをもつ株主からの提案に対して適切な判断を下すのが難しいとされています。
ボード3.0の提唱
ボード2.0の限界を克服するアイデアの一つとして、長期投資家が取締役として経営に参加することで、取締役会が戦略立案機能を取り戻すためのボード3.0が提唱されました。
ボード3.0では、投資家としての経験やモチベーションをもった者が社外取締役となり、経営陣や執行部門と協働しながら戦略立案を支援します。その取締役は執行部門から得られる豊富な情報を活用できるほか、ファンドや外部コンサルタント、社内部門が持つリソースも活用可能に。さらには、長期の株式報酬によって高いモチベーションを持てます。
このようにボード3.0モデルではボード2.0の3つの限界を克服し、取締役会が戦略機能を取り戻すことを目指しています。
日本企業とボード3.0
日本企業の現状
日本では、依然として経営に対する助言が主体となったボード1.0の企業が多く存在しています。2022年8月の時点、東証上場会社(プライム市場)において、過半数の独立社外取締役を選任する企業の比率は12.1%(※)。日本企業の現状としては、ボード2.0も道半ばといえるでしょう。まず取締役会の監督機能を充実させる必要があります。
また、企業が中長期的な収益性・生産性を高めること、いわゆる稼ぐ力の向上のためにもコーポレートガバナンスの強化が求められています。
ボード2.0で監督機能を充実させるだけでは稼ぐ力の強化にはつながりません。そのため、経営の知見を取り入れるために投資家から社外取締役を受け入れる事例は、日本でも少しずつ生まれ始めています。
(※)出典:「東証上場会社における独立社外取締役の選任状況及び指名委員会・報酬委員会の設置状況」/株式会社東京証券取引所
ボード3.0に関する議論
ボード2.0の限界を克服するといわれるボード3.0ですが、米国においては導入が容易ではないことや、効果を疑問視する声が存在しています。
日本においても議論されており、経済産業省主催のコーポレート・ガバナンス・システム研究会にて、ボード3.0に関する議論を取り上げました。その後、経済産業省が2022年7月に公開した「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGS ガイドライン)」では、以下のように記しています。
取締役会が経営陣による戦略の策定・遂行を監督する仕組みの強化や、経営改革の推進を図ること等を目的に、「投資家株主の関係者」を取締役として選任する事例がある
引用:「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGS ガイドライン)」/経済産業省
その一方、利益相反や情報管理など、投資家から取締役を専任する際の留意事項もあるとして、ボード3.0の課題についても触れられています。
まとめ
従来のボード2.0では、目まぐるしく変化する事業環境には対応しにくいことが課題でした。そうしたなかボード3.0のビジネスモデルは、情報・リソース・モチベーションの観点から、ボード2.0が抱える限界を克服するといわれており、結果的にコーポレートガバナンスの機能向上に期待がもてるのではと考えられます。
課題もあり議論が進むボード3.0ですが、社外取締役の選択肢の一つとして検討を進めていく余地はあるかもしれません。
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